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懲りない面々

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雪深い山道に似つかわしくない甲高い声がこだまする。

「誰だ~、山越えが近道だなんて言ったヤツ。出てこ~い」

しばらく静かだと思ってたら、また始まったわ。もう面倒くさいわねー。
ジェゼーモフもウンザリしながらヴァイスに応答する。

「ショートカットできるのは事実よ。」

「僕ぁそんなこと言ってるんじゃないんだ、ジェゼーモフ。」

「じゃあ何よ?」

「何って?そりゃあツラいツラくないの話に決まってるだろう。」

「逆立ちしたってわかりゃしないわよ。そんなのアンタの腹次第じゃない。」

「ツーラーいーんーだーよー。何個山を越えなきゃなんないのさー、もうウンザリだぁ~」

雪上にへたり込んで駄々をこねるヴァイスに参ってしまったジェゼーモフが頭をかく。

「そう言ったってねぇ、こっちだってアンタに付き合ってるようなもんなんだから」

我慢しなさいよと言おうとしたジェゼーモフの言葉をさえぎってヴァイスが叫ぶ。

「馬車ーっ!」

「真冬の山越えに馬車を貸し出してくれやしないわよ。安全な迂回路ならまだしも、見なさいよこの景色を。」

「あぁー雪で歩きづらいし・・・だから始めっから泥岩武闘で要塞を突破すりゃ良かったんだ!」

「やりたきゃアンタでやんなさいって言ったでしょ。私はべつに止めちゃいないわ。」

た、たしかに・・・。でもジェゼーモフが手伝ってくれなきゃエルフちゃんを拘束しておく余裕なんて無くなってるだろうからなぁ・・・。そうだよ、元はといえばジェゼーモフが手伝ってくれれば良かったのに。

「うっ、そこは一致団結というか何というか・・・」

「一致団結ねぇ・・・ハウンドちゃんはどうなっちゃったんだっけ?」

「そ、それは~・・・」

完全に墓穴を掘ってしまったヴァイスが居心地の悪そうな表情でモゴモゴ言っている。

「アンタってば、いざとなりゃ私も切り捨てそうよね。」

「さあ、張り切って登るぞ~」

「あらぁ、これは予想外だわ」

先ほどのやり取りをごまかすようにカラ元気を出して見せたヴァイスもジェゼーモフの皮肉には口を尖らせる。

「僕だってやる気のカケラくらい」

「何言ってんの、アンタのことじゃないわよ。」

「ん?じゃあ何のことなん・・・って、ウゲッ!」

ヴァイスがジェゼーモフの視線の先を追っていくとそこには見知った顔が並んでいるではないか。

「よおっ、待たせたなぁ!」

「誰もお前らなんて待ち望んでないやい!性懲りも無く、また現れやがって。今度はもう容赦しないぞ!」

全くあの坊やたちはへこたれないわね。私の予想よりも早かったことは褒めてあげるわ。

「仕方ないわね、アンタたち。また相手したげるわ。」

「待ってよ、ジェゼーモフ。今度は僕だ!」

「私の獲物よ、アンタは黙ってなさい!」

「とか言って、また手加減するつもりなんだろう。そうは行かないぞ。」

「わかってるわよ、今度は時間をかけやしないわ。」

ジェゼーモフは手をヒラヒラさせながら戦いやすいくぼんだ地形に降りて行く。先ほどはヴァイスたちにも流れ弾が飛んでしまったことへ配慮して、なるべく距離を置く選択をした。

