幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
115 / 167

エルフ捕縛

しおりを挟む
いま起こっている事態が何一つ理解できないハウンドは半ばパニックに陥る。どうしたって恐怖と疑問が渦巻いてしまうのだ。

「そんなことを言うのは冒険者失格なのではなかったのか?」

「ぐっ、このっ!」

そっくりそのまま自らの言葉を返されたハウンドの顔が羞恥にゆがむ。先ほどまで見下していた相手、しかもそれが女となればハウンドにとって何よりの屈辱だった。

「当てて見ろと言いたいところではあるが時間も無いので教えてやる。メフテンムのヤドリギを植え付けた。」

「き、聞いたことが無い。何だそれは・・・いったい俺はどうなる?」

「そのヤドリギはお前を養分として吸収し、成長する。お前自身を植物化させてもいるぞ。既に根を下ろしているのは確認しただろう。」

「何だと?・・・ふ、ふざけんな!今すぐ俺を解放しろ!」

「私を捕縛し、あまつさえ手籠めにしようとしたお前を解放する道理などどこにあると言うのだ。」

「忘れたのか?お前の体内にも俺の創り出した毒が入り込んでいるんだぞ。俺が少しでも濃度を高めればお前も終わりだ。」

「やって見ろ。」

「へ?・・・何だと?」

予想と正反対の答えが返ってきたことにハウンドの頭が真っ白になる。目の前のエルフを見ても何のためらいも無い様子だ。即断できるほど軽い命でもあるまいに、思案のかけらも感じられなかった。

「やれと言った。」

「んなこたぁわかってんだよ!て・・・テメェ、脅しだと思ってんのか?」

「気にする必要はない。御託を並べる前にやれば良かろう。」

「ぐっ・・・ひ、一つ聞いても良いか?」

脅しが功を奏しないことに凍りついたハウンドが作戦を変える。あまりにリアンが動じないので逆に不安になってしまったようだ。

「何だ?」

「お前を殺したらこのナントカいうヤドリギが消えたりは・・・」

「しないな。」

「このヤドリギを消す方法は・・・」

「ある。」

「頼む、俺を助けてくれ!」

命あっての物種。依頼が失敗となろうとも違約金さえ払ってしまえば済む話だ。この女にギルドで賠償金払うことにもなるが、別に大した話じゃねー。こいつを抱けねーってのだきゃあ腹に据えかねるが、他にも山ほど女は転がってらぁ。俺ぁもう手を引くぜ。引き際ってやつが肝心だからよぉ。

「それはできない。お前は関係ない人間を殺し過ぎた。故にそれ相応の罰を受けてもらう。」

「おいおい、俺は賠償金くらい払ってやるって。あんたも金欲しいだろ?今回のことに十分な額を耳をそろえて」

「黙れ下衆め。金はお前の罪を贖うことなどできん。」

「どうしてもか?」

「あぁ、こればかりはな。」

「最後の最後までムカつく女だぜ。俺はテメェをぶち殺して自力で何とかしてやんよ!死ね~・・・うわぁー」

「あぁ、忘れていた。下手に自らの魔力を使うとヤドリギがそれを吸収して急成長するのだが・・・もはや返事もできなくなってしまったようだな。」

<パチパチパチ>

「何者だ!」

「いやぁ、良いもん見せてもらったよ~エルフちゃん。」

拍手とともに近づいて来たのはヒラヒラしたドレス、しかも妙に短いスカートの少女だった。どうやら木陰に潜んでこちらをうかがっていたらしい。

「お前もハウンドの仲間か?」

「うげぇ、あんなド変態の仲間なんて思われるのは心外だよ。ただ同業者ってだけで、あんなのは敵と変わらないね。聞いてよエルフちゃん、そいつ僕のことまでイヤらし~い目で見てくるんだ。ここまでで何度殺そうと思ったか。」

「A級冒険者ということか?」

「まぁね~。僕はヴァイス。」

悪徳ヴァイス?先ほどのケダモノハウンドと言い、良からぬ二つ名をつける慣わしでもあるのか?」

「ふふふ何者でもない者リアンに言われたくないや。」

「この殺人への関与は?」

「えっ僕?そいつじゃあるまいし、こんな弱い者イジメなんてするわけないよ。でもエルフちゃん、強いんだね。ハウンドが負けるなんて想像もしなかったよ。」

「あの男に油断が無ければ私は間違いなくこの場で死んでいた。」

「へー、ちゃんと自己分析ができるんだね。僕も同じ見解なんだ。そんで次は僕が相手なんだけど、エルフちゃんから見て勝てそうかな?」

「十中八九、私が負けるだろう。」

「違うね。」

「違う?」

「エルフちゃんは必ず僕に負けるんだ。八九は無いね~。」

「そうかもな。」

「でも安心しなよ、エルフちゃんに手を触れようとするヤツは僕が刻んであげるからさぁ。帝都までは安心だよ。」

「帝都で引き渡されて以降は安全でないのだな。」

「まぁね~。僕への依頼はそこまでだもん。甘えられたってその先は知ったこっちゃない。でもそこの札付きド変態に連れ出されるよかよっぽどマシさ~。でしょでしょ~、アビムリンデちゃん?」

