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めぐる策謀、蜘蛛糸のごとし

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「なぁロミア~、あんたアイツらと知り合いなん?どないなってんの?」

「何だろ~ね~?」

「せやろなぁ・・・ロミアがあないないかついヤツらと知り合いなんて想像できんわ。まぁ別にシバかれるような雰囲気ちゃうし、ウチらも大人しゅうやり過ごそうや。」

やけに乗り心地の良い馬車に乗せられて向かった先はどうやらセバルの中心部のようだ。セバルにおいて一際目立つ大きな建物が集まっているランドマークエリアと言っても過言ではない。様々な地域から商品が集まって来る国際貿易都市だけあって作りも豪奢なものが多いのが特徴だ。

「到着いたしました、ロミアさま。」

「ここは見るからにお偉いさんがふんぞり返っとる場所やな。」

「うわぁ、立派な建物だねぇ。」

「ウチらには縁遠い場所もエエとこやで。何を企んでんねんな?おっちゃん、誰かと間違えとるんちゃうん?おたくとこの大将が腹立ててもウチらのせいやないで?そこんとこ忘れんといてや。」

「心得ております。」

大きな扉をくぐって中央の階段を上がって行くと軍の礼装をまとった青年が待ち構えていた。その苛立たしげな表情を見るに、どうも機嫌が良いとは思えない。

「遅いぞアントニオ、陛下が首を長くしてお待ちだ。」

「陛下、ロミアさまをお連れいたしました。」

陛下やて?皇帝・・・にしては若すぎる。コインに刻まれとるヒゲ親父とは全く似ても似つかんなぁ。きな臭さが半端ないで・・・どこの王さんなんや?

「よくぞ参られた。そちらの椅子にかけられよ。」

陛下と呼ばれた青年の横に伺候する男から着席を促される。どうやらその男は侍従のようだ、本格的にどこかの王族であるのは間違いないだろう。

「えーと・・・ロミア=シャルトリューと申します。」

「ウチはマリン=ラクーナリアです。」

「こちらにおわすお方は」

「良い・・・私はまだ何者でもないのだから、仰々しいのもみっともなかろう。」

「しかしながら陛下・・・失礼いたしました。」

王と思しき男が片手を上げて制すると侍従も引き下がる。すると目の前の王がにこやかに自己紹介を始めた。

「私はアルフォンス=ブラド=センダルタです。」

「センダルタ?それってユグルト伯爵の居城やないですの?」

「貴様、陛下をユグルトなる下賤の者などと」

「ひぃぃっ」

もぅ堪忍して~な、この苛ち軍服恐いわ~。

「良いのです、わざわざお二人をお呼び立てしたのは我々なのですから。敬服を要求するなどもってのほかですよ?もうあなたは下がりなさい、ミリアール。・・・すみませんね、お気遣いは無用ですよマリンさん。」

軍の礼装を着たミリアールという男はマリンを忌々しげににらみつけると、アルフォンスに頭を下げてその場を退出した。

「あの~」

「はい」

「私にどのような御用でしょうか?ただの飲食店従業員なんですけど~?」

「えぇ、お店のお噂はかねがねうかがっておりますよ。メニューが豊富な上、どこよりも美味しいとか。」

「ありがとうございます。」

「まどろっこしいのは無しやで、アルフォンスさん。こっちは事情もわからず連れて来られとるんに。ちょっとくらい状況を教えて~や?」

「そうですねぇ、私も実はこういった遠回しなやり取りは苦手なんですよ。」

そら嘘やな・・・ニコニコしとるけどあんたの目はさっきから全然笑うてないで。やらしいなぁ~

「その方がウチらも助かるわ~。しなぁ。」

「帰りたい?一体どこへです?」

「どこて・・・そんなんグラムスに決まっとるやんか。」

「恐らくちょうど今ごろグラムスは西方審問騎士団と交戦中でしょうから、今帰るのは危険かもしれませんよ?」

アルフォンスから衝撃の内容を告げられたマリンは心臓が飛び出そうなほどビックリした。いくらなんでも冗談にしては恐ろしすぎる。

「はぁ?ちょ・・・ちょっと待って、それほんまなん?」

「えぇ、本当です。」

崩れへんなぁ、この微笑みマスク。もしそれがほんまのことやとしたら、こいつらが帝国に派兵したのも西方審問騎士団と関わりがあるっちゅーこっちゃろなぁ。でも情報の格差を利用してコントロールされとる気がせんでもないし・・・けったくそ悪いわ~。

