幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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白い終末

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激しい地鳴りが辺り一面に轟く。戦闘で生じた爆発、振動どころの規模でないことは安全な場所で待機しているアミルにも容易に理解できた。

不吉な胸騒ぎに突き動かされるようにアミルは稜線を見つめる。

「向こうで何が起こってるんな?」

アミルが恐る恐る戦闘地域を確認しに行く。すると視界が稜線を超えた瞬間、否応なく異常の元凶が目に飛び込んで来た。

「雪が崩れて来てるん。早く逃げるんなぁー。」

アミルは戦闘地域を見下ろす高台からリーファたちに危険を叫ぶ。しかし絶叫空しく、あっという間にリーファたちと思しき人影はことごとく純白の奔流へ姿を消したのだった。今も信じがたい勢いで雪崩が降って行くのをアミルは見送るほかなかった。

***

「うおぉー、焦ったー!高台にいて助かったよ、いやぁ、良かった良かった。おや?」

雪崩の雪が押し寄せては来たものの、せいぜい膝の高さ程度で済んだことにヴァイスは歓喜の声を上げる。すると時を同じくして向かい側に何やら人の姿があることに気付いた。

「わぁ~~っ、リーファ~!」

遠くの物陰に隠れて様子をうかがっていたアミルが泣きながら駆け寄って来る。

「何だアイツ?」

「グスッ、シンディー・・・ティナ・・・救けるん、今すぐ救け出すん。うわ~ん!」

「おい」

正面から接近してくるヴァイスを気にとめることもなく、一心不乱にアミルは自らの手で雪を掘り続けている。白い雪はアミルの血によって薄紅色に染まっているが、そんなことお構いなしだった。

ははーん、コイツはヤツらの仲間ってワケだ。ザコがコソコソ隠れやがって

「待て、ヴァイス。」

「何だい、エルフちゃん?」

先ほどまで茫然自失となっていたリアンはヴァイスにすがるように懇願する。やるべきことは存在し、その時間は限られているとなればいつまでも無力感にとらわれている場合ではない。

「ここは一度魔力の封印を解いてくれ。」

「何でそんなことしなきゃならないのさ?」

「今なら埋もれた者たちを助け出せるかもしれない。」

「まぁ、万が一ってこともあるかもね~」

「ジェゼーモフも必ず引き上げる。ここは互いに協力を」

「ん~・・・」

ヴァイスの反応がにぶいことにリアンの不安が募る。

ジェゼーモフだってこの雪の下に生き埋めになっているのだ。利害は一致しているはず。

「悩む必要などあるまい」

「必要ないねぇ」

ようやく出て来た返答にリアンは胸をなで下ろす。

目の前に広がるのは土砂ではなく雪、であればまだ私の魔術でやりようはある。

「ではさっそく解除を」

「しないよ。」

「何だと!?」

どういうことか理解が及ばないリアンが驚愕する。今は一刻を争う事態にも関わらず、最大のパフォーマンスを追求しない選択などありえない。だがヴァイスの考えはそもそもリアンの考えとは全く異なっていたのだ。

「だ~って必要ないじゃないか、お邪魔虫はそろってくたばったんだから。」

「馬鹿な・・・ジェゼーモフも巻き添えになっているんだぞ!」

「あはははは、そんなことわかってるさ~。だって見てたんだもん。」

ケタケタ笑いながら冷淡な態度を示すヴァイスにリアンが絶句する。

「何を言っているんだ?今すぐ救い出さなければ死んでしまうぞ!」

「やだなぁ~エルフちゃん。冒険者なんてどこで野垂れ死のうと、そんなの珍しくもないさ。日常茶飯事ってやつ?」

「ふざけるな!お前が救助に参加せずとも構わん、今すぐ私の封印をぐふっ!」

<ドサッ>

ヴァイスは近づいて来たリアンに強烈な一撃を加える。リアンは雪の上に沈み、そのまま気を失った。

「はぁ、ったくうるせーなぁ。もうおネンネしてろよボケナス!」

大体にしてこの膨大な雪の中をどうやって探し回るってんだ?流されてどこに埋まってるかも定かじゃない。そんな気狂い沙汰に付き合ってる内に、こっちまで遭難しちまうだろうがよぉ。

