幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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時局を弄ぶ古狸

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「念のため呼びつけてカマかけて見ましたが、やっぱりベクスタル司教は何も知らなかったのです。ベクスタル司教は権威にこだわる悪いクセこそあるが根っこの部分は極めて善良な男だとモーゼルトさまも以前におっしゃっていましたし。」

あの時、ベクスタルは目の前のミハイルに掴みかかろうとするほど激怒していた。だがミハイルの事情を詳しく説明すると、今度は行くところが無ければ司教座でミハイルの面倒を見ても良いと涙を流して申し出たのだった。

「それはワシも#義父モーゼルト__ルビ__#から聞き及んでおる。おそらくあの応対を見た限りでは、ケストン市長も似たりよったりの認識だろうなぁ。あのまま司教を締め上げたところで何も出てくるまい。かなり甘い気もするが、司教座に莫大な政治的貸しを作るに留めたのはやむを得ん処置というところか?」

たしかにボーネランドさんの言うとおり、このまま帝国との戦争となった時に備えて司教座を丸抱えしてしまうのは得策かもしれないのです。
あの教会には貧民への炊き出しで世話になったこともありますしね~。年々メニューが貧相になっていたのが気になっていたので不正蓄財を疑って帳簿を調べたのですが、何のことはない単純に財政難でした。司教の服もよくよく見ると、ところどころ擦り切れを修繕した跡があったのです。市からの寄付の増額も考慮すべきですかね。

「まぁココにグラムスを滅ぼそうとした張本人がいますし、順当に考えて厳罰を与えるならこちらが最優先ということになるのです。」

「もちろんいかなる処分にも甘んじる所存です。大変なご迷惑をおかけしました。」

「違うの、ニコ。」

「誤解しないでほしいのですマルティナ、決して私が彼に厳罰を与えたいというワケでは」

ニコが諭すようにマルティナに語りかけたものの、どうやら気が動転したマルティナにその言葉は届かなかったらしい。マルティナは床にひざまずいて声を震わせながら哀願する。

「お願いします!ミハイルも西方審問騎士団に脅されてこんな恐ろしいことをさせられていたんです。ミハイルのお父様のゲオルギーおじさまもあの人たちに殺されて・・・うぅ」

「むぅ・・・あの場はワシとニコで何とかケストン市長を説き伏せたものの、飽くまでこれは義父が戻るまでの暫定的保留にすぎん。同盟や都市に対する反逆罪は二十三人会にかけられるのが慣わし。戦時執行部の代理権者が特赦を与えるのは未だ前例も無く、言語道断だとケストン市長に猛反対されてしまった。」

「あぁ・・・ミハイル・・・ミハイル・・・」

「ごめんよ、マルティナ・・・すべて僕が悪いんだ。ごめんよ」

「これまで同様、ワシがミハイルの身柄をあずかるのだ。いつでも彼に会いに来ると良い。ケストン市長の言質もとっておるし、義父が戻るまでの間ミハイルの身の安全は保証しよう。安心しなさいマルティナ、きっと義父が何とかしてくれるはずだ。」

「トマソンさん、お願いします・・・」

そうは言ってみたものの、さすがに反逆罪をひっくり返すのは義父の政治的リソースを激しく消耗させる駆け引きとなるだろう。ああ見えて義父は冷徹な現実主義者だ、果たして出捐しゅつえんに見合う価値をミハイルに見出すだろうか?そうでなければ容赦なく切り捨てるに違いない。

強引にでもあの場で市長を説き伏せておけば・・・いや、そんなことができるのは義父くらいのものだ。市長もワシなどよりも数段上手だ、逆にワシが軽くひねられてしまうだろう。
マルティナが気の毒なほど弱っているので救ってやりたいところだが、せいぜいモラトリアムがあの時のワシらにできる最大限だった。

***

戦時状態から解放されて市街を出歩くことができるようになった時分に、市長の下を訪ねる者があった。その男は執務室に通されるや否や、あいさつも忘れるほどに気が急いているようだ。

