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後詰めのジェゼーモフ
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ギルビー侯爵と亜人国家ロンバール駐留軍の勢力が拮抗する地域に位置する宿場町、意気揚々と宿屋の一室に凱旋したのは冒険者の少女だった。
「やぁやぁジェゼーモフ、エルフちゃんを捕まえて来たよー。」
「ヴァイス・・・あんた何遍言えばわかるのよ。」
「何だい、藪からスティックに?」
「私のことはジェゼって呼びなさいって言ってん・・・まぁ!あなたがウワサのエルフのお姫さまなのね。年齢こそおばあちゃまなのに、まるでお人形みたいじゃない。やだわ~、嫉妬しちゃう。」
ヴァイスの後ろに控えるリアンを見つけたジェゼーモフが目を輝かせる。当初こそエルフの姫と聞いても半信半疑だったが、いざ実物を目にするやそんな疑念は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「エルフちゃんもなかなかだけど、僕の方も捨てたもんじゃ」
「おブスね~、あんたにはお姫さまみたいな奥ゆかしさが無いわ。あんたなんか小者中の小者よ。ぺっぺっ」
「ジェゼーモフに言われたかないやい!」
「ジェゼってお呼び、小娘!あら、そう言えばハウンドちゃんがいないじゃない?」
ジェゼーモフの疑問にヴァイスはお手上げのポーズで返す。
「な~に~、また娼館に転がりこんでんの~?なんなら私がスッキリさせてあげるのに、悔しいっ!」
「あのサルはエルフちゃんに喰われたよ。」
「んまぁ~、キレイな顔してイヤらしいわ~。このメス豚っ!」
「なに勘違いしてんのさ、ジェゼーモフ。エルフちゃんが返り討ちにしたんだ。さっきからずっと下品極まりないのはジェゼーモフじゃないか。」
「あ~んたがツッコミ入れてどうすんのよ。お姫さまに反応してもらいたかったのに。すっとこどっこいねぇ。」
せっかくひと芝居打ったのに台無しにされたジェゼーモフが残念がる。囚われたエルフの姫の緊張をほぐそうとしたジェゼーモフなりの心遣いだったが、相変わらず彼女の表情は暗いままだった。
「へいへい、そらどうも。 」
「アビムリンデと呼べば良いのかしら?」
「・・・」
「あら、冷たいのねぇ。グレンちゃんとガウスちゃんはお元気ぃ?」
<!!>
「知っているのか」
思いがけず仲間の名を聞いたリアンの表情がガラリと変わった。ジェゼーモフの見立て通り彼らは彼女にとって重要な存在らしい。取っ掛かりを得たジェゼーモフが話を続ける。
「えぇ、レッドドラゴン=キュヴァルベーメをみんなで追い払った時に知り合ったのよ。二人とも男前だったわ~、今から会いに行きたいくらいよ。」
「そんな事が・・・ふっ、あの二人らしい。」
「あら、どうせあの二人の事だから自慢話なんてしなかったんでしょ?実にあの子たちらしいじゃない。」
どうやらジェゼーモフと彼らの間には冒険者として心からの交友があるらしい。少なくともジェゼーモフの言葉の節々から彼らに対する尊敬の念がうかがえる。A級冒険者ジェゼーモフからかような評価を受けるとは他人事ながら誇らしく思う。
「何なのさ、僕だけ仲間ハズレなんてひどいじゃないか。僕の話には何一つ乗ってくれないくせに、ジェゼーモフとは言葉を交わすなんて。ひどいや、エルフちゃん!」
ここまで一切抵抗せず付き従うものの、会話には全く応じなかったリアンをヴァイスが非難する。おしゃべり気質のヴァイスにとって会話の弾まない道行きは罰ゲームにも等しかった。
「あんたは金に目がくらんで飛びついただけでしょ、浅ましい。高貴な存在は身に纏う品位で会話相手を選ぶのよ」
・・・基準が品位であればジェゼーモフは断固選ばない。
