幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
120 / 167

後詰めのジェゼーモフ

しおりを挟む
ギルビー侯爵と亜人国家ロンバール駐留軍の勢力が拮抗する地域に位置する宿場町、意気揚々と宿屋の一室に凱旋したのは冒険者の少女だった。

「やぁやぁジェゼーモフ、エルフちゃんを捕まえて来たよー。」

「ヴァイス・・・あんた何遍言えばわかるのよ。」

「何だい、藪からスティックに?」

「私のことはジェゼって呼びなさいって言ってん・・・まぁ!あなたがウワサのエルフのお姫さまなのね。年齢こそおばあちゃまなのに、まるでお人形みたいじゃない。やだわ~、嫉妬しちゃう。」

ヴァイスの後ろに控えるリアンを見つけたジェゼーモフが目を輝かせる。当初こそエルフの姫と聞いても半信半疑だったが、いざ実物を目にするやそんな疑念は跡形もなく吹き飛んでしまった。

「エルフちゃんもなかなかだけど、僕の方も捨てたもんじゃ」

「おブスね~、あんたにはお姫さまみたいな奥ゆかしさが無いわ。あんたなんか小者中の小者よ。ぺっぺっ」

「ジェゼーモフに言われたかないやい!」

「ジェゼってお呼び、小娘!あら、そう言えばハウンドちゃんがいないじゃない?」

ジェゼーモフの疑問にヴァイスはお手上げのポーズで返す。

「な~に~、また娼館に転がりこんでんの~?なんなら私がスッキリさせてあげるのに、悔しいっ!」

「あのサルはエルフちゃんに喰われたよ。」

「んまぁ~、キレイな顔してイヤらしいわ~。このメス豚っ!」

「なに勘違いしてんのさ、ジェゼーモフ。エルフちゃんが返り討ちにしたんだ。さっきからずっと下品極まりないのはジェゼーモフじゃないか。」

「あ~んたがツッコミ入れてどうすんのよ。お姫さまに反応してもらいたかったのに。すっとこどっこいねぇ。」

せっかくひと芝居打ったのに台無しにされたジェゼーモフが残念がる。囚われたエルフの姫の緊張をほぐそうとしたジェゼーモフなりの心遣いだったが、相変わらず彼女の表情は暗いままだった。

「へいへい、そらどうも。 」

「アビムリンデと呼べば良いのかしら?」

「・・・」

「あら、冷たいのねぇ。グレンちゃんとガウスちゃんはお元気ぃ?」

<!!>

「知っているのか」

思いがけず仲間の名を聞いたリアンの表情がガラリと変わった。ジェゼーモフの見立て通り彼らは彼女にとって重要な存在らしい。取っ掛かりを得たジェゼーモフが話を続ける。

「えぇ、レッドドラゴン=キュヴァルベーメをみんなで追い払った時に知り合ったのよ。二人とも男前だったわ~、今から会いに行きたいくらいよ。」

「そんな事が・・・ふっ、あの二人らしい。」

「あら、どうせあの二人の事だから自慢話なんてしなかったんでしょ?実にあの子たちらしいじゃない。」

どうやらジェゼーモフと彼らの間には冒険者として心からの交友があるらしい。少なくともジェゼーモフの言葉の節々から彼らに対する尊敬の念がうかがえる。A級冒険者ジェゼーモフからかような評価を受けるとは他人事ながら誇らしく思う。

「何なのさ、僕だけ仲間ハズレなんてひどいじゃないか。僕の話には何一つ乗ってくれないくせに、ジェゼーモフとは言葉を交わすなんて。ひどいや、エルフちゃん!」

ここまで一切抵抗せず付き従うものの、会話には全く応じなかったリアンをヴァイスが非難する。おしゃべり気質のヴァイスにとって会話の弾まない道行きは罰ゲームにも等しかった。

「あんたは金に目がくらんで飛びついただけでしょ、浅ましい。高貴な存在は身に纏う品位で会話相手を選ぶのよ」

・・・基準が品位であればジェゼーモフは断固選ばない。

「何だい、そんなこと言って!ジェゼーモフだってついてきたじゃないか。金に目がくらんだのはお互い様だよ」

「頼まれたってこんなお下劣誘拐の片棒なんて担ぎたかないわよ!バルさまに頼まれなきゃこんなの一切お断りだわ!」

「バルナロキスが?」

バルナロキスの名を聞いたヴァイスの顔がパーッと明るくなる。

「お守りよお守り。ヴァイスとハウンドちゃんじゃ仲間割れして失敗するって私でも危惧するわ。感激してんじゃないわよ小娘!」

「失敬だな。でも僕のことを心配してくれるなんて、やっぱバルナロキスは僕のこと」

「無い無い、こんなおブス仕事に飛びつくあんたなんか私のバルさまが相手にするわきゃないでしょ」

「ぬわ~にが私のバルさまだよ、オエェ~。そもそもジェゼーモフ、君は男じゃないか!」

「お黙り!ったく、あんたって子は本当しょうもないわね~」

「何がしょうもないのさ?ハッキリ言って、僕のような才色兼備に欠片のスキも無いね。」

リアンは目の前で繰り広げられる醜い罵り合いに瞑目する。いったい何を見せられているのか・・・

「何が才色兼備よ。あんたが大嫌いなハウンドちゃんと組んでまでゲス仕事する理由なんてモッコリお見通しだわ!」

「ふん、ジェゼーモフに喝破されるほど僕は安くないんだ!」

「あんた、どうせまたギャンブルでスったんでしょ?」

元気百倍ヴァイスの顔色が青ざめる。

「そ、それは~・・・」

「どうしようもないおブスね。大事なことなので二度言うわ、このおブス!」

「人の趣味をとやかく言われたくないやい!ほっといてくれ。この報酬を元手に今度こそ大勝するんだい。」

どうやらジェゼーモフの見立ては真実のようだ。未成年にして早くも身を持ち崩す瀬戸際なのだろうか?

「はぁ~、これだけ言っても反省なしなんて不毛だわ。」

「そうとも、さっさとエルフちゃんを持ち帰って第2ラウンドだ!」

とことんロクでもない。ヴァイスの身を案じるジェゼーモフの言葉は無情にも届かぬとは。

「そうも行かないのよ。」

「へ、どういう事だい?」

「ギルビー配下のラウル=ハバラタがガイアロドハイムで街道封鎖を始めたのよ。」

「何だって?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...