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琥珀色の猜疑
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傾いた日が照らし出す山の斜面は純白の雪を琥珀色に輝かせている。その静寂を打ち破る爆発に続いて何かがひょっこり地面から顔を出した。
「うはぁっ、やっと出れた!」
リーファは辺りを見回して安全を確かめると雪面に立ち上がって、ひざの雪を払いのけた。ここまで暗い中を上って来たこともあり、リーファはまぶしさに目を細める。
「早く行けよティナ。痛っ!」
「あっ、ごめんなんだよ~」
雪中にできた縦穴を踏み外したのは、ハーフリングのティナだ。急かされてつい滑らせた足が直下のキツネ娘に当たったようだ。
「テメェ、シンディーちゃんの美顔になんてことしやがる。ワザとだ!」
「んも~、顔がどうのこうの大して変わりゃしないわよ。さっさと出なさいな、後がつかえてんの。」
「ちっ、うっせーなぁ。わかったよ。」
最後尾のジェゼーモフからのクレームにシンディーも黙る。ジェゼーモフが縦穴をマニピュレート・マドロックで補強しているのだが、下層での強引なメタモルフォーゼでもはや魔力もギリギリなのだ。
「うおっ!?夕方に差し掛かる頃合いだがまぶしく感じるもんだな。」
「空気がうまい。生きてるってそれだけで素晴らしいんだ。ん、どうしたリーファ?」
スアレスは少し離れた小高い場所に移動していたリーファの様子がおかしいことに気づいた。案の定呼びかけに振り返ったリーファの顔色はすぐれなかった。
「いないんだ。」
「えっ!まさか」
「何だよティナまで。このシンディーちゃんに隠し事かリーファ?」
「いないんだよ、アミルがっ!」
「おい、何言ってるんだ?アミルって・・・冗談やめろよ。冒険者でもないアミルが何で」
「こんな時にリーファは冗談言わないよ。シンディーだって知ってるでしょ。」
ようやく穴からはい上がって見るとリーファたちの様子がおかしい。ジェゼーモフは怪訝な面持ちで目の前のスアレスに尋ねる。
「どうしたの、あの子たち。何かあったの?」
「どうやらここに残っていたリーファの仲間が行方不明らしいんだ。」
「何ですって」
どうしていなくなったのかさっぱり見当もつかないリーファはすっかり頭が真っ白になってしまった。
「リーファさま」
何かわかる、バトラー
「ティナさまに一匹ハニービーがついております。」
じゃあアミルは無事なんだね。
ホッと胸をなでおろしたリーファだったが、どうもバトラーの様子がおかしい。
「ただ問題が」
何、アミルに何かあったの?
「今は冬場なので野外で活動中の蜂は皆無、すなわちビーネットワークによる交信が利用できないのです。」
もしかしてわからないってこと?
「申し訳ございません。おっしゃる通り、アミルさまの詳しい状況は不明なのです。」
うぅっ。でもハニービーがついているってことは何かあっても無事なはず
「それが大変申し上げにくいのですが」
えっ、どういうこと?
「ハニービートーチのスキルにより寒冷下で動ける者を引き連れて参りましたが、その者はハニカムウォールを使えないのです。」
つまりそれは何かアミルの身に危険が迫っていても守ることはできないということだ。そんなことさすがに想定していなかったし、許容できない。もちろんそれはバトラーのせいではなく、私の思慮不足がもたらした事態だ。
しまった。それは知らなかった。
「必ずしも全てのスキルを備えたハニービーばかりではなく、中には一部の能力のみであったりスキルが無いただのハニービーもたくさんいるのです。私やロードチャンセラーのようなネームドであれば」
一般の蜂を何千と支配下に置くことは可能であっても、ネームドやロイヤルガードはそう簡単に増やせるものではないらしい。視認距離を越える遠隔地間のビーネットワークを利用できるのも、全てのスキルを保持しているのもネームドやロイヤルガードの特別性ゆえだ。
「轍の痕跡・・・リーファ!」
私が振り向くとティナが何やら地面を確認していた。
「どうしたのティナ?」
「これを見て。少なくとも馬車が動いてる。ここは雪の崩落は直撃していないし、アミルだって」
「そうか。でもアミルは私たちを置き去りにして離れたりするのかな・・・」
「馬車ですって!?」
「どうしたんだジェゼーモフ、何か知っているのか?」
ジェゼーモフが辺りを確認すると、どうもヴァイスのいた丘からずっと足跡がのびている。
もしかするとあの子・・・いや、そうに違いないわ。馬車をよこせって散々言い募ってたもの。
「何てことなの・・・私の連れが馬車を乗っ取ったようね。」
「何だと?・・・テメェ!」
たとえハニービーがいてもアミルを守る能力などない。強奪した時に何らかのスキルによってハニービーもろとも殺されてしまったなんてことは・・・。そもそもこいつらが来なければこんなことにはならなかったんだ!
