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モンスターカタパルト

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さすがだな、これがリーファの妖精の力か。ありがてえが、このままじゃジリ貧だ。何とか俺達も前に進まねえと。

「あいつらバカスカ魔術ぶっ放しやがるし、切り結んだら滅法強えと来た。こりゃちぃとばかしキツいぜ、ガウス。」

今も勢い良く魔術が目の前に着弾する。盾やガレキに身を隠す冒険者たちは西方審問騎士団の人間堡塁と激烈な弾幕に攻めあぐねていた。気持ちは同じだが立場上ガウスは弱音を吐いた冒険者を叱咤激励する。ここが正念場だ。

「グラムス一の剛健、コルドバ組のもんが泣き言漏らしてんじゃねーや。いっちょ俺が突っ込んで西方審問騎士団のヤツらを押し戻してやる。俺について来い!」

「うすっ!」

ガウスの仲間が突撃への覚悟を決めると後ろから威勢の良い笑い声が聞こえた。振り向いたガウスの目に飛び込んだのは、あの黒づくめの男だった。

「かっかっか、いくら何でもそりゃ無茶だって親分!その特攻にゃ俺たちがいねえとなぁ。」

「マキアス!ようやく来やがったな、この野郎!」

「おう、見てろよ俺の超活躍を。魂に火が点くぜ!」

ガウスとマキアスはガツンと拳を合わせる。それに合わせて別働隊15名が城門防衛戦に合流した。

「あんま調子乗ってるとまたやらかすぞマキアス。遅くなってすまない、ガウス。」

「おぅ待ってたぜトーラス!あいつらをシバくにゃあオメーが一番相性が良いってもんだ。」

「じゃあ俺が一番槍ってことで承知してくれるんだな、ガウス?」

「ちっ、おいしいとこ持って行きやがってチクショー。頼むぜトーラス。ん?まさかティナもついて来るつもりか!」

これから突撃するガウスたちの部隊に似つかわしくない小粒が自信たっぷりにドンと胸を張る。

「もっちろん!私の活躍無くして勝利はやって来ないんだよ。つまり私ってば勝利の女神さまだね。」

「がっはっは、女神さまがついてるってか?そいつぁ縁起が良いじゃねーか!よーし、オメーらいいか?次に魔術が一段落したらここにいる全員で突っ込む。頭からっぽにしてトーラスに続け!」

魔術が止んだ瞬間、トーラスが一直線に敵陣へと駆け出して行くと間髪入れず全員がその後に続いた。

「馬鹿どもが!その程度の人数で突っ込むなど魔術の餌食よ。右手からの死にたがりどもを狙え!」

「来なすった!そぅら、お釣りだ。遠慮せず受け取んな!」

トーラスは自分に照準を合わせた魔術を槍先で受け止めて行くと、それらをまとめて敵へと放った。予想外の反撃に西方審問騎士団の前衛がまとめて吹き飛ぶ。
何の防御もできないクリーンヒットだったので、地下通路を守る人間堡塁の一部がすっかり無くなった。まさに地下通路制圧のチャンスだ。

「どわぁー」

「ウギャー」

「馬鹿な!クソ、魔剣士か?撃ち方止め!格闘準備!」

「マズい、さっきのゴリラ野郎がまた斬り込んで来やがった!」

慌てふためく敵陣まっただ中に飛び込んだガウスが力まかせに大戦槌を振るう。兵士たちが2階の高さほどに何人も打ち上げられる光景は誰もが目を疑った。

「ぐぅおっ」

「誰がゴリラだ!オラもう一丁、バスターインパクト!」

「ギャー」

「どふっ」

攻め寄せれば攻め寄せるほど次々に兵士たちが宙を舞った。ガウスの本領が発揮されるのは敵に包囲された状態だと言うのがよくわかる。いつしかついたあだ名が「モンスターカタパルト」だ。

「はっ!こん中で一番強えのは俺だー!こっち来いよオメーら。」

活きの良い黒づくめが敵を挑発しながら派手に倒して回る。目立たないように黒い服装をしているのかと思いきや、到底そんなこと信じられない立ち回りに西方審問騎士団も唖然とする。実はマキアスがヘイトを稼ぐ戦法を取る聖騎士だなどと誰も気づくことは無かった。

