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野ざらし紀行
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荒涼たる大地に曇天が覆い被さる。吹き抜ける風も肌を刺すように冷たく乾いていた。
「さすがに今日はここらが限界か・・・」
軍人用のマントに身を包んだ少女がひとりごちる。冬枯れした林へと足を踏み入れた頃には辺りもすっかり暗くなってしまった。
「くそっ、どいつもこいつも腑抜けやがって。」
潜り込んだ馬車を降りてからはひたすら歩き詰めで疲労も甚大だが、言いようの無い失望感と遣り場のない怒りがこびりついて離れない。どうにも口をついて出るのは罵詈雑言ばかりだ。
「チッ、嫌なことばっか思い浮かぶぜ。」
アタシは絶対にリアンを見捨てたりしねえからなぁ、どチクショーめ。
「しかし今日は冷えるなぁ。ぐっすりとは行きそうもねーや。」
<バサッ>
「うわぁっ!」
葉が落ちて何も無い樹にもたれかかっていたシンディーの頭めがけて何かが落ちて来た。不意を突かれたシンディーは心臓が飛び出んばかりに仰天し、慌てて身体から何かを引き剥がす。すると、その手に握られていたのは・・・
「この野郎っ・・・毛布?」
何で毛布が?・・・ちっ、そういうことか。こんなマネできるヤツぁ
「いるのか、ロードチャンセラー」
「いないの」
「いるじゃねえか!」
風が語りかけます、なんてことはなく紛れもないロードチャンセラーの声が返ってきた。そのままシンディーの目の前に妖精が姿を現す。
「キツネ風情がピーピーうるせーの。」
「何でオメエがここにいる?」
「今をときめかせ給うロードチャンセラーがどこにいようと野良ギツネには想像も及ばぬ世界の神秘なの。頭が高いの。」
「相変わらずオメエの発する言葉の9割9分は中身がねーな。」
「はい、毛布没収。」
「あっ!」
あったか~いフワッフワ毛布の幸せな感触の喪失にシンディーのお手手が悲しみに暮れる。
「プークスクス、無様にすがりつくなら情け深いロードチャンセラーさまは毛布を恵んでやるにやぶさかでないの。」
「こんにゃろー」
「べ~、ざまぁみろなの」
今はコイツと遊んでられるような気分じゃねーや。それにコイツがいるってこたぁ・・・
「リーファの差し金か?」
「べ~つに~」
「リーファにアタシの居場所をチクって」
「べ~つに~」
「何なんだ?」
ロードチャンセラーめ、アタシをおちょくってやがんな。けど、リーファの差し金ならコイツがそれをわざわざ曖昧にする必然性なんてないはずだが・・・一体どういう事だ?
「野良ギツネがどこで何をしていようとロードチャンセラーはな~んにも興味ね~の。自意識過剰でみっともないの。」
「はぁ?・・・ってか、うるせーし!リーファの差し金じゃねーなら何なんだ?」
「キツネの言う通り、エンプレスメリッサからは何も仰せつかっていないの。キツネってば相当のビビリちゃんなの。」
「おいっ、聞き捨てならねーぞ!べべ別にビビっちゃねーし。ってか、用がねーなら帰れよ。」
「今から自力で帰るのも面倒なの。馬車呼んで。」
「アホ、こんな場所に通りかかる馬車なんぞあるか。」
こんな時間にこんな薄気味悪い場所で野宿する移動計画を立てる御者など早晩クビになるだろう。普通はよほどのことがない限り、暗くなる前にきちんと人里へたどり着くものだ。
「じゃあ今日はここで寝るしかねーの。」
「おわっ!こいつぁ・・・」
ロードチャンセラーがハニカムパントリーから取り出したのは堅牢なシェルターだった。以前、人喰い坑で用いた家屋型ではなくドーム状のモノだ。見慣れぬ形状ではあるが、扉があるのでシェルターだということはかろうじて理解できる。
「ボヤボヤすんななの。早く扉を開けるのキツネ。」
「あぁ?テメェで開けろ。」
「ロードチャンセラーは花粉より重いものを持ったことがないの。わかったらとっとと開けろゴマ。」
「オメエどこのお貴族さまなんだ?」
「高貴なるロードチャンセラーの世直しぶらり旅は野良ギツネのような野ざらし紀行であってはならないの。キツネにもベッドを使わせてやるから心してロードチャンセラーのお世話をすると良いの。」
「なぁ~にが世直しぶら・・・ん?雨か」
軍人用のマントにくるまって寝ることはできる。だがさすがに雨となるとそれもキツいぜ。
「これ、キツネ従者。はよ開けゴマ。」
「ムカつくやっちゃなぁ。アタシに手ぇ貸して、リーファに背いてんじゃねーのか?」
アタシはリーファと袂を分かって飛び出して来たってのに、本当に理解してんのか?それともアタシを油断させてとっ捕まえようってんじゃねーだろうな?
