125 / 167
敗者復活の道行き
しおりを挟む
「結構登って来たけどまだこんなもんか・・・」
遠くに見えるワオルーペを一望しつつシンディーがボヤく。目線を前に戻すと山道は気の遠くなるほど先まで続いているように見えた。
「走るのキツネ!」
「無茶言うなよ、アタシを殺す気か?」
「早く追いつかないと逃げられるの!」
何かさっきからロードチャンセラーに急かされてばっかだぜ。一生懸命に先を急いでいるのはロードチャンセラーも知らないはずはねーし・・・一体どうしちまったんだ?
「んなこたぁわかってんだよ。でもスアレスたちのことだって昨日の話だってんだろ。これだって猛烈な追い上げだっつーの。ここまでどんだけぶっ飛ばして来たのか覚えてねーのか?」
ロミアとマリンは商人だけあって欲しい情報を何の苦も無くさらってくる。これだけ猛追できたのも彼女らの手助けがあってこその話だ。
しかし、それをもってしてもなおロードチャンセラーには焦らずにはいられない事情があった。
「それはそれ、もう済んだことなの。今も遠ざかってるのだけは間違いないの。」
むぅ~、せっかくリーファさまに居場所をリークしたのにここでグズグズしてたら下手をすると計画がポシャるの。ここは何としても・・・
「ん、何か動かなかったか?」
「何なのキツネ、ロードチャンセラーは今忙しいの」
「気のせいじゃねーな。ありゃ人だ、降りて来てる。」
シンディーの発見した遠くの人影は二つ、たしかにロードチャンセラーにもそれは確認できた。だがこんな寒い時期に山に入る人間にしてはヨロヨロと不自然な動きをしている。
「ムムム!いっちょ見て来るの。」
「おーい、アタシを置いてくな~・・・」
ロードチャンセラーは上り坂など存在しないかのように軽やかに飛び去ってしまった。
「くっ・・・はぁ、はぁ」
「しっかりしろ、町まではもうすぐだ。」
肩を貸している男は苦痛に顔を歪ませて片足を引きずっている相棒を励ましながら坂道を共に降っていた。だが自らも片腕を骨折しており、脂汗をにじませながら苦痛に耐えている。
「すまない・・・」
「人間」
仲間の苦労に対する申し訳なさから口をついて出た言葉にかぶせるように、何か別の言葉が発せられた。思わず男は相棒に確認する。
「いま何か言ったか?」
「いや、何も。だが俺にも聞こえたぞ。」
男たちは立ち止まり辺りを見渡す。だが声の届く範囲には何者の姿も確認できなかった。
「お前たちは見たことがあるの」
「誰だ!誰かいるのか?」
<ポンッ!>
立て続けに聞こえた声の方向に顔を向けると、派手な音とともに目の前に妖精が姿を現したではないか。これにはたまらず男も驚きの声を上げる。
「うわぁっ!」
「バトラーじゃないか!」
「誰がバトラーなのっ!」
「へ?」
妖精には見覚えがあるんだが、どうやらバトラーではないらしい。確かにグラムスの診療所で出会ったバトラーに似てはいるんだが・・・なんだか微妙に雰囲気が違うような
「あれ?・・・本当だ、よく見りゃ違うな。」
「あんな三下と一緒くたにされては迷惑千万ババババンなの。」
腕を組んでご機嫌ななめな様子だなぁ・・・何か地雷でも踏んじまったか?これ以上刺激しないためにも話題を変えねーと
「バトラーを知ってるってことは・・・リーファも近くにいるんだな?」
「ここにはまだいらっしゃらないの。それにしてもお前たち、ズタボロなの。」
防具の損傷具合からかんがみて、相当な勢いで叩きつけられたのが一目でわかる有様だ。下手をすると命を落としていても不思議はないのだろう。
「面目ない。こっ酷くやられちまってこのザマだ。」
「頼む、スアレスだけでも良い。折られた脚を治してやってくれねーか?」
「ロードチャンセラーの言うことを聞くなら治してやっても良いの。」
スアレスも思いつめた様子で目の前の妖精にすがる。
「頼む、ロートルマンパワー。何度ぶちのめされても大事な仲間を救い出さなきゃいけないんだ。」
「・・・ロードチャンセラーなの。だがその意気や良し。キラめけ、ハチミツの輝きぃっ!」
スアレスとマイクの周囲を光の粒子が包み込むと次の瞬間、強烈な閃光がほとばしる。
「くっ!・・・ん?まったく痛くないな。」
「お、俺も治してくれたのか?重症であるほど治癒に激痛が伴うもんじゃなかったっけ?」
あまりの眩しさに閉じていた目を開くと、不思議なことに骨折など無かったかのように元通りになっていた。今までリーファに施された治療でも重傷であればある程度の痛みは伴うはずだったのだが、どういうわけか全く何も感じないではないか。
「それが偉大なるロードチャンセラーの力なの。ひれ伏せ人間、そして讃えよなの。」
「何かわからんが、ここはひれ伏しておこうぜスアレス。」
「そうだなマイク。」
「「ははぁ~」」
「ぬわぁ~っはっは」
シンディーがようやくたどり着くとそこにはロードチャンセラーにひれ伏している二人の男たちが並んでいた。
「何やってんだお前ら?」
***
「おいおい、A級ってそんなケタ違いなのかよ?」
スアレスとマイクに合流したシンディーは山道を進みながら彼らの戦闘について状況を聞いていた。どうにもグレンの言う通り、A級冒険者は桁違いの強さを誇っているらしい。
「あぁ・・・とても真正面からぶつかって勝てる相手じゃなかった。」
スアレスとマイクは苦々しい面持ちで話を続けた。
遠くに見えるワオルーペを一望しつつシンディーがボヤく。目線を前に戻すと山道は気の遠くなるほど先まで続いているように見えた。
「走るのキツネ!」
「無茶言うなよ、アタシを殺す気か?」
「早く追いつかないと逃げられるの!」
何かさっきからロードチャンセラーに急かされてばっかだぜ。一生懸命に先を急いでいるのはロードチャンセラーも知らないはずはねーし・・・一体どうしちまったんだ?
