幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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氷の姫巫女

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「我が帝国軍がたった4~5千の兵に敗北を喫しただと?おまけにガイアロドハイムまで攻め取られるなど・・・」

エルステルリンゲン帝国の皇帝ルートヴィヒが頭を抱えてうめく。あれほどの大軍をもってしても敗北したことに、もはや怒りを通り越して生気を失いかけていた。失望のあまりすっかり顔面蒼白のルートヴィヒに側近も慌てて駆け寄る。

「陛下、お気を確かに。」

「屈辱だ・・・朕は魔族に抗して人間界を打ち立てし勇者の末裔ぞ?たかだか城持ち風情どもに敗北を喫して、このままおめおめと引き下がれるものか。今すぐ大軍を差し向けて奴らを・・・」

「お待ち下さい陛下。今は内政の安定を図るべきでございます。各地で不穏な動きもありますれば、臣民にのしかかった負担が大規模な反乱のとば口ともなり得ましょう。」

「くっ・・・この程度のことすらままならんとは情けない。」

人類最大の版図を誇るエルステルリンゲン帝国ではあるが、内部に様々な火種を抱えてもいる。外征の失敗は即座に内政へと跳ね返ってくる危険と常に隣り合わせだった。

「よろしいでしょうか陛下。」

「何だ?」

もはや政治的会合に一切興味を失い、趣味の天体観測に逃避したくなったルートヴィヒは忌々し気に応じる。だが何か言いたげな枢密顧問官は皇帝の不興を買うとは微塵も頭に無いようだ。

「兵士どもが少しばかり面白い話を持ち帰って参りまして。」

「面白い話?もったいつけずに話して見よ。」

「はっ。兵士どもが言うには、センダルタ城にアビムリンデを見たと。」

枢密顧問官のとっておきに皇帝がうんざりした表情を返す。どうにもお気に召さなかった様子だ。

「アビムリンデだと?それは・・・あの世界樹から出奔したとか言うアルベリヒの娘か?」

「左用にて。」

皇帝の反応とは裏腹に、枢密顧問官はしたり顔だ。しかしそれがますます皇帝の興を削ぐ。

「ふん、百数十年も前の話ではないか。真偽不明のよくある噂話だ。どうせ見目麗しいエルフの女を見て当てられたにすぎん。そんなものは兵士どもの戯れ言よ。」

踵を返して円卓を後にしようとする皇帝にすがりつくように声をかける。その枢密顧問官も自らの話しぶりがまずかったと察したのか話をつなごうと必死だ。率直に要点だけを伝えねば折角の特ダネも腐らせてしまいかねない。

「お待ち下さい陛下。私も最初は陛下と同じ感想だったのですが、どうもそうとばかりも言えぬようなのです。

もううんざりとばかりに円卓の席を立ったルートヴィヒだが、まだ枢密顧問官は噂話以上の何かを持っているようだった。わずかに気を引かれた皇帝は再び席につく。

「ほぅ・・・眉唾ではないと申すか。」

「はい、そのエルフはアビムリンデ当人であってもおかしくないほどの尋常ならざる力を持っておるのです。話によると繰り出す魔術もさることながら、どこからともなく魔物を召喚するらしいのです。」

「まことにそんなバカげた話があるというのか!」

もったいつけて不興を買う寸前ではあったが、さすがに皇帝も興味を惹かれずにはいられなかった。同じくそれを耳にしたその他の枢密顧問官たちも一斉にザワつく。

「はい、下級兵士どころか将兵まで皆が口をそろえてそう言うのです。どうやらそのエルフ、辺境地域の冒険者として活動しておるようでして・・・」

「もしも本当の話ならば間違いなくA級冒険者であろうな。あるいはそれ以上も・・・伝説の召喚術士?ふっ・・・まさか。だが、それならば何故そのエルフは我が帝都で活動せぬのだ?」

