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背後に道無し
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西方審問騎士団から大規模連結魔術が放たれる。数秒後にも第二波が到達する見込みだ。
「来た!」
防御壁の展開はできる。しかしデカすぎるだろ・・・あんなの受けきれない。こりゃ死んだな・・・
<ズドン!>
<ズドドドーン!>
尋常ならざる爆発音とともに爆炎が辺りを包む。同胞団の兵士たちはいつもどおりの手応えだと会心の笑みを浮かべた。
「ふん、しみったれた布陣ごときで同胞団の打撃を受け止めようなどとナメられたものだ。己の愚かさを悔いながら地獄に落ちるがいい。神罰覿面の」
「あれは!」
広範に立ち上った濃い土煙が収まっていくにつれて露わになったのは、驚くことに無傷の石壁だった。グラムス側の魔術障壁は同胞団とは比較にならない規模だったはずであるのに、無傷などとは騙されたような気分になってくる。
「ば・・・、馬鹿な。」
「何が起きている?何故に城壁に傷一つついていないのだ?」
西方審問騎士団に動揺が走るのに対して、グラムスの冒険者たちは思わぬ出来事に沸き返っていた。死を覚悟しただけに喜びもひとしおと言ったところだ。
「い、生きてる。私・・・生きてるわ!」
「おっしゃー!信じらんねーけど今のを防ぎきったぞ!」
バルトロメオの配下はたかだか自由都市相手に、死の恐れがある霊薬まで必要とは考えていなかった。しかし、あのバルトロメオが聖戦の徴を使ったのだ。先のにわかに信じがたい出来事からも、今ここで躊躇することは許されないと考えを改める。
「おのれ・・・あのようなデタラメ、まさしく悪魔の業に相違無し!」
この期に及んで抵抗するとは、もはや楽に殺してもらえると思うなよ。うぬらのごとき瀆神者には死ぬ間際まで苦痛と恐怖を与えてくれよう。
「悪魔信奉者どもめ・・・目にモノ見せてくれる!1から8梯隊は免罪の霊薬、9から12梯隊は加護の霊薬を使用せよ!聖レクスティウスは死者の丘に登りて神の敵に見ゆ。我がなすところのものは天上への階梯なり、我が亡骸は地の塩となりて同胞をこの地に満たさん・・・」
バルトロメオの配下は同胞団の名前の由来となった聖書の一句を兵士たちに手向ける。
「うおぉぉ」
「がはっ・・・うぅー」
「ぎゃあぁぁー」
顔や喉をかきむしって苦しんでいた男は断末魔とともに果てたように見える。泡をふいて倒れているものまで、さながら地獄のような絵面ではないか。西方審問騎士団とは少し距離があるのもあり、目の前で一体何が起こっているのかサッパリわからない冒険者たちは色めき立った。
「何だあいつら?急に苦しみだしたぞ。」
「メシに毒盛られたんじゃねーか?」
「これってチャンスなんじゃね?グレン、攻撃指示を出せよ!」
「待て!何かおかしい・・・」
「はぁ?いま叩かないで、いつ叩くってんだ!」
「・・・いやダメだ、当初の作戦通りギリギリまで敵を引きつける。」
「何でだ?ヤツらどう見てもくたばる寸前じゃねぇか!まともに立ってるやつなんざ後方に陣取ってる数十人だけだ。」
「いずれにせよ今すぐ攻撃しても無駄だ。あいつらは何らかの防御魔術の中にいやがる。そこから外に出て来ねえかぎり意味がねえんだ。」
「マジか!そんなのどうやって確認したんだ?」
それについてはロードチャンセラーの配下による偵察で確認済みだ。夜中に奇襲をかけようとしてたグレンも驚いてたよなぁ。アタシにゃあよくわからねぇが、リアンの話によれば広範囲に常時展開しているあたり何らかの魔道具なのかもしれないとのことだ。
「とにかく!白兵戦が始まりゃあ敵さんもバラバラに打ちかかって来る。ここで魔術ぶっ放してても無駄だって、あいつらもさすがに気づいたろうさ。いつまでも安全な甲羅の中からとは行かねえはずだぜ?」
「ちっ、西方審問騎士団は本当にたちが悪いな。了解だ、グレン。」
一通り苦しみ抜いた挙句、西方審問騎士団の兵士がゾンビのように立ち上がっている。ピクリとも動かない者は死んでしまったようだ。まったく不気味なことこの上ない事態に冒険者たちも静まり返った。
