幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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モンスター強襲

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数十人の兵士たちが一斉にリーファに向かって来る。先程も見せつけられたが、どの兵士もかなり練度の高い魔術師でもあるようだ。いや、魔術師を兵士として鍛え上げたというのが正しいのか?それにしてもよくこれだけの数を揃えたもんだ。

「さすがにこの数は相手してらんないよね。こんなもんかな?」

リーファがつぶやくと同時に同胞団の3人に1人がワーウルフへと変貌する。間髪入れずアチラコチラで悲鳴が上がった。

「ワーウルフだ!」

「どこから現れた!」

「ウギャー!」

「や・・・やめろ。ごはぁっ!」

まさか自らの陣営にワーウルフが大量出現するなど誰が予測できようか。モンスターに対する憎悪、恐怖および驚愕入り交じる広場では魔術による乱戦が生じた。理由もわからないまま背後から撃ち抜かれた者たちの亡骸を踏みつけつつも無慈悲な攻撃は続く。

「ワァー、待て!俺だ、レイラスだ!」

「どういうことだ?お前、本当に・・・」

何が起きている?このワーウルフどもは一体どこから湧いて出た?こんなことが起こるなど、実際に目にしている今でも信じられん。
クソっ、これはあの「コボルト」ではないな!未確認のモンストルム・サケル・・・あるいはあの瀆神者リーファ=クルーンの力か?
眼前の混乱を前に、全体指揮そっちのけでバルトロメオが考え込む。

「ロスマー副長、背後にワーウルフが!」

気配無く自らの背後を取ったワーウルフに恐れおののいたロスマーが振り向きざまに回し蹴りを見舞う。たしかそこにはバルトロメオがいたはずなのだが・・・

「何ぃ!おのれ・・・朽ちろバケモノがぁっ!」

「ぐわぁっ、何をするかロスマー!私に牙をむくとはいかなる了見か?」

まったく身構えていなかったワーウルフが地面に叩きつけられる。あまりの出来事に非難の声を上げるモンスターだったが、どういうわけか紛れもなくバルトロメオの声だった。

「バルトロメオ隊長!?そ・・・その姿は・・・どういうことですか?」」

「何?・・・おわっ!何だコレは?」

「何がどうなっているのですか、隊長!」

「私にもわからん。それよりも前に、戦闘をやめろ!一旦停止だ!ロスマー、ボヤボヤするな。お前もやめさせろ。」

虐殺されたワーウルフは既に半数近くに上る。兵士たちはモンスターの断末魔を聞くごとに疑心暗鬼に陥った。本当にこれらのワーウルフは仲間だった人間かもしれないという心の迷い、それが皮肉にも恐怖と混乱を脱する判断力を取り戻させたのだ。だが、それはあまりに大きすぎる対価だった。

「何ということか・・・」

モンストルム・サケルは人間の言葉を話す。だからこそ耳を傾けずに捕縛ないし殺害しなければならないというのが、バルトロメオ率いるモンストルム・サケル特化部隊の鉄の掟だ。
途中で自発的に戦闘が中断することは通常ならあり得ないことだろう。だが戦闘は停止したとは言え、まだまだ状況は混沌としている。そこかしこで兵士とモンスターのいざこざが聞こえて来るではないか。

「何故こうなった?助けてくれ」

「近寄るなぁっバケモノども!それ以上近づいたら殺すっ!」

「なっ!俺たちをバケモノ扱いするのか?」

「まだ貴様が味方である保証は無い。そういうモンストルム・サケルかもしれんからなぁ。」

「何だと?うわぁっ!」

話が通じるにしても、それは今だけかもしれない。対モンストルム・サケルでは敵の罠により大打撃を受けたことも少なくないのだ。眼の前のワーウルフは本当に仲間だった男かもしれないが、そうでないこともあり得る。
魔術を威嚇放射した兵士の目は殺意を微塵も隠していなかった。

「警告したはずだ・・・次は無いぞ。」

「おや?戦闘が止んだのです・・・拷問部屋の4人組と違って、あいつら意外と冷静なのですよ。同士討ちはまだまだ少ないみたいです、姉さん。」

「じゃあそろそろアレの出番かな。バトラーお願い。」

「かしこまりましたリーファさま。」

先程まで攻撃にさらされ続けていたリーファとバトラーだったが、今やすっかり蚊帳の外という扱いだ。余裕シャクシャクで次の手を打つつもりだ。
そして、つかの間の休戦は一人の兵士の悲鳴により破られた。