「何のことだ?」

「またまた~、しらばっくれちゃって~。お・ヒ・メ・さ・ま」

「くどい。知らんと言っている。」

「え~でもでも~、あれってドルイドの魔術か何かでしょ~?人が木になっちゃうヤツ、僕も気になっちゃう~なんつって~」

「私はシルウァヌスの森出身だ。つまり西方エルフ、北方エルフとは一切関係がない。ここまで足を運んだ挙句、とんだ骨折り損だったな。」

かつてセイジロウというコボルトに喝破されはしたものの、これまでリアンは自らの出自を西方エルフと偽ってきた。ヒュームの都市に居住するため必要な出自であっても、シルウァヌスの森に分け入って詳しく調べでもしない限り誰にも本当のところはわからない。そんな途方も無い調査をする者など皆無なので使い勝手抜群の言い逃れだ。

「えぇ~、な~んか嘘ついてな~い?怪し~ねぃ」

「くだらん。私はお前に用は無いので帰らせてもらう。」

「待ってよエルフちゃん。何にしたってエルフちゃんは連れ帰るからね~。A級冒険者を退けた実力だけは事実なんだもの。めでたくゴミ野郎もくたばったし、報酬独り占めなんさ。さぁご一緒に~、あっぱ~れあっぱ~れ」

よほどご機嫌なのかヴァイスはどこからか扇子を取り出して踊り始めた。その様子を眺めるリアンは何か良い策はないものかと思案する。

ハウンドは長々と私に抱きついたおかげで密かにヤドリギを仕込むことができたが、ヴァイスにそのようなチャンスは無いだろう。手の内を見られただけでなく能力も不明だ。まだ攻撃されていないと判断することもできない。厄介だぞこれは。

「ふん、つきあっていられるか。」

「僕はエルフちゃんを連れ帰るって言ったんだ。」

「何?・・・動けない!?」

何とか戦闘に持ち込まずこの場を離れるには敵意も見せず受け流すべきと考えたが・・・。やはり先ほどと同じく既に攻撃を受けていたようだ。

「アハハハ、今度はエルフちゃんが動けなくなっちゃったね~。」

「私に何をした?」

「え~、それじゃまんまゴミ野郎とおんなじ事言わなきゃじゃん。そんな野暮なことやめようよ~。」

「くっ!」

「あっ、無理に動いちゃダメだよエルフちゃん。じゃなきゃ身体の一部とお別れしちゃうよ~。あと魔術も使わないでね~、魔物も召喚しちゃダメだよん。」

「魔物・・・しょ、召喚!?」

できもしないことをできるかのように言われたリアンはさすがに面食らってしまった。アビムリンデという本名を百数十年ぶりに聞かされてもさして動じなかったのとは対照的だ。

この反応の違いを見て、事の真相を知らないヴァイスは急激に不安になった。どう見てもこの真面目なエルフにあんな演技ができるとは到底思えない。おそらくは本心がそのまま表に出てしまったのだろう。

もしかして目の前にいるエルフちゃんは本当にアビムリンデじゃないのかも~。あれれ~、聞いてたのと何か違うぞ~?

「い・・・良いよ~、しらばっくれなくたって。」

「いや、そんなことは」

なおも否定するリアンだったが、ヴァイスはもう耳を傾けないことに決めた。依頼の核心はエルフをさらって来ること。アビムリンデと思しきという文言はただの飾りだ。満額の報酬が支払われなければ徹底的にゴネる決意を固める。

アビムリンデなのか不明だけど、このエルフちゃんがセンダルタ城の魔術指揮官であることだけは間違いないしね。僕もこんなとこまで足を運んで成果ゼロなんて耐えられないもん。そんなんじゃバルナロキスに笑われちゃうよ。

「ま、ともかく。そん時は遠慮なく首を落としちゃうんだから。僕はハウンドと違ってエルフちゃんの生死にこだわりが無いんだ~」

とはいえ死体で持ち帰った場合、追加ボーナスが消えちゃうから絶対に殺したくないんだけどね~。

「糸か何か?いつの間に・・・」

「うん、でも気づいたところでもう遅いんだ。ってなわけで~、ご~っつぁんでぃ~っす。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...