「何だい、そんなこと言って!ジェゼーモフだってついてきたじゃないか。金に目がくらんだのはお互い様だよ」
「頼まれたってこんなお下劣誘拐の片棒なんて担ぎたかないわよ!バルさまに頼まれなきゃこんなの一切お断りだわ!」
「バルナロキスが?」
バルナロキスの名を聞いたヴァイスの顔がパーッと明るくなる。
「お守りよお守り。ヴァイスとハウンドちゃんじゃ仲間割れして失敗するって私でも危惧するわ。感激してんじゃないわよ小娘!」
「失敬だな。でも僕のことを心配してくれるなんて、やっぱバルナロキスは僕のこと」
「無い無い、こんなおブス仕事に飛びつくあんたなんか私のバルさまが相手にするわきゃないでしょ」
「ぬわ~にが私のバルさまだよ、オエェ~。そもそもジェゼーモフ、君は男じゃないか!」
「お黙り!ったく、あんたって子は本当しょうもないわね~」
「何がしょうもないのさ?ハッキリ言って、僕のような才色兼備に欠片のスキも無いね。」
リアンは目の前で繰り広げられる醜い罵り合いに瞑目する。いったい何を見せられているのか・・・
「何が才色兼備よ。あんたが大嫌いなハウンドちゃんと組んでまでゲス仕事する理由なんてモッコリお見通しだわ!」
「ふん、ジェゼーモフに喝破されるほど僕は安くないんだ!」
「あんた、どうせまたギャンブルでスったんでしょ?」
元気百倍ヴァイスの顔色が青ざめる。
「そ、それは~・・・」
「どうしようもないおブスね。大事なことなので二度言うわ、このおブス!」
「人の趣味をとやかく言われたくないやい!ほっといてくれ。この報酬を元手に今度こそ大勝するんだい。」
どうやらジェゼーモフの見立ては真実のようだ。未成年にして早くも身を持ち崩す瀬戸際なのだろうか?
「はぁ~、これだけ言っても反省なしなんて不毛だわ。」
「そうとも、さっさとエルフちゃんを持ち帰って第2ラウンドだ!」
とことんロクでもない。ヴァイスの身を案じるジェゼーモフの言葉は無情にも届かぬとは。
「そうも行かないのよ。」
「へ、どういう事だい?」
「ギルビー配下のラウル=ハバラタがガイアロドハイムで街道封鎖を始めたのよ。」
「何だって?」
「やぁやぁジェゼーモフ、エルフちゃんを捕まえて来たよー。」
「ヴァイス・・・あんた何遍言えばわかるのよ。」
「何だい、藪からスティックに?」
「私のことはジェゼって呼びなさいって言ってん・・・まぁ!あなたがウワサのエルフのお姫さまなのね。年齢こそおばあちゃまなのに、まるでお人形みたいじゃない。やだわ~、嫉妬しちゃう。」
ヴァイスの後ろに控えるリアンを見つけたジェゼーモフが目を輝かせる。当初こそエルフの姫と聞いても半信半疑だったが、いざ実物を目にするやそんな疑念は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「エルフちゃんもなかなかだけど、僕の方も捨てたもんじゃ」
「おブスね~、あんたにはお姫さまみたいな奥ゆかしさが無いわ。あんたなんか小者中の小者よ。ぺっぺっ」
「ジェゼーモフに言われたかないやい!」
「ジェゼってお呼び、小娘!あら、そう言えばハウンドちゃんがいないじゃない?」
ジェゼーモフの疑問にヴァイスはお手上げのポーズで返す。
「な~に~、また娼館に転がりこんでんの~?なんなら私がスッキリさせてあげるのに、悔しいっ!」
「あのサルはエルフちゃんに喰われたよ。」
「んまぁ~、キレイな顔してイヤらしいわ~。このメス豚っ!」
「なに勘違いしてんのさ、ジェゼーモフ。エルフちゃんが返り討ちにしたんだ。さっきからずっと下品極まりないのはジェゼーモフじゃないか。」
「あ~んたがツッコミ入れてどうすんのよ。お姫さまに反応してもらいたかったのに。すっとこどっこいねぇ。」
せっかくひと芝居打ったのに台無しにされたジェゼーモフが残念がる。囚われたエルフの姫の緊張をほぐそうとしたジェゼーモフなりの心遣いだったが、相変わらず彼女の表情は暗いままだった。
