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ワールド・ワイド・ワイルド〜羊娘アミルの徒然なる休日〜

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「絶体絶命の大ピンチ、そこにシンディーちゃんさまの大魔術が炸裂したわけよ」

「そ・・・それで、帝国軍はどうなったん?みんなは助かったん?」

シンディーの部屋にあるベッドに腰掛けて何やら真剣に聞き入っているのは羊娘のアミルだ。どうにもクライマックスらしく、話し手以上に聞き手の熱量が上がっている。シンディーの次の言葉を固唾をのんで待ち受けていた。

「聞きてぇかアミル?」

「うん!聞きたいのん。」

鼻息を荒くして強くうなずくアミルだったが、ドア越しに苛立ったティナの声が割って入った。

「何してんのシンディー、早くギルドに行くよー。もう馬車を待たしてるんだからねー」

「んあっ!もうそんな時間かよ。やっべ」

ベッドから飛び起きたシンディーは慌てて服を着替えると、一目散にドアへと飛びついた。

「あぁ、その後どうなったん~?」

「悪ぃ、また後でなーアミルー」

「待って~最後まで聞かせてほし~の~ん」

肝心なところでお預けをくらってしまったアミルは主のいなくなった部屋でしばし呆然となる。だがいつまで居座ろうとシンディーが帰ってくるのは何時間も後のことだろう。アミルは諦めてシンディーの部屋から出ることにした。

「あぁ・・・肝心なところを言わずにFLY AWAY。フヒヒ、せつなすぎて逆にワロたん・・・」

「どうしたのアミルンルン?何か面白いことでもあったー?」

アミルが振り向くとそこには同じく羊娘のメリエルが立っていた。いつもながら人懐っこい笑顔でアミルの顔を覗き込む。

「シンディーの武勇伝を事情聴取で洗いざらい自白させてたん。」

「あれぇ、武勇伝って自白させるものなんだっけ?」

「早朝のガサ入れで身柄を押さえたん」

しばらく家を留守にしていたシンディーは帰ってきたら帰ってきたで色んな姉妹にからみに行くので、アミルが話をするチャンスに恵まれなかった。じゃあいっそ朝一番にシンディーを確保すればいいんじゃね?とカチコミを決行したというわけだ。さすがのシンディーも飛び起きたのは無理もない。

「アハハハハ、そりゃエラい迷惑だねー」

「そんなに怒ってなかったから大丈夫なん」

怒るというよりも怯えるといった方が正しい表現だろう。きっちりバッチリ迷惑この上ない所業ではあるが、アミルの発した言葉にその真実は乗らなかった。

「謎のアミル理論だなぁ・・・だが独創的。謎学会への発表間近と見ましたが、いかがですアミル博士?」

「他の追随を許さない独創性。不世出の鬼才、アミルが世の中にとうとう発見されてしまいましたん。とほほ・・・」

「アミル大先生のお考えは?」

「ムフフ・・・満を持して発表するつもりですん!」

「ついにの長年の研究が報われるわけですね・・・うぅぅぅ」

アミル大先生が胸を張るとメリエル記者がさめざめと涙を流す・・・こ、この女

「発表目前で他人の手柄を横取りする気満々ウーマンなん。さすがメリエルンルン・・・侮れないワルウーマンなん。」

「フフ、できる女はみんなワルなのだよアミルンルン。」

ゴゴゴゴゴゴ・・・・

「育ちの悪さダダ漏れなん。激しくAKOGARE YEAH!」

互いに思い思いのポーズでビシッと決めていると、何やら後ろから呆れたような声が投げかけられた。

ズギュ~ン!!

「何やってんの、アンタたち・・・」

「わーん、私としたことが背後を取られたンゴ~」

「容易く背後を取られるなど未熟の極み、ワルの称号は返上なん。メリエルンルンは狼の皮をかぶった素ウーマンなん。ワロた。」

「くぅ・・・私のプライドはもうズタズタよ。どうでもいいけど今日のお昼フライドチキンにしない?」

ゴゴゴゴゴゴ・・・・

偶然通りかかったウサギ娘のイーリスは目の前のまったく沈黙しない羊たちに恐れおののく。おそらく同じ論理の地平で生きているわけではないことだけは理解した。

「まったく流れが読めない。何なんだ?」

「流れは読むものではなく乗るものなん、イーリス。揚げ揚げチキンで気分アゲアゲ、魁るんるん丸なん。」

「るんるん丸?」

「決まりだね、イーリス。」

「何が?」

「チキン同盟」

「えっ、私も入ってるの?」

「ほら、早く」

見るとメリエルとアミルがそわそわしながら右手を上に重ねている。チキン同盟結成のために一丸となる儀式なのだろうが、あらためて催促されると無性に腹立たしさもこみ上げて来るような・・・

