幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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代償誓約

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私は翌朝シンディー失踪の報告のため冒険者ギルドに駆け込んだ。

「シンディーが行方不明だと!」

「そうなんだ。街中手分けして探し回ったけどどこにもいやしない。」

「何てこった・・・門衛は?シンディーが出門したなら誰かしら覚えているはずだ。」

「私も真っ先に聞いて回ったよ。だけど手がかりは無かったんだ。」

「まさかアイツ、馬車の積荷に隠れて出たんじゃ・・・」

門衛は冒険者ギルドが請け負っているから、誰が出門したかはすぐに調べがつくんだ。追手がかかることを懸念したシンディーが門衛の目をかいくぐろうとしたとしても不思議は無い。

「私もそうだと思ってる。だから・・・」

「だから何だ?」

「シンディーを追うよ。」

「追ってどうする?」

「どうするって・・・」

「お前もそのままリアン救出に向かうのか?」

「それは・・・その」

昨日の今日だ、グレンに勘繰られても無理はない。事実、今も私はリアン救出を諦めてはいないんだから。

リーファの目を見据えてグレンが念を押す。隠そうと努めても隠しきれない苦渋がグレンの表情に刻まれていた。

「良いかリーファ、もう一度言う。お前はリアンの救出を諦めろ。」

「グレンだってリアンを救けたいと思っているんだ。私にはわかる。」

頭に血が上っていた昨日よりは私も冷静だ、グレンの表情を読む余裕もある。シンディーが激しく責めたてた昨日のグレンはもっと悲しい表情をしていたのかもしれない。

「だったら」

「だからこそわからない。何でグレンはそんな簡単に諦めてしまえるの?」

「A級冒険者が相手だからだ。」

「リアンは太刀打ちできたじゃないか。」

「それはリアンだからだ。そしてそのリアンをもってしてもさらわれた。」

私にもっと可能性を見てほしい。私だってこれまで修羅場をくぐり抜けて来たんだ。きっと今回だって・・・

「A級と言ったって私たちと同じく冒険者じゃないか。対処しようはいくらでも」

「無いな。経験、スキルどれをとってもお前をはるかに上回る。」

「私にだってそれなりの力はある。」

「あぁそうとも、お前の持っている力は強大だ。だがそれだけでは勝てない相手はいる。」

私の戦績を誰より理解しているのはグレンじゃないか。それでも無理だなんて言わせないよ。

「グレンだって報告書を読んだでしょ。大軍だって分断できるんだ。」

「そうだな。魔物を投入して混戦に持ち込むのは軍隊に対しては有効な戦法だ。だがいついかなる時も有効とは言えない。」

「そんなこと無いよ。」

「それならば聞くが、魔物たちはコントロールできないんだろ?コントロールできない力を無闇に振り回せば仲間まで殺しちまう。無関係の人々まで巻き添えになるだろう。違うか?」

あれは使い方を間違えば破滅する。私だってその点は理解してるさ。

「それはそうだけど・・・魔物だけじゃない。私には」

「バトラーか?」

「そ・・・そうだよ。」

これまでバトラーと二人三脚でうまくやって来たんだ、それだけはグレンにも否定はできないはずだよ。

「バルトロメオとの戦いでは相当苦戦したんだろ?バトラーの力もあって何故そんなことになった。お前はそれをしっかりと突き詰めたのか?」

「あの時は・・・相討ちで殺されていたかもしれない。」

「そうだろ。お前が過信できるほどの力なんてのは無いんだ。薄氷の勝利ってことをしかと胸に刻み込め。」

「・・・うん。」

駄目だ、グレンは私の戦績を誰よりも知り尽くしているからこそ逆にぐうの音も出ない。他ならぬ私もずっと気がかりだったことなんだ。

「少なくとも俺の知っているA級冒険者はあのセイジロウとも互角に殴り合う力がある。あの時はリアンのデバフと雷撃対策でセイジロウを叩きのめしたが、それ無しでやるんだ。お前に同じことができるか?」

「できない・・・そんなの無理だ。」

「悪いことは言わん、シンディーのことはギルドに任せておけ。昨日の今日だ、それほど遠くに行ってない。まだ対処しようはある。」

「・・・それ」

「何だ?」

「・・・私にやらせてほしい。」

「リーファ」

「信用してもらえないってことはわかってる。だけどギルドに無理矢理連れ戻されたらシンディーはきっと・・・」

リーファは伏し目がちになり、声も尻すぼみになってしまった。その様子を見たグレンも自らの言葉が少なからずリーファに届いたことを理解する。

「お前はシンディーを説得できるんだな?」

「やるよ」

「お前自身はリアンを追わないと誓えるか?」

「・・・シンディーやティナを死なせたくない。」

リアンの救出を力業で成し遂げようすれば多数の死者を覚悟しなければならなくなる。死者にはシンディーが含まれんとは限らん。それが理解できたならもう俺は何も言うまい。

「わかった、なら行って来い。ギルドの依頼として手続きはしといてやる。」

「ありがとう、行って来るよグレン。」

「ああ、必ず一緒に戻って来いよ。」

***

「どうだった、リーファ?」

「とりあえず私たちでシンディーを連れ戻す許可は下りたよ。」

首を振って残念そうな顔をするリーファを見たティナが事情を察する。

「リアンは、無理だったんだね?」

「うん。」

「むふふ、ゴリさんくすぐったいんなぁ~。みぽりんは今日もご機嫌なのん。」

リーファの目の前で馬と戯れているのは羊娘のアミルだ。彼女には先立ってボーネランド商会に貸し出している馬を引き取りに行ってもらった。小さな幌馬車に似つかわしくない4頭立ての馬車が控えている。

「ゴリさん?」

「紹介するん、リーファ。この青毛の子はゴリさんなん。こっちの栗毛の子はみぽりんなん。そこの白毛の子はモッさんで、黒鹿毛の子がべーやんなん。みんなキシレムの時にがんばってくれた子たちなんな~。」

「え、それ名前なの?」

「正式にはゴドウィンリー、ラミポーラ、モートバル、マックベーンって言うん。でも愛称の方が愛らしいんな。うふふ、お待ちかねのニンジンあげるのん。みんなの分あるから安心するんな~。」

アミルは見た目に反して馬の扱いは手慣れている。キシレム脱出の際に御者を買って出てくれた内の一人だ。ここにいる4頭もすっかりアミルに懐いているようだね。食堂を始めるに当たって動物のニオイがするのも問題だし世話も大変だからやむなく手放したんだけど、その当時アミルがすごく意気消沈していたのを覚えているよ。

「じゃあ御者はお願いするよアミル。何とかシンディーに追いつかないと。」

「任せると良いん。前途YOYO!」

何やらアミルが見慣れないポーズで静止している。スルーして良いものか迷ったリーファがかろうじて声を絞り出した。

「・・・アミル?」

「あまり思い詰めるとべーやんが動揺するん。シンディーは必ず本官がタイーホするのん。安心してもっとニヤニヤすると良いんな。」

「ニヤニヤって・・・何か違う気がするんだよ。」
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