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エルフ捕縛
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いま起こっている事態が何一つ理解できないハウンドは半ばパニックに陥る。どうしたって恐怖と疑問が渦巻いてしまうのだ。
「そんなことを言うのは冒険者失格なのではなかったのか?」
「ぐっ、このっ!」
そっくりそのまま自らの言葉を返されたハウンドの顔が羞恥にゆがむ。先ほどまで見下していた相手、しかもそれが女となればハウンドにとって何よりの屈辱だった。
「当てて見ろと言いたいところではあるが時間も無いので教えてやる。メフテンムのヤドリギを植え付けた。」
「き、聞いたことが無い。何だそれは・・・いったい俺はどうなる?」
「そのヤドリギはお前を養分として吸収し、成長する。お前自身を植物化させてもいるぞ。既に根を下ろしているのは確認しただろう。」
「何だと?・・・ふ、ふざけんな!今すぐ俺を解放しろ!」
「私を捕縛し、あまつさえ手籠めにしようとしたお前を解放する道理などどこにあると言うのだ。」
「忘れたのか?お前の体内にも俺の創り出した毒が入り込んでいるんだぞ。俺が少しでも濃度を高めればお前も終わりだ。」
「やって見ろ。」
「へ?・・・何だと?」
予想と正反対の答えが返ってきたことにハウンドの頭が真っ白になる。目の前のエルフを見ても何のためらいも無い様子だ。即断できるほど軽い命でもあるまいに、思案のかけらも感じられなかった。
「やれと言った。」
「んなこたぁわかってんだよ!て・・・テメェ、脅しだと思ってんのか?」
「気にする必要はない。御託を並べる前にやれば良かろう。」
「ぐっ・・・ひ、一つ聞いても良いか?」
脅しが功を奏しないことに凍りついたハウンドが作戦を変える。あまりにリアンが動じないので逆に不安になってしまったようだ。
「何だ?」
「お前を殺したらこのナントカいうヤドリギが消えたりは・・・」
「しないな。」
「このヤドリギを消す方法は・・・」
「ある。」
「頼む、俺を助けてくれ!」
命あっての物種。依頼が失敗となろうとも違約金さえ払ってしまえば済む話だ。この女にギルドで賠償金払うことにもなるが、別に大した話じゃねー。こいつを抱けねーってのだきゃあ腹に据えかねるが、他にも山ほど女は転がってらぁ。俺ぁもう手を引くぜ。引き際ってやつが肝心だからよぉ。
「それはできない。お前は関係ない人間を殺し過ぎた。故にそれ相応の罰を受けてもらう。」
「おいおい、俺は賠償金くらい払ってやるって。あんたも金欲しいだろ?今回のことに十分な額を耳をそろえて」
「黙れ下衆め。金はお前の罪を贖うことなどできん。」
「どうしてもか?」
「あぁ、こればかりはな。」
「最後の最後までムカつく女だぜ。俺はテメェをぶち殺して自力で何とかしてやんよ!死ね~・・・うわぁー」
「あぁ、忘れていた。下手に自らの魔力を使うとヤドリギがそれを吸収して急成長するのだが・・・もはや返事もできなくなってしまったようだな。」
<パチパチパチ>
「何者だ!」
「いやぁ、良いもん見せてもらったよ~エルフちゃん。」
拍手とともに近づいて来たのはヒラヒラしたドレス、しかも妙に短いスカートの少女だった。どうやら木陰に潜んでこちらをうかがっていたらしい。
「お前もハウンドの仲間か?」
「うげぇ、あんなド変態の仲間なんて思われるのは心外だよ。ただ同業者ってだけで、あんなのは敵と変わらないね。聞いてよエルフちゃん、そいつ僕のことまでイヤらし~い目で見てくるんだ。ここまでで何度殺そうと思ったか。」
「A級冒険者ということか?」
「まぁね~。僕はヴァイス。」
「悪徳?先ほどのケダモノと言い、良からぬ二つ名をつける慣わしでもあるのか?」