「おかしなのはまさにその点なのです陛下。このエルフはC級なのです。」

「そこまで調べがついていて、面白いも何もあったものか。時間を無駄にしたわ。」

C級の冒険者がアビムリンデのはずがない。やはり何かの間違いだと円卓に失笑が広がる。

「いえ、そこで終わりではございません!此奴はどうやら故意に等級をごまかしておるようなのです。記録を遡ると昇級辞退が連綿と続いておりまして・・・」

「一度ならず何度も・・・それほどまでに昇級したくない事情があるということか?」

「おそらくはB級から発生する国家への情報提供を厭うておるのではと推察いたします。」

「けしからん!ケモノめいた亜人でもない限り、A級ともなれば身分保証も与えておるというのに。いったい何が気に入らんというのか?」

「素性が明るみになるのを恐れておるとしか思えません。しかしそのくせ、何故かアンダシルヴァには手を貸しておるようです。我が軍との戦闘においては全魔術師の火力発揮と魔術障壁を一手に指揮していたとのこと。」

「何?まさか性懲りもない乞食海賊アンダシルヴァがエルフを仲間に引き入れたとでもいうのか。やはりそうなるとエルフのバカげた能力の信憑性が高まるな。」

「まことに遺憾ながらその可能性が高うございます。」

「これは参った。こちらに引き入れることが叶わぬならばそのエルフを抹殺せねばなるまい。」

「陛下、もしも本物のアビムリンデであれば政治的に大きなアドバンテージになりましょう。何年経っても北方を攻め落とせぬ教皇に大きな貸しができますぞ。」

「ふむ・・・殺さば御の字、捕縛はなお良し。となれば、ガイアロドハイムで断ち切られた辺境地域へどのように兵士を派遣したものか。」

「兵士では目立ちましょう。何よりガイアロドハイムを占拠しているギルビーの犬どもは鼻が利きますので、無駄な犠牲が増えてしまいます。」

「ふむ、誰ぞ妙案はあるか?」

「陛下、私に考えがございます。」

枢密顧問官は自信たっぷりに声を上げると底意地の悪い笑みを見せた。

***

「やれやれ、ようやく私もお役御免なのだな。」

見目麗しいエルフのリアンは表情を緩ませる。
リーファがセンダルタ城を去り、グラムスに帰還した後もリアンはグラムス代表として残り続けていた。未だ予断を許さない状況のため、状況判断して自ら采配もできるとなれば候補は限られる。そこでアンダシルヴァと渡り合う胆力をも兼ね備えたリアンに白羽の矢が立ったのだ。

そしてどうやらガイアロドハイム争奪戦も決着が着いたようで、戦況もほどほどに膠着したことからリアンも帰還の運びとなった。

「ふっふっふ、さぞ肩の荷が下りたことだろう。それもそのはず、このトーラスが交代でやって来たのだからなぁ。リアン以上に頭の回るこの俺だ、安心してグラムスへと帰るが良い。」

何やらムダに挑戦的な言葉をもちいて胸を張るトーラスを横目に、グラムス代表を引き継ぐレダムがリアンの労をねぎらう。

「ま、まぁ後は俺たちに任せてくれリアン。本当に大変だったろう、帰ってゆっくり休むといい。ご苦労さん。」

「ありがとう。まさかレダムとトーラスが来てくれるなどとは思いもしなかった。後任にこれ以上の人選など私も思いつかない。ふふっ、グレンも思い切ったものだな。」

「面と向かってそう言われるとさすがに照れるぜ。なぁ、トーラス。・・・トーラス?」

レダムがトーラスに問いかけても全く返事が無かった。不審に思ったレダムがトーラスの方に振り向くとトーラスは目を丸くして、口も開きっぱなしになっているではないか。いったい何事かとレダムも思わずギョッっとした。

するとそれが合図とでも言わんばかりにトーラスが再起動する。何やら顔を紅潮させて嬉しげにしているようにも見えた。

「へ?・・・あぁ。リアンもわかってるじゃないか。そう、このトーラスがグラムス最高の秘密兵器だということを。」

「あぁ、とても期待している。それでは私もここでおいとまするとしよう。」

「おい、どうしたトーラス。さっきからどうもお前らしくないぞ。どこか調子でも悪いのか?」

「いや、今日は俺にとって思いがけず幸せな日というだけだ。心配かけてすまないが、気にしないでくれレダム。」

「そ、そうか。なら良い。」
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