幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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溶けた戦場

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「何故に魔術師団が直接攻撃を受けているのだ?何故モンスターが虚空から現れる?」

帝国軍首脳が一同に会する本陣には得体の知れない怪情報ばかりが届いていた。魔術師団の護衛の兵をすり抜けてどこからともなくモンスターが現れているなど、何かの間違いとしか思えないのだ。
先の報告にあったワーウルフも意味不明ながら、今度は巨大なギガントサーベルタイガーの襲撃を受けたなどとは論外にも程がある。誰もふざけていない分よけいにたちが悪いもので、帝国軍首脳陣はもはや脳みそが溶けそうになっていた。

「不確かな情報ですが・・・」

「何だ!」

「兵どもから召喚士なのではという声が上がっておりまして・・・」

将軍の不愉快そうな声に報告をする伝令の声も尻すぼみになっていく。ただでさえ悪い夢でも見せられている心持ちにあって、追い打ちをかけるがごとく召喚士と来たのだ。将軍たちももはや空いた口が塞がらない。

「馬鹿な、おとぎ話などを真に受けおって!そんなものはトリックにすぎん、御託を並べる暇があったらトリックを突き止めろ!」

将軍に一喝された伝令は苦渋の表情を浮かべつつ再び戦場へ身を投じる。だが耳を疑う報告はまだまだ序の口だった。荒唐無稽な真実が飛び交うほどに現実が溶けて行くシュルレアリスムの世界を垣間見ることになろう。
その一方、怪奇事件あふれる戦場では死にものぐるいで戦う冒険者たちの姿があった。

「スアレス、突出しすぎだ!死ぬぞ、周りが見えてねーのか!」

「足りねえ・・・どっからでも来い!」

スアレスは冒険者の戦列からどんどん踏み出しては敵をなぎ倒す。さすがにそんな戦い方では討ち取られるのも時間の問題だろう。だがそんなことお構いなしと言わんばかりに突き進むスアレスの腕がブレる。次の瞬間にスアレスの腕は敵兵の視界から消えていた。

「うぐっ」

「あの野郎・・・一瞬だが腕が増えたぞ!」

「ヤツは危険だ、止めろ!」

スアレスはミリアールのクアッドファンタムを自分なりに考察し、モノにできないか悪戦苦闘を続けていた。何とかそれらしいモノはできたものの、ミリアールには遠く及ばない。

手首や腕全体を柔らかく、しなるように・・・それはつかんだ。だが本物のクアッドファンタムに比べて手数が足りない。その威力すらも全く異なるのだ。

「俺は絶対にクアッドファンタムをモノにする。いつまでもライバルの背中ばかり追いかけてたまるかよ!来いっ、全て叩きのめしてやる!」

「待てスアレス!・・・くそ、ラインを上げるぞ!あの大馬鹿野郎、もし生き残ったらブチのめしてやるからなぁ」

何度声をかけても一向に聞く耳を持たないスアレスに対して冒険者仲間も次第に苛立ちを覚える。スアレスの自分本位な行動は自殺行為と紙一重だ。
だが仲間の心配とは裏腹に、急に攻め寄せる帝国兵の圧力が目に見えて弱まった。理由はわからないが何やら城壁になだれ込んだ帝国兵に混乱が生じているようだ。

「おいどうした?おい・・・血だ、死んでる!」

「首が無くなったぞ!たった今だ・・・コイツの首が消えた、うわぁー」

「何が起きた・・・何だこの数は?いま何が起こったんだ?何が我らの仲間を殺した?」

ぎっしりと集まっていた帝国兵の一部が何の前触れも無く殺害されてしまったのだ。一部と言っても数十人どころではなく、それこそ数百人単位で刈り取られたかのようだ。

「何がって?そりゃあロードチャンセラー率いるホーネットなの!わかったら尻尾巻いて無様に逃げると良いの~。にゃ~っはっはっは~」

この惨劇をもたらしたのは死神などではない、妖精ロードチャンセラーだった。今も見えない恐怖にさらされ、恐れおののく帝国兵はジリジリと冒険者たちに押され始める。方や中央城塞を攻め落とそうと血気盛んに襲いかかっている帝国兵の一団と比べると奇妙な不均衡が生じていた。

