幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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トレンドは籠城

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「足引っ張るんじゃねーぞ冒険者ども!」

アンダシルヴァの兵士から冒険者たちに罵声が浴びせられた。ただでさえ気の短い荒くれ者が多い冒険者相手にそんなことをすればイザコザが起きないはずがない。言うまでもなく多くの冒険者の目が一斉にギラついた。

「あぁ!テメェ」

「やめとけ、あんなのでも味方だ。敵を間違うんじゃねぇ!」

「元はと言えばアイツらの戦争じゃねーか、ガウス!何でアイツらの肩を持つんだよ」

ったく、こんな時につまらねぇ挑発なんぞしやがって。あのナメくさった小僧をボコすなぁ俺も大賛成なんだがよぉ・・・

仲間の冒険者からの抗議にガウスは辟易とした表情を浮かべる。怒り心頭の冒険者をなだめるように肩を軽くポンポンと叩いた。
ガウスは自らの本音こそおし隠したまま、冒険者を指揮する立場としての建前だけを口にする。

「こりゃあ戦争だ、私怨は後でたっぷり晴らしゃ良い!」

「わかったぜ、ガウス。ヤツの顔は覚えた。」

「おう、心置きなくブチのめしてやんな。そん時ぁ俺がキッチリ見届けてやる。」

ガウスが冒険者の気持ちを汲み取って復讐を承認したことで、冒険者たちが矛を収める。燃え上がった怒りを敵軍への闘志に向け変える老獪な手管をガウスが垣間見せた瞬間だった。ガウスとて伊達に冒険者をまとめ上げてきたわけではない。

「感じ悪いよね、あぁいうの。この危機的状況で冒険者を下に見てるのはサッパリ意味がわからないんだよ。戦争が終わったら私も見届けに行こう。」

「かっかっか、自分は宮仕えなんだって虚栄心でもあるんだろ。あんなヤツらに腹をたてるほどの価値なんかねーぜ、ティナ。」

「うー、たしかにマキアスの言うとおりなんだよ。」

モヤモヤ感を抱えながらもティナはマキアスに同意する。あんなつまらないことでいちいち気分をかき乱されてたら、いくら生命があっても戦争で生き残ることなどできない。ダンジョンでの激戦をくぐり抜けたティナも生存に不可欠な思慮を身につけつつあった。

「とりあえずこの戦いを切り抜けるわけだが・・・さすがに今回は活躍できそうにねーなー。あれ何人いるんだ?さすがに敵が多すぎる。」

「見渡す限りの敵だらけだよ。この光景を見ると壁の内側は安全だなんてとても言えないんだよねぇ。うぅ、私は何すれば良いのかわからないんだよ?」

「まずこれから魔術師の攻防になるとして、俺は大して魔術や弓を使えないから本当にやることがねえ。 大人しく大型弩砲バリスタの手伝いにでも行こう。ティナ、お前もやることねえんだろ?一緒に行くか?」

「棒っ立ちしててもしょうがないし、私も一緒に行くんだよマキアス。」

「ガウスの親分、俺たちゃちょいとバリスタ砲台に行って来らぁ!」

「おうよ、頼んだぜマキアス!そうだコーエン、お前もマキアスについて行け。」

「へい、親方!」

ガウスは日頃から目をかけているコーエンに命じると気持ちの良い返事が返って来る。直弟子ムルグからの紹介のおかげで、コーエンはガウスの下で円満に修行を続けていた。
脱チンピラを目指すコーエンにとっては厳しいながらも冒険者としての生きがいを感じる日々だ。今回の戦争にガウスから直々に声がかかった事に、コーエンもテンション爆アゲで意気込んでいる。彼は意気揚々とマキアスの背中を追って行った。