「ウチらが確認できひんのをエエことに嘘言うてません?」

「本当のことだよ、マリン。」

「え?ほんまて・・・知ってたん、ロミア?」

「うん。」

「うんとちゃうわ!ちゅーか、それ知っとったんならウチにも教えんかいっ!」

「教えてもセバルにいる私たちじゃ何もできないから、心配させないでおこうって思ったんだぁ。」

・・・知っていたのか。妙な能力を持っているのは彼女もリーファ同様であることは既に把握している。彼女たちが伝書鳩を運用している様子は無いとなると、遠隔地に対する通信手段を能力として保有しているということかもしれない。
いやぁ驚いたよ、これは私も全く予想だにしなかった。だが、そうなると彼女たちを確保していることはリーファにも伝わっているとも考えられるのか・・・これは使えそうだな。

ジャック=ブラセンことアルフォンス=ブラド=センダルタはロミアを街のチンピラに襲わせるなど様々な工作をしている。このように直接反撃を受けないよう慎重に細工しながら種々の干渉を行うことで、ロミアの能力について絶えず情報を集積していた。

「そ・・・そうやけど・・・そうやけどもや!そういう大事なことはウチにも教えといて?」

「うん、わかった。」

無駄に力強くうなずくロミアを見てマリンが転けそうになる。こんな場面で道化を演じてる場合ではないので、マリンは気を取り直して話を前に進めることにした。

「頼むで~ほんま。で、結局アルフォンスさんの目的は何なん?」

「先祖がかつて治めておりましたこの地を返していただこうというのが私の考えです。」

「えーと・・・昔はたしかアンダシルヴァ王国だったっけ?でも、随分と昔の話しじゃ?」

「正確には103年前に侵略を受けたのです。」

「でも王族は全て捕まり、処刑されたって言い伝えが・・・。あっ、そういえば生き残った親類縁者は海を渡って貴族として迎えられたなんて話もあったような?」

「ロミアさんはよくご存知のようだ。ちなみに海の向こうにあるマルトハイド王国のセンダルタ伯爵家がそれにあたります。」

「ほな、アルフォンスさんはその伯爵家の当主っちゅうわけやな?」

「いいえ、違います。」

「は?・・・いやいやいや、だってアルフォンスさんがいっちゃん偉いんやろ?王さんて・・・」

「センダルタ伯爵家は王家と連なれども庶流の一つ、つまりは家来筋なのです。セバルにて商家を営んで来たブラド=センダルタ家こそが正統でして、その現当主がこの私ということになります。」

「ややこしいわ。」

「王族が平民のフリをして潜伏していたんだ。」

西方審問騎士団がどこかで無茶苦茶しよってもいつものことやから、このドサクサにまぎれて海の向こうから軍隊を引っ張って来たっちゅうわけか。

「この事態が何なのかはわかったけど、それとウチらに何の関係があるん?」

「いずれ帝国も襲撃に気がついて、こちらに軍隊を差し向けるでしょう。そうなった場合には力を貸してほしいのですよ・・・ロミアさんのご友人であるリーファさんに。」

「なっ・・・何勝手なこと言うてるんや!そないなけったいなことに何でウチらが首つっこまんといかんの?」

「おや?あなた方にも決して悪い話ではないと思いますが・・・」

「どういう事ですか?」

「あなた方は既に帝国に叛旗を翻しているではありませんか?ならば我々は手を取り合えると思いますよ。」

「ちょ、話が見えんでアルフォンスさん。そりゃ何のこっちゃ?」

「キシレムにおける帝国貴族虐殺事件の真犯人はあなた方だ。」
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