「いや、しねえよ。まぁ別にフライドチキンに反対もしないけど。」

「イーリスは照れ屋さんなん。」

「ほら、早く」

「何なんだよ、しょーがねーなー」

しぶしぶイーリスがメリエルとアミルの手に自分の右手を重ねる。するとメリエルがアミルとイーリスそれぞれに目配せをした。

「フライドー」

「おー!」

「掛け声・・・それで良いのか?いや、良いや。」

何かグダグダな掛け声とともにチキン同盟は空中分解してしまった。

「あ、そろそろ厨房に行かないとエルマにどやされちゃう。じゃーねーアミルン。」

「また会おうぜべいべぇ」

「べいべぇ?何それ?」

「店に来てた冒険者が言ってたん。イカすアイサツですん。」

「いやぁ・・・ダサいかキモいかで言えば、その両方だな。そのアイサツだけはやめとけ。」

イーリスの忠告にアミルが眉尻を下げる。思いのほか気に入っていたようだ。

「世の流行り廃りはあっという間ですん。」

「べいべぇは流行ってないし、何なら流行が何周しようともべいべぇの出番はないと思う。」

「そうなん?じゃあ何して遊びますん?」

べいべぇが否定されてもダメージが深いわけではないらしい。いつまでたっても流れに乗れないイーリスはそろそろ流されそうだ。

「いや、掃除道具持ってる私が暇そうに見えるかアミル?」

「イーリスならそこに無限の可能性を感じますん。」

「期待させといて悪いけど、私は今日一日清掃係なんだよ。ウチ広いからマジ大変なんだよねー・・・手伝えよアミル。」

「遠慮しときますん。私は先々週やりましたん。」

家をきれいな状態に保つのもけっこう手がかかる。当番制でそんなにしょっちゅう回っては来ないものの一日仕事だ。せっかくの休みを棒に振ることなどできない。

「ったく、人数多いしすぐ雑然とするんだ。少しは身の回りに気をつけろっての野生児どもめ!」

「ワールドワイドワイルドなん。文明的生活の中でも決して野生を忘れないん。」

「人はそれをだらしないって言うんだ。」

「せっかく歴史に刻まれる名言を世に問うたのに五文字に集約されたん。じつに世知辛い・・・ってそれ何味なん?」

「何味なんだろうな~?とりあえず辛いんじゃね?じゃあ私は掃除してくるぜ、べいべぇ!」

「べいべぇ!・・・流行の予感をひしひしと感じますん。ワロた。」

ゴゴゴゴゴ・・・・・

あれだけべいべぇに否定的だったイーリスをオシャレ陣営に取り込んだことにアミルはこの上ない手応えを感じるのだった。すると今度は目の前の部屋のドアが開き、中から人が出てきた。

「ふぁ~あ~・・・」

「あれ?リーファなん。」

「・・・むにゃ、おはよ~アミル」

眠い目をこすり近づいて来るのは姉妹の中でも最重要人物のリーファだ。だがここでアミルに一つ疑問が浮かぶ。

「シンディーとティナはギルドに行ってしもたん。」

「あぁ、アイツらはギルドへの申述があるんだよ。」

「リーファはサボリーファなんな。」

「サボリーファ?変なあだ名なんてつけないでよアミル~。私のはもう終わったんだってば。」

「ふぐぅ~ん・・・」

リーファが抗議すると突然アミルがアタマに手を当てて苦しげな声を上げているではないか。何か体の不調があるのかもと心配になったリーファが慌ててアミルに駆け寄る。

「うわっ、どうしたんだアミル!」

「お詫びのしるしに私のツノあげますん」

「い、いらないってば。痛いならやめとけ」

何でそんな話になったんだ?といった思考がまるわかりな具合にリーファが首をかしげている。ここは一つ、軽いウィットでなごませるのんとアミルが上手いことを言おうとした。

「ツノだけに、丸くおさまりましたん。めでたしめでたし」

「ん?ツノが丸くおさまる・・・どういう状況だ?」

どうやら時代はさらに混迷の度を深めたようだ・・・

「ふぐぅ~ん・・・」

「やめろ~、アミルの気持ちだけで胸いっぱいだから。」

またぞろ痛々しい努力を見せつけられちゃかなわない。これ以上のお詫びはまっぴらごめんだ。アミル・・・おそろしい子!

「それを聞いて安心しましたん。一時はどうなることかと」

「あ~それ私も思った~。ツノを差し出す風習はグラムスには無いからここではやらない方が良いよ、アミル。」

「ツノを差し出すのは今おもいついたん。決して風習ではないん。」

「マリンがいたらよだれを垂らして飛びついて来るボケ倒しだね。私じゃアミルの才能を持て余すよぅ。」

「アタマ隠してシリ隠さず、またもやアミルの才能を世間に嗅ぎつけられましたん。とほほ・・・」
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