幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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乗り越えるべき壁

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見上げるほどの巨体である泥岩マドロックジェゼーモフを前にしてスアレスは一歩も引かず対峙していた。巨大な肩から振り下ろされる拳を交わしながら攻撃をするも、体勢の整わない状況での剣戟ではさすがに通用しないようだ。

「どうしたの、さっきまでの勢いは?大人しく帰ると約束するなら見逃してあげるわよ。」

「石にかじりついてでもこの場から引き下がるつもりはない!」

「アンタたち、本当に仲間を愛してるのね。だけど愛だけで何かが為せるほどこの世は甘くないわよ坊や。」

「押し通す!」

「無駄無駄ぁっ!」

互いに気勢を上げる中、不機嫌な表情を隠しもしないのはヴァイスだ。

「ケッ!手ぇ抜きやがってジェゼーモフめ。わざと負けでもしたら僕がアイツらを八つ裂きにしてやる。」

「それだけはやめてくれ。」

「おやおやぁ?随分と都合のいいことを言ってくれるじゃないか。」

生殺与奪の権限を握っているのはこの僕なんだ。自分の立場がわかっていないならここでわからせてやらないといけないかもねぇ・・・。どいつもこいつも本当にイラつくよ。

血相を変えて抗議するリアンに対し、ヴァイスはイライラまぎれに意地悪を言い放った。するとリアンも神妙な面持ちで言葉を返す。

「仮にわざと負けるようなことがあっても彼らとともに帰ることはない。約束しよう。」

「うんうん、わかってるね~エルフちゃん。そういう態度は大事さ。それなら僕もこのつまらない茶番にもう少し付き合ったげよう。」

「ほらそこっ!」

「ぐはぁっ!」

図体の割にかなり俊敏な攻撃を繰り出す泥岩ジェゼーモフの拳がついにスアレスをとらえる。反対方向に飛んでダメージを最小化しても、吸収しきれない激痛がスアレスを襲った。