「スッパリ諦めるのが大正解ってね。さ~て・・・」

「ふん、ふぐん、グスッ・・・リーファ~」

「おいおい、何ムダなことしてんのケダモノ?」

「ふぎゅん!」

羊娘を蹴り飛ばして見ると、雪に血の跡が残っていた。ヴァイスは汚いものを見るかのようにしておどけて見せる。

「あ~あ~、痛そう。手ぇ血だらけで~、もしかしてケダモノは痛みを感じないのかなぁ~?」

「うぅ・・・大丈夫なん」

「はぁ?」

「もうすぐ助け出しますん。もう少しの辛抱なんな、リーファ。」

蹴り飛ばされた場所に身を起こしたアミルは何事もなかったようにその場を掘り始める。その様子にヴァイスはいら立ちを覚えた。

「おい!」

「シンディー、温かいスープも用意してあげるのん。グスッ」

「・・・」

「まだ大丈夫なん、ティナは絶対に助かるんな。」

「無視してんじゃねえぞ、この毛玉がぁっ!」

「ぎゃんっ!」

仲間を励ます言葉をかけながら途方も無い救出作業を続けるアミルを再びヴァイスは遠くに蹴り飛ばした。

当たり前のように報われない努力をしようとするアミルの姿が無性に腹が立って仕方がない。

「どいつもこいつも馬鹿にしてんじゃねえぞ、クソがっ!」

「ヒヒーン!」

「ん?馬?」

そうか、アイツらあんなところに馬車を隠してやがったんだな。つい頭にきて後先考えずにエルフをのしちまったけど、こりゃあツイてる。エルフを乗せてさっさとこんな雪山からおさらばだ。ここはもう通れないから来た道を少し戻って迂回しないとなぁ。

「リーファは強いん。この程度の雪なんて大したこと」

「チッ!まだ掘ってんのかよケダモノ。おら、お前の馬車だろ。とっとと馬車を出せよ。」

「痛いん、離すんなぁっ!」

「ヒヒーン!」

「ヒヒヒーン!」

アミルの髪をつかんで馬車の方向に引きずると、それをとがめるように馬たちが騒ぎ立てた。

「うるっせーなぁ駄馬どもが!一匹ブチ殺してやるか」

「や、やめるん!」

「あぁ~?ケダモノの分際でヒュームさまに命令?ないわ~」

「あの子たちは関係ないん!」

「はっ、あの子たちだぁ?やっぱお前ら毛玉どもは四つ足のお仲間ってことだ。生意気に二足歩行なんてしやがってこの野郎」

ヴァイスは力まかせに腕を振るってアミルを雪に放り込むと、彼女の背中を足で踏みつけにした。

「うぐぅ」

「オラ、お望み通り四つ足で地べたに這いつくばらせてやんよ。お仲間をブチ殺されたくなかったらとっとと馬車を動かせっての、わかる?」

「ヒヒーン!」

「うるっせえ!ブチ殺されたくなかったらそこで黙って見てろ!」

<ザッザッザッザッ>

音に気付いたヴァイスが足元に目を向けると、踏みつけにされたアミルが必死に雪を掘っていた。

「はっ!こんな状態でもまだ掘ってんのか?お前らケダモノは馬鹿ばっかだから教えといてやる。いいか、よく聞け」

<ザッザッザッザッ>

「アイツらはとっくにくたばっちまってんだよ。」

<ザッ・・・>

考えないようにしていた最悪の可能性を突きつけられたアミルの心に亀裂が走る。

「オラァ!」

「ぐふっ」

またしても蹴り飛ばされたアミルだったが、血だらけの両手が再び冷たい雪を掘ることはなかった。目ざとくそれに気づいたヴァイスは満足気に口の端をつり上げる。

「とっとと立て!馬もろともここでブチ殺されてえのか毛玉」
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