「さて、行くとしたらだ・・・あっちにグラムスから持ち込んだバリスタが複数ある。」

「よ~し、私も頑張るんだよ~」

「おーい、俺も手伝うよー!」

「ん、お前もか?良いぜ、ついて来な。たしかお前ってガウス親分とこの・・・」

「コーエンだ。よろしく頼むよ・・・って、えっ!?」

うげっ!こ・・・コイツは

「むむむむむ~」

「どうしたんだティナ?」

「この人どこかで見たことがあるような・・・」

ティナはしげしげとコーエンの顔に目を凝らす。結局は未遂で終わったものの、ティナを誘拐しようとした後ろめたさからコーエンは思わず顔を背けた。

俺の顔を覚えてねーってのはある意味驚きだが、覚えてねーならわざわざ思い出さないでくれよ~。昔のクソつまらねえ悪さが明るみになったら下手すると親方の下にいられなくなっちまうかもしれねえ。

「へ・・・へへへ。やだなぁ~、そんなマジマジ見られても・・・」

「ねぇ、何でさっきから顔を背けてるの?どっかで会ったよねぇ?」

怪しい・・・怪しすぎるんだよ。絶対何か隠してる気がする。でもどこで会ったんだっけ?この顔を知ってる気がしなくもない。

「さ、さぁ?他人の空似ってやつじゃないッスかねぇ、姐さん?」

「ねぇ、何で向き直ったらいきなり変顔なの?」

せめて親方に実力を認めてもらうまでは・・・いつかキッチリ詫びに行くから頼むよ~今は見逃してくれよ~
冷や汗タラタラのコーエンは緊張に耐えきれず思わず声が出た。

「あ・・・」

「あ?」

疑惑の眼差しを向け続けるティナへの言い訳を考える余裕がどんどん奪われて行く。焦りに焦るコーエンは上ずった声を絞り出すのがやっとのことだった。

「アイサツ代わりのユーモアでさぁ、やだな~も~・・・ねぇ?」

「ハッハッハ、何だぁそのツラぁ?オメー面白えヤツだなぁ、気に入ったぜ!」

「ふ~ん・・・」

この人何か隠してるけどぜんぜん思い出せないんだよ~。思い出せないってことはそんなに大したこともないのかなぁ?・・・まぁ良いか。

「よ~し、張り切って帝国軍を蹴散らすぞ~・・・ハハハ」

あ、やっぱ今ごまかした。怪しい・・・

「よし!じゃあ器用者のティナが砲手な。装填手が剛力の俺、コーエンは補給係を頼むぜ。」

「ガッテンなんだよ!」

「おぅ、任せてくれ!」

よし、なんとか乗り切ったみたいだ。しかし装填手がマキアスだけって・・・このバリスタって3人がかりで引くタイプなんだがなぁ。

<ドーン・・・ズドドーン>

「おーおー、さっそくおっ始めやがったぜ。焦るなよティナ、じっくり引き付けるんだ。親分の合図まで待てよ。」

「うん、バッチリ待つよ~」

一方、魔術師団の大規模連結魔術による攻撃でも城壁を貫けなかったことに衝撃が走っていた。

「何ぃっ?あの復元したセンダルタ城外縁部の城壁はハリボテではなかったのか!」

たしかに二撃目のバルクヘッドペネトレイターが炸裂したのを誰もが認識したはずなのだ。城壁に傷こそついているが、決して破壊には至っていない。このまま防御魔術の補助が加わり続ければ予期せぬ長期戦になりかねず、当初の計画に大幅な狂いが生じてしまうだろう。ただでさえ悪質なイタズラレベルの進軍妨害で5日も余計な日程を費やしたのに。余計な時間を費やすほど兵糧の心配をしなければならなくなるぞ。

「ヤツら、この短期間でアレだけの魔鉱レンガをかき集めただと?そんな馬鹿な・・・あり得ん。」

はるか昔に徹底的に破却されたセンダルタ城の外郭がいつの間にか復元されているのもさることながら、突貫工事にも関わらず耐魔術に仕上げている。これは当初の予想と大きく異なる・・・耐魔術城壁の建設に必要な資材は帝国の厳しい規制がかかっているのだからなぁ。そんなに容易にこれほどの量を手に入れることができるのだろうか。

「どこから手に入れたのだ?そんな大量の軍需物資の移動など報告は無かったはずだ。」

「おそらくは密輸だろう。となると、あの賊どもを始末した後はこの辺境地域の商人どもを絞り上げねばなるまいな。賊どもに協力しているに違いない。」
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