「ケストン市長、二十三人会の招集はいつ頃になりますかな?」

「おお、フーバー参事。その件についてはモーゼルト議長が戻られてからと考えておるところでして。」

「何を悠長なことをおっしゃいますので?警戒度を準戦時から警戒へと下げたのは市長ではありませんか。それに伴って戦時執行部を解散した以上は早急に二十三人会を開いて報告していただきませんと困りますぞ。」

ふん・・・フーバーめ、もっともらしいことを言いおって。
モーゼルトがグラムスにおらぬ間に火事場泥棒をしてやろうと言うのだろう?お前の魂胆を見抜けぬ私と思うなよ小童め。

なるほどモーゼルトの影響力をこの機会に削いで見るのも一興だが、その後釜がお前ではいささか心許ない。それにお前は緊急時の代理権者から外された身だ、言うなれば失脚の烙印を押されたも同然。
ナドルオスを抱き込もうにもお前自信が風下に立つことを恐れてできなかったのだろう?お前の派閥内部で引きずり下ろそうとする動きも出ていると聞く。
私は落ち目のお前などよりモーゼルトに貸しを作ることを選ぶね。

「まぁフーバー参事、既に議長には緊急連絡を送っておりますので間もなくお戻りになられる頃合いでしょう。」

この古狸め、モーゼルトをヘコませるチャンスをくれてやろうと言うのに乗って来ないとは!お前にとってはモーゼルトほど煙たい存在はなかろうに、この程度の時局も読めんほど耄碌もうろくしておるとは心底失望したぞ。
ならばケストン、モーゼルトもろともお前をお払い箱にしてやる。この際、老害どもは揃って消えるといい。

「それはそれ、事態は一刻を争います。」

「ほう・・・良ければお聞かせ願いますか、フーバー参事?」

ふん、フーバーめ・・・お前は自分以外の人間を馬鹿だと思っておるのだろう?お前がもう少し謙虚であればモーゼルトがお前を後継者として選ぶように仕向けることができたのかもしれんが、その程度の偽装もできんと言うのがお前を推せない理由になっておるのだ。

「よろしい。市長、私の下にはセバル陥落の報が届いております。」

そんなものとっくの昔に知っておるわ。モーゼルトの子飼いであるニコ=ボーシャが言っておった。
お前の情報はセバルからの伝書鳩であろう?もう戦時執行部で処置が済んだ事案だ、お前たち参事には事後報告がなされる手筈になっているがなぁ。

しかし・・・拘束されたセバル指導部をそっちのけで、ロミアという正体不明の者が何故あの場で全てを取りまとめることができたのかは私も気になっておるのだ。モーゼルトは一体どこまでこのような動きをつかんでいたのか探る必要がある。周到に準備していたとしか思えん。目の前の青二才とは違って本当に底の見えん男だ。

「何ですと?それは・・・なるほど。私も早期開催に善処いたしましょう。」

「おぉ、ご納得いただけましたか!」

「それではフーバー参事、招集の準備を始めますのでしばしの間お待ちいただけますか?」

「わかりました、それでは私は屋敷にて待っておりましょう。頼みましたぞ!」

明るい顔をして執務室を後にしたフーバーの背中を見送ったケストンは近くにいる秘書に声をかける。

「おい、馬車を用意してくれるかね?」

「目的地はどちらになりますでしょうか、市長?」

「うん・・・まぁしばらく市庁舎を離れてくれればそれで良い。ぶらぶらと市内状況の視察でもして・・・そうだな、それから戦時執行部副代理権者ボーネランド君のところにでも行くか。」

それならば十分言い訳も立つ。警戒度を下げる判断が時期尚早だったという根拠となるセバル陥落の報を自ら持ち込んだフーバーが文句など言えまい。
私はこれから再び戦時執行部の再開という体で動いたことにでもしよう。くっくっく・・・フーバーは気づいておらんが、私はなにも二十三人会の招集など確約しておらんのだからなぁ。
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