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信用の切り売り

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その特殊部隊というのは間違いなく瞬間移動を駆使したバルトロメオの部隊だってことだよね。だからついでに瞬間移動の魔道具について話したらものすごく食いついて来たんだ。でもさっきからもっと詳しく教えろばっかりで、何だかそこから一歩も話が進まなくなったよ。良いのか?・・・まぁ良いか。

「何と?本当にそんなものが存在するのか?」

「そっ・・・そのエリアディストーションなる魔道具は回収したのか?」

「一応は回収したよ。」

回収したと言っても私じゃなくてバトラーたちが気を利かせてくれただけなんだけどね。肉片とかがこびり付いたバラバラの金属片で、正直どれがどれだかわかんなくなってたよ。
おそらくバルトロメオの左手首で瞬間移動の前後に光輝いていたブレスレットが魔道具なんだろうね。さすがに破局的衝突には耐えられなかったみたいだ。
思えば使用者の安全なんて一切考慮していないトンデモナイ代物だったじゃん。たしかに超強力なんだけどさ~、アレってとんでもない失敗作じゃないの?何だっけ、そう言えば作った人間の名前も言ってたような・・・。やっべ、忘れたった。どんまい!

「貴殿が所持しているならば、それを見せたまえ。その男から奪い取ったのだろう?」

そのような力をグラムスが独り占めするなど断じて許容できん。これは是が非でも共同管理にして、行く行くは取り上げてしまわねばならんぞ。
西方審問騎士団の・・・それも特殊部隊を退けたのだ。さらに強力な魔道具を手にすることによって、これ以上に自由都市が力をつけてしまうのは非常に都合が悪い。自由都市の臣民化が遅れるどころか、むしろさらに自由都市が独立性を強めてしまう。それだけは阻止せねば。

「無茶言うなよ、とっくにグラムスの冒険者ギルドに提出したんだ。もう私の手元には残ってないって。」

「ゴホン!何にせよ、それについては我らも同盟者としてしかと確認させていただきましょう。よろしいか、ケストン代表?」

「確認は構いませんが、おそらく無駄足になりましょうな。」

「ハハハ、何をおっしゃいますケストン代表。仲間内で隠し立ては感心しませんなぁ。」

「隠し立てじゃあないよ。何らかの制御に失敗したらしくて腕輪はバラバラだったんだ。」

バルトロメオをどうやって倒したのかに話が及ばないようにぼかしているけど、コイツらみんな戦利品の方にばかり目が行っているよ。へへ、思ってた以上にコイツらみんなチョロいね。

「姉さん、おそらくアルフォンスは目先の戦利品には目もくれずにこちらの言葉の裏を読んでいるはずだよ。」

そう言われると・・・そんな気がするなぁ。アルフォンスには今まで上手く踊らされて来たんだもの。ニコの目はごまかせないぞ。

「自分は交渉に関与しないで交渉の外からじっくりとこちらを観察してる。不自然にリーファ姉さんが話さざるを得ないように持っていったのも彼なのです。」

たしかに何の脈絡もなく私にコンタクトして来たのって、変だなぁって思ったんだ。私がボロを出したところをコッソリ拾うつもりってことかぁ・・・こりゃあ聞かれた質問には慎重に答えないといけないぞ。

「目先の戦利品に釣られている人間は軒並み無視して構いません。アルフォンスは我々を油断させるためにわざとボンクラ貴族を交渉の席に並べているのでしょう。バトラーも相手の言葉や表情について注視してください。アルフォンスと将軍のほかに、本当の首脳がいるのです。」

「かしこまりました、ニコさま。」

「贋金事件でも何重にも中間者を挟んで倉庫の借り主にたどり着かせなかったし、ユグルトの部下と渡りをつけていた人間も正体不明のまま。自らの痕跡を消して事を進めるのが本当に上手いのです、私がいるからには絶対に逃しませんよ。」

私がニコとチェンバレンを介して念話で意思疎通している間も市長が貴族たちのつまらない要求をのらりくらり捌いてくれていたようだ。やっぱ私なんかよりも圧倒的に話が上手くて安心するよ。
私には市長って何かただのお人好しにしか見えないんだけど、ニコが言うにはクラウスみたいに底が見えないんだってさ。そんなもんなんかねぇ?

