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参事たちは僭主を夢見る

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何だかんだ文句言う割に最後はクラウスに任せるんじゃん。もういっそのことクラウスが全部決めちゃえば全て順調に回るんじゃない?何でクラウスは二十三人会なんて枠組みを維持し続けてるんだろう・・・

「もうクラウスの影響力があれば実力で自分の思い通りにできるんじゃないの?」

「実はワシも常々そう思っとるんだ。だがワシがそれを言ってもお義父さんは決して首を縦に振らんのだよ。」

「え、何で?」

「お義父さんが言うには二十三人会に対立があるからこそマルトリス同盟およびグラムスは発展するらしいのだ。」

どういうことなのか全く意味がわからん。そんな面倒な会合なんて私だったらぶっ潰しちゃうのに、一体どんな意味があるんだろう?むしろ足を引っ張ることしか考えてない参事ばかりじゃないのさ。

「何じゃそりゃ?今の話を聞いた限りだと底意地の悪い足の引っ張り合いにしか思えなかったよ。本当にそんなことをクラウスが言ってるの?」

「うむ、グラムスに僭主が現れようものならその時にマルトリス同盟の命運も尽きるだろうと言うんだ。どういう事なんだろうな?」

どうやらトマソンもあまり納得していないらしい。トマソンはどちらかと言うとまどろっこしいのが嫌いな点で私と考えが近いからなぁ。でもアミルは違う考えのようだ。

「おっちゃんもリーファも何言ってるん?そんなの当たり前なん。」

「え、わかるのアミルちん?」

「何と、アミルはお義父さんと同じ考えなのか?」

「ワガママやりたい放題のイジメっ子が現れたら誰も逆らえないん。ワガママをみんなで抑えてイジメっ子が出なければ、みんながノビノビできますん。」

わからん。例えが卑近すぎて逆に難しい・・・果たしてそれがクラウスの言わんとすることと近しいのかどうか

「う~ん・・・何となくズレているような~、かと言ってそこまで遠くもないような~」

「いや、遠くはないのかもしれん。自らの利益のために市民の利益を犠牲にする輩は徹底的に排除しなければならないとワシはいつも聞かされとるからなぁ。」

「え~、二十三人会って隙あらば自ら僭主になりたがっている人の集まりにしか見えないんだけど?」

「相手に力を持たせないように、野心を隠してみんなを説得するのん。みんなの利益になることなら相手を説得しやすいん。対立派閥が増えるほどますます説得に傾くのんな。」

確かにユグルト伯爵みたいにヤバい人間が力を持つようなことが無くなる仕組みなら・・・それなりに意味はあるのか。改めて意味を考えないと何とも無駄なおしゃべりにしか見えないもんだなぁ。

「ん~、利己的になればなるほど全体の利益に配慮せねばならんということか?何ともひねくれた理屈だなぁ、まるで意味がわからん。ワシこういうの苦手。」

「でもその方がみんな競って知恵を絞りますん。自分のワガママをみんなの利益に調和させようとするのんな。最悪を避けるためにこそ凡庸に耐え忍びますん。」

独りよがりの考えよりも洗練されるって側面もあるんだろう。権力を独占した人間が必ずしも善良とは限らないから、いざと言う時に暴走しないよう歯止めが無いと困るんだろうなぁ。この面倒くさい二十三人会にも大事な意義があるってことを言いたいのか?二十三人会があって~それとは別に市長もいて~・・・

「うへぇ、アミルちん。そろそろ私ついていけなくなるよぉ~」

対立を制圧して自ら僭主になろうものなら、いずれ子や孫が責任を負わされるだろう。永続きさせるのは至難の業だ。それが嫌なら僭主になろうとしてはならないよとモーゼルトに言われたことを思い出した。それはまるで僭主に課された呪いだ。