「うわぁー!」

「クソっ、殺られた!やはりワーウルフどもはモンストルム・サケルだ。」

「全てのワーウルフを無力化!無理なら殺せ!」

全部隊が再び大混乱に陥っていく中で、一人の小隊長が明確にワーウルフたちを敵と宣言した。ワーウルフに仲間の兵士が殺されたこの状況では誰にも反論などできないだろう。

それをきっかけに一度止んだ戦闘が再度勃発する。もはやそのワーウルフが仲間であるかどうかの線引きはキレイに消失してしまった。

「抵抗するな、手足を切断させてもらう!」

「待て、ふざけるな!神に捧ぐべきこの身命、ここで損なわせるわけに行くか!」

「ぐがぁっ!」

ワーウルフが自らを包囲する数人の兵士を殺害すべく、魔力制御そっちのけで魔術を暴発させた。互いに無事で済むようなレベルの応酬などワーウルフたちももはや考えなくなったようだ。

バトラーが次々に投入して行く本物のワーウルフをゴチャまぜにしながら、盛大にバトルロイヤルが繰り広げられる。魔術による友軍相撃が頻発して被害が拡大しているが、この場を生き残るには敵だの味方だの言っていられない。

「直ちに戦闘をやめろ!目標はリーファ=クルーンだ、お前ら!ちっ、私の言うことなど聞いちゃいない。おい、今すぐあいつらを止めろロスマー、このままでは同士討ちで部隊が壊滅する!」

「・・・」

「どうした?早くしろロスマー・・・ん?」

<ズドンッ!>

響き渡る大音量とともにグラムスの上空でまばゆい光球が炸裂する。何も被害が無いことを鑑みるに、おそらくは何らかの合図なのだろう。
ロスマーはつい先刻使用した魔道具を地面に投げ捨てる。それを目にした途端、バルトロメオが激昂した。

「おいっ!貴様っ、誰がそんなことを命令した!?」

「誰が?そんなもの私に決まってますよ。」

「何?上官命令を無視してただで」

「この中にモンストルム・サケルが現れた可能性があるのだ。総攻撃命令でこのままグラムスごと制圧して捕縛する。もちろんお前も拘束させてもらうぞ。」

副官のロスマーはこのイレギュラーにあってバルトロメオを切り捨てる判断をしたらしい。ヒューム至上主義の聖教にあってモンスターの居場所は無い。どういうわけかバルトロメオ然としたワーウルフなどに特化部隊の指揮をとらせる選択はあり得ないだろう。

「ロスマー・・・貴様」

「バルトロメオ隊長は奮戦の末、名誉の殉教を遂げられた。安心しろ、副長の私が部隊を引き継ごうじゃないか。お前はとっとと大人しく拘束されるのだな。」

「良かろう。私は私に付く者を従えて召命を遂げるのみだ。」

ロスマーと部下の兵士がバルトロメオに襲いかかった。

「もう全面的に同士討ちだ。本物のワーウルフを投入する工夫は必要になったけど、どうやら拷問部屋と同じ結末になりそうだね。」

「首脳陣が殺し合いしてる以上、相手が全滅しない限り同士討ちを止めることなどできないのです。姉さんに刃を向けるヤツらなんてこのまま全員滅ぶといいのですよ。」

「基本的には一人ひとりが神様の威信を背負っているから、ぶつかり合えば相手が死ぬまで潰し合うことに発展するんだねぇ・・・。正義対正義の衝突なんてニコの言うことは何とも難しいなぁと思ったけど・・・あれを見ると否応なく納得させられるよ。」

「ふみゅぅ、姉さんにホメられたのですぅ。みゅふふ」

まったくホメたつもりは無いんだけど・・・まぁニコが嬉しそうだからそれで良いか。

「しかしさっき上がった閃光はなんだったんだろう?」

「リーファさま、あれによりヌイユ・エトランゼに攻撃が開始されたようです。あと」

「何だって!急行しなきゃ」

「リーファさま、ヌイユ・エトランゼは現在グラムスで最も安全な場所ですのでご安心を。それよりもグラムス城壁外の西方審問騎士団が侵攻を開始しました。」

「そうか、家は蜂の巣だから兵士10名程度で攻撃しても返り討ち確実だった。クーリアに任せれば何も問題は無いよね。」

家の軒下に蜂の巣が作られることはよく見かけるんだけど、ヌイユ・エトランゼは蜂の巣の軒下を借りて人間が住まわせてもらっているようなもの。ぶっちゃけあれって建物の外見をまとった超巨大蜂の巣なんだよね。私がダンジョンで使った簡易シェルターも実は蜂の巣。その外見からしても、あり得ないほどの堅牢さからしてもあれが何なのか誰も気付かない。

「はい。市内の敵兵は20もいませんし、いずれも満身創痍です。手早く片付けて城門の加勢に参りましょう、リーファさま。」

「やってくれたな、リーファ=クルーン。」

「うわっ!びっくりした。」

そこにはバルトロメオらしきワーウルフが立っていた。もうすっかり意識の外だったけど、一体どうやって蜂の大群をかいくぐってここまでたどり着いたんだ?
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