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処刑台マーチ
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「尋問は終わったのか?」
「隊長・・・それがおかしいのです。」
「ん?何だ、いつもどおりの血祭りではないか。尋問が済んだのなら何故すぐに結果の報告に来ないのか?」
そこには拘束台に繋がれた血だらけの人間がぐったりとうなだれていた。指はへし折られ、爪は剥がされいたるところに火傷や打撲の跡が見える。足にいたっては叩き潰されてところどころ肉も削がれていた。
死なないように繰り返し中途半端な回復処置を施されているが、こんなことをされては二度と元通りに回復することなど無いだろう。
「たしかにご覧の通り尋問は終わったようなのですが、尋問に当たったロメロ騎兵長以下4名の者が容疑者を置き去りにして持ち場を離れてしまったようでして・・・」
「何?私は聞いておらぬぞ。」
持ち場を離れるにしても上官への報告も無いのは異常だ。バルトロメオの機嫌次第では文字通り首が飛ぶ恐れもある。自らに累が及ぶのを避けるために何としても穏便に済ませたいものだ。
「何かこの娘から引き出した情報を下に新たな容疑者を拘引しに出たのかと推測します。逃走や証拠隠滅を防ぐ緊急かつやむを得ざる措置だったのでは?」
「熱心なのはわかるが、独断専行は軍規を乱す。わかるな、副長。」
「はっ!後で全員に3日間の営倉行きを命じます。」
「よろしい、ではこのガキを山車に載せろ。」
隊長は処分に異議は無いようだ、どうも機嫌が良いらしい。副官はほっと胸をなでおろす。
「ベクスタル司教が怒り狂いますな。よろしいので?」
「なぁに、盛大に司教の鼻っ柱をへし折ってやろうではないか。命令される筋合いの無い我ら同胞団にわざわざクチバシを突っ込んでくれたのだ、それがどういうことなのかきちんとしつけてやらねばなるまいよ。」
「んっふっふっふ、さすがはバルトロメオ隊長。これは痛快。」
「ん?」
「どうかされましたか?」
「ズタボロのガキはまだ意識があるようだ。お前がこの後どうなるか知りたいか?」
「・・・」
舌を噛み切って勝手に自殺を図らないように施された猿ぐつわは既に外されているようだが、自殺どころか言葉を発するだけの気力すら残っていないらしい。もちろんバルトロメオも目の前の少女から答えが返って来るなどハナから期待していなかった。
かろうじて呼吸するに過ぎない生きた屍、同胞団の由緒正しき尋問術の為せるワザだ。
「ふっふっふ、そう怯えなくて良いぞ。私は福音をもたらしに来たのだ。そろそろお前を苦しみから解放してやろう。」
***
拷問用の拘束台ごとそのまま山車に載せられたリーファは市中を引き回されていた。あまりの残酷な光景に人々が見るに耐えず目をそらす。
「何とむごい・・・」
「まだ子供じゃないか。」
「神に背く恥知らず、リーファ=クルーンは魔女である!今日この日、全ての悪事は神の光の下に照らし尽くされ露見するに至った!」
行列の先頭にいる騎兵が馬上から高らかに見世物の口上を述べたてる。この世界において公開処刑はこれと言って珍しくもない、ありふれた光景ではあった。ただこれほどまで年若い子供が引き回されているのを除いては。
はしゃぎ回る兵士のおぞましさに眉をひそめる市民がポツリとつぶやいた。
「ふん、どうだか・・・嘘つきの拷問屋め」
「貴様っ、神を侮辱したな!しかとこの耳で聞いたぞ」
「うっ、うわぁー!助けてくれー」
「待てー!こらどけっ、邪魔だ!」
「逃がすな!」
捕まったら少女と同じ目にあわされる。たかだか皮肉くらいでそんなことにはならないのが通常だが、国家クラスの自力救済力を持つ西方審問騎士団相手では身の安全など保証されない。兵士に追われる男は人垣をかき分けて死にものぐるいで逃げて行った。
