幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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追い詰められたのはどっち?

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「うがぁっ」

「怯むなっ、進めー!」

突撃を敢行する兵士たちに6連装バリスタが命中して20人程が後方へと吹き飛ばされる。だがその犠牲者を膨大な兵士集団が一瞬で飲み込んでしまった。同様に数十台のバリスタから連射されているのだが、数万人の大軍勢に対してはそれも焼け石に水といった状況だ。今もどんどんセンダルタ城外郭に迫りつつあった。

「あれだけ敵がいたら目を閉じてても命中するんだよ!」

「ゥオラァッ!次弾装填よし、いつでも良いぜティナ!」

他の砲台では3人の装填手でバリスタの弦を引いているのだが、ここではマキアス一人で射出準備を済ませてしまっている。しかも一瞬で装填を終えるという神業まで見せているではないか。
さすがにマキアスはグラムスの守衛を何度も経験しているだけあって、バリスタの扱いには習熟しているようだ。力ずくながらも器用に六本一気に装填して行く様は圧巻の一言に尽きる。

「任せてよマキアス・・・そこだっ!」

「何てヤツだ・・・本当に一人で装填してやがる」

「っしゃーっ!上出来だティナ・・・ん?おいボヤボヤすんなコーエン、次の矢弾だ!」

「お、おぅ」

やべー・・・あんまりスゴすぎて呆けちまってた。マキアスはやっぱりバケモンだぜ。
気を取り直したコーエンは次の装填のために矢弾を腕いっぱい抱え込み、マキアスの下へと運んだ。

その一方でバリスタ砲台の更に上部に陣取る魔術師たちは帝国魔術師団に圧倒され続けてもはやすっかり意気消沈していた。連結魔術防御も全力展開した全てが貫通され続けているとなっては無理も無い。

まだ戦闘経験の乏しいシンディーもご多分に漏れず無力感に囚われてしまっているのだった。

「ヤバい、バリスタの弾幕程度じゃああんな大軍は止まらねーよ。かと言って魔術攻撃も通らないんだ・・・どうすりゃ良いんだ?」

「まぁ落ち着きたまえ、シンディー。」

「あれ見て落ち着いてられるかよリアン・・・はっ!」

「どうしたのだシンディー?何か思いついたのか?」

「そう言えばハイデルンがいたよな?シンディーちゃんの天才的頭脳はこうやっていつも真実にたどり着いちまうんだわ。何だ~、また生き埋め作戦なんだろ?それならそうと言ってくれよ~リアン。ふぅ~、心配して損したぜ~」

「ハイデルンは中央城塞の医務室で気を失っている。おそらく魔力枯渇であと2日は目を覚まさないはずだ。」

何ですとっ!じゃああの大軍勢とガチンコでやり合うってのか?リーファに聞いても何だかモゴモゴ言うだけだし、イタズラしたらティナは怒るし・・・万策尽きたんじゃね?

「終わった~」

「まだ終わってなどいないぞ、シンディー。」

「だってアタシらの魔術は敵の魔術師軍団に蹴散らされて、まともに直撃しないんだぜ?どうすりゃいいんだよ、お手上げだ!見ろ、アイツら魔術師だけでも1万人はいるんじゃねーの?」

「帝国魔術師団が大規模連結魔術防御を行使できるのは自軍と敵との間に距離がある時だけだ。ヤツらと言えど連結魔術防御をきめ細かに展開して制御するなどできはしない。いよいよぶつかり合う距離になったら使えなくなる。だから我らの力を発揮するのはそれからなのだよシンディー。」

「でも魔術師団の魔術砲撃だって防御しなきゃ・・・」

「フフ、帝国魔術師団は背後から魔術を放つことはできない。味方に炸裂する恐れがあるのだから。」

「そ、そうか。魔術攻撃は飛んでこないってのか?よーし、やってやるぜ!」

「その意気だシンディー。もうそろそろ魔術防御の限界ラインを突破する頃合いだ、私の合図で一斉攻撃を開始する!」

グラムスの義勇兵を指揮するガウスの隣にいたリーファの耳にシンディーの元気な声が届いた。こんなヤバい状況でもあの極楽狐は通常営業なのかとリーファも呆れる。するとすぐにシンディーたち魔術師が一斉に帝国軍に向けて魔術を炸裂させていった。

「ん?何かシンディーが騒がしい。まさかリアンを困らせていないだろうな、アイツ?」

まぁ向こうにいるシンディーはさておき、帝国軍の動きが何か変なんだ。私も城壁の上から見てたんだけどね、センダルタ城を攻撃してた帝国魔術師団は数発大きいのを打ち込んで来ただけなんだ。
そして魔術が止んだと思ったら今度は一斉に兵士たちが突撃して来たんだよ。何でいきなり連結魔術攻撃をやめたんだろう?