「キシレム制圧もきっと同じなん。」

「何故キシレム?」

「どういう事だ、アミル?」

「イジメっ子の帝国、意地悪候爵、アンダシルヴァ、ロンバールでにらめっこなん。ワロタら負けなのん。参加者が多いほど勝負はお預け、夕焼け小焼けでまた明日なんな。」

「わからん・・・輪をかけてわからないよ。頼むからわかるように教えてよ、アミルちん」

「ちょいちょいアミル語がバチコーン飛び出して来るが、言っとることは何となくわかる。互いににらみ合って動けなくすることが利益になるのだな?」

「アミル大先生、含蓄が深すぎます。通訳がいないと受け流しちゃうよ~」

アミルは普段こんなややこしい話はしないのに、実はアタマの中ではいろいろ考えてそうだなぁ。ひょっとするとニコみたいにキッチリ勉強させたらアミルも化けるかもしれない。きっと人それぞれに得意不得意はあるから・・・勉強って私の性には合わなかったけどね~えへへ。後でマルティナに相談して見よう。

「むふん、アミルは決しておバカではないですん。」

「そんなヒドイこと誰も言ってないよ、アミル?」

「昔、村のイジメっ子にからかわれましたん・・・グスン。」

アミルは嫌なこと言われても怒って反論するような気の強い性格じゃないもんなぁ。今でこそそうでもないけど、一緒に暮らし始めた当初はメリエル以外になかなか打ち解けなかったんだ。

「何ぃっ、ワシは絶対に許さん!そりゃどこのどいつだ、アミル。」

「でもそのイジメっ子も飢饉の時に・・・」

「そ・・・そうなのか。ワシも貧しい環境で育ったが、それでも食い物だけは何とかなった。それとはまるで比べものにならんほど厳しい環境だったのだなぁ。何ともやるせない気持ちでいっぱいだ。」

「でも今はロミアとマリンがはるばる村まで作物を買い取りに行ってくれますん。行商のおかげで村に活気が戻りつつあるらしいん。ほっこり幸せなんな~」

「グスッ、健気だなぁアミル~。グレたなんて言ったワシを許してくれ。」

「アミルは仮にグレても健康優良不良少女ですん。そこんとこヨロシクなのん、べいべぇ。」

「うんうん、ワシはよ~くわかっとるぞアミル。お前は良い子だ・・・ん、べいべぇ?何だそりゃ?」

「巷を賑わす流行っちまったアイサツですん。」

何やらさっきからビシッとポーズをキメているアミルに対してリーファもトマソンもポカンと見つめていた。もしやこれにも何か特別な意味があるんだろうか?微妙な空気を打ち破るべくリーファがつぶやく。

「そんなの・・・聞いたことないよアミル?」

「おっちゃんもリーファもこのアイサツを使うとあら不思議、運勢がアップしまくって道端の小銭を拾えますん。」

「ワシ・・・小銭拾ってもなぁ~」

「途端に胡散臭くなったな・・・まぁ何にせよキシレムに関して私にできることも無いし、しばらくはお家でのんびりするかぁ。」

特にこれといった重要な意味も無さげなので、華麗にスルーすることにしたリーファが大きく伸びをする。すると掃除当番のイーリスが床をモップで拭きながらやって来た。どうやらここらで一息いれるつもりらしい。

「おっ、ボーネランドさんじゃん。こんちわ~。こんなところで何してんの?」

「おぉ、イーリス。お邪魔しとるよ。」

「また会ったなアミル、べいべぇ!」

「イーリスも元気そうで何よりなのん、べいべぇ!」

不思議なアイサツの応酬を目の前にリーファの目が丸くなる。どうもアミルのおふざけではなかったらしい。もしやただ単に自分が流行に乗り遅れているだけなのではないかとリーファに動揺が走った。

「謎のアイサツの使い手がいた!しかも家族・・・もはや巷どころの話じゃねえっ!」

「おっ、ラッキー!こんなところに銅貨が落ちてる~、むふふっ役得役得。」

「小銭拾うんかい!」

「何だよリーファ、これは私が見つけたから私のだかんね。」

拾った銅貨を握りしめて抗議するイーリスの様子を見ると、どうやらいらぬ誤解を与えたようだ。だが問題はそこじゃない、アミルがちょいちょい垣間見せる得体の知れない何かなんだが・・・

「いや、拾った銅貨はイーリスのもので良いと思うけど・・・」

「もしかして仕込みか?だがそれにしては手がこんどるようにも思える。」

「一切ヤラセなしなのん。アミルはいつでもガチンコ勝負ですん。」
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