「もう一発でのしてやってくれよ。」

高台から見物するヴァイスも休憩ついでにボンヤリ眺めることにする。

「リアン!」

「・・・」

スアレスの問いかけにリアンは応えなかった。まるで赤の他人であるかのように感情の見えない視線を返すのみだ。その様子を見たヴァイスはニヤついた顔で代わりに応答する。

「はっ、お前らとはもう口を利かないってさ!」

「そんな・・・」

もはや口も利かないリアンの様子にショックを受けたマイクが力なくうめく。

「すまない、リアン。俺が不甲斐ないばかりに・・・お前が愛想を尽かすのも当然だ。だが何度倒れようともお前の側にいたいんだ。」

「俺たちは諦めない。必ず解放して見せる!」

「・・・」

スアレスの問いかけに意気消沈となっていたマイクも勇気づけられた。リアンは相変わらず無言で冷たい視線を送るのみだったが、リアンを解放する決意を新たにする。

「できもしないことをペラペラと。お呼びじゃないんだよ。手加減無しだ、いいねジェゼーモフ!」

「ウチのピーチクパー子ちゃんが黙ってないのよね。悪いけどすぐにおネンネしてもらうわ。」

「誰がピーチクパー子だ?聞こえてるぞ、ジェゼーモフ!」

ジェゼーモフの背後からピーチクパーチク騒ぐ声が聞こえてくる。するとスアレスとマイクの背後からフードをかぶった何者かが前に歩み出てきた。

「おいリアン、どうしちまったんだよ。何でさっきから黙りっぱなしなんだ?」

あの声・・・シンディーまで来てしまったのか!グレンなら私の意志を察してくれるはず・・・まさか飛び出して来たのか?

「おかしいと思ったよ、まさかヒーラーも一緒とはね。でもお前をブチのめせばもう追って来れないってコトだ。」

「うっせー、人さらいは黙ってろ!」

「な、何だと。ザコのくせに生意気言いやがって!」

顔を真っ赤にして怒り狂うヴァイスにお構いなしにジェゼーモフが戦闘態勢を取った。

泥岩武闘マドロックアームズ

「うおっ!あれが例のゴーレムモドキか?実際に目にするとヤベーな・・・」

見る見るうちに巨大なゴーレムの形態に仕上がって行く泥岩武闘を見上げるシンディーがつぶやく。

「言っとくけど、ゴーレムなんかと一緒に考えてたらとんでもない目に会うわよ。」

「知ってらぁ、フォックスファイア!」

「そんなもの効かないわよ・・・って、あれ?何これ?ぜんぜん消えないじゃない。」

青い炎なんてあんまり見ないわ。しかも消えないなんてことがあるの?通常の火炎魔術と見ない方が良いかもしれないわね。

「そのままテラコッタになっちまえ!」

「これはさすがに消火しないとマズいみたいね。」

泥岩マドロックジェゼーモフは地面の雪をすくいとると、それを消えない青炎に押し付けて強制的に消火を図る。土そのものはそれほど燃えるものではないにも関わらず、なかなかしつこかった。これが燃えるものだったら燃やし尽くすまで消えないのかもしれない。

「今度は一斉攻撃させてもらうぞ。」

「ええ、かかってらっしゃい。泥岩噴泉マドロックゲイザーで近づけたりしないわよ。」

「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ!」

開口一番にマイクが手持ちのナイフをゴーレムモドキに向けて投げつける。ジェゼーモフはマイクの投擲を意に介さず、むしろスアレスの迎撃に意識を向けた。

「何考えてんだアイツ。泥岩武闘にナイフなんか投げて何の意味があるんだ。やぶれかぶれかよ?」

アレは・・・そうか。マイクめ、考えたな。

二度目の戦闘なのに最初からやぶれかぶれだと残念とばかりにジェゼーモフが苦言を呈す。マイクが何をしたのか真に理解しているのはリアンだけだ。

「あら、ちょっとは真面目にやってほしいわね。」

「俺は大真面目さ。前回はよくもぶっ飛ばしてくれたな?」

「さて、今回もこのままおネンネさせて・・・ぐっ!」

「やったか!」

明らかに劣勢に見えるマイクが何やら手ごたえを感じているような仕草を見せていることに、ヴァイスも呆れてジェゼーモフに釘を刺した。またお遊びで時間を食ってもらっちゃたまらないと言いたげだ。

「はぁ・・・おフザケは良いからさっさとやっちゃえよジェゼーモフ。」

「何、何なのコレ?やだ、こわ~い。」

「ハイハイ、何があったんですか~」

「私の腕にナイフが突き立ってるんですけど~?」

「泥岩武闘の内部なのに何言ってんだ・・・えっ?まさか?」
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