「今度は力ずくでねじ伏せに来やがった。そりゃそーなるわな。」

「これだけ兵力差があって敵が圧倒的に有利なのに?」

そうなるのか?力ずくって言ってもさっきから魔術攻撃やバリスタ砲撃で結構な犠牲が出ているんだよなぁ。敵の心配するのも変な話だけど、何倍もの兵力があるのにあんな無茶な攻撃を始めなきゃならないほど切羽詰まっているの?理由がわかんないなぁ・・・

「ヤツらの見積もりだと今日の今頃はとっくの昔に制圧を終えていて、討伐軍を解散しているはずだったってことだろう。」

「え?そうだとしてもガウス、向こうが有利な状況は絶対にひっくり返らないよ?焦って飛び込んで来るなんてオカシイんじゃない?」

「リーファ、有利不利は必ずしも頭数だけじゃないんだ。むしろ頭数が多いほど食い扶持も膨れ上がる。」

「自分たちで持って来た食料が足りなくなったのかぁ。」

なるほど、食料が心許なくなれば戦争してる場合じゃなくなるよね。「死ぬ気で戦え、だがメシ抜きだ!」なんて言われた日にゃあ馬鹿馬鹿しくて脱走するよ。こんな戦争の最中じゃあ食べることだけが楽しみなのにね。

「ヤツらからすりゃ楽勝のはずだったから、手持ちの食料が底をつくなんて夢にも思ってねーさな。まとまった食料なんざロクに届いてねーと思うぜ。そりゃいきなり追加で数万人のメシを数日分送ってくれと言われても、かき集めて送るのだって難しいだろうよ。」

「なるほど、意地でも早期決着に持ち込むつもりってんだね。」

「その方がこちらにとっても都合が良い。腹を空かしたヤツらが食い物を求めて近隣の集落を襲ってもつまらんからな。」

都合が良いというガウスの言葉とは裏腹に、いたるところから敵兵が攻め寄せている。ハシゴが隙間なく架けられては間断なく襲いかかっている状態なんだ。やはりこんな時には何と言っても数がモノを言うよね。

「くそ、次から次へと!」

「マズい、向こうが突破されたぞ!死ぬ気で押し返せ!」

ん?あっ本当だ、向こうで城壁の上部を一部占拠されたみたい。まだバトラーたちを支援に出すほどではないけど・・・本当にこのままで大丈夫かなぁ?危機に陥ってもグラムスの冒険者以外は助けないように指示されてることもあるし・・・

「早く上がれ!ここを基点に城壁上部を制圧するぞ!帝国軍の力を見せつけてやる」

「ん?見てみろ、正面の城壁以外はただの土壁だぞ。ふざけやがって、上っ面だけそれっぽく偽装しているだけだ!」

「帝国魔術師団を側壁の破壊に回せ!前進観測、火力調整班に伝達しろ!」

一方で帝国軍の司令部には前線からの情報が続々と届けられていた。今もひっきりなしに伝令が幕屋へと飛び込んでいる。もちろん耐魔術城壁がほんの一部に過ぎなかったという事実も司令部に伝達された。

<ズドーン>

私たちがいる場所の左後方の城壁が爆砕した。どうやら見た目だけ整えた土壁が敵にバレちゃったみたいだ。せっかくハイデルンが作ってくれたのに。
おぉ、アンダシルヴァの兵士たちが吹き飛ばされちゃったよ。城壁の破壊に続いて帝国兵が流れ込んで来てる。

「うわーっ!」

「見たか賊ども!これが帝国の力だ!」

「センダルタ城外郭は崩壊した、一挙に制圧するぞ!吶喊せよ」

<ズドーン>

「ヤバ!こっちの城壁も破壊されちまった。」

今度は右後方の城壁が吹き飛んだよ。私もそろそろセンダルタ中央城塞への通路の確保に向かわないと。準備は良い、バトラー?

「準備万端整っております、リーファさま!」
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