幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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未熟ゆえの激情

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「何で?今頃リアンは苦しい思いをしているかもしれないんだよ?」

「それについては俺も心苦しい思いでいっぱいだ。」

心苦しい?心苦しいだけで何もしないなんて意味がわからないよ。そんなの上っ面を取り繕うだけの無意味な言葉じゃないか。

「そんなのってないよ!」

「ざっけんなよ、そんなでアタシらが納得するとでも思ってんのか!」

グレンの意向に変化が見えないことにイラだったシンディーが激高している。怒りをにじませながらグレンに詰め寄っているんだ。

けど私はそれを止めもせず、するがままにさせた。

「相手が悪すぎる。A級冒険者は一人じゃない。確実に殺されるとわかっていて向かわせる訳にいくか。」

そんなことスアレスとマイクが承服するわけない。さっきからグレンはあの二人のことについて口を濁しているのも変だ。

「スアレスとマイクは何て言ってるの?」

「・・・」

リーファの質問にグレンは眉間にシワを寄せる。何を言うでもなくおし黙っていた。

「おい、グレン!」

「ちょ、やめなよシンディー。」

頭に血が上ったシンディーがグレンの胸ぐらをつかむと、驚いたティナが間に割って入った。本来なら私が止めていただろう、ティナには悪いけど今はどうにもそんな気になれないんだ。

グレンはシンディーの手を振りほどくと苦々しく言葉を吐き捨てた。

「アイツらはレダムの制止も聞かず飛び出して行きやがった。できることは無い、もう好きにすれば良い。」

「じゃあ何で私たちに事情を伝えたの。これから私たちを救出に行かせるためなんでしょ。スアレスたちだって危ないじゃない。」

「レダムだってセンダルタ城で暇してるワケじゃない。スアレスとマイクを連れ戻す人員だって余裕はないんだ。」

「だったらなおさら私たちが行くべきじゃないか!」

「お前らはリアンが大切に思っていた仲間だ。だからこそもしもの事があった場合にお前らにも形見分けをと俺は頼まれていた。リアンのためにも絶対にお前らを死なせるワケにはいかん。」

「そんな・・・」

「リアンにはもう会えないかもしれない、そんな折に誘拐の事実を伏せておくなんてのは信義にもとる。だからこれは俺に課せられた義務だ。本当は俺もお前らには伏せておきたかったんだがな。」

「でも・・・やっぱりそれを聞いた以上は救出に」

「リアンはそんなこと望んじゃいない。」

食い下がるようにか細い声でリーファが抗議するも、グレンはそれをピシャリとさえぎってしまった。それがシンディーの怒りに再び火をつける。

「何でそんなことがグレンにわかるんだよ!・・・アンタも何でさっきから黙ってんだ、ガウス!」

ここまでずっとガウスは神妙な顔つきで沈黙していた。シンディーの怒りの矛先となったガウスは今になって自らの心情を吐露する。

「グレンも俺もお前らよりリアンとの付き合いは長い。今までだってずっと互いに腹を割っていろんな相談をしてきたんだ。」

「それが何だってんだ!付き合いの長さなんかに何の意味がある?見て見ぬふりする外道がよお!」

シンディーの言葉に言いよどんだガウスだったが、覚悟を決めたかのようにシンディーの目を見据えて重々しく口を開いた。

「お前らがみすみすA級冒険者たちの餌食になるとわかっていて送られることをリアンが望むと思うか。俺たちはそうは思わない。リーファ、シンディー、ティナ、お前らの気持ちは俺たちにも痛いほどわかる。この俺を憎んでくれてもいい・・・どうかわかってやってくれ。」

「・・・見損なったぜグレン。ガウス、アンタもだ。」

「ちょっとシンディー」

「テメェはどっちの味方なんだ、ティナ。」

普段のシンディーからは想像もつかないほど冷たい視線をティナに差し向ける。もはやシンディーはこの場を敵ー味方に色分けせずにはいられなかった。

「そ、それは・・・」

この場を何とか取り持とうとしていたティナもシンディーに突き付けられた極論に凍りつく。すると黙っていたリーファが口を開いた。

「シンディー、ティナ、帰ろう。」

「何言ってんだリーファ、お前までリアンを見捨てるってのか!」

「グレンにはグレンのやり方がある。私たちはそれについてきた。今までそのやり方が間違っていたためしは無い。」

もう私にはそれを言うのがやっとだ。頭ん中はグチャグチャ、今にも悔しさと怒りでどうにかなってしまいそうなんだ。これ以上ここにいたら誰彼かまわず相手の心を傷つけてしまう。

