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飛ばせ鉄拳

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「おーい、何で腕を切り離したんだよー!あっちにゃ誰もいないぞ?」

あさっての方向に泥岩武闘の腕がぶっ飛んで行くのを眺めながらヴァイスは嘆息した。
ナイフが突き刺された傷が元で腕の制御にトラブルでも生じたのか?何にしたっていつまでも遊んでいるからそんな目に遭うんだよ、自業自得さ。

「あっ、やっぱりダメだわ。脚が踏ん張れない。」

泥岩武闘の脚が半ば溶かされて巨体を支えきれなくなり、見る見ると傾いて行くではないか。腕で衝撃を和らげることもかなわず、そのまま雪上に背中から倒れこんでしまった。

<ズシン>

「あちゃ~、見てらんないよまったく。ジェゼーモフ、いい加減にしないと僕も怒るぞ!」

「そ、そうね~・・・」

「今の内なの、キツネ!」

「お、おう!」

とんでもない質量を軽々と操るジェゼーモフの泥岩武闘の恐ろしさをまざまざと見せつけられたシンディーもロードチャンセラーの一声でようやく我に返ったようだ。

良かった・・・あんなの叩きつけられたらただじゃ済まないよ。でもホーネット=アシッドで動けなくしてやったからこれでもう安心だ。

「みんな無事だね。」

「あぁ、リーファたちが来てくれたなら勝てる」

一番近くにいたマイクに駆け寄って声をかけたんだけど、何かおかしな反応が返って来たなぁ。勝てるも何も、あのゴーレムの片腕と片足をもぎ取ったんだから勝負はついたはずじゃない?どういうこと?

「へ?あのゴーレムってそんなに強かったの?」

「アレはゴーレムなんて代物じゃない。A級冒険者の固有スキルだ。」

「ウソでしょ!?」

「他の冒険者なんてどこにも見えないんだよ?」

私に遅れて到着したティナが目を白黒させている。私も白銀の世界を見回すがそれらしい冒険者の姿なんてどこにも確認できないんだ。どういうことだ?

「本体はあのゴーレムの中にいる」

「はぁ?」

「とにかくアイツを倒せばリアンを解放する約束なんだ。」

「え、リアンもあの中にいるの?」

ゴーレムを操っているのは外からじゃなくて中から?そんなことできるヤツなんているのかぁ・・・知らなかった。ってことは、丸ごと溶かして終わりってワケには行かないぞ。あの中でリアンが人質にされてるとなると・・・参ったなぁ。

「溶かすにも加減が必要になりますね、リーファさま。」

身動き取れなくしてからゆっくりリアンを助け出せるか?でもリアンに危害が加えられる恐れが・・・

「どこー?リアン!」

「違う違う、リアンはあの丘にいるから安心しろ。それよりもまずはデカブツだ。」

「何ですと?」

「あっ本当だ、あそこに2人いるんだよ。」

「でもA級冒険者と戦闘するのはグレンとの約束が・・・」

私が許されているのはシンディーを連れ戻すことまで。A級冒険者とは決して戦闘をするなと言われて、約束までしちゃったんだ。

「何言ってんのリーファ、リアンのついでにシンディーも連れ帰るチャンスなんだよ?」

「誰がついでじゃ、チビッコ!」

「いまドサクサ紛れにチビッコって言ったぁ。絶対に許さないんだよー」

「勝手にアタシをオマケ扱いしやがって。ティナのくせに生意気だぞ!ねぇ、マイク~」

<チャキッ>

ティナがおもむろに投擲用のナイフを複数本構えている。おい、こんな大事な時に仲間割れで盛り上がってんじゃねーよ。むわぁぁぁっ!こいつら見てたら私だけ頭を悩ませるの馬鹿馬鹿しくなって来た。

「えっ?何の脈絡もなく俺を巻き込むなよシンディー。お、俺は関係ないって!」

「今の攻撃はまた坊やなのかしら。レンジャーにしては随分と味なマネしてくれるじゃない?」

「さぁどうだかな?だが一つ言っておく、俺はマイクだ。坊やじゃねえ!」

「脚も腕も再生してる!?」

声の方角を向くと先ほど手足をもいでやったゴーレムが立ち上がっていた。やっぱりアイツはマイクが言っているとおり、ただのゴーレムではないらしい。

「そりゃあ再生くらいワケないわよ、私がイチからこさえてるんですもの。」

「本当にゴーレムじゃなくて人間が操ってるんだ・・・」

「あらぁ、驚かせちゃったかしら?そうなのよ~、ケガしたくないなら小娘は離れて見てなさい。」

「そうは行かない。あいにく人さらいは徹底的に叩き潰すって心に決めてるんだ。」

リアンを人質に利用してるわけじゃないなら遠慮なんて無しだ。グレンとの約束を破ることになるけど、この操りゴーレムが相手だって言うならグレンの言うほど大したことなさそうじゃないか。

「あらそうなの、じゃあ痛い目にあっても恨みっこなしよ?」

ジェゼーモフが言い終える瞬間、既にリーファを間合いに捉えていた。あまりの速さにその場の全員が驚愕の声を上げる。

「速いっ!」

「リーファっ!」

だが大方の予想に反してリーファに加えられる一撃は繰り出されなかった。放物線を描いて飛んでいく腕の一部を誰もが見送っていた。

「あらぁ?」

「だーかーらー・・・さっきからどこに腕を飛ばしてるんだよ!」

「おっかしいわー、何でなのかしら?やっぱり妙な武器を使ってくる坊やから叩かないとダメかしらね。ソイヤッ・・・ドッコイショーっ」

<ズシーン>

泥岩武闘が跳躍してマイクの背後を盗るや、大きな腕を振り上げて攻撃態勢に入っていた。一瞬の出来事にマイクの反応が遅れる。先ほどよりも身のこなしが速いのは手加減でもしていたのだろう。

「今度は俺かよ!」

「ふふん、もう逃さないわ。さっきから妙な攻撃ばかり、オイタが過ぎるとこうなるのよ」

「マイク、避けろー」

「大丈夫ぅ、痛くしないからぁ」

「ウソつけ~!」

<ギャリギャリギャリギャリ>

「あら?」

「うひぃ~!」

泥岩武闘の剛腕が火花を散らしながら軌道を逸らされている。目の前をかすめるように土石塊が流れて行くのをマイクは冷や汗とともに見送った。

「リーファさま、あの打撃を正面から受けるには数が足りないようです。力の方向を変えて受け流すのがやっとになってしまいます。」

そうみたいだね・・・油断してたよ。ハニカムウォールでもああなるんなら、死人が出る前にさっさと決着をつけなきゃいけないってことか。バトラー、アイツを根こそぎ消し去るよ!

「かしこまりました、リーファさま」

外した?あれってジェゼーモフのサンデーパンチじゃないか。アレはおよそ手加減なしのモーションだった・・・タイミングからしても外すなんてありえない。どういうことだ?

それまで格下相手の戦闘をすずろに眺めていたヴァイスだったが、状況の異変に気づくや叫び声を上げた。

「何かおかしいぞ。気をつけろ、ジェゼーモフ!」

地面をえぐるような強烈スマッシュが強引に軌道を逸らされたことにジェゼーモフも驚愕する。立て続けに生じる異常な出来事の因果関係に誤りがあることを確信した。

魔術師の小娘はそこ・・・だとすれば防壁はあの小娘の仕業ではないわ。アビムリンデの横槍も魔力封印によって不可能。あの坊やも手足の破壊行動をしないのは何故?・・・もしかして私の推測がすべて間違ってるの?いったい誰が?
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