「ふふふ何者でもない者に言われたくないや。」
「この殺人への関与は?」
「えっ僕?そいつじゃあるまいし、こんな弱い者イジメなんてするわけないよ。でもエルフちゃん、強いんだね。ハウンドが負けるなんて想像もしなかったよ。」
「あの男に油断が無ければ私は間違いなくこの場で死んでいた。」
「へー、ちゃんと自己分析ができるんだね。僕も同じ見解なんだ。そんで次は僕が相手なんだけど、エルフちゃんから見て勝てそうかな?」
「十中八九、私が負けるだろう。」
「違うね。」
「違う?」
「エルフちゃんは必ず僕に負けるんだ。八九は無いね~。」
「そうかもな。」
「でも安心しなよ、エルフちゃんに手を触れようとするヤツは僕が刻んであげるからさぁ。帝都までは安心だよ。」
「帝都で引き渡されて以降は安全でないのだな。」
「まぁね~。僕への依頼はそこまでだもん。甘えられたってその先は知ったこっちゃない。でもそこの札付きド変態に連れ出されるよかよっぽどマシさ~。でしょでしょ~、アビムリンデちゃん?」
「何のことだ?」
「またまた~、しらばっくれちゃって~。お・ヒ・メ・さ・ま」
「くどい。知らんと言っている。」
「え~でもでも~、あれってドルイドの魔術か何かでしょ~?人が木になっちゃうヤツ、僕も気になっちゃう~なんつって~」
「私はシルウァヌスの森出身だ。つまり西方エルフ、北方エルフとは一切関係がない。ここまで足を運んだ挙句、とんだ骨折り損だったな。」
かつてセイジロウというコボルトに喝破されはしたものの、これまでリアンは自らの出自を西方エルフと偽ってきた。ヒュームの都市に居住するため必要な出自であっても、シルウァヌスの森に分け入って詳しく調べでもしない限り誰にも本当のところはわからない。そんな途方も無い調査をする者など皆無なので使い勝手抜群の言い逃れだ。
「えぇ~、な~んか嘘ついてな~い?怪し~ねぃ」
「くだらん。私はお前に用は無いので帰らせてもらう。」
「待ってよエルフちゃん。何にしたってエルフちゃんは連れ帰るからね~。A級冒険者を退けた実力だけは事実なんだもの。めでたくゴミ野郎もくたばったし、報酬独り占めなんさ。さぁご一緒に~、あっぱ~れあっぱ~れ」
よほどご機嫌なのかヴァイスはどこからか扇子を取り出して踊り始めた。その様子を眺めるリアンは何か良い策はないものかと思案する。
ハウンドは長々と私に抱きついたおかげで密かにヤドリギを仕込むことができたが、ヴァイスにそのようなチャンスは無いだろう。手の内を見られただけでなく能力も不明だ。まだ攻撃されていないと判断することもできない。厄介だぞこれは。
「ふん、つきあっていられるか。」
「僕はエルフちゃんを連れ帰るって言ったんだ。」
「何?・・・動けない!?」
何とか戦闘に持ち込まずこの場を離れるには敵意も見せず受け流すべきと考えたが・・・。やはり先ほどと同じく既に攻撃を受けていたようだ。
「アハハハ、今度はエルフちゃんが動けなくなっちゃったね~。」
「私に何をした?」
「え~、それじゃまんまゴミ野郎とおんなじ事言わなきゃじゃん。そんな野暮なことやめようよ~。」
「くっ!」
「あっ、無理に動いちゃダメだよエルフちゃん。じゃなきゃ身体の一部とお別れしちゃうよ~。あと魔術も使わないでね~、魔物も召喚しちゃダメだよん。」
「魔物・・・しょ、召喚!?」
できもしないことをできるかのように言われたリアンはさすがに面食らってしまった。アビムリンデという本名を百数十年ぶりに聞かされてもさして動じなかったのとは対照的だ。
この反応の違いを見て、事の真相を知らないヴァイスは急激に不安になった。どう見てもこの真面目なエルフにあんな演技ができるとは到底思えない。おそらくは本心がそのまま表に出てしまったのだろう。
もしかして目の前にいるエルフちゃんは本当にアビムリンデじゃないのかも~。あれれ~、聞いてたのと何か違うぞ~?