「畏れ多くもリーファさまから自らの意志で行動するお許しを賜っているの。」
目の前の妖精は誇らしげに胸を張っている。バトラーもそうだが、この妖精たちにとってはリーファの評価が全てに勝る価値らしい。それはリーファの眼差しにより自律した個であることの証左でもある。
「まさか・・・自分の意志でついてきたってのか?」
「讃えよ無限の叡智、その名はロードチャンセラーなの~。つべこべ言わずにドアマンはよ。濡れるの。」
アタシを捕まえようってんなら最初からこんなアホなやり取りするはずもねえ。どういう意図があんのかサッパリわからんが・・・案外な~んも考えてねえのかも。アホらし、もうどうでも良いや。
「チャンロー相手にドアマンとか、空前絶後のクソ仕事だぜ。だがマイクたちと合流するためにも背に腹は代えられねえ。ほら開けてやったぞ、メシもつけろよな。」
「野良ギツネをナメてたの、タカりっぷりがパねえの。」
「さすがに今日はここらが限界か・・・」
軍人用のマントに身を包んだ少女がひとりごちる。冬枯れした林へと足を踏み入れた頃には辺りもすっかり暗くなってしまった。
「くそっ、どいつもこいつも腑抜けやがって。」
潜り込んだ馬車を降りてからはひたすら歩き詰めで疲労も甚大だが、言いようの無い失望感と遣り場のない怒りがこびりついて離れない。どうにも口をついて出るのは罵詈雑言ばかりだ。
「チッ、嫌なことばっか思い浮かぶぜ。」
アタシは絶対にリアンを見捨てたりしねえからなぁ、どチクショーめ。
「しかし今日は冷えるなぁ。ぐっすりとは行きそうもねーや。」
<バサッ>
「うわぁっ!」
葉が落ちて何も無い樹にもたれかかっていたシンディーの頭めがけて何かが落ちて来た。不意を突かれたシンディーは心臓が飛び出んばかりに仰天し、慌てて身体から何かを引き剥がす。すると、その手に握られていたのは・・・
「この野郎っ・・・毛布?」
何で毛布が?・・・ちっ、そういうことか。こんなマネできるヤツぁ
「いるのか、ロードチャンセラー」
「いないの」
「いるじゃねえか!」
風が語りかけます、なんてことはなく紛れもないロードチャンセラーの声が返ってきた。そのままシンディーの目の前に妖精が姿を現す。
「キツネ風情がピーピーうるせーの。」
「何でオメエがここにいる?」
「今をときめかせ給うロードチャンセラーがどこにいようと野良ギツネには想像も及ばぬ世界の神秘なの。頭が高いの。」
「相変わらずオメエの発する言葉の9割9分は中身がねーな。」
「はい、毛布没収。」
「あっ!」
あったか~いフワッフワ毛布の幸せな感触の喪失にシンディーのお手手が悲しみに暮れる。
「プークスクス、無様にすがりつくなら情け深いロードチャンセラーさまは毛布を恵んでやるにやぶさかでないの。」
「こんにゃろー」
「べ~、ざまぁみろなの」
今はコイツと遊んでられるような気分じゃねーや。それにコイツがいるってこたぁ・・・
「リーファの差し金か?」
「べ~つに~」
「リーファにアタシの居場所をチクって」
「べ~つに~」
「何なんだ?」
ロードチャンセラーめ、アタシをおちょくってやがんな。けど、リーファの差し金ならコイツがそれをわざわざ曖昧にする必然性なんてないはずだが・・・一体どういう事だ?