「どうしたの?坊やの覚悟はこんなもんなのかしら?」

「ヘヘ。まぐれ当たりの一発で大騒ぎするもんじゃねーだろ、なぁ?」

口許の血を腕で拭いながらスアレスは立ち上がる。余裕を残していると言いたげだが、彼の意図に反してお世辞にもそうは見えなかった。

「あらぁ、言ってくれるじゃな~い?でも防戦一方でそんなこと言われても興ざめなのよ。」

「まぁ待てって。」

「?」

「俺も試してみたいことがあるんだ。」

「試す?」

「アンタだったら俺の全力をぶつけられそうだ。どれだけ通じるのかは俺もまだわからないんだ。」

「あっはっはっは、聞いたかい今の。アイツ馬鹿じゃないか。」

腹を抱えて大笑いするヴァイスに対してリアンが眉をひそめる。

「別段不思議な点などあるまい。」

「はぁ?身びいきが過ぎるんじゃないの、エルフちゃん。ジェゼーモフはレッドドラゴン=キュヴァルベーメのブレスをしのいだんだよ?まさに”鉄壁”さ!」

「外野はお黙り!」

「マジかよ?」

スアレスが驚きのあまり呆けている。水を差されたジェゼーモフもさすがに文句を言わずにはいられなかった。

「ほらぁ、アンタが余計なこと言うから坊やの戦意が削がれちゃったじゃない。それにあれは外部から魔術補助を受けて限界ギリギリだったんだから。」

「へいへい・・・もうパッと終わらせちゃって~」

「まったくアンタは・・・。で?坊やはどうする・・・って、えっ!?」

スアレスは戦意が削がれるどころか先ほど以上に目が輝いているではないか。これにはさすがにジェゼーモフも心底驚いた様子だ。

「やってやる、アンタの胸を借りたい。」

「なぁにぃ~?俄然やる気出しちゃって~。うふふ、いいわ。かかってらっしゃい、だって私は受け専門だもの。バッチコイよ!」

投げキッスとウィンクをかますジェゼーモフを見たヴァイスの顔が一気に曇る。

「うへぇ、何あの会話?」

「・・・私に聞くな。」

「やっちまえ~スアレス~!」

「行くぞ!」

泥岩武闘炸裂衝撃マドロックアームズバーストインパクト

泥岩ジェゼーモフの巨大な拳が地面に叩きつけられた瞬間、拳から腕の一部に至るまでが辺り一面に砕け散る。

「うひょー、危ないなぁ。こっちまで飛んできたじゃないか。やっぱ近くでジェゼーモフの戦闘を見るのは危なくてかなわないや。」

「大事ないでしょ。ちゃんと事前に炸裂衝撃バーストインパクトを教えたんだから。」

「そうだけど、良いのかい。アイツ今のでひしゃげちゃったんじゃないか?」

どうしたものかヴァイスはバーストインパクトの流れ弾を全て弾き飛ばしたようだ。土煙で消えてしまったスアレスを一生懸命に目を凝らして探している。

「やりすぎたかしら。ん?あれ、どこなの坊や~?」

「次は俺の番だ。」

土煙にまぎれてジェゼーモフの背後からスアレスが攻撃態勢に入っている。さすがにジェゼーモフもこれに対処するには一瞬出遅れてしまった。

「いきなり後ろからなんて相当なテクニシャンだわっ!」

「クアッドファンタム」

背後から泥岩ジェゼーモフの脚部を狙った4本の刺突が同時かつ一点に突き刺さる。

「何だ今の?腕が一瞬4本に増えたじゃないか!でもあんなへなちょこ剣だけで穿つことなんかできやしないぞ」

<ピシッ!>

「あら?」

「へっ?」

不気味な軋み音とともに泥岩武闘の右脚部に亀裂が走り、次の瞬間には崩壊を起こしてしまった。

<ガラガラガラ>

「た・・・倒れる!」

「うわぁーーー何やってんだジェゼーモフーっ!」

「っしゃあー、やれぇースアレスーっ!」

頭を抱えて絶叫するヴァイスに対してマイクの声援に熱が入る。戦闘の流れをつかんだかに見えた。

「その鎧はこのまま破砕して、一気に勝負をつける!」

「甘いのよ、坊や」

脚を失い地面に這いつくばったゴーレムモドキに向けて、スアレスが敢然と突撃していく。

「ぬかせー!」

泥岩噴泉マドロックゲイザー

「うわぁっ!」

突如地面から爆発的に土や石が噴き上がると、噴出に巻き込まれたスアレスが宙を舞う。

「スアレスー!」

「はっはっはーぁ、バカがぁっ!終わりだよゴミ虫ども。」

「くっ、脚が・・・」

泥岩ジェゼーモフが脚を修復して立ち上がる。目の前に倒れ伏すスアレスは気を失ってしまったようだ。そこに駆け寄るマイクに向けて横薙ぎの一撃を食らわせると彼もまた気を失ってしまった。

「よっしゃ~、そのままペシャンコにしちゃえ~ジェゼーモフ!」

「あぁ・・・スアレス・・・マイク」

リアンは居ても立っても居られず、彼らが倒れ伏すその場に駆け出す。

「あ~、ダメだってばエルフちゃん。」

ヴァイスが糸を手繰るような仕草をするとリアンが宙を舞って、ヴァイスの位置まで引き戻された。

「くはっ!」

<ドサッ!>

何が起こったか一瞬理解できなかったが、どうやらヴァイスの見えない糸によって身体ごと引き戻されたらしい。しかしリアンはなおも彼らの下に駆けつけようとする。

「おいおい、言うこと聞けよな。いい加減にしとけよ。」

「おやめなさいヴァイス!坊やたちも命に別状はないからアナタも無茶はしないで大丈夫よ、安心なさいな。」

「ちぇっ!」

「ったく、私は鬼悪魔の類じゃないんだから。」

「すまない、ジェゼーモフ。」

「良いのよ、そう見えちゃうのは自覚してるわ。彼らも骨折はしてるけど命に別状はないでしょう。早く治癒してあげると良いわ。」

「駄目だ!」

「何でよ、ヴァイス?」

「そいつら治療したらまた追いかけて来るじゃないか。僕はもうこんな茶番には二度と付き合わないぞ。」

「良いじゃない、また相手してあげたら。底意地が悪い女は嫌われるわよ?」

「余計なお世話だい!とにかくそいつらを治癒するのは許さないからね。その状態でも下山に支障なんか無いだろう。つきまといなんて次やったらマジでブチ殺しだからね。」

「まったく・・・だそうよ?」

ジェゼーモフは困った顔をしてリアンの反応をうかがう。だが先ほどとは異なり、リアンは落ち着いているようだ。

「魔術が封印されている以上、いたしかたあるまい。だが最後にお別れだけさせてくれ。」

「どうなの、ヴァイス?」

「もう!そんなの勝手にすりゃあいいだろ?」

リアンはマイクとスアレスに歩み寄るとそれぞれの頬に優しく口づけをした。

「これで本当にお別れだ・・・私の愛しい仲間たち。」

「気は済んだかしら?」

「あぁ、十分だ。」
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