幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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「おわっ、あぶねーじゃねーかリーファ!」

「ごめーん!」

冒険者ギルドに飛び込んで来たリーファとぶつかりそうになった男が非難の声を上げる。するとリーファは申し訳なさそうに謝りながら奥へと走って行った。あの様子から見るに何やら急ぎのようだ。男もやれやれとばかりに再び前を向くや・・・

「ったく、何だってん・・・どわぁ!」

「悪ぃー」

リーファの後を追うように飛び込んで来たシンディーに突き飛ばされた男が床に尻もちをつく。二度も立て続けとなるとさすがに堪忍袋の緒が切れた。

「テンメェ、シンディーウギャ~!」

条件反射的に怒鳴った男の手を踏みつけたのはティナだった。

「あっ、急ぐからごめんなんだよ~」

「チキショー、

ケと言おうとした男が殺気を感じ、言葉を飲み込む。最近、グラムスの冒険者たちはティナのことを狂犬とアダ名し始めたのを思い出したのだ。なんでも子供扱いした瞬間から金縛りに陥り、一方的にぶちのめされるらしい。

「はぁ?まさかいま私のことチビスケって言おうとしてなかった?」

「い、いやぁ。まう人々に幸あれって・・・い、言おうとしてたんだぜ。へへへ、急いでんだろ?ほら、アンタも早く行きなよ」

何て恐ろしい目ぇしてやがるんだコイツぁ。・・・悪魔だ、狂犬なんて生っちょろいもんじゃねえぞ。

「あっ、そうだったんだよ。も~待ってったら~」

「はぁ、今日はツキに見放されてらぁ。」

ここんとこ懐もあったけーし、天気も良いし・・・今日は休みにすっかぁ。

***

「グレン!」

勢い良く声をかけた相手を見ると案の定、息せき切って駆けてきたであろうリーファの姿があった。

「よく来てくれたなリーファ。」

「リアンがぐへぇ!」

「アタタタ、んなとこで立ち止まんなよリーファ。」

ギルドマスターの執務室に飛び込んで来たシンディーがリーファに覆い被さるように倒れ込んだ。シンディーの下敷きとなり、カエルのように押しつぶされたリーファがモガモガともがいている。