「い・・・良いよ~、しらばっくれなくたって。」
「いや、そんなことは」
なおも否定するリアンだったが、ヴァイスはもう耳を傾けないことに決めた。依頼の核心はエルフをさらって来ること。アビムリンデと思しきという文言はただの飾りだ。満額の報酬が支払われなければ徹底的にゴネる決意を固める。
アビムリンデなのか不明だけど、このエルフちゃんがセンダルタ城の魔術指揮官であることだけは間違いないしね。僕もこんなとこまで足を運んで成果ゼロなんて耐えられないもん。そんなんじゃバルナロキスに笑われちゃうよ。
「ま、ともかく。そん時は遠慮なく首を落としちゃうんだから。僕はハウンドと違ってエルフちゃんの生死にこだわりが無いんだ~」
とはいえ死体で持ち帰った場合、追加ボーナスが消えちゃうから絶対に殺したくないんだけどね~。
「糸か何か?いつの間に・・・」
「うん、でも気づいたところでもう遅いんだ。ってなわけで~、ご~っつぁんでぃ~っす。」
「そんなことを言うのは冒険者失格なのではなかったのか?」
「ぐっ、このっ!」
そっくりそのまま自らの言葉を返されたハウンドの顔が羞恥にゆがむ。先ほどまで見下していた相手、しかもそれが女となればハウンドにとって何よりの屈辱だった。
「当てて見ろと言いたいところではあるが時間も無いので教えてやる。メフテンムのヤドリギを植え付けた。」
「き、聞いたことが無い。何だそれは・・・いったい俺はどうなる?」
「そのヤドリギはお前を養分として吸収し、成長する。お前自身を植物化させてもいるぞ。既に根を下ろしているのは確認しただろう。」
「何だと?・・・ふ、ふざけんな!今すぐ俺を解放しろ!」
「私を捕縛し、あまつさえ手籠めにしようとしたお前を解放する道理などどこにあると言うのだ。」
「忘れたのか?お前の体内にも俺の創り出した毒が入り込んでいるんだぞ。俺が少しでも濃度を高めればお前も終わりだ。」
「やって見ろ。」
「へ?・・・何だと?」
予想と正反対の答えが返ってきたことにハウンドの頭が真っ白になる。目の前のエルフを見ても何のためらいも無い様子だ。即断できるほど軽い命でもあるまいに、思案のかけらも感じられなかった。
「やれと言った。」
「んなこたぁわかってんだよ!て・・・テメェ、脅しだと思ってんのか?」
「気にする必要はない。御託を並べる前にやれば良かろう。」
「ぐっ・・・ひ、一つ聞いても良いか?」
脅しが功を奏しないことに凍りついたハウンドが作戦を変える。あまりにリアンが動じないので逆に不安になってしまったようだ。
「何だ?」
「お前を殺したらこのナントカいうヤドリギが消えたりは・・・」
「しないな。」
「このヤドリギを消す方法は・・・」
「ある。」
「頼む、俺を助けてくれ!」
命あっての物種。依頼が失敗となろうとも違約金さえ払ってしまえば済む話だ。この女にギルドで賠償金払うことにもなるが、別に大した話じゃねー。こいつを抱けねーってのだきゃあ腹に据えかねるが、他にも山ほど女は転がってらぁ。俺ぁもう手を引くぜ。引き際ってやつが肝心だからよぉ。
「それはできない。お前は関係ない人間を殺し過ぎた。故にそれ相応の罰を受けてもらう。」
「おいおい、俺は賠償金くらい払ってやるって。あんたも金欲しいだろ?今回のことに十分な額を耳をそろえて」
「黙れ下衆め。金はお前の罪を贖うことなどできん。」
「どうしてもか?」
「あぁ、こればかりはな。」
「最後の最後までムカつく女だぜ。俺はテメェをぶち殺して自力で何とかしてやんよ!死ね~・・・うわぁー」
「あぁ、忘れていた。下手に自らの魔力を使うとヤドリギがそれを吸収して急成長するのだが・・・もはや返事もできなくなってしまったようだな。」
<パチパチパチ>
「何者だ!」
「いやぁ、良いもん見せてもらったよ~エルフちゃん。」
拍手とともに近づいて来たのはヒラヒラしたドレス、しかも妙に短いスカートの少女だった。どうやら木陰に潜んでこちらをうかがっていたらしい。
「お前もハウンドの仲間か?」
「うげぇ、あんなド変態の仲間なんて思われるのは心外だよ。ただ同業者ってだけで、あんなのは敵と変わらないね。聞いてよエルフちゃん、そいつ僕のことまでイヤらし~い目で見てくるんだ。ここまでで何度殺そうと思ったか。」
「A級冒険者ということか?」
「まぁね~。僕はヴァイス。」
「悪徳?先ほどのケダモノと言い、良からぬ二つ名をつける慣わしでもあるのか?」
「ふふふ何者でもない者に言われたくないや。」
「この殺人への関与は?」
「えっ僕?そいつじゃあるまいし、こんな弱い者イジメなんてするわけないよ。でもエルフちゃん、強いんだね。ハウンドが負けるなんて想像もしなかったよ。」