「待てリーファ」
リーファはジェゼーモフにつかみかかろうとしたその時、スアレスが行く手をさえぎった。
「どいてよスアレス、そいつはここでブチ殺す」
「聞いてくれリーファ。」
「マイクまで・・・誘拐犯がアミルを殺したかもしれない。」
「根拠は何だ?」
「アミルがいないんだっ!そいつの仲間がぁっ」
「よく見ろ、リーファ。ここに血の跡はない。」
「首を締めたって殺せる」
「冷静になれ。何にせよお前の仲間についてジェゼーモフは関与してない。」
「でもそいつの仲間だ」
「そうは言っても死体はないんだ。わざわざ死体を持ち去る動機なんて無いだろう。リーファの言うとおりなら、そのまま置き去りにしたはずだ。死体が無いのはつじつまが合わない。」
「心配なのはわかるが、いないから殺されたというのは飛躍しすぎだ。」
困惑のあまり周りが見えなくなっていたリーファはスアレスやマイクからいさめられ、自分が錯乱していることに否応なく気づかされた。怒りと悔しさが入り混じった苦い思いに吐き気すらもよおす。
「くっ!」
「話を聞いて見ようよリーファ」
ティナがリーファの背中を包み込むように寄り添い、リーファをなだめる。
「・・・わかったよ」
「アンタが自己保身で嘘言ってるって判断した時点でアタシが容赦なく焼き尽くしてやるからな」
「言い訳なんかできるような立場じゃないことは重々承知しているわ。寛大な判断をありがとう。」
まがりなりにも話を聞く体制ができたことにマイクは安堵する。そしてジェゼーモフに発言を促してみせた。
「それで、アンタの目から見てどうなんだ?殺したんじゃないかって話が出てるぞ。」
「アビムリンデはどうか知らないけど、ヴァイスに馬車の操縦はできないわ。もしアミルって子が馬車を扱えるなら無理にでも連れて行くでしょうね。いくらあの子でも一般人を殺すなんて馬鹿なことしないわ。」
「リアンは馬車を扱えるが?」
「少なくともアビムリンデがアンタたちの救助をせずに馬車でここを離れるとは思えない。手っ取り早く動かすならアミルって子を狙うでしょうね。」
「ってことは、やっぱりその子は生きてる可能性が高いか。そんで馬車が引き返した意図はこの道が通れなくなったからだろう。」
「ええ、少し戻って迂回ルートを進むはずよ。」
「追うよ」
もう確認が必要なこともないとばかりにリーファが話を強引に切り上げようとする。たしかに早くしなければどんどん距離が離れて行くのは明らかだ。
「待って」
「うるさい!お前なんてもうどこへでも行っちまえ」
「ひっどーい!まだアンタに耳寄りな情報だってあるのに」
まだ何か重要なことを話していないかもしれない。ここは確認しておかなければならないか。
「耳寄り?本当だろうな」
「うふふ、本当よ」
「じゃあさっさと」
「そんな邪険にしちゃイヤ。一緒に窮地を乗り越えた仲じゃなーい」
「面倒くせえ、こっちは急いでんだ!」
「夜の山道は危険よ。あんな大惨事を起こしといて言えた義理ではないけど仲間の安全を思うなら少し先のポイントでビバークなさい。」
許しがたいという気持ちが少しもぬぐえないリーファはジェゼーモフの軽々しい態度に再度怒りがこみあげる。
「お前が私に指図すんな!」
「あの子たちは馬車で行ってる。どのみち追いつけないわ。」
「テメェ・・・やっぱり」
「待ってリーファ。私たちを足止めするつもりかもだけど、悔しいことに言ってることは間違ってないんだよ。」
「でもこのままじゃ逃げられちゃう。もう絶対に追いつかなくなるじゃないか。どうすりゃいいんだ」
「そこで私の耳寄り情報が華麗に炸裂するのよ」
「何だって?」
「うはぁっ、やっと出れた!」
リーファは辺りを見回して安全を確かめると雪面に立ち上がって、ひざの雪を払いのけた。ここまで暗い中を上って来たこともあり、リーファはまぶしさに目を細める。
「早く行けよティナ。痛っ!」
「あっ、ごめんなんだよ~」
雪中にできた縦穴を踏み外したのは、ハーフリングのティナだ。急かされてつい滑らせた足が直下のキツネ娘に当たったようだ。
「テメェ、シンディーちゃんの美顔になんてことしやがる。ワザとだ!」