「重~い、どいてよシンディー」

「そんなとこで何してんのアンタたち。ちょっとした迷惑なんだよ?」

後からやって来たティナも呆れ顔でつぶやく。いくら何でもはっちゃけすぎだ。

「大丈夫か、お前ら。」

「んもぅ!それで、リアンは誰にさらわれたの?」

「センダルタ城のトーラスから今朝届いた報告によれば、どうやらA級冒険者のようだ。」

グラムス冒険者ギルドの代表としてセンダルタ城に駐在しているトーラスが緊急に伝書鳩を飛ばしたってことか。これはたしかに穏やかな話ではない。

「A級冒険者?ってぇことはだ、目撃者がいるんだろグレン。」

「それはたぶんマイクかスアレスなんだよ。」

シンディーとティナが思い思いに推測してるけど・・・グレンの表情を見るにどうも違うみたいだなぁ。

「いや、今はアイツらのことはどうでもいい。つまるところ目撃証言が無いから詳しい犯人はわからん。」

グレンの口ぶりにトゲトゲしいものが含まれているような、私の気のせいか?まぁそれよりも・・・

「え、じゃあ何でA級冒険者だって断定できるの?誰も見てないんだよね?」

「ってか、スアレスとマイクは無事なのかよ?ひょっとして殺られちまったのか?」

「アイツらは今は無事だろうさ、テメェらはセンダルタ城に残ってリアン一人帰らせたんだからな。アイツらの話はここで終わりにしてくれ。」

「今は」って何だろう。リアンを一人にしたってのも妙だけどいろいろ引っかかるなぁ・・・

「いったい何があったの?」

「とにかく、A級冒険者ハウンドの変わり果てた姿だけが現場に残されていた。おそらくリアンが戦闘の末に仕留めたんだろう。」

「ってことはまさか!リアン一人でA級冒険者を仕留めたってこと?」

A級って冒険者の頂点で数えるほどしかいないって言ってたよね。何か途方も無い話になってないか。

「うげっ!リアンってたしかC級のはずなんだよ?」

「驚くのは無理もないがお前らも知っているだろ、聞いたことも見たこともないような魔術をリアンが行使するのを。」

「た・・・たしかに」

そうだ、私たちも幾度となく目撃してきたじゃないか。普通の魔術ではない何か・・・魔術に疎い私ですら覚えてるよ。そう考えるとリアンならあり得る話かもしれない。

「リアンは必ずしも俺たちの尺度では測れない奥の手を数多く隠し持っている。俺も直接確認してねーからよくわからんのだが、A級17位ハウンドは植物にされちまったんだとよ。」

「植物?そんなことできるのか!」

現場には服を着た植物があり、持ち物からハウンドのなれの果てであることが確定したという報告だった。うかつに手を触れて理解の及ばぬ奇怪な術の餌食にされぬよう、敵はやむなく痕跡の回収を諦めたようだ。焼いて消し去るのも遠くに異変を気取らせるため下策と言えよう。

「リアンを怒らせたら生命がないんだよ。」

「ん、おかしくね?A級冒険者を倒したんなら帰って来るだろ普通。」

そうだ、シンディーの言うとおり敵を撃退したのなら帰ってこない理由がないじゃないか。

「おそらくハウンドの他にもA級冒険者がいたんだろうな。御者も護衛も皆殺しにされたが、リアンだけは行方不明だ。」

「でも何でリアンがA級冒険者なんかにさらわれないといけないの?」

「それは俺にもわからん。A級冒険者まで投入したんだ、何か理由はあるんだろう・・・。ただ思い当たることが無い。」

「せめて首謀者がわかれば動機を推測する手がかりになるはずなんだよ。」

「けっ、それがわかりゃ苦労はねえっつーの。」

「いやシンディー、ティナの言うことはあながち間違っちゃあいない。俺たちもそこにぶつかった上で頭を抱えているんだ。」

グレンが肩を持ってくれたことに気を良くしたティナがシンディーに勝ち誇った表情を見せる。

「どういう事だ、グレン?」

シンディーはティナのほっぺをつねりながら真剣な表情でグレンに問いただした。

「A級冒険者を思いのままに動かせるのは帝国冒険者ギルド総本部だけだ。そしてそこには必ず帝国首脳部の意向が働いている。」

「何らかの理由でリアンが帝国首脳部の目に止まったってことかぁ?」

「だとするとセンダルタ攻城戦かなぁ?」

「リアンは魔術師部隊を指揮していたから、見せしめにするためにさらった・・・とか?」

「シンディーの言うとおり、それも一つ要素に含まれているかもしれん。」

「へへん、聞いたかチビッコ。」

「ムカー」

「だがそれだけでA級冒険者を動かすとも思えんのだ。」

「ぷぷー、イキッといてそんなでもなかったね~シンディー。おつむ足りてまちゅか~なんだよ~。」

「くっ!な、何でだよグレン?」

「たかだか冒険者一人を捕縛して、つるし上げるなんざチンケなことさ。敗戦によって傷ついた国家の威信をその程度で回復できるなんて考えるマヌケが帝国首脳部にいると思うか?」

「そういわれりゃそんな気もするぜ。」

「それに帝国軍は貴族が仕切っている。貴族のメンツを丸つぶしにしてまでA級冒険者を動かしたんだ。何かそれ相応の裏があるに違いない。攻城戦は飽くまできっかけにすぎないと俺は見ている。」

そこまで推測しておいて何でグレンは動かないんだ。今この瞬間にもリアンは遠ざかっているだろうに。動機うんぬんなんてもうそんなの後で良いじゃないか。

「どのみち犯人は帝国なんでしょ?あれこれ考えるよりも早くリアンを救出に行かなくちゃ。もちろん私が行くよ、グレン。」

「ダメだ。」

予想だにしないグレンの返答にその場の全員が凍りついた。まさかグレンはリアンを見捨てるつもりなのかとリーファのボルテージが一気にはね上がる。
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