幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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収束に向けて

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リーファが戦闘部隊の後方にたどり着くとそこには負傷した冒険者たちが並んでいた。目立たない場所だったので気づかずにそのまま通り過ぎようとしていた。見渡すとそこに見知った顔があることに気づく。

「ん・・・マイクじゃないか!大丈夫?」

リーファの問いかけにうなだれていたマイクの首が上がる。

「リーファ?へへ・・・情けねーけど、あいつらの自爆に巻き込まれちまった。俺は大丈夫だがスアレスが」

「スアレスが?・・・そんな」

マイクの言葉に目を隣に転じると、ピクリとも動かない男が身を横たえていた。
スアレスだった。

ところどころ焼け焦げたのを見てもスアレスはかなりの至近距離で爆発に巻き込まれたようだ。マイクも心なしか顔が煤けているが、スアレスに比べればまだ軽いと言えた。

「いや違うぞ、死んじゃいねーよ?ただ気絶してるだけだからコイツ。しかしホント参ったよ、いきなり背後からドカンだぜ?乱戦の中、気絶したスアレスをここまで引きずって逃げて来るだけでも必死だった。」

よく見るとマイクがいつも身につけている防具の一部が失われてている。なりふり構わず、それこそ命からがらここまで退避して来たんだろう。よくスアレスを見捨てなかったものだ。

「よかったー・・・あいつらマジ許さん!互いに潰し合え。」

「ワーウルフがいるぞ!」

「馬鹿な、ここは城壁の内部だぞ?」

西方審問騎士団から突如悲鳴が聞こえて来る。どうやらモンスターが出没し・・・ん?モンスター!?

「一体前線で何が起こったんだ?ひょっとしてリーファか?」

「そうだよマイク、敵兵の一部をモンスターに変えてやった。」

「うわぁ怖えぇぇ・・・。そうかリーファ、あれだ!ゴブリンが大挙して襲って来た時に見せた幻術だろ?」

「そうそう、さらにそこへ本物も投入すっかんね。」

「えげつねー。・・・そうか、こないだ言ってたダンジョンコアを使えるようになったのか!やることがどんどん常人離れして行くのは気のせいじゃないよな?」

「マイク、言い方!とりあえず後は仲間割れでそのまま勝手に自滅してもらおう。」

バルトロメオ率いる精鋭部隊を大混乱に陥れた戦術を再び展開したリーファはあらためて戦闘地域の全体を見渡す。

ハニービー=キュアに回す余力が無いのかな?そのほとんどが城壁の内外の戦闘におけるハニービー=ディフェンダーに注力してるようだ。
そもそも城壁の内部に侵入されることまで想定していなかった上に、外部と内部の二正面対処を強いられている。ホーネットが攻撃しづらい状況も重なったら無理もないね。

私の手勢もそれほど多くはないんだけど、ここの負傷者を治療する程度ならハニービーを残して行けるだろう。

「バトラー、ここにいる負傷者を治療するハニービーを割り当ててくれる?」

「リーファさま、想定外の出来事が重なっております。今ここで近衛兵を割くのはいささか安全性を欠くかと」

バトラーも懸念を抱くほどの状況ってことは私自身も安泰じゃないってことだ。城壁のヤツらだってバルトロメオのエリア・ディストーションのようなトンデモ攻撃をまだ隠し持っているかもしれない。誠実なバトラーにそれを言われるとしんどいけど・・・

「死にそうになってる人もいるみたいだし、いくら何でも放っては行けないよ。」

「かしこまりました、必要最小限は残して参りましょう。その代わり、この先くれぐれも雑兵と切り結ぶようなことはお控えください。」

「うん、わかった!よーし、片っ端から順番に治癒されるから。マイクもゆっくりして行ってね!」

「ゆっくりも何も、ガウスたちが奮戦してるから直に決着もつくだろう。おっ、あいつら正規の衛兵隊か?一気に旗色が変わっちまったぜ。」

***

その頃、ヌイユ・エトランゼではクーリアがセバルのロミアたちの交渉をエルマたちに伝達していた。それを固唾をのんで聴取している。

「こういうことはマリンに歩があると思ってたけど、クーリアを通じて向こうでの会話を聴く限りアルフォンスと渡り合っているのはロミアだ。」

向こうの様子を見ることはできないが、今も多数の兵士に取り囲まれていることは間違いない。なのにロミアは物怖じすることなく、剣を前にして毅然とした物言いをしているではないか。これにはエルマも思わず舌を巻いた。