「野良ギツネがどこで何をしていようとロードチャンセラーはな~んにも興味ね~の。自意識過剰でみっともないの。」
「はぁ?・・・ってか、うるせーし!リーファの差し金じゃねーなら何なんだ?」
「キツネの言う通り、エンプレスメリッサからは何も仰せつかっていないの。キツネってば相当のビビリちゃんなの。」
「おいっ、聞き捨てならねーぞ!べべ別にビビっちゃねーし。ってか、用がねーなら帰れよ。」
「今から自力で帰るのも面倒なの。馬車呼んで。」
「アホ、こんな場所に通りかかる馬車なんぞあるか。」
こんな時間にこんな薄気味悪い場所で野宿する移動計画を立てる御者など早晩クビになるだろう。普通はよほどのことがない限り、暗くなる前にきちんと人里へたどり着くものだ。
「じゃあ今日はここで寝るしかねーの。」
「おわっ!こいつぁ・・・」
ロードチャンセラーがハニカムパントリーから取り出したのは堅牢なシェルターだった。以前、人喰い坑で用いた家屋型ではなくドーム状のモノだ。見慣れぬ形状ではあるが、扉があるのでシェルターだということはかろうじて理解できる。
「ボヤボヤすんななの。早く扉を開けるのキツネ。」
「あぁ?テメェで開けろ。」
「ロードチャンセラーは花粉より重いものを持ったことがないの。わかったらとっとと開けろゴマ。」
「オメエどこのお貴族さまなんだ?」
「高貴なるロードチャンセラーの世直しぶらり旅は野良ギツネのような野ざらし紀行であってはならないの。キツネにもベッドを使わせてやるから心してロードチャンセラーのお世話をすると良いの。」
「なぁ~にが世直しぶら・・・ん?雨か」
軍人用のマントにくるまって寝ることはできる。だがさすがに雨となるとそれもキツいぜ。
「これ、キツネ従者。はよ開けゴマ。」
「ムカつくやっちゃなぁ。アタシに手ぇ貸して、リーファに背いてんじゃねーのか?」
アタシはリーファと袂を分かって飛び出して来たってのに、本当に理解してんのか?それともアタシを油断させてとっ捕まえようってんじゃねーだろうな?
「畏れ多くもリーファさまから自らの意志で行動するお許しを賜っているの。」
目の前の妖精は誇らしげに胸を張っている。バトラーもそうだが、この妖精たちにとってはリーファの評価が全てに勝る価値らしい。それはリーファの眼差しにより自律した個であることの証左でもある。
「まさか・・・自分の意志でついてきたってのか?」
「讃えよ無限の叡智、その名はロードチャンセラーなの~。つべこべ言わずにドアマンはよ。濡れるの。」
アタシを捕まえようってんなら最初からこんなアホなやり取りするはずもねえ。どういう意図があんのかサッパリわからんが・・・案外な~んも考えてねえのかも。アホらし、もうどうでも良いや。
「チャンロー相手にドアマンとか、空前絶後のクソ仕事だぜ。だがマイクたちと合流するためにも背に腹は代えられねえ。ほら開けてやったぞ、メシもつけろよな。」
「野良ギツネをナメてたの、タカりっぷりがパねえの。」
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