「・・・なるほど。一応は魔道具の鑑定士を派遣しますので拝見させてもらうということで。」

「もちろん歓迎いたしますよ。魔道具はすっかり機能を喪失していて私どもも持て余しておりますので。」

「それはさておき、そのような強力な魔道具を駆使する敵を誰がどのように倒したのでしょうなぁ。」

「あの時は市内で敵味方入り乱れていたんだ、今も衛兵隊と冒険者で手柄の奪い合いになってるよ。誰が討ち取ったのかは目撃証言が互いに矛盾していて決着はつかないだろうね。冒険者ギルドもお手上げってわけ。」

「むぅ・・・なるほど、そういうことは起こり得るであろうなぁ。」

むっふっふ、私も少しは賢くなっているんだ。こういう時は真実に少しのウソを混ぜるんだよね。

「だが討ち取った者が黙っているなんてこともあり得る。たとえば・・・そう、本当は貴殿が討ち取ったとか」

「え?何でそれを隠す必要が・・・り、理由が無い。」

「あまりに詳しいのでね。そうか、肝心の最後だけは見ていないのか・・・なるほど。」

逆効果だった。

「逆効果でしたね、姉さん。」

調子こいて見事に失敗しちった。わかってるよ、バカが無理に背伸びするとこうなるんだ・・・わかってる。

「でもあの末席の男に注意すれば良いんだと思います。姉さんのおかげで上手いこと容疑者が釣れたのです。」

簡単にボロを出す割には飽くまで自らの能力を隠す。あのリーファという娘、何者かから入れ知恵されて・・・いるのか?あの様子ではどうにも判断がつかん。
一番の懸案であるリーファの能力の正体についてはロミアとマリンは頑なに口を割らない。ロミアという小娘の恫喝に失敗したのがまずかったのだ・・・おかげでまだまだ我らは警戒されている。今は良くても先々は敵に回すことになりかねない。
帝国との戦争に持ちこたえた頃合いでリーファを謀殺するというのも考えてはみた。だが寡兵で西方審問騎士団を退けるほどの実力を踏まえれば、もはや我らの手に負えないのではないか?
帝国の差し向ける軍隊に勝利したところで旧領の完全な回復なくば、王国は自由都市ごときに首根っこを押さえつけられたままになってしまう。何とかリーファと自由都市との間に楔を打ち込まねばなるまい。彼女をこちらに引き込むにも、まずはそこからだ。

***

結局あれ以降はとくに何もつっこんで来なかったよ。怪しかったけどアイツもボンクラ貴族の一人だったのかなぁ?アルフォンスもダンマリだったし、調印内容の確認だけでヌルっと終わっちまった。正式に締結されたワケなんだけど・・・

「リーファ、市長はユグルト事件に一切触れなかったのか?わだかまりについてはこの際ハッキリしてもらいたかったなぁ。」

「まったくマイクの言うとおりだぜ、本当に背中をあずけても大丈夫なのか心配になってくる。」

「そんな心配せんでも大丈夫やと思うで。」

スアレスとマイクのボヤキをマリンが否定する。たしかにマリンとロミアはしばらく王国軍と行動をともにしているから気づいたことはあるよね。

「ん?どういうことなんだマリン?」

「アイツらはリーファの能力にビビってんねんて。そのものズバリは言わんけど、教えてほしくてたまらん感じやったで?」

「ということはこのまま秘密にしておけばヤツらを牽制できるってことか?」

「この期に及んでまだ何か企んでますって白状してるようなもんだ。このシンディーちゃんがとっちめて来てやろうか?」

「行って来なよ。そして怒られて帰って来れば良いと思うんだよ。」

「2点。」

「うん、妥当やな。」

「何、今の点数?えっ、マリンもわかるの?」

「あ?話を膨らませてやろうとシンディーちゃんが一肌脱いでやったのにクソつまらねえ返し方したチビッコの得点だ。」

「ムキー、チビッコって言ったなぁ!」

「まぁそれはともかくリーファの能力がバレたところで、その分余計に手は出せないと思うけどな。むしろ知らないほうが幸せなんじゃねーの?」

ティナの激オコをスルーしてリアンに話を振る。おいティナ、何気に暗器の準備をするんじゃない。

「見えない影の方が恐怖を掻き立てるものだ。フフ、彼らにはせいぜいやきもきしてもらおう。」
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