「調子に乗るなぁっ!ん?どこに消えた。」

「どこだ!」

「ここだここ。どこ見てんだよっと!」

先ほどまで目の前にいたはずの黒づくめが消失したかと思えば、上空から急降下して来る。戦闘もとにかくトリッキーだ。何故か直撃したはずの魔術もサッパリ効いていない。

「ぐわぁ」

「うおーっ」

「何だコイツらは・・・ええい、陣形を立て直せ!密集隊形を維持せよ!」

鉄壁の防御と圧倒的火力を維持して来た西方審問騎士団だったが、グラムスの冒険者がこれまでの流れとは異なる戦闘を展開していることに焦りを感じていた。最も早期に地上に出ていた指揮官が指示をしていると不意にどこからか女の声が聞こえて来る。

「見ーつけた。お覚悟なんだよ~」

「ん?貴様、どこから!んぐっ」

どういうワケか最も敵陣奥深くに潜り込んだ少女が腕を上げると、指揮官が泡を吹いて倒れてしまったのだ。横にいた兵士が指揮官に駆け寄る。

「5梯隊長戦死!」

「クソっ、逃さ・・・ん?俺の剣が・・・」

「こんなものポイなんだよ~。」

いつの間にか鞘に収まっていた剣が無くなっていると思えば少女の手に握られているではないか。その少女は兵士自慢の剣を遠くへ放り投げてしまった。

「あーっ!騎士の命でもある剣をー!許さん、死ねー!!」

「危ないなぁ、そっちの剣も回収して~・・・ポイっ!」

「うおーっ、俺の剣がぁー!」

こんな同胞団が密集している中では大した魔術は使えない。負けじと兵士もスタンを放つものの狭い場所にも関わらず、少女は敵兵を足場に三角跳びして軽やかにかわしてはまたしても剣を奪った。か~ら~の~華麗にポイ。

「ナメるな!」

「うおっと、危ないなぁもー。ヤバ、人が集まって来ちゃった。ちょ~っと目立ち過ぎたかもなんだよ~。サイナラー!」

「あっ、待て!」

「卑怯だぞチビ助!」

「ムカっ!えいっ!」

言ってはいけない言葉を言ってしまった兵士に向けてティナが振り向きざまに暗器を飛ばす。まんまと逃げられてしまっただけでなく、兵士に不幸が訪れる。

「グフッ!」

「何っ?おい・・・クソっ、殺られた!」

「えぇいっ、その身を神に捧げよ!瀆神者どもに再び我らの篤き信仰の光を浴びせるのだ!」

ある程度地下通路出口の陣地を確保した西方審問騎士団は自爆から通常戦闘に切り替えていたが、再び訪れた危機に自爆攻撃の方針を告げる。

「お前の生命、もらい受ける!」

<ズドン>

「くっ、また自爆が始まった!」

「何だコイツら、自爆だと?」

マキアスたちは知らないが、今までこうして凄惨な戦闘が繰り広げられていたのだ。ガウスから魔術や飛び道具を用いた中長距離戦闘の指示が飛ぶ。だが相変わらずガウスはどんどん前へ踏み込んでいく。

「近接戦闘はできるだけ避けろ!おらよっ!」

<ズドン>

「俺が取り付く前にぶっ飛ばしてやる。自爆するならドーンとかかって来い。」

一人突出したガウスに自爆を覚悟した兵士が一斉に飛びかかって行く。グラムスの冒険者の柱は間違いなくこの男であることは誰の目にも明らかだった。柱を崩せば拠り所を無くした冒険者たちなどものの数ではない。

「あのゴリラ野郎を囲め!総がかりでバラバラにするんだ!」

「喝ーっ、ゼッコーチョー!」

「がごっ」

ガウスのフルスイングの軌道に入っていた兵士4名が全員ぶっ飛んだ。その直後に自爆が生じたため、西方審問騎士団自身に炸裂する。

「はっはーっ!見境ねーことやってるからそんな目に合うんだ。邪道も邪道、騎士ならテメーの腕っぷしでかかって来いや!」

***

「ウヒャー、何あれ?人がポンポン打ち上がってる。・・・絶対ガウスだよね?」

「それでは我らも加勢に行って参ります。リーファ=クルーン、ご武運を!」

「うん、あんたたちもね!さぁて、行きますかぁ。ところで城壁の外は大丈夫かなぁ?」

「ご安心ください、リーファさま。リアンさまの防御壁を貫く狙撃魔術で目下敵の頭数を着実に減らしております。」

「げっ!防御壁無効?相変わらずリアンってば反則じゃね?惚れるわ~。」
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