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負けないでもう少し

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 「唐突に自爆しないのはありがたいけど、おそらくこの数はさばききれないよ。」

大軍に攻められている状況はものすごい既視感なんだけど、前回よりも圧倒的に激しいなぁ。もうこんな状況はたくさんだ。

「リーファさま、帝国魔術師団が再び攻撃態勢に入っております。」

「何ですと!」

センダルタ城の外縁部を崩壊させるのが私に与えられた秘密任務なんだけど、外縁部の城壁を完全崩壊させて冒険者たちは無事でいられるだろうか?本当にこのまま流れに乗っても良いのか?
帝国魔術師団が側壁をさらにぶち抜くのに目をつむるとグラムスの冒険者ごと持って行かれそうだなぁ・・・それは困る。さすがに妨害しとかないとね。

「西側の帝国魔術師団に本物のワーウルフを20体投入しよう。私は魔術師200人をワーウルフ偽装するね。」

「おまかせください!」

ひとまず余計な横槍を入れようとしている魔術師団を混乱させておいてアンダシルヴァと帝国の兵士をぶつけないといけないんだ。とりあえず時間を稼ぐぞ。

「モンスターだ!」

「あぁ?こんな時にモンスターなんぞ放っとけ・・・って、何だあの数は!」

こんな戦争まっただ中に飛び込んで来るアホな魔物はいるはずがない。そんなことを叫んだ愚か者の顔を見てやろうと後ろを振り向いた兵士だったが、思わず二度見する。それもそのはず、とんでもない数のワーウルフが魔術師団のど真ん中にいるのを見て度肝を抜かれた。

「いつの間にあんな大勢のワーウルフが!あんな場所に侵入を許すなど・・・そろいもそろって魔術師どもの目は節穴なのか?」

「うげふっ・・・ごはぁっ?」

違う、俺は・・・声が・・・声が出ない!何だこれは?俺に何が起こったんだ?これは俺の手じゃないぞ!やめろ、俺は人間なんだ
声が出ないのでやめろとばかりに手をふってジェスチャーするワーウルフだったが、目の前の魔術師は意に介さず詠唱を終えた。

「消えろ!」

あ・・・あぁっ!あの野郎、何の躊躇もなく俺に魔術を放ちやがった・・・防御が間に合ったから良いものの。もうお前らは全員敵だ、皆殺しにしてでも生き残ってやる。

「ちっ!こいつ魔術を防御しやがった。こいつの魔術レベルは案外高いようだ、連結詠唱で仕留めるぞ」

くっ、何とか逃げなければ殺される。チクショー、殺されてたまるか!この俺がいつまでも黙ってると思うなよ、喰らえっ

「おっ?あのワーウルフは粘るねー。」

既に半数以上のワーウルフが仕留められた中でひときわ目立つ個体がある。あのワーウルフ、しばらく孤立無援の割には複数人相手に包囲網をもう少しで突破しそうなんだ。ここまで来たらいっそ凄腕のアイツにはもう少し粘ってもらいたい。

ちなみに私は前回の戦闘で精神感応レベルが上がったせいか、ターゲットから言葉を奪えるようになったんだ。つまりは仲間に命乞いをして時間を稼ぐなんて真似はできなくなりました。
まぁどうせ本物のワーウルフも一緒にバラまくから戦闘が収まったとしてもわずかな時間に過ぎないんだけどね。

「バトラー、アイツの周囲の魔術師をまたワーウルフ偽装するからまた本物20体お願い。」

「ダンジョンコアには余力がありますのでまだまだ投入可能です。本当にその程度でよろしいのですか、リーファさま?」

「魔術師団の方は陽動だからあの程度で良いとして~、魔術師よりもむしろ数万の帝国兵をどう押し止めるのかなんだ。」

いざとなれば方法はいくつかある。選択肢はホーネット=ランサー、ダンジョンコア、幻術の3つ。
まずホーネット=ランサーは一回しか使えないから、飽くまで切り札なんだよ。ゴリ押しできるけど上限は5000。フルプレート帝国兵を直接無力化するにはランサーしかない。

ダンジョンコアを全力投入して帝国軍を押し返すこともできるんだけど、ダンジョンコアで投入した魔物は敵味方関係なく襲いかかるから使いどころが難しい。場合によっては自分の首を締める恐れがあるんだよね。
一番使い勝手が良いのは幻術ってことになるのかなぁ?