「よく考えてみりゃあ、ロミアが何かに動じている場面なんて記憶に無いぞ?アルフォンスとの交渉はロミアに任せても良いんじゃないかな、エルマ?」

「脅しに屈するなー!ぶっ潰せーロミア!」

ロミアたちのやり取りにエキサイトしたイーリスが声援を送る。だが残念なことにそれがロミアに届くことはない。

「さっきまでキシレムの事バレちゃった~どうしよ~とか泣きべそかいてたくせに。ぷくくく、エラい変わりようだなぁイーリス?」

「とーう!」

イーリスをからかったシエナの脳天に手刀が振り下ろされる。

「痛てっ!テメ・・・」

「せいやぁっ!」

「ぐはぁっ!」

シエナが怯むと続けざまにイーリス渾身のモンゴリアンチョップが炸裂した。床に膝をつくシエナを見下ろすイーリスが勝ち誇るように挑発をぶつける。

「負けイタチと交わす言葉など持ち合わせぬぅ~!拳で語れぃ、弱者よ!」

「さっき泣かしてやったの忘れちまったらしいな、イーリス?」

「ウェ~イ!」

「そうか・・・どうやらウマシカにはトラウマが必要ってことだな?上等、まず手始めにテメェをぶっ潰してやらぁ!」

イタチとウサギのキャットファイト!異種格闘技戦第二ラウンドのゴングが高らかに鳴り響いた。
はしゃぐ彼女らに頓着することなく、エルマはクーリアを介してニコに話しかける。

「このままロミアに任せて見るのも悪くないと思う。どうだろうニコ?」

「ロミアは国際貿易都市セバルで国際情勢にも触れているのです。本来ならリーファ姉さんの裁可次第ですが・・・ロミアならグラムスの置かれた状況も加味した上で最も有利な条件を突き付けてくれるのではないかと私も思うのですよ、エルマ。」

「うん、良いんじゃないかな?ロミアが交渉してくれた事なら、決して私たちにとって悪い様にはならないはずだよ。ただ都市に関わる重大な事を勝手に決めちゃうと、後でクラウスからお小言をもらうかもだけどね~。」

「リーファ!」

城門の戦闘に加わっているリーファが会話に加わったことにエルマが驚きの声を上げる。リーファに負担をかけるつもりはなかったが、名前が出たから律儀に応答してくれたようだ。

「私もエルマたちに賛同するよ。とりあえず今は城門が大変な事になってるし、何より難しそうだからセバルの事はそっちに任せて良いかな?」

「戦時執行部の私に任せてほしいのです、姉さん!モーゼルトさまに怒られる時はボーネランドさんを盾にするので心配ありません。絶対にアルフォンスの好き放題にはさせないのです。」

「うん!じゃ後はよろしく。」

しかし取引所で出会ったジャックがかつて王として君臨していたブラド=センダルタ家の当主だったなんて・・・。
ん、待てよ?そういえば結局は出所が不明のままになった贋金騒動もセバル内部に協力者がいるんじゃないかってトマソンが言ってたんだよな?もしかしてあれもジャックの仕業だったり?だって出自を偽っていたジャックがユグルトをそそのかして何か企んでたとしてもおかしくないじゃん。

もしそうだとすればやってくれるじゃないの。何だかんだ今回も私らブンブン振り回されてるかんね。西方審問騎士団がグラムスに来たのだって・・・ってコレはミハイルが呼び寄せたから関係ないのか。

ん~、でも何だかすごいモヤモヤする。こちとら死にそうな目に会ったんだ、ジャックだけじゃなくミハイルにも後でしこたま文句言ってやる!
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