「諸君らも見ての通り神に背く者は必ず捕縛され、その罪に相応しい最期を迎えることとなる。神の敵になりたくない者は広場に集いて、共に汝らの敵リーファ=クルーンを討て!石を取りて、この地に染み付いた罪障をその手で贖え!」
「一体あの子が何をしたって言うんだ?」
「しぃっ!やめとけ、聞こえるぞ。」
ズタズタにされた哀れな少女を載せた山車は市中を巡ってようやくグラムスで最も大きいラファリアン広場へたどり着く。それまでにポツポツとまばらに石が飛んできたものの、一つとしてリーファには届かなかった。
結局それらは半ば同胞団の兵士に強要されたものに過ぎず、西方審問騎士団のやり口を知っている市民からすると犠牲者に対する同情心の方が勝っているようだ。
自分があの山車の上にいないのは単なる僥倖に過ぎないことを誰もが知っている。
「神の正義は来たれり!世の悪事はことごとく露見し、裁かれんことを知れ。神のご慈悲だ、最期に言い遺すことはあるか?」
「罪に相応しい最期を迎えるとは真実か?」
つい数秒前まで生きる屍だった少女が口をきくとは思いもしなかったバルトロメオが目を見開く。
そもそも最期の言葉とは口をきけない罪人が贖罪の言葉を口にしたとでっち上げて、同胞団の残虐行為を正当化するために形式的に行われるはずのものだ。
だからこそ逆に最期の言葉を本当に話されては都合が悪い。想定外の事態に壇上の処刑人が青ざめているのがそれを如実に物語っていた。
バルトロメオは同胞団に走る動揺を民衆に悟られないよう、壇上にいるリーファの叫びに努めて鷹揚に応じて見せる。
「真実だとも、大罪人リーファ=クルーンは本日ここで首を落とされて果てる。これは神の定めたもうた運命だ。」
「ここで最期を迎える者は神に背く大罪人であることは間違いないんだな?」
「お前は何を言っている?当たり前だ、ここに集った者の全てがその証人となることだろう。」
「その言葉、忘れるなよ!」
「魔女め!最期まで愚かなガキだ。もう良い、やれ!」
「隊長・・・それがおかしいのです。」
「ん?何だ、いつもどおりの血祭りではないか。尋問が済んだのなら何故すぐに結果の報告に来ないのか?」
そこには拘束台に繋がれた血だらけの人間がぐったりとうなだれていた。指はへし折られ、爪は剥がされいたるところに火傷や打撲の跡が見える。足にいたっては叩き潰されてところどころ肉も削がれていた。
死なないように繰り返し中途半端な回復処置を施されているが、こんなことをされては二度と元通りに回復することなど無いだろう。
「たしかにご覧の通り尋問は終わったようなのですが、尋問に当たったロメロ騎兵長以下4名の者が容疑者を置き去りにして持ち場を離れてしまったようでして・・・」
「何?私は聞いておらぬぞ。」
持ち場を離れるにしても上官への報告も無いのは異常だ。バルトロメオの機嫌次第では文字通り首が飛ぶ恐れもある。自らに累が及ぶのを避けるために何としても穏便に済ませたいものだ。
「何かこの娘から引き出した情報を下に新たな容疑者を拘引しに出たのかと推測します。逃走や証拠隠滅を防ぐ緊急かつやむを得ざる措置だったのでは?」
「熱心なのはわかるが、独断専行は軍規を乱す。わかるな、副長。」
「はっ!後で全員に3日間の営倉行きを命じます。」
「よろしい、ではこのガキを山車に載せろ。」
隊長は処分に異議は無いようだ、どうも機嫌が良いらしい。副官はほっと胸をなでおろす。
「ベクスタル司教が怒り狂いますな。よろしいので?」
「なぁに、盛大に司教の鼻っ柱をへし折ってやろうではないか。命令される筋合いの無い我ら同胞団にわざわざクチバシを突っ込んでくれたのだ、それがどういうことなのかきちんとしつけてやらねばなるまいよ。」
「んっふっふっふ、さすがはバルトロメオ隊長。これは痛快。」
「ん?」
「どうかされましたか?」
