幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
78 / 167

ターゲットはお前だ

しおりを挟む
壇上の処刑人が力任せに振り下ろした大斧が弾かれる。本人からしても失敗などありえない手応えだったはずだ。

「何だっ!何かが邪魔を・・・」

「何をしている大馬鹿者!そんな死にぞこない、とっとと始末しろ!」

この衆人監視の中で断頭に失敗するなど同胞団の面子に関わる空前絶後の大失態と言えるだろう。副官のロスマーが処刑人の兵士に激怒し、罵声を浴びせた。

二度目の失敗は許されない処刑人が再び大斧を頭上に掲げると息を飲むように広場は静まり返る。その静寂の最中、処刑人に声をかけたのは目の前の死に損ないだった。

「お前たちは人の皮を被った野獣だ、決して逃さない。」

「ごばっ」

「キャアー」

「何だっ!何が起こっている?」

処刑人の頭がなんの前触れも無く吹き飛ぶと、それを合図に群衆が一目散に広場から逃げ出した。

「陣形を組め!」

武器を取り上げられている同胞団の兵士たちは即応できるように全周警戒及び防御の態勢に入る。

「ぬっふっふっふ、好き放題やってくれた西方審問騎士団も慌てているのです。」

ハニービーのチェンバレンを介してニコの声が聞こえる。ニコも早速チェンバレンを使いこなしているみたいだ。

「もう元に戻しても良いかなぁニコ?我ながらこの姿ってグロいんだよね。」

「じゃあそろそろ幻術を解除してキュートなリーファ姉さんに戻りましょうか。もう遠慮は要らないのですが・・・その前に」

「ねぇニコ?アレってやっぱり・・・言わなきゃダメなのかなぁ。」

「もちろんなのです。」

「本当にアレ言うの?リアンなら違和感ないけど・・・私だよ?」

「はい。ビシッと言ってやりましょう姉さん!」

むぅ~、できるならそんなこと言いたくないけどニコの言うことだからな~。仕方ない。

「神よっ!邪なる者どもを打ち払う力を与えたまえ!」

「魔女ごときがみだりに神を・・・な、何だと?」

「見ろ、回復不能な損傷が跡形もなく消えたぞ!」

「死者蘇生レベルの高等魔術でない限り、あんな真似できんはずだ!賢者でもなかろうに・・・不可能だ・・・よな?」

「ほ、本当に奇跡・・・なのか?」

同胞団が頼みとするのが神なのに、目の前で奇跡を見せつけられるのはさぞ居心地が悪いはずなのです。この程度で信仰心が揺らぎはしないでしょうが、混乱に拍車がかかるのですよ。それで十分なのです。

「おのれ、小賢しい!どんなトリックを使った?」

「魔女め、神の名を騙るか!はぺっ」

憎々しげに毒づいた兵士の頭が一瞬で消し飛ぶ。ホーネット=ファントムランサーが無慈悲に襲いかかった。
しかしさすがは軍隊だけあって兵士の中には炎、風、氷などを周囲に展開して独自に簡易防壁を作っている者も多い。

「ホーネットをむやみに突っ込ませるのは危険になってきたなぁ。長期戦に持ち込まれてもつまらないぞ。」

攻めあぐねるリーファをよそに民衆は快哉を叫んでいるようだ。

「ざまぁ見ろ、神の名を騙っているのはお前らだってよ!こりゃ神様も心底お怒りだぜ。」

「これはまごうかたなく神罰だ、地獄へ堕ちろ狂信者ども!」

「とっととグラムスから出ていけ!」

よそからやって来て好き放題をする西方審問騎士団に対し、帝国国民の感情が好ましいものであるはずはない。そこへ来て眼の前で奇跡を見せつけられたとあっては、民衆も抑圧された本音を爆発させずにはいられなかった。
帝国の地方都市において思わぬ逆境にさらされ、末端の兵士たちが浮足立つ。

「くそっ!どこだ・・・どこから狙っている?」

「うろたえるな、みっともない!全周防御だ、ロスマー!」

バルトロメオの命令にロスマーはスクロールを取り出すと防御魔術が瞬時に展開される。ホーネット=ファントムの攻撃もむなしく弾き返されているではないか。これにはさすがにバトラーも悲鳴を上げた。

「堅牢な防御壁ですぅ~リーファさまぁ~!」

「何だ?あいつらもハニカムウォールみたいなのを使えるのか!ランサーでも突破できないなんて・・・どうしようニコ?」

「もちろん手は用意してますよ姉さん。では相手のじん」

「リーファ=クルーン、お前はもしや異世界の人間ではないのか?」

ニコの念話を遮るようにバルトロメオがリーファに疑問を投げかけた。常に余裕の表情を浮かべているこの男にしては珍しく眉間にシワが寄っている。

「何のことだ?」

「お前の特異な力だ!」

「力?」

「天上の御救みすくいたる奇跡。召喚に応じてこの世に顕現したヒュームはすべからく神の御救いを分与される。お前の力はそれではないのか!」

おや?何か核心的なことを言いだしたのです。重要そうなのでよくよく聞き出せば姉さんたちの遭遇した言葉を話すコボルトのことがわかるかもしれない。ここは適当にはぐらかしながらじっくりと