「あの男に油断が無ければ私は間違いなくこの場で死んでいた。」
「へー、ちゃんと自己分析ができるんだね。僕も同じ見解なんだ。そんで次は僕が相手なんだけど、エルフちゃんから見て勝てそうかな?」
「十中八九、私が負けるだろう。」
「違うね。」
「違う?」
「エルフちゃんは必ず僕に負けるんだ。八九は無いね~。」
「そうかもな。」
「でも安心しなよ、エルフちゃんに手を触れようとするヤツは僕が刻んであげるからさぁ。帝都までは安心だよ。」
「帝都で引き渡されて以降は安全でないのだな。」
「まぁね~。僕への依頼はそこまでだもん。甘えられたってその先は知ったこっちゃない。でもそこの札付きド変態に連れ出されるよかよっぽどマシさ~。でしょでしょ~、アビムリンデちゃん?」
「何のことだ?」
「またまた~、しらばっくれちゃって~。お・ヒ・メ・さ・ま」
「くどい。知らんと言っている。」
「え~でもでも~、あれってドルイドの魔術か何かでしょ~?人が木になっちゃうヤツ、僕も気になっちゃう~なんつって~」
「私はシルウァヌスの森出身だ。つまり西方エルフ、北方エルフとは一切関係がない。ここまで足を運んだ挙句、とんだ骨折り損だったな。」
かつてセイジロウというコボルトに喝破されはしたものの、これまでリアンは自らの出自を西方エルフと偽ってきた。ヒュームの都市に居住するため必要な出自であっても、シルウァヌスの森に分け入って詳しく調べでもしない限り誰にも本当のところはわからない。そんな途方も無い調査をする者など皆無なので使い勝手抜群の言い逃れだ。
「えぇ~、な~んか嘘ついてな~い?怪し~ねぃ」
「くだらん。私はお前に用は無いので帰らせてもらう。」
「待ってよエルフちゃん。何にしたってエルフちゃんは連れ帰るからね~。A級冒険者を退けた実力だけは事実なんだもの。めでたくゴミ野郎もくたばったし、報酬独り占めなんさ。さぁご一緒に~、あっぱ~れあっぱ~れ」
よほどご機嫌なのかヴァイスはどこからか扇子を取り出して踊り始めた。その様子を眺めるリアンは何か良い策はないものかと思案する。
ハウンドは長々と私に抱きついたおかげで密かにヤドリギを仕込むことができたが、ヴァイスにそのようなチャンスは無いだろう。手の内を見られただけでなく能力も不明だ。まだ攻撃されていないと判断することもできない。厄介だぞこれは。
「ふん、つきあっていられるか。」
「僕はエルフちゃんを連れ帰るって言ったんだ。」
「何?・・・動けない!?」
何とか戦闘に持ち込まずこの場を離れるには敵意も見せず受け流すべきと考えたが・・・。やはり先ほどと同じく既に攻撃を受けていたようだ。
「アハハハ、今度はエルフちゃんが動けなくなっちゃったね~。」
「私に何をした?」
「え~、それじゃまんまゴミ野郎とおんなじ事言わなきゃじゃん。そんな野暮なことやめようよ~。」
「くっ!」
「あっ、無理に動いちゃダメだよエルフちゃん。じゃなきゃ身体の一部とお別れしちゃうよ~。あと魔術も使わないでね~、魔物も召喚しちゃダメだよん。」
「魔物・・・しょ、召喚!?」
できもしないことをできるかのように言われたリアンはさすがに面食らってしまった。アビムリンデという本名を百数十年ぶりに聞かされてもさして動じなかったのとは対照的だ。
この反応の違いを見て、事の真相を知らないヴァイスは急激に不安になった。どう見てもこの真面目なエルフにあんな演技ができるとは到底思えない。おそらくは本心がそのまま表に出てしまったのだろう。
もしかして目の前にいるエルフちゃんは本当にアビムリンデじゃないのかも~。あれれ~、聞いてたのと何か違うぞ~?
「い・・・良いよ~、しらばっくれなくたって。」
「いや、そんなことは」
なおも否定するリアンだったが、ヴァイスはもう耳を傾けないことに決めた。依頼の核心はエルフをさらって来ること。アビムリンデと思しきという文言はただの飾りだ。満額の報酬が支払われなければ徹底的にゴネる決意を固める。
アビムリンデなのか不明だけど、このエルフちゃんがセンダルタ城の魔術指揮官であることだけは間違いないしね。僕もこんなとこまで足を運んで成果ゼロなんて耐えられないもん。そんなんじゃバルナロキスに笑われちゃうよ。
「ま、ともかく。そん時は遠慮なく首を落としちゃうんだから。僕はハウンドと違ってエルフちゃんの生死にこだわりが無いんだ~」
とはいえ死体で持ち帰った場合、追加ボーナスが消えちゃうから絶対に殺したくないんだけどね~。
「糸か何か?いつの間に・・・」
「うん、でも気づいたところでもう遅いんだ。ってなわけで~、ご~っつぁんでぃ~っす。」
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