「どうやら空気が変わったようだ。一体何をしたのだろうか?」
「何も心配するこたぁねぇよ、リアン。ロードチャンセラーの全包囲多重攻撃で一気にケリをつけてやる。準備はできてるな?」
「あたり前だのベラボーメなの!」
「蜂の大群?今の今まで見えなかった。」
「まぁいい、行く手を阻むならば根こそぎなぎ払うまでよ。」
あれ?あいつらに見えてるみたいなの。そんなはずは・・・あ、やっぱり見えてるっぽいの。
「マズいの・・・」
「拾い食いでもしたか?」
「姿を隠しているのが敵に全部バレたみたいなの」
「はぁ?何でそんな簡単にバレるんだよ!アタシにゃ全く見えねーぞ?」
「そんなの知ったこっちゃねーの!」
西方審問騎士団の周囲に火炎魔術が放射される。あれは一体なにをしているのかとグラムスの冒険者たちに盛大な疑問符が浮かんだ。そもそも彼らには飛び交う蜂など一匹も見えないのだから無理もない。
「うわぁっ、とにかくホーネットは早くそこから逃げるの!ハニービー、ハニカムウォールで撤退を掩護するの!」
ホーネットたちが必死に逃げ惑う様子に、ロードチャンセラーは指示の遅れを悔やんだ。ハニカムウォールの掩護が間一髪間に合い、焼け死んだ仲間がいないことだけが救いだ。
それにしても何故ホーネット=ファントムやハニービー=ミラージュが見破られてしまったのか、ロードチャンセラーには皆目検討がつかなかった。
「フハハハ、口ほどにもない。ちょっと火炎魔術を見せただけで散り散りに逃げよったわ。腰抜けの蜂どもめ!」
「おい、今あの蜂にごく小規模だが魔術障壁が展開されたぞ!」
「何ぃ?・・・もしやあの蜂どもが魔術障壁の加勢をしたとでも?そんな馬鹿な話が」
「いや、間違いない。俺にもそう見えた。」
そんなわけあるか・・・とは思うが、そもそもグラムスごときが我らの魔術を弾き返すだけの魔術師を揃えているはずがない。おまけに透明になって姿を隠す蜂など聞いたこと無いぞ。たかが蜂とは言え、無視できんな。
「蜂も全て殺せ!」
クソ・・・それにしてもなんという恐ろしい数だ!空を覆うかのごとし、この街は至るところ蜂だらけなのではないか?
「どこかにテイマーがいるはずだ!そいつを最優先しろ!」
「うっとうしい、魔力を使い続けるが魔術障壁を展開しながらの白兵戦だ。」
ホーネットが数人の兵士をヘッドショットした時点で西方審問騎士団が即座に対処して来る。これではホーネットが敵の兜や鎧に触れる寸前に撃破されてしまう。寄せ手を仕留める手法がかなり絞られてしまった。
「うぎゃー、あんなの反則なの!これじゃホーネットが近寄れないの!」
「だぁー、やべぇ。あいつら一気に攻め寄せて来るぞ!アタシも詠唱始めねーと」
「まだ慌てるには早いぞシンディー、ロードチャンセラー。何もグラムスの戦力は私たちだけではないのだ。」
リアンはそう言うと、城門の内側へ手を上げて合図を送った。
城門へと殺到した兵士たちが物理的に門を破壊しにかかるやいなや大穴が口を開ける。顔を真っ赤にしながら、城門の内側の地面に描いた緻密な術式に魔力を送り続ける男が絶叫した。
「ぐおぉぉーっ!こりゃあキツいー!」
冗談のような巨大落とし穴に見事にハマった兵士たちが抜け出ようと一斉にもがく。しかし無情にもその上から大量の土砂が覆いかぶさって来たのだ。まさに数秒の出来事だった。
「もぅダメだ。もう起き上がれん。」
その言葉を最後に気絶してしまったのはドワーフのハイデルンだ。土魔術はただでさえ魔力をバカ食いするのに、大規模魔術を行使した日にはその後数日は意識を取り戻すことなど無いだろう。
「よくやった、ハイデルン!西方審問騎士団の大部分を消し去ったぞ。」
これで兵力の大半を失った西方審問騎士団は尻尾をまいて逃げ出すはずだ・・・と思いきや、どうやら様子がおかしい。何事も無かったかのように攻め寄せて来るではないか。
「ふん、そんなことで我ら同胞団が止まるものかよ。・・・むしろ城門をぶち抜く手間が省けた。」
「そろそろ頃合いだ、攻」
グレンが攻撃開始を命じようとしたのもつかの間、絶叫が飛び込んできた。