「はぁ?そんなわけあるか!何でもかんでもテメェの尺度でモノ言ってんじゃね~ぞバカタレ!」

「あっ!待って姉さん。あいつらからできる限り情報を」

「愚かな・・・所詮は魔女か。現時刻を以て遂行中の作戦を放棄。対モンストルム・サケル!目標、リーファ=クルーン!デッド・オア・アライヴ!復唱」

「駄目だ、遅かった~。私としたことが姉さんの気質を失念していたのです。こうなったら眠たいことは言いっこなしでパパっとやっちまいましょう。」

「あれ?まずかったかい、ニコちん?」

ついカッとなって言ってしまった。そうだったよ・・・この異世界転生がらみの話って何が何だかわからんまま気づかぬ内に、あれよあれよと大きな渦に飲み込まれたようなもんじゃないか。手がかりが必要だってのに、何やってんだろ?

「分析せよ!」

「永遠なる円環 そは聖なる天蓋 静寂を毀つ彗星の凶兆 いかにあらんや・・・“スターゲイザー”」

「うっ!何だこの感覚?」

自分がいる空間ごと歪められたみたいだ・・・気持ち悪い。何だこの魔術は?

「パターン・・・はぁ?」

「どうした?早く言え。」

「パターン、オールブルー!ヤツはただの子供です。」

「そんな馬鹿な!半径100ヤードは?」

「ん?無数の小さい反応が・・・包囲されています!」

「包囲?何も見えんな・・・出し惜しみは無しだ。使え!」

リーファ=クルーンめ、これだけのことをしでかしておいてただの子供オールブルーだと?誰がそんな世迷い言を信じるというのか、私を騙しおおせると思うなよ。
スターゲイザーはあくまでモンストルム・サケルに向けられるものだ。私は確信したよ・・・お前は特別だ!たとえ死体であろうとも必ず聖堂宮殿イスターヴァに持ち帰る。もはやコボルトなど後回しで構わん。

「姉さん、あいつら何か飲んでる。」

「うあぁぁぁ・・・」

「ぐぅあぁ・・・」

兵士たちは何かを飲み込むと一様に頭を抱えて地面に崩れ落ちて行く。数はごくわずかながら青くなってそのまま動かなくなった者までいるではないか。死んだのか気絶なのか判断はつかないが、相当ヤバイものであることは確かだ。

「何だ?あいつら苦しんでるぞ。毒でも飲んだのか?」

「ハァハァ・・・くくく、そうか蜂使いか。」

「やばい、何でバレたんだ?」

「手品もタネが割れりゃあいくらでも対処しようがある。小賢しい真似しやがって、焼き尽くしてやる。」

「リーファさま、どうやらヤツらは我らを目で追ってるようです。」

どうやら身体能力を格段に向上させる薬を飲んだらしい。こいつらセイジロウを追ってるみたいだから、あのバケモノとやり合うためにわざわざ用意した奥の手なんだろう。
明らかにセイジロウの方が圧倒的なのに、格下の私相手にそんな物騒なもん使うなよ。

「まずいなぁ・・・こいつらをここで殲滅しないとシンディーたちが挟まれちゃうぞ。」

「突撃ぃっ!」

ハニービー=ディフェンダーが前面に展開して兵士たちの魔法攻撃を弾くものの、攻防一体に各種魔術をまとった兵士にホーネットが攻め手を欠く状況に陥ってしまった。武器を巻き上げたニコの企みのおかげで比較的持ちこたえられるし、いまや蜂の要塞と化したグラムス市内ではこのまま相手の魔力枯渇を待つなんてこともできる。

だけどグラムスの外にいる650人の武装兵団も危ない薬キメて襲いかかって来たら・・・さすがに旗色が悪いな。やっぱり無手のこいつらを早く蹴散らさんとダメだよ。この調子じゃあさらにヤバイ何かを隠し持ってないとも言い切れないもんね。グレンも相当怯えてたけど、狂信者集団って本当に恐ろしすぎる!

「さっきは言いそびれたけど、拷問部屋で使ったアレやっちゃいましょう。あっちは丁度おあつらえ向きに防壁を解除したようですし。」

「あぁ、そうか!アレは効果てきめんだったもんね。やっぱニコがいてくれると助かるわー。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処理中です...