「んも~、顔がどうのこうの大して変わりゃしないわよ。さっさと出なさいな、後がつかえてんの。」
「ちっ、うっせーなぁ。わかったよ。」
最後尾のジェゼーモフからのクレームにシンディーも黙る。ジェゼーモフが縦穴をマニピュレート・マドロックで補強しているのだが、下層での強引なメタモルフォーゼでもはや魔力もギリギリなのだ。
「うおっ!?夕方に差し掛かる頃合いだがまぶしく感じるもんだな。」
「空気がうまい。生きてるってそれだけで素晴らしいんだ。ん、どうしたリーファ?」
スアレスは少し離れた小高い場所に移動していたリーファの様子がおかしいことに気づいた。案の定呼びかけに振り返ったリーファの顔色はすぐれなかった。
「いないんだ。」
「えっ!まさか」
「何だよティナまで。このシンディーちゃんに隠し事かリーファ?」
「いないんだよ、アミルがっ!」
「おい、何言ってるんだ?アミルって・・・冗談やめろよ。冒険者でもないアミルが何で」
「こんな時にリーファは冗談言わないよ。シンディーだって知ってるでしょ。」
ようやく穴からはい上がって見るとリーファたちの様子がおかしい。ジェゼーモフは怪訝な面持ちで目の前のスアレスに尋ねる。
「どうしたの、あの子たち。何かあったの?」
「どうやらここに残っていたリーファの仲間が行方不明らしいんだ。」
「何ですって」
どうしていなくなったのかさっぱり見当もつかないリーファはすっかり頭が真っ白になってしまった。
「リーファさま」
何かわかる、バトラー
「ティナさまに一匹ハニービーがついております。」
じゃあアミルは無事なんだね。
ホッと胸をなでおろしたリーファだったが、どうもバトラーの様子がおかしい。
「ただ問題が」
何、アミルに何かあったの?
「今は冬場なので野外で活動中の蜂は皆無、すなわちビーネットワークによる交信が利用できないのです。」
もしかしてわからないってこと?
「申し訳ございません。おっしゃる通り、アミルさまの詳しい状況は不明なのです。」
うぅっ。でもハニービーがついているってことは何かあっても無事なはず
「それが大変申し上げにくいのですが」
えっ、どういうこと?
「ハニービートーチのスキルにより寒冷下で動ける者を引き連れて参りましたが、その者はハニカムウォールを使えないのです。」
つまりそれは何かアミルの身に危険が迫っていても守ることはできないということだ。そんなことさすがに想定していなかったし、許容できない。もちろんそれはバトラーのせいではなく、私の思慮不足がもたらした事態だ。
しまった。それは知らなかった。
「必ずしも全てのスキルを備えたハニービーばかりではなく、中には一部の能力のみであったりスキルが無いただのハニービーもたくさんいるのです。私やロードチャンセラーのようなネームドであれば」
一般の蜂を何千と支配下に置くことは可能であっても、ネームドやロイヤルガードはそう簡単に増やせるものではないらしい。視認距離を越える遠隔地間のビーネットワークを利用できるのも、全てのスキルを保持しているのもネームドやロイヤルガードの特別性ゆえだ。
「轍の痕跡・・・リーファ!」
私が振り向くとティナが何やら地面を確認していた。
「どうしたのティナ?」
「これを見て。少なくとも馬車が動いてる。ここは雪の崩落は直撃していないし、アミルだって」
「そうか。でもアミルは私たちを置き去りにして離れたりするのかな・・・」
「馬車ですって!?」
「どうしたんだジェゼーモフ、何か知っているのか?」
ジェゼーモフが辺りを確認すると、どうもヴァイスのいた丘からずっと足跡がのびている。
もしかするとあの子・・・いや、そうに違いないわ。馬車をよこせって散々言い募ってたもの。
「何てことなの・・・私の連れが馬車を乗っ取ったようね。」
「何だと?・・・テメェ!」
たとえハニービーがいてもアミルを守る能力などない。強奪した時に何らかのスキルによってハニービーもろとも殺されてしまったなんてことは・・・。そもそもこいつらが来なければこんなことにはならなかったんだ!