「久遠なる黄泉つほむらのけぶあらば こごりて現ず殺生石なり 卑小なる我が身よりしろとなし 神祖の御験を示さん・・・五尾フォックスファイア・ファイブテイルズ

「ぬおぉぉ~何じゃありゃ~なの~!」

ロードチャンセラーが襲撃した地域とは距離を置いて、五つの巨大な火柱が上がった。触れる者を焼き尽くす青い炎、シンディーの代名詞とも言えるフォックスファイアだ。一度通常の火炎魔術を浴びて黄色い炎に置き換えなければ消火もままならない厄介な魔術である。それはなおも燃え広がり、帝国兵に甚大な被害をもたらしていた。

「どうだ見たか、これがシンディーちゃんの軽~い肩慣らしじゃい!」

「ってか狐・・・肩慣らしとか言う割に顔面蒼白なの。」

「輝く白い肌ってやつだ。」

「なんなら片膝ついてへばっているようにも見えるの。」

「バッキャロー・・・じゃなかった、チャンロー!・・・ん?とくに区別する意味はないのか?」

悪態をつく余裕も無いのかシンディーはそのまま這いつくばるようにして地面に身体を預ける。身体を起こそうと腕に力を入れるもののヨロヨロとするだけで、もはや起き上がることなどできなかった。

「狐はそのままロードチャンセラーに対して低姿勢をとり続けるといいの。いい気味なの。」

ちっ、五尾ですらまだアタシにゃ早かったみてぇだ。いつか九尾を・・・

「きゅ~」

「気絶しやがったの。」

シンディーはどうやら魔力が枯渇してしまったらしい。ロードチャンセラーは無防備なシンディーを保護するため即座に数匹のハニービーをあてがった。

狐の側にはロードチャンセラーがいるんだから狐ってばそんな無茶しなくたっていいの。ったく、安心してゆっくり休むと良いの。

「よくやってくれたシンディー、ロードチャンセラー。おかげで帝国兵がこちらを警戒して二の足を踏んでいる。このまま力を温存しつつ時間を稼ぐ、我らは損耗しないだけで良いのだ。」

「かしこまりなのリアンさま!」

***

本陣では後方地域からの伝令が到着したのだが、どうにも様子がおかしかった。まるでどこか別の戦場からやって来たかと見まがうほどズタボロになっている。命からがらやって来たと言わんばかりだ。

「きっ緊急・・・がはっ」

「何だこの者は?ボロボロではないか」

「将軍、これは緊急伝ですぞ!」

側近の将校は後方地域から駆けつけた伝令の書状を広げて内容を確認する。

「どうした、ようやく兵糧に都合がついたのか?で、それはいつ届く?」

「これはとんでもないことになった・・・」

書状に目を通す将校の手が震えている。そのただならぬ雰囲気に何か厄介な問題が生じていることがうかがえた。現在は戦のまっただ中、後方地域のことは後方地域で処置してもらいたいものだと将軍も辟易とした表情を浮かべる。

「違うのか?だとしたら何だね、早く言いたまえ。」

「西部拠点要塞ガイアロドハイムが・・・攻撃を受けております」

「馬鹿な!国内の反乱か?」

「ぎ・・・ギルビーだそうです」

ギルビーの名を告げられた司令部全体に衝撃が走る。この狙いすましたかのようなタイミングで最も聞きたくない名前だった。将校たちの顔が一様に青ざめているほどだ。

「そんなわけあるか!バシレウス国境からガイアロドハイムまでにハリス伯領やラザワル伯領などもあるんだぞ。その他にいくつか男爵領だってあったはずだ。」

「攻め落とされたか、あるいは・・・」

バシレウス国境からどれほど離隔していると思っているのだ。領主たちが抵抗していればガイアロドハイムまでどんなに早くとも数週間はかかる。ま、まさか・・・

「素通りしたのだ・・・ハンザルム地方の貴族たちが寝返った。そうでなければ何の予兆も無くガイアロドハイムを襲撃できるものか!」

「マズい、あの要塞が押さえられては帝国の存亡に関わる。よりにもよってギルビーがガイアロドハイムを手にするなど絶対に許容できんぞ!」

ここでセンダルタ城を陥落させている時間は・・・いや、今からガイアロドハイムに向かうとして間に合うのか?しかし中央が戦力を整えて対処する時間などあるまい。動けるのは我らだけ・・・

「将軍、直ちに兵を差し向けねば手遅れになってしまいますぞ!」

「・・・」

「将軍!」

「・・・兵を退け。これより直ちに我が軍はガイアロドハイムへ転進する。」

「はっ!」
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