「うわあー!」
あろうことかその絶叫は城門の外側ではなく内側から上がったものだった。
「来た!」
防御壁の展開はできる。しかしデカすぎるだろ・・・あんなの受けきれない。こりゃ死んだな・・・
<ズドン!>
<ズドドドーン!>
尋常ならざる爆発音とともに爆炎が辺りを包む。同胞団の兵士たちはいつもどおりの手応えだと会心の笑みを浮かべた。
「ふん、しみったれた布陣ごときで同胞団の打撃を受け止めようなどとナメられたものだ。己の愚かさを悔いながら地獄に落ちるがいい。神罰覿面の」
「あれは!」
広範に立ち上った濃い土煙が収まっていくにつれて露わになったのは、驚くことに無傷の石壁だった。グラムス側の魔術障壁は同胞団とは比較にならない規模だったはずであるのに、無傷などとは騙されたような気分になってくる。
「ば・・・、馬鹿な。」
「何が起きている?何故に城壁に傷一つついていないのだ?」
西方審問騎士団に動揺が走るのに対して、グラムスの冒険者たちは思わぬ出来事に沸き返っていた。死を覚悟しただけに喜びもひとしおと言ったところだ。
「い、生きてる。私・・・生きてるわ!」
「おっしゃー!信じらんねーけど今のを防ぎきったぞ!」
バルトロメオの配下はたかだか自由都市相手に、死の恐れがある霊薬まで必要とは考えていなかった。しかし、あのバルトロメオが聖戦の徴を使ったのだ。先のにわかに信じがたい出来事からも、今ここで躊躇することは許されないと考えを改める。
「おのれ・・・あのようなデタラメ、まさしく悪魔の業に相違無し!」
この期に及んで抵抗するとは、もはや楽に殺してもらえると思うなよ。うぬらのごとき瀆神者には死ぬ間際まで苦痛と恐怖を与えてくれよう。
「悪魔信奉者どもめ・・・目にモノ見せてくれる!1から8梯隊は免罪の霊薬、9から12梯隊は加護の霊薬を使用せよ!聖レクスティウスは死者の丘に登りて神の敵に見ゆ。我がなすところのものは天上への階梯なり、我が亡骸は地の塩となりて同胞をこの地に満たさん・・・」
バルトロメオの配下は同胞団の名前の由来となった聖書の一句を兵士たちに手向ける。
「うおぉぉ」
「がはっ・・・うぅー」
「ぎゃあぁぁー」
顔や喉をかきむしって苦しんでいた男は断末魔とともに果てたように見える。泡をふいて倒れているものまで、さながら地獄のような絵面ではないか。西方審問騎士団とは少し距離があるのもあり、目の前で一体何が起こっているのかサッパリわからない冒険者たちは色めき立った。
「何だあいつら?急に苦しみだしたぞ。」
「メシに毒盛られたんじゃねーか?」
「これってチャンスなんじゃね?グレン、攻撃指示を出せよ!」
「待て!何かおかしい・・・」
「はぁ?いま叩かないで、いつ叩くってんだ!」
「・・・いやダメだ、当初の作戦通りギリギリまで敵を引きつける。」
「何でだ?ヤツらどう見てもくたばる寸前じゃねぇか!まともに立ってるやつなんざ後方に陣取ってる数十人だけだ。」
「いずれにせよ今すぐ攻撃しても無駄だ。あいつらは何らかの防御魔術の中にいやがる。そこから外に出て来ねえかぎり意味がねえんだ。」
「マジか!そんなのどうやって確認したんだ?」
それについてはロードチャンセラーの配下による偵察で確認済みだ。夜中に奇襲をかけようとしてたグレンも驚いてたよなぁ。アタシにゃあよくわからねぇが、リアンの話によれば広範囲に常時展開しているあたり何らかの魔道具なのかもしれないとのことだ。
「とにかく!白兵戦が始まりゃあ敵さんもバラバラに打ちかかって来る。ここで魔術ぶっ放してても無駄だって、あいつらもさすがに気づいたろうさ。いつまでも安全な甲羅の中からとは行かねえはずだぜ?」
「ちっ、西方審問騎士団は本当にたちが悪いな。了解だ、グレン。」
一通り苦しみ抜いた挙句、西方審問騎士団の兵士がゾンビのように立ち上がっている。ピクリとも動かない者は死んでしまったようだ。まったく不気味なことこの上ない事態に冒険者たちも静まり返った。
「どうやら空気が変わったようだ。一体何をしたのだろうか?」
「何も心配するこたぁねぇよ、リアン。ロードチャンセラーの全包囲多重攻撃で一気にケリをつけてやる。準備はできてるな?」