「へいへい、そらどうも。 」
「アビムリンデと呼べば良いのかしら?」
「・・・」
「あら、冷たいのねぇ。グレンちゃんとガウスちゃんはお元気ぃ?」
<!!>
「知っているのか」
思いがけず仲間の名を聞いたリアンの表情がガラリと変わった。ジェゼーモフの見立て通り彼らは彼女にとって重要な存在らしい。取っ掛かりを得たジェゼーモフが話を続ける。
「えぇ、レッドドラゴン=キュヴァルベーメをみんなで追い払った時に知り合ったのよ。二人とも男前だったわ~、今から会いに行きたいくらいよ。」
「そんな事が・・・ふっ、あの二人らしい。」
「あら、どうせあの二人の事だから自慢話なんてしなかったんでしょ?実にあの子たちらしいじゃない。」
どうやらジェゼーモフと彼らの間には冒険者として心からの交友があるらしい。少なくともジェゼーモフの言葉の節々から彼らに対する尊敬の念がうかがえる。A級冒険者ジェゼーモフからかような評価を受けるとは他人事ながら誇らしく思う。
「何なのさ、僕だけ仲間ハズレなんてひどいじゃないか。僕の話には何一つ乗ってくれないくせに、ジェゼーモフとは言葉を交わすなんて。ひどいや、エルフちゃん!」
ここまで一切抵抗せず付き従うものの、会話には全く応じなかったリアンをヴァイスが非難する。おしゃべり気質のヴァイスにとって会話の弾まない道行きは罰ゲームにも等しかった。
「あんたは金に目がくらんで飛びついただけでしょ、浅ましい。高貴な存在は身に纏う品位で会話相手を選ぶのよ」
・・・基準が品位であればジェゼーモフは断固選ばない。
「何だい、そんなこと言って!ジェゼーモフだってついてきたじゃないか。金に目がくらんだのはお互い様だよ」
「頼まれたってこんなお下劣誘拐の片棒なんて担ぎたかないわよ!バルさまに頼まれなきゃこんなの一切お断りだわ!」
「バルナロキスが?」
バルナロキスの名を聞いたヴァイスの顔がパーッと明るくなる。
「お守りよお守り。ヴァイスとハウンドちゃんじゃ仲間割れして失敗するって私でも危惧するわ。感激してんじゃないわよ小娘!」
「失敬だな。でも僕のことを心配してくれるなんて、やっぱバルナロキスは僕のこと」
「無い無い、こんなおブス仕事に飛びつくあんたなんか私のバルさまが相手にするわきゃないでしょ」
「ぬわ~にが私のバルさまだよ、オエェ~。そもそもジェゼーモフ、君は男じゃないか!」
「お黙り!ったく、あんたって子は本当しょうもないわね~」
「何がしょうもないのさ?ハッキリ言って、僕のような才色兼備に欠片のスキも無いね。」
リアンは目の前で繰り広げられる醜い罵り合いに瞑目する。いったい何を見せられているのか・・・
「何が才色兼備よ。あんたが大嫌いなハウンドちゃんと組んでまでゲス仕事する理由なんてモッコリお見通しだわ!」
「ふん、ジェゼーモフに喝破されるほど僕は安くないんだ!」
「あんた、どうせまたギャンブルでスったんでしょ?」
元気百倍ヴァイスの顔色が青ざめる。
「そ、それは~・・・」
「どうしようもないおブスね。大事なことなので二度言うわ、このおブス!」
「人の趣味をとやかく言われたくないやい!ほっといてくれ。この報酬を元手に今度こそ大勝するんだい。」
どうやらジェゼーモフの見立ては真実のようだ。未成年にして早くも身を持ち崩す瀬戸際なのだろうか?
「はぁ~、これだけ言っても反省なしなんて不毛だわ。」
「そうとも、さっさとエルフちゃんを持ち帰って第2ラウンドだ!」
とことんロクでもない。ヴァイスの身を案じるジェゼーモフの言葉は無情にも届かぬとは。
「そうも行かないのよ。」
「へ、どういう事だい?」
「ギルビー配下のラウル=ハバラタがガイアロドハイムで街道封鎖を始めたのよ。」
「何だって?」
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