「ズタボロのガキはまだ意識があるようだ。お前がこの後どうなるか知りたいか?」
「・・・」
舌を噛み切って勝手に自殺を図らないように施された猿ぐつわは既に外されているようだが、自殺どころか言葉を発するだけの気力すら残っていないらしい。もちろんバルトロメオも目の前の少女から答えが返って来るなどハナから期待していなかった。
かろうじて呼吸するに過ぎない生きた屍、同胞団の由緒正しき尋問術の為せるワザだ。
「ふっふっふ、そう怯えなくて良いぞ。私は福音をもたらしに来たのだ。そろそろお前を苦しみから解放してやろう。」
***
拷問用の拘束台ごとそのまま山車に載せられたリーファは市中を引き回されていた。あまりの残酷な光景に人々が見るに耐えず目をそらす。
「何とむごい・・・」
「まだ子供じゃないか。」
「神に背く恥知らず、リーファ=クルーンは魔女である!今日この日、全ての悪事は神の光の下に照らし尽くされ露見するに至った!」
行列の先頭にいる騎兵が馬上から高らかに見世物の口上を述べたてる。この世界において公開処刑はこれと言って珍しくもない、ありふれた光景ではあった。ただこれほどまで年若い子供が引き回されているのを除いては。
はしゃぎ回る兵士のおぞましさに眉をひそめる市民がポツリとつぶやいた。
「ふん、どうだか・・・嘘つきの拷問屋め」
「貴様っ、神を侮辱したな!しかとこの耳で聞いたぞ」
「うっ、うわぁー!助けてくれー」
「待てー!こらどけっ、邪魔だ!」
「逃がすな!」
捕まったら少女と同じ目にあわされる。たかだか皮肉くらいでそんなことにはならないのが通常だが、国家クラスの自力救済力を持つ西方審問騎士団相手では身の安全など保証されない。兵士に追われる男は人垣をかき分けて死にものぐるいで逃げて行った。
「諸君らも見ての通り神に背く者は必ず捕縛され、その罪に相応しい最期を迎えることとなる。神の敵になりたくない者は広場に集いて、共に汝らの敵リーファ=クルーンを討て!石を取りて、この地に染み付いた罪障をその手で贖え!」
「一体あの子が何をしたって言うんだ?」
「しぃっ!やめとけ、聞こえるぞ。」
ズタズタにされた哀れな少女を載せた山車は市中を巡ってようやくグラムスで最も大きいラファリアン広場へたどり着く。それまでにポツポツとまばらに石が飛んできたものの、一つとしてリーファには届かなかった。
結局それらは半ば同胞団の兵士に強要されたものに過ぎず、西方審問騎士団のやり口を知っている市民からすると犠牲者に対する同情心の方が勝っているようだ。
自分があの山車の上にいないのは単なる僥倖に過ぎないことを誰もが知っている。
「神の正義は来たれり!世の悪事はことごとく露見し、裁かれんことを知れ。神のご慈悲だ、最期に言い遺すことはあるか?」
「罪に相応しい最期を迎えるとは真実か?」
つい数秒前まで生きる屍だった少女が口をきくとは思いもしなかったバルトロメオが目を見開く。
そもそも最期の言葉とは口をきけない罪人が贖罪の言葉を口にしたとでっち上げて、同胞団の残虐行為を正当化するために形式的に行われるはずのものだ。
だからこそ逆に最期の言葉を本当に話されては都合が悪い。想定外の事態に壇上の処刑人が青ざめているのがそれを如実に物語っていた。
バルトロメオは同胞団に走る動揺を民衆に悟られないよう、壇上にいるリーファの叫びに努めて鷹揚に応じて見せる。
「真実だとも、大罪人リーファ=クルーンは本日ここで首を落とされて果てる。これは神の定めたもうた運命だ。」
「ここで最期を迎える者は神に背く大罪人であることは間違いないんだな?」
「お前は何を言っている?当たり前だ、ここに集った者の全てがその証人となることだろう。」
「その言葉、忘れるなよ!」
「魔女め!最期まで愚かなガキだ。もう良い、やれ!」
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