「あたり前だのベラボーメなの!」
「蜂の大群?今の今まで見えなかった。」
「まぁいい、行く手を阻むならば根こそぎなぎ払うまでよ。」
あれ?あいつらに見えてるみたいなの。そんなはずは・・・あ、やっぱり見えてるっぽいの。
「マズいの・・・」
「拾い食いでもしたか?」
「姿を隠しているのが敵に全部バレたみたいなの」
「はぁ?何でそんな簡単にバレるんだよ!アタシにゃ全く見えねーぞ?」
「そんなの知ったこっちゃねーの!」
西方審問騎士団の周囲に火炎魔術が放射される。あれは一体なにをしているのかとグラムスの冒険者たちに盛大な疑問符が浮かんだ。そもそも彼らには飛び交う蜂など一匹も見えないのだから無理もない。
「うわぁっ、とにかくホーネットは早くそこから逃げるの!ハニービー、ハニカムウォールで撤退を掩護するの!」
ホーネットたちが必死に逃げ惑う様子に、ロードチャンセラーは指示の遅れを悔やんだ。ハニカムウォールの掩護が間一髪間に合い、焼け死んだ仲間がいないことだけが救いだ。
それにしても何故ホーネット=ファントムやハニービー=ミラージュが見破られてしまったのか、ロードチャンセラーには皆目検討がつかなかった。
「フハハハ、口ほどにもない。ちょっと火炎魔術を見せただけで散り散りに逃げよったわ。腰抜けの蜂どもめ!」
「おい、今あの蜂にごく小規模だが魔術障壁が展開されたぞ!」
「何ぃ?・・・もしやあの蜂どもが魔術障壁の加勢をしたとでも?そんな馬鹿な話が」
「いや、間違いない。俺にもそう見えた。」
そんなわけあるか・・・とは思うが、そもそもグラムスごときが我らの魔術を弾き返すだけの魔術師を揃えているはずがない。おまけに透明になって姿を隠す蜂など聞いたこと無いぞ。たかが蜂とは言え、無視できんな。
「蜂も全て殺せ!」
クソ・・・それにしてもなんという恐ろしい数だ!空を覆うかのごとし、この街は至るところ蜂だらけなのではないか?
「どこかにテイマーがいるはずだ!そいつを最優先しろ!」
「うっとうしい、魔力を使い続けるが魔術障壁を展開しながらの白兵戦だ。」
ホーネットが数人の兵士をヘッドショットした時点で西方審問騎士団が即座に対処して来る。これではホーネットが敵の兜や鎧に触れる寸前に撃破されてしまう。寄せ手を仕留める手法がかなり絞られてしまった。
「うぎゃー、あんなの反則なの!これじゃホーネットが近寄れないの!」
「だぁー、やべぇ。あいつら一気に攻め寄せて来るぞ!アタシも詠唱始めねーと」
「まだ慌てるには早いぞシンディー、ロードチャンセラー。何もグラムスの戦力は私たちだけではないのだ。」
リアンはそう言うと、城門の内側へ手を上げて合図を送った。
城門へと殺到した兵士たちが物理的に門を破壊しにかかるやいなや大穴が口を開ける。顔を真っ赤にしながら、城門の内側の地面に描いた緻密な術式に魔力を送り続ける男が絶叫した。
「ぐおぉぉーっ!こりゃあキツいー!」
冗談のような巨大落とし穴に見事にハマった兵士たちが抜け出ようと一斉にもがく。しかし無情にもその上から大量の土砂が覆いかぶさって来たのだ。まさに数秒の出来事だった。
「もぅダメだ。もう起き上がれん。」
その言葉を最後に気絶してしまったのはドワーフのハイデルンだ。土魔術はただでさえ魔力をバカ食いするのに、大規模魔術を行使した日にはその後数日は意識を取り戻すことなど無いだろう。
「よくやった、ハイデルン!西方審問騎士団の大部分を消し去ったぞ。」
これで兵力の大半を失った西方審問騎士団は尻尾をまいて逃げ出すはずだ・・・と思いきや、どうやら様子がおかしい。何事も無かったかのように攻め寄せて来るではないか。
「ふん、そんなことで我ら同胞団が止まるものかよ。・・・むしろ城門をぶち抜く手間が省けた。」
「そろそろ頃合いだ、攻」
グレンが攻撃開始を命じようとしたのもつかの間、絶叫が飛び込んできた。
「うわあー!」
あろうことかその絶叫は城門の外側ではなく内側から上がったものだった。
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