「待てリーファ」
リーファはジェゼーモフにつかみかかろうとしたその時、スアレスが行く手をさえぎった。
「どいてよスアレス、そいつはここでブチ殺す」
「聞いてくれリーファ。」
「マイクまで・・・誘拐犯がアミルを殺したかもしれない。」
「根拠は何だ?」
「アミルがいないんだっ!そいつの仲間がぁっ」
「よく見ろ、リーファ。ここに血の跡はない。」
「首を締めたって殺せる」
「冷静になれ。何にせよお前の仲間についてジェゼーモフは関与してない。」
「でもそいつの仲間だ」
「そうは言っても死体はないんだ。わざわざ死体を持ち去る動機なんて無いだろう。リーファの言うとおりなら、そのまま置き去りにしたはずだ。死体が無いのはつじつまが合わない。」
「心配なのはわかるが、いないから殺されたというのは飛躍しすぎだ。」
困惑のあまり周りが見えなくなっていたリーファはスアレスやマイクからいさめられ、自分が錯乱していることに否応なく気づかされた。怒りと悔しさが入り混じった苦い思いに吐き気すらもよおす。
「くっ!」
「話を聞いて見ようよリーファ」
ティナがリーファの背中を包み込むように寄り添い、リーファをなだめる。
「・・・わかったよ」
「アンタが自己保身で嘘言ってるって判断した時点でアタシが容赦なく焼き尽くしてやるからな」
「言い訳なんかできるような立場じゃないことは重々承知しているわ。寛大な判断をありがとう。」
まがりなりにも話を聞く体制ができたことにマイクは安堵する。そしてジェゼーモフに発言を促してみせた。
「それで、アンタの目から見てどうなんだ?殺したんじゃないかって話が出てるぞ。」
「アビムリンデはどうか知らないけど、ヴァイスに馬車の操縦はできないわ。もしアミルって子が馬車を扱えるなら無理にでも連れて行くでしょうね。いくらあの子でも一般人を殺すなんて馬鹿なことしないわ。」
「リアンは馬車を扱えるが?」
「少なくともアビムリンデがアンタたちの救助をせずに馬車でここを離れるとは思えない。手っ取り早く動かすならアミルって子を狙うでしょうね。」
「ってことは、やっぱりその子は生きてる可能性が高いか。そんで馬車が引き返した意図はこの道が通れなくなったからだろう。」
「ええ、少し戻って迂回ルートを進むはずよ。」
「追うよ」
もう確認が必要なこともないとばかりにリーファが話を強引に切り上げようとする。たしかに早くしなければどんどん距離が離れて行くのは明らかだ。
「待って」
「うるさい!お前なんてもうどこへでも行っちまえ」
「ひっどーい!まだアンタに耳寄りな情報だってあるのに」
まだ何か重要なことを話していないかもしれない。ここは確認しておかなければならないか。
「耳寄り?本当だろうな」
「うふふ、本当よ」
「じゃあさっさと」
「そんな邪険にしちゃイヤ。一緒に窮地を乗り越えた仲じゃなーい」
「面倒くせえ、こっちは急いでんだ!」
「夜の山道は危険よ。あんな大惨事を起こしといて言えた義理ではないけど仲間の安全を思うなら少し先のポイントでビバークなさい。」
許しがたいという気持ちが少しもぬぐえないリーファはジェゼーモフの軽々しい態度に再度怒りがこみあげる。
「お前が私に指図すんな!」
「あの子たちは馬車で行ってる。どのみち追いつけないわ。」
「テメェ・・・やっぱり」
「待ってリーファ。私たちを足止めするつもりかもだけど、悔しいことに言ってることは間違ってないんだよ。」
「でもこのままじゃ逃げられちゃう。もう絶対に追いつかなくなるじゃないか。どうすりゃいいんだ」
「そこで私の耳寄り情報が華麗に炸裂するのよ」
「何だって?」
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