幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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狐狸霧中

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街道の宿場町ワオルーペ。
ここは帝国の要塞ガイアロドハイム近傍に位置していたため、頑強な城壁に囲まれた城塞都市ではない。要塞の主が変わった現在も城壁建造の動き一つ起こらない平和な町だ。
鳩のたむろする噴水の前でぼやくのは、美しい毛並みの尻尾を持つ少女だった。

「たぶんこの町に来てるはずなんだけど・・・おっかしーなー。」

「こっちはダメだったよ、シンディー。」

この立派な中央の噴水広場で落ち合う約束をしていたのは猫耳のロミアだ。残念な時はイカ耳になる彼女の癖がストレートに出ている。聞き込みを始めて結構な時間が経過したが、それなりに大きい宿場町で人の出入りも激しいとなれば一筋縄とは行かないようだ。

「ロミアもかぁ・・・」

「おーい、シンディー姉!」

「どうだった、マリン?」

手を振って駆け寄って来たマリンにシンディーが首尾をたずねる。

「エルフを追っとる二人組は口振りからするに、山越えするみたいやったて言うてたで~。知らんけど。」

「ナイスだぜ、マリン。さっすがー!」

報告を聞いてパァーッと表情を明るくするシンディーを見たマリンは、瞬時に彼女たちの聞き込みの成果を理解する。マリンはニヤニヤしながら続く報告を渋って見せた。

「せやろ~、情報料はお高いんやで~シンディー姉?」

「ぐふっ、ゲフンゲフン!」

「んなっはっは、なぁ~んてな。ほれ、目の前の山脈や。あれ越えるとセントクーンズまで随分とショートカットできるんやて~。知らんけど。」

「知らんけどが二回目なの、タヌキ。」

シンディーの首の後ろにあるフードからひょっこり顔を出した妖精ロードチャンセラーがツッコミを入れる。

「ふふふ。それはなぁ、ローやん・・・」

「馴れ馴れしいの。」

「大事なことやないけど敢えて二回言うて見ました~、ざ~んね~ん!」

「ムカつくタヌキなの。」

わざわざツッコミを入れなければ良かったと妖精が苦々しい表情を浮かべる。目の前のタヌキは心底嬉しそうな表情なのがいただけない。

「じゃあ行こうよ、シンディー。」

こっからはさすがに危険が伴うからロミアとマリンを連れて行くわけにも行かねーよなあ。このまま一緒に旅をしてぇとこなんだが・・・

「いや、ここまででいいよ。お前らもやることがあるってのに無理言っちまって悪かったな。」

「ちょっと待ちぃな、シンディー姉。ここまで来て水臭いやんか。なんぼ何でもそら無いでぇ~。」

「そ、そうなんだけどさ~・・・」

言葉を濁すシンディーの様子を見たロミアが心情を察してマリンをいさめる。

「シンディーを困らせちゃいけないよ、マリン。」

「せやかてロミア~」

「たぶん私たちは足手まといになるんだよ。こっからは冒険者の領分なんだよね、シンディー?」

「あ、足手まといだなんて人聞きの悪い。たまに毒舌だからロミアにゃ敵わねえぜ。でもロミアの言うとおりさ。」

「そうなん?残念やけど・・・ほんならウチも無理言われへんわぁ。」

普段何も考えてないようでロミアは誰よりもさとい。口に出さずともアタシの考えていることをおもんぱかってくれるんだよなぁ。

「相変わらずロミアにゃあ隠し事できねぇなぁ。」

「ホンマやで、ウチも毎日ロミアには振り回されっぱやもん。」

「あ、あはははは・・・」

「でもあんま危ないことせんといてな、シンディー姉?ウチ、それがいっちゃん心配やねん。」

「おう、約束するぜ。アタシもまたロミマリと一緒にぶらり旅してぇしな。」

「シンディーをよろしくね、ロードチャンセラー。」

「任せると良いの、ロミア。スットコドッコイのお守りくらい楽勝なのよ~、なぁ~はっはキャイン!」

人通りが少なくなったのをいいことにフードから飛び出していたロードチャンセラーの尻をシンディーはデコピンの要領でしばきあげた。

「誰がスットコドッコイだ、ハラグーロチャンセラー。」

「ムキーッ、お仕置きだべぇ~なの~!」

「ってか、何でロミアだけは名前なんだよ?」

「そういやウチらずぅーっとキツネとタヌキ呼ばわりやなぁ。ロミアはニャンコとちゃうん?」

シンディーとマリンの疑問に対して「ふぅ~やれやれ」といった具合に妖精は受け答えして見せる。

「リーファさまにとってロミアは特別な友人なの。だからロミアにはそれなりに敬意をキャイン!」

今度はマリンにデコピンで尻をしばかれたロードチャンセラーがぶっ飛ぶ。

「納得行かん、ウチらにも敬意を払えー!」

「そうだー、おキツネさまとおタヌキさまと呼べー!」

「何でやねん!そこは名前にせなアカンやろ。もうエエわ。」

「「ありがとうございました~」」

「くっ、こんな低俗なネタにロードチャンセラーが使われるなんて・・・屈辱なの!」

「うふふふふ」

観客のいない青空漫談。微笑むのはロミアだけだった。

***

「むむむ、行き詰まった・・・」

「サッパリ無いもんだね~、シンディーの情報。」

「アイツ町や村に立ち寄ってないのかな。もしかしてまだセバルにでもいるのか?」

「だとすると今度は戻らないとなんだよ~。」

「こんな時こそ落ち着くんリーファ。昔からウサギの罠にキツネがかかるとよく言うん。」

「ゴクリ・・・そ、それはどういったコトワザなんでしょうアミル大先生?」

何だか急に訳の分からないことを口走った羊っ娘のアミルにティナが首をかしげる。何故かリーファは謎の言葉を真剣に受け止めようとしているのがティナにはまったく意味不明だった。

「イーリスをとっ捕まえようと思ったらシンディーがかかったってこと?でもイーリスはグラムスなんだよ~?」

まぁ言っちゃ悪いが、イーリスもシンディーも簡単な罠に引っかかりそうではある。いやいや、それだと意味不明だ。アミルが中身の無い話をするはずがないんだ。

「そんなわけないよティナ。アミル大先生は何か深~い意味で言ったに違いないんだ。」

「え、そうなの!?」

「こういう時のアミルは一味違う。ほら見て、あのただならぬ雰囲気・・・言外の何かを伝えようとしているのが私には手に取るようにわかるんだ。」

「そう?知らなかったんだよ。」

<ゴゴゴゴゴゴ・・・>

その場の空気が重々しいものに激変する。狙いすましたかのように絶妙なタイミングでアミルの口が開かれた。

「それは・・・」

「・・・それは?」

「特に深い意味は無いのん。ちょっと言ってみたかっただけなん。」

「どはぁ~!」

「ちょっと・・・も~、リーファもアミルもフザケてる場合じゃないんだよ~」

弛緩した空気の中、モッさんがあくびをする。馬たちもしばらくは暇を持て余しているようだ。

「ゴメンなのん。空気の重さに耐えられなくて、つい出来心ですん。でも思いがけず情報が向こうから飛び込んで来たりもするんな。そんな気がビンビンしますんな。」

「まぁシンディーだってスアレスとマイクの足取りを追っているはずだから、このまま進んでも大外しってことはないさ。」

「じゃあこの先だとすると、ワオルーペって大きな宿場町が最後になるんだよ。」

「最後?何で最後なの、ティナ。帝国に行くにはまだまだ先に進まなきゃじゃん?」

「さっきのおじさんの話、聞いてなかったのリーファ?ワオルーペの先はガイアロドハイムって要塞があって、何とかって言う貴族の何とかって部下が街道を封鎖してるんだよ~。」

「ティナもどちゃくそいい加減なんな。ギルビー侯爵配下のラウル=ハバラタなん。」

「そう、それ!わかった、リーファ?」

「そうだっけ?」

「帝国領に行くにも大きく迂回するか、山越えするか選択を強いられるって言ってたんだよ~。」

「あのおっちゃんも気の毒に・・・商売あがったりなんな。」

「リーファさま」

「ん、どうしたのバトラー?」

「ロードチャンセラーがシンディーさまの居場所を報告したいとのことです。」

「何だって!?」
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