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背信者たちの盟約

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何だかんだで私たちは市長と一緒にセンダルタ城までやって来た。使節団は30人ほどなんだけど、これからの話し合いには7人で向かうんだ。何故か私も呼ばれてしまったよ。グラムスの冒険者代表ということだから仕方ないのか?補佐役のリアンがついて来てくれないと心細いもんだなぁ。

「マルトリス同盟使節団オーギュスト=ケストン、前へ!」

「お初にお目にかかります。グラムスにて市長を務めておりますオーギュスト=ケストンにございます。この度は拝謁の機会を賜りまして恐悦至極に存じます。陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

モーゼルトめ、この場に姿を見せないのか・・・。わざわざ自身の政敵であるケストンを寄越すとはどういうことだ?何らかの意思表明であろうが・・・気に入らんな。

その思いとは裏腹に上機嫌な笑みを浮かべてアルフォンスが使節団をねぎらった。

「余がアルフォンス=ブラド=センダルタである。よくぞ参った、みな楽にせよ。」

「おかけ下さい。」

使節団が着席するのとは反対に一人の男が立ち上がった。何だろう、向こうの連中がギョッとしてるように見えるなぁ。

「ガルダン=ベロー、陛下の忠実なる将にして全軍を預かっておる。本日は是非とも伺いたいことがあるのだが、質問してよいか?」

「ベロー殿、不規則発言は」

「ベロー、必要なことであれば遠慮なく聞け。みなも余はこの場にいないものと考えよ。そちらも王国の同盟者として率直に話すが良い。既にロミアともやり合っているのだ、今さら遠慮など要らんぞケストン。」

ふむ、そうは言うものの・・・この私を値踏みしようというところか?たかが若造の分際で生意気な。まぁ良い、互いの思惑など言わずもがなよ。にわか国王にはせいぜい高く売りつけてやろうではないか。

「陛下のお心遣い、このケストン痛み入ります。」

ニコやかにケストンが応じるとアルフォンスがうなずく。すると明確に国王の許しを得たベロー将軍が再び切り出した。

「グラムスはあの西方審問騎士団を全滅させたと聞く。一体どのように戦ったのだ?」

「それについては詭計を用いたということに尽きますな。何しろ我がグラムスには貧弱な力しか備わっておりませんので、敵の戦力を逐次分断して各個撃破したのです。畏れ多くも陛下の軍隊が参考になさるような内容などございますまい。」

「ワシは政治家のような頭はない。・・・頭は足りんが隠し事があるか否かの判断はつく。謙遜というのは他人を欺く悪徳だ、そう思わんかケストン殿?」

事実のみを語ったが表層だけでは誤魔化されてはくれんか。ハリボテの王国ではあるが、なるほど将軍と言うだけあってバカではないようだ。
よかろう・・・コイツとは話せるかもしれん。重要な話はベローを窓口に持って行かねばなぁ。

「まさか。決してベロー将軍を欺こうなどとは・・・。いったいどこに手落ちがございましたか?」

「ん?もしや本当にご存知ではないのか?」

「何を・・・でしょうか?」

「グラムスを襲ったのは各地で何やら嗅ぎ回っている非常に特殊な部隊だそうだ。」

ほう、それは私も知らない情報だ。失地回復のためにいろいろと情報を集めて準備してきたのだろう。コイツらを上手く取り込めばロンバールで不穏な動きを続けるモーゼルトを牽制できような。

「ベロー殿!」

「ん?何か言ってはならんのか?ここは同盟者と情報を共有する場でもあろう。」

ベローの言葉に瞑目したアルフォンスが無言でうなずいている。それを見た国王の取り巻きたちがにわかに気色ばむ。マルトリス同盟は軍事同盟を結ぶ相手ではあるが虎の子の情報を必要以上にくれてやる必要はないと言いたげだ。

「くっ!」

この愚鈍め、我らが貴重な情報を明かしてどうする?やはりこの男を外すべきだったのだ。何故に陛下はベローをこれほどまでに評価するのだ!

「そうか・・・たしかに白兵戦で挑んで来たのは魔術師だったとかいう妙な報告がありましたな。征伐としては相当に規模も小さく、何を目的としているのか不明だったというのもあります。正直なところ我々もこれらの報告を持て余しておりましたが・・・」

「さもありなん。」

市当局の困惑について述べたケストンの本音にベローも思わず納得する。やり取りが途切れた瞬間を狙いすましたかのように言葉を差し込んだ男がいた。透明人間のアルフォンスだ。

「久しいな、リーファ=クルーン。息災か?」

「え?わ・・・私?」

「陛下のお言葉ですぞ、きちんと返事をなさい!」

何だよ!アルフォンスはこの場にいるけど、いないことになってるんじゃなかったのか?何で向こうの連中に怒られてんだ?

「え?あっ・・・ど、どうも。」

「お前のことは私もよく知っている。」

「何で!・・・でしょうか?お、お会いしたのは一度きりのはず・・・はず?で・・・ございます?」

「ハハハ、無理にかしこまらなくともよい。しどろもどろではないか。お前のことはロミアとマリンからよく聞き及んでおるのだ。話しやすい言葉で話すとよかろう。」

さすがロミア、私がこんな堅苦しい場所は苦手だってわかってる。私のためにいろいろ気を回してくれるんだよ~。お願いしてくれたんだね~。

「ホッ、助かるよ陛下。」

「くっ、このガキ」

毒づいた側近の声はかすかであったが、隣のベローは聞き逃さなかった。度量の小さい同輩などウンザリだというようにベローが嘆息する。

「ベローの疑問に的確に答えることができるのはリーファであろう?答えてやってはくれまいか。」

「う~ん・・・私も戦闘で手一杯だったから全体のことはわからないんだ。」

「これから帝国との戦もある。目先の戦術を組むためにも包み隠すことなく教えていただけまいか、リーファ殿?我らも手の内を隠すつもりはないのだ。」

フフフ、ベロー将軍はそのように考えていても周りの土地なし貴族ろくでなしどもはそうは考えていないようだ。言葉に出さずとも余計なことを言うなという空気が漂っているぞ。帝国との戦いに際して危機感を抱いているのは軍人ベロー、さらに軍人に自由に話させている国王アルフォンスか。

アンダシルヴァ王国が吹けば飛ぶような状態でよくも支援者を牽制しようなどと考えるものだ。呆れたヤツらめ・・・かく言う私も同じことを考えているがね、フッフッフ。

「え~っと~」

どうしたもんかなぁ・・・将軍の言うとおりなんだけど私の能力は伏せておきたい。だけどロミアとのやり取りを聞く限りアルフォンスは私の能力に関して何らかの情報を持ってるみたいなんだ。ロミアたちを狙い撃ちした当たりも間違いない・・・こりゃあ知っとるな。贋金事件で私とロミアとシンディーがセバルに残って捜査してたから目に止まったんだろう。あれで勘付かれた可能性が一番高い。

「大丈夫だよリーファくん。私では無理なのでリーファくんが将軍のご質問にお答えしてください。」

私がまごついていると使節団代表のケストンがいつもの穏やかな声で話しかけて来た。どうもアルフォンスたちは信用ならないという疑念が頭をよぎるんだけど、そのあたりを考えるのは市長であって私じゃあない。市長は味方なんだから市長の言うとおり私が見た事実を話すことにしよう。問題は私の能力をどう隠すかだな。
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