幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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コキュートスの亡者たち

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「アンタたち、こっち集まりなさい!」

ジェゼーモフは迫りくる雪に一瞬で対処を決断すると迷いなく告げる。先ほどまで全くの壁でしかなかった泥岩要塞に進入口が開いているではないか。中に入ってこいということか。

「はぁ?テメェはぶっ殺すって言っ」

「待てリーファ。終わったんだ、それどころじゃない。」

「何言って・・・わぁん!スアレス?」

スアレスはいきなり私とティナを脇に抱えると、有無を言わさず一目散に泥岩要塞へと突っ込んで行く。
どうやら後方で腰を抜かしていたシンディーはマイクが抱きかかえて走っているようだ。いったい何が起こっているって言うんだ?

「うわぁ~、何で自分から突っ込むんだ~」

スアレスに抱えられたまま内部に進入したんだけど、入口が塞がってしまうと辺りは真っ暗で何も見えない。土の砦に入る時にジェゼーモフとかいう野郎の姿を探したんだけど、どこに隠れているのか影もかたちもわからなかったよ。こうなっちまったらもうお手上げだ。

「ご安心ください。ホーネット=ナイトシーカーでしっかり見えております。闇に乗じた奇襲など許しません。」

うん。今まさに敵の腹の中だから警戒はそのまま維持してねバトラー

「息ができるってことは助かったってことなんだよね?」

「みんな無事なのか?マイク!」

「大丈夫だ、ここにいるぜスアレス。大丈夫か、シンディー?」

「あぁ、大丈夫だが・・・」

「ん?」

「さっきからどこ触ってんだマイク」

暗くて何も見えないが、シンディーを抱えている手にやわらかな感触を覚えている。

「へ?・・・あっ!」

<バチーン!>

「痛ってー!」

マイクの頭の辺りを目がけてシンディーの張り手が飛ぶ。暗くて何も見えないマイクは防御もままならずにクリティカルヒットを食らった。マイクは暗闇にチカチカ光る星々を垣間見た気がした。

「シンディーちゃんがいくら地上に舞い降りた美の化身といえども、お触り無料サービスなど存在せぬのだ。わかったかエロがっぱ!」

「誤解だぁっ!一生懸命助けたのにヒドくね」

「お触りにアリバイを用意しているたぁ、お前も相当プロいな。」

ロードチャンセラー大法官から見ても逮捕起訴は手堅いの。でも容疑者は手が滑っちゃったテヘペロで押し通すつもりンゴなの。ギルティ・オア・ノット・イノセント!」

「それどっちも有罪・・・濡れ衣ンゴ!」

「にしても暗くて何も見えないんだよ~」

「痴漢最強シチュじゃねえか。観念しろマイク!」

ったくコイツら何でこんなに締まらないんだ?何故かスアレスは飛び込む選択をしたけど、敵の用意した罠に飛び込んだかもしれないんだぞ。

「それはもう良いよシンディー。問題は」

「あらぁ?私なら坊やのたぎる情熱をすべて受け止めて骨の髄までペペロペロとシャブリ尽くす所存」

「そんなことでもなくてー・・・ってか何口走ってんだテメェは!」

「あら、ごめんあそばせ」

チキショー、どこに隠れてやがんだあの野郎?見つけ次第ボッコボコに・・・

「まぁまぁリーファ」

「まぁまぁじゃないよスアレス!何であんなヤツの言うことに耳を傾けるのさ?」

「ひとまず話を聞いてくれないか?な?」

何も見えないけど声色からスアレスの困った顔が目に浮かぶ。でもスアレスのやっていること自体が私を困惑させているんだ。

「アイツはリアンをさらった誘拐犯の一味だぞ!」

「じゃあ何でジェゼーモフはわざわざ俺たちを助けるんだろうなぁ?」

「あのままじゃ私たち雪に埋まって一巻の終わりだったんだよ、リーファ?」

「何言ってるんだティ・・・ナ?雪に埋もれるって何なんだ?」

「見えてなかったのリーファ!?ものすごい大量の雪が崩れて来てたんだよ!間一髪ここに飛び込んだの!」

言われてみると・・・雪がどうたら言ってたなぁ。ってことは、もしかしてスアレスの言っている通り、私たちを助けたのか?・・・えっ!?

「リーファさま、いかがいたします?」

むぅ・・・ムカつくけど今はアイツの創り出した砦の内部にいるのは確かなんだ。むやみに攻撃なんかしたら今度こそ生き埋めになっちゃうよね。ハニービー=トーチでしばらく様子を見よう。

「お任せを」

「おっ?照明魔術か。」

「明るいと少し安心するんだよぉ~」

「とりあえず今は雪の下から外に出ないと。戦ってる場合じゃないね。」

「話はまとまったかしらん」

こっちは戦闘態勢を解いて明かりまでつけたのに、向こうは姿を現さないのが気に食わない。スアレスたちと違って、私はまだ信じたわけじゃないからね。

「勘違いすんな~、とりあえず今だけは生かしておいてやる。」

「まぁ!嬉しくて鼻水がでちゃう。」

「そりゃあ寒いだけだろ。」

泥岩噴泉マドロックゲイザーとかで地上まで抜け出る道とか作れないのか?」

納得していなかったリーファも停戦に応じたとなれば、現状の危機を突破するための方策を見出すのが最優先とばかりにスアレスが水を向ける。

「ここってとんでもない圧力がかかってるのよね。そんな状況で泥岩噴泉マドロックゲイザーなんて使ったら、行き場を失った泥岩が全てこの内部になだれ込んで来るわ。」

「セルフ生き埋めじゃねえか。シンディーちゃんバリバリ伝説にそんなエピソードいらねーよ。他に何かいい方法ねーのか?」

「テメェが知恵しぼれや」

リーファとシンディーがつかみ合いを始めた横でティナがアイデアを出す。

「う~ん・・・上にある雪を溶かすってのはどうかな?」

「それはできないぜ、ティナ。」

「へ?」

「こんな空気の通り道のない閉鎖空間で火なんかつけたら、呼吸できなくなっちまうんだ。理屈はわからんが。」

「ラッキースケベの割には物知りじゃねえか。」

「ホント謝るんで、どうかその呼び方だけは勘弁してくださいシンディーさん。」

どうにも良い案が出てこない。雪の下敷きになる経験などそうそうあるもんじゃないから仕方ないよなぁ。

「一ついいかしら?」

「どうしたんだ、ジェゼーモフ?」

「さっきも言ったけど、とんでもない圧力を私が支えてるのよね。」

「あぁ、たしかに言っていたな。」

皆の顔に疑問符が浮かぶ。何であらためて先ほど聞いたことを再び喚起する必要があるのか、その意図がわからなかった。

「私が支えていられるのも残り魔力からしてあと30分が限界かも。」

「うぎゃ~、私このままじゃ雪に埋もれて氷漬けの美女になっちゃうんだよ~」

「あっ!この小小娘、私にもっとも相応しいセリフを断りもなく吐いてんじゃないわよ!なぁんて図々しいのかしら、このメス豚!」

「誰が小小娘なのかなぁ」

もうお前ら黙ってろ。むぅー、何かいい方法はー
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