「んなこたぁわかってんだよ。でもスアレスたちのことだって昨日の話だってんだろ。これだって猛烈な追い上げだっつーの。ここまでどんだけぶっ飛ばして来たのか覚えてねーのか?」
ロミアとマリンは商人だけあって欲しい情報を何の苦も無くさらってくる。これだけ猛追できたのも彼女らの手助けがあってこその話だ。
しかし、それをもってしてもなおロードチャンセラーには焦らずにはいられない事情があった。
「それはそれ、もう済んだことなの。今も遠ざかってるのだけは間違いないの。」
むぅ~、せっかくリーファさまに居場所をリークしたのにここでグズグズしてたら下手をすると計画がポシャるの。ここは何としても・・・
「ん、何か動かなかったか?」
「何なのキツネ、ロードチャンセラーは今忙しいの」
「気のせいじゃねーな。ありゃ人だ、降りて来てる。」
シンディーの発見した遠くの人影は二つ、たしかにロードチャンセラーにもそれは確認できた。だがこんな寒い時期に山に入る人間にしてはヨロヨロと不自然な動きをしている。
「ムムム!いっちょ見て来るの。」
「おーい、アタシを置いてくな~・・・」
ロードチャンセラーは上り坂など存在しないかのように軽やかに飛び去ってしまった。
「くっ・・・はぁ、はぁ」
「しっかりしろ、町まではもうすぐだ。」
肩を貸している男は苦痛に顔を歪ませて片足を引きずっている相棒を励ましながら坂道を共に降っていた。だが自らも片腕を骨折しており、脂汗をにじませながら苦痛に耐えている。
「すまない・・・」
「人間」
仲間の苦労に対する申し訳なさから口をついて出た言葉にかぶせるように、何か別の言葉が発せられた。思わず男は相棒に確認する。
「いま何か言ったか?」
「いや、何も。だが俺にも聞こえたぞ。」
男たちは立ち止まり辺りを見渡す。だが声の届く範囲には何者の姿も確認できなかった。
「お前たちは見たことがあるの」
「誰だ!誰かいるのか?」
<ポンッ!>
立て続けに聞こえた声の方向に顔を向けると、派手な音とともに目の前に妖精が姿を現したではないか。これにはたまらず男も驚きの声を上げる。
「うわぁっ!」
「バトラーじゃないか!」
「誰がバトラーなのっ!」
「へ?」
妖精には見覚えがあるんだが、どうやらバトラーではないらしい。確かにグラムスの診療所で出会ったバトラーに似てはいるんだが・・・なんだか微妙に雰囲気が違うような
「あれ?・・・本当だ、よく見りゃ違うな。」
「あんな三下と一緒くたにされては迷惑千万ババババンなの。」
腕を組んでご機嫌ななめな様子だなぁ・・・何か地雷でも踏んじまったか?これ以上刺激しないためにも話題を変えねーと
「バトラーを知ってるってことは・・・リーファも近くにいるんだな?」
「ここにはまだいらっしゃらないの。それにしてもお前たち、ズタボロなの。」
防具の損傷具合からかんがみて、相当な勢いで叩きつけられたのが一目でわかる有様だ。下手をすると命を落としていても不思議はないのだろう。
「面目ない。こっ酷くやられちまってこのザマだ。」
「頼む、スアレスだけでも良い。折られた脚を治してやってくれねーか?」
「ロードチャンセラーの言うことを聞くなら治してやっても良いの。」
スアレスも思いつめた様子で目の前の妖精にすがる。
「頼む、ロートルマンパワー。何度ぶちのめされても大事な仲間を救い出さなきゃいけないんだ。」
「・・・ロードチャンセラーなの。だがその意気や良し。キラめけ、ハチミツの輝きぃっ!」
スアレスとマイクの周囲を光の粒子が包み込むと次の瞬間、強烈な閃光がほとばしる。
「くっ!・・・ん?まったく痛くないな。」
「お、俺も治してくれたのか?重症であるほど治癒に激痛が伴うもんじゃなかったっけ?」
あまりの眩しさに閉じていた目を開くと、不思議なことに骨折など無かったかのように元通りになっていた。今までリーファに施された治療でも重傷であればある程度の痛みは伴うはずだったのだが、どういうわけか全く何も感じないではないか。
「それが偉大なるロードチャンセラーの力なの。ひれ伏せ人間、そして讃えよなの。」
「何かわからんが、ここはひれ伏しておこうぜスアレス。」
「そうだなマイク。」
「「ははぁ~」」
「ぬわぁ~っはっは」
シンディーがようやくたどり着くとそこにはロードチャンセラーにひれ伏している二人の男たちが並んでいた。
「何やってんだお前ら?」
***
「おいおい、A級ってそんなケタ違いなのかよ?」
スアレスとマイクに合流したシンディーは山道を進みながら彼らの戦闘について状況を聞いていた。どうにもグレンの言う通り、A級冒険者は桁違いの強さを誇っているらしい。
「あぁ・・・とても真正面からぶつかって勝てる相手じゃなかった。」
スアレスとマイクは苦々しい面持ちで話を続けた。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。


お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる