幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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訣別の言葉は

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「あ~、こんなしんどいならゆっくり迂回するんだった。寒いし疲れるし、もう散々だよ。」

一番後ろをついてくるヴァイスが大きな声でボヤいている。先を進むジェゼーモフはまたかとばかりに振り返った。
放っておけば良いではないかと思うだろう・・・だが、いちいち相手にしてやらなければもっとうるさくなるのがヴァイスだ。ナチュラルボーンかまってちゃんの面目躍如たる光景が繰り広げられる。

「口を開けば恨み言ばかり、私はあんたにウンザリよ。若いだけが取り柄なんだからキリキリ歩きなさいな。」

「誰が可愛くて羨ましいだって~?もちろん僕のことさ、ごめんねごめんね~。」

耳に手を当てて大げさなジェスチャーぶちかました割には壮大な勘違い発言に、さすがのジェゼーモフもウンザリの表情を返す。リアンに至ってはため息をついている。

「誰もそんなこと言ってないわよ。それにしても随分と猟奇的発言ねぇ、まだまだ元気じゃない。」

「おや、何かついて来るよ?」

「あらやだ大変、もしかして町で私を見初めた殿方が追って来たのかも。」

「ないない。おおかた僕とエルフちゃんが熊に襲われていると思って助けに来た猟師じゃないかい?」

「誰が熊じゃいっ!」

「せっかくハウンドの遺品を残置してやったのに、警告が無視されるなんてねえ・・・」

ヴァイスは邪悪な笑みを浮かべながらつぶやいた。彼女は隠しきれない悪意を漂わせつつ、追っ手に向き直る。おそらく迎撃するつもりなのだろう。

「ふぅ、うらやましいわぁ。あんたよっぽど愛されているのねえ。」

「くっ!何ということだ・・・」

レダムでは止めることができなかったのだろう。まさかこんなことになろうとは・・・
接近する人影はリアンの予想どおりの者たちだった。

「よう、こんな時期に山越えかい?」

「何だい君たち?僕の獲物を横取りに来た野盗じゃないだろうね?」

ヴァイスはにこやかに応じながらもヒリヒリとするような毒気を周囲に撒き散らしている。それは敵愾心未満ではあるが威圧に等しかった。

「おいおい、野盗呼ばわりはないだろう。俺たちは・・・俺たち?どう答えるのがカッコイイかな・・・」

スアレスはこんな衝突寸前の状況でも通常運転だ。マイクがすかさず割って入る。

「誘拐犯が権利を主張できるものかよ。リアンは返してもらうぞ悪党ども!」

「あ、こらマイク!俺がカッコよく決めたかったのに」

主人公のような決め台詞とともにビシッと指をさすマイクの両肩をつかんで、揺さぶっているスアレスがどうにも無様でしょうがない。何とも微妙な時間が流れる・・・

「何なのよあの坊やたち・・・」

「言わないでくれ」

「・・・僕らが何者か知らないのかい?」

壮大な肩透かしを食らったヴァイスは呆れた表情で返すのがやっとだった。

「A級冒険者って言いたいんだろ?」

「何だ、わかってるじゃないか。」

「そんなことで仲間を諦めるほどいさぎよくないんでね」

「そんなこと?はは、A級冒険者もナメられたもんだよ。」

「待て!」

「何だい、エルフちゃん?」

突如、横槍を入れたリアンにヴァイスも興味をひかれたようだ。リアンが何を言うのか、それ次第でどう振る舞うか決めようと耳を傾ける。

「スアレス、マイク、私はパーティーを抜ける。もう私はお前たちの仲間でも何でもない。今すぐにここから立ち去るが良い!」

「ハッハッハ、こりゃ傑作だ。余計なお世話だってさぁ。」

ヴァイスはこれ以上ないほど楽しげに大笑いする。それとは対照的にジェゼーモフはリアンの示した思いやりと覚悟に感じ入り、敬意をもって受け止めた。

「はぁ・・・あんたもつくづくイイ女ね。そりゃ身を案じて追ってくるワケだわ。」

「フラれちゃってまぁ・・・。わかったらとっとと尻尾巻いて帰んなよ。」

ヴァイスは追い打ちするかの如く、しっしっと手を振っている。スアレスとマイクから表情らしい表情もすっかり消えてしまった。だがスアレスは一瞬歯を食いしばると、心を決めたかのように口を開いた。

「パーティーを抜けたいなら・・・抜けても良い」

「ハイ、決まり!じゃ僕らは先を急ぐから」

「だが・・・」

「は?」

これ以上なにを言おうとどうでも良いヴァイスはぞんざいな言葉を吐き捨てる。だがスアレスはまっすぐリアンを見つめて高らかと宣言した。

「グラムスでの宣言でなければ脱退は認めない!」

「あらまぁ」

「やめるのだスアレス!どうしたのだマイク?スアレスを止め」

「俺もスアレスと同意見だ!残念だがリアン、ここでの脱退は認めらんねえよ。」

「お前たち・・・良いから去れ!」

心をへし折ってやったと思ったのに、そうではなかった。ヴァイスは腹の底から湧き起こるドス黒い怒りに自制を失う。

「あぁもうウンザリだ。こんな寒い場所で三文芝居なんぞ見せやがって。二度と盾突けないようにぶっ壊してやるよクソザコ」

「待ちなさいヴァイス。」

「あぁ?すっこんでろカマ野郎!」

「もう一遍言って見ろ」

ジェゼーモフの顔からいつもの笑顔が消えている。背筋にうすら寒いものを感じたヴァイスの態度が先ほどとはガラリと変わってしまった。

「・・・わかったよ」

「お待たせ、私が相手をするわ。二人がかりでかかってらっしゃい、坊やたち」

「・・・」

ハンデマッチの提案に対して進み出たのは剣士の男のみだった。あまりにも予想と違う展開にジェゼーモフがきょとんとする。ひょっとして言い間違いでもあっただろうか?

「あら、坊やだけなの?遠慮しなくても良いのよ、二人同時で」

「せっかくの申し出だが一人で良い。」

「ふ~ん・・・どうやらナメてるワケでもなさそうね。ますます気にいったわ、真剣にお相手しましょう。」

目の前の冒険者の覚悟を見誤っていたジェゼーモフが認識を改める。不思議な優雅さを漂わせてにこやかに応じた。

「俺はグラムスの剛剣、アルフレッド=スアレス。準備は良いか?」

「鉄壁のジェゼーモフよ。いつでもかかってらっしゃい。」

「行くぞ!」

「ヌゥん!」

掛け声とともに両者が打ち合う。殴り合いに特化したとしか思えないゴツいガントレットをはめたジェゼーモフの拳が岩石のように見える。それと打ち合うスアレスの衝撃は見た目をはるかに超えるだろう。

「速いわねえ。」

「あんたの拳も相当重たいぜ。今にも肩が砕けちまいそうだ。」

攻撃の初動を的確に刺して来るわ。拳に力が乗り切る前に撃ち落とされちゃうじゃない。嫌な戦い方するわね~、何か上から見下ろされているような気分。この坊やの雰囲気とはかなり異質な剣技に思うのは何故かしら。

とは言え、さすがグレンちゃんとガウスちゃんのギルドだけあるわ。心意気、実力ともに言うことなしよ。ウチのギルドに欲しいのはこういう骨のある子よね。

「私に勝てたらアビムリンデは返してあげるわ。もっと全力でかかってらっしゃい」

「ちょ、ふざけんなジェゼーモフ!」

「そんなヤツは知らん。俺たちが求めているのはリアンただ一人だ。ぐわぁ!」

「スアレス!」

一瞬気を抜いたスアレスのスキを突いて、ジェゼーモフの拳がスアレスの体ごと遠くに押し返す。

「私もそろそろ本気で行くわよ。泥岩武闘マドロックアームズ!」

ジェゼーモフが叫ぶやいなや地面の土がせり上がり、ジェゼーモフの身体を覆う。

「何だありゃ?まるで土の鎧・・・」

「いや、というよりも・・・ゴーレムじゃないか!」
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