「へっ、すっかり丸め込まれちまいやがってバカヤローが!」

「だったらテメェはココでいつまでもウダウダ言ってろや、このクソったれが!帰るよティナ。」

「え!ちょっと待ってよリーファ。ねぇ、行こうシンディー?」

「チキショー、アタシは何も納得してねーからな。覚えとけよ腰抜けども!」

どぎつい捨て台詞を吐いてシンディーが執務室を後にした。彼女の刺すような軽蔑の眼差しが深く彼らの心をえぐる。

「・・・辛い決断だな、グレン。」

「これが俺の仕事さ。お前こそわざわざ付き合わなくとも良かったんだぜ、ガウス。」

「へっ、馬鹿言ってんじゃねえや。お前が泥をかぶるってんなら俺も一緒にかぶってやる。お前がグラムス市のお偉いさんを敵に回してでも腐りきった冒険者ギルドを乗っ取るって覚悟を決めた時から、俺だけは最期まで付き合ってやるって決めてんだ。忘れちまったのか?」

「そうだったな・・・助かる。」

***

「はぁ・・・」

リーファは冒険者ギルドを出るなり大きなため息をついた。メインストリートは何事も起こっていないかのように活気に溢れ、人々が行き交っている。

グレンたちには心底失望した。だけどグレンはグレンなりに私たちのことを考えてのことなんだろう。私がグレンの言い分に納得するかは別として・・・

「待ってよーリーファー」

「ティナ。」

「ねぇ馬車で帰らないの。結構歩くよ?」

「良いんだ、考えたいこともあるし。私のことは気にしないで。一緒に帰ろうとか言っといて悪いけど、ティナは馬車で帰りなよ。」

「ふ~ん・・・なら私も歩いてかーえろっと。えへへ」

「そう・・・」

「ねぇ、リーファはこれからどうするつもりなの?」

「今すぐにでも飛び出して行ってリアンを救出したい。でもグレンは止める。一体どうしたら良いのか、もう私にはわからないんだ。本当に苦しいよ・・・ティナはどうすれば良いと思う?」

「グレンやガウスはああ言ってたけど、自分が守りたいもののために下した決断なんだと思う。だからこそ己の信念を曲げないんだよ、私はそう思うんだ。」

「信念?」

「リーファにも守りたいものがあるんじゃないかな?それは人それぞれ違うけど、リーファも一度それを見つめ直すのが良いんじゃない。その上で出した結論であれば誰がなんと言おうと私は全力でリーファを支えるんだよ。」

ティナの言葉に私は目を開かされた。私は自分の感情だけで世界は色付いていると考えていた昔の自分に戻っていたんだ。
かつてエルマが私を諭してくれたのに、すっかり忘れていたよ。あれだけ泣いて、ようやく気づいたことなのに。

「そっか・・・ティナはマルティナやエルマみたく、私のお姉ちゃんなんだね。」

「なぁに~今更~?そんなの当たり前なんだよ~。」

「私は家族を・・・仲間を守りたい、そのために今までがんばって来たんだ。この信念だけは何が何でも絶対に譲れない。もう一度しっかり考えて明日グレンと話し合って見るよ。ティナもついてきてくれるかなぁ?」

「可愛い妹のためならお姉ちゃんも喜んで一肌脱ぐもんなんだよ。まかせて!」

「よーし、良い手が無いか考え抜いてグレンに納得してもらうんだ。」

「うん、やっぱリーファはこうでなくっちゃ!沈んだ顔なんて似合わないんだよ~。」

「へへへ。」

グレンやガウスだってできるものなら何とかしたいって思ってるはずなんだ。リアンはグレンとガウスをものすごく信頼していたし、彼らもリアンを頼りにしていたもん。私よりも思いは強い、そうであって欲しい。

そんなリーファの思いとは裏腹にシンディーはその日帰ってこなかった。
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