これらを上手く駆使すれば数万の帝国兵相手に勝利するのは難しくても、とりあえず敗北は無いと思うんだ。アンダシルヴァとの共同作戦上も私個人の秘密任務からしても、ここで勝利にこだわる必要なんて毛頭ない。

「帝国軍からの蹂躙を阻止しつつアンダシルヴァの兵士を戦わせるって微妙な調整がやっぱり難しいなぁ。」

とりあえずあのワーウルフにもう少し時間を稼がせて混乱に拍車をかけるのが正解と見た。おっ、城壁攻略に向かっていた兵士の一部がワーウルフの鎮圧に向かったよ?へっへっへ、まだまだ怪奇事件は続くんだ。

戦況をコントロールしようとする悪リーファの一方で、限界ギリギリの戦闘が続くアンダシルヴァ王国軍首脳は決断を強いられていた。

「このままでは城壁が突破されるのも時間の問題です。」

「将軍、どうすればよろしいでしょうか?」

「面白くない動きだ・・・」

形勢逆転の奇策を求める兵士に対してベロー将軍はまったく的外れな応答をする。あまりに不謹慎な態度と受け取った兵士が憮然とした表情でベローを非難した。

「面白くない?こんな時に何をおっしゃるのですか!」

「兵を下げよ。中央城塞まで防衛線を下げる。」

「何故そんなことを・・・まさか将軍はこの戦を投げたのですか!」

先ほどの非難に対して投げやりにでもなったのか不安になった兵士が顔を青ざめさせる。しかしベローは意に介する様子も無く、自らの見解を開陳し始めた。

「グラムスの動きが鈍い。彼らは西方審問騎士団の特殊部隊を全滅させたのだぞ?何か意図があって全力を出していないのだ。」

「そう言われれば・・・いや、だとしても兵を下げるなど自殺行為ではありませんか?」

「グラムスの部隊は城壁で孤立する。そうなれば意地でも本気を出さざるを得まい。」

グラムス側にベロー将軍の言うような不真面目さは感じ取れないものの、帝国軍と直接剣を交えているのが現状アンダシルヴァ王国軍のみであるのは事実だった。
それが別段仕組まれたものとも思えないが、グラムス側をエサに活路を開くこともあるかもしれない。

「わかりました、ベロー将軍。」

戦場を切り分けるのは~、この私だぁ~!と密かに思っていたリーファが異変を感じる。

「ん、私の気のせいかなぁバトラー?何かアンダシルヴァ兵がどんどん後退してない?」

城壁の内部に帝国兵が入り込んでる・・・ってか後退が早まってるじゃないか!何で急に城壁の大穴を放棄したんだよ?あそこで帝国兵の侵入を阻んでたのに!

「気のせいではございませんリーファさま。このままではグラムス側が味方から分断されて孤立してしまいます。」

あの様子だと撤退なんて絶対に知らされてないよ。ガウスが部隊を孤立させるなんてヘマをするはずないもの!
ガウスがしきりに大声を上げて各部に指示を与えている。いつもはドンと構えていて周囲に絶大な安心感を与えているガウスがあれほど慌てているなんて今まで一度たりと見たことが無い。

「あの場所は死守しなければならないはず・・・。だとすると我らの動きに不審を抱いたアンダシルヴァ側が故意に兵を退いたのではございませんか?」

「えーっ!そんなのヒドいよー!」

チクショー・・・でも人のこと言えないかもしれない。でもそんなすぐにバレるような手の抜き方なんてしてなかったはずなのに。
この場で手心を加えているのって私とガウスだけで、他の冒険者たちは全力で戦っていたよ?

「わずかな違和感を感じ取る鋭い者がいるのかもしれません。」

「ミリアールかなぁ?」

「かの者は近衛隊長なので国王アルフォンスの側にいるはずです。」

「そう言われればそうだった。だとすると戦場にいるのは~・・・ベロー将軍ってこと?」

「おそらくそのように思われます。」

「くっ、私たちじゃあ将軍を騙せないのか~。」
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