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顕密の間
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私は西方審問騎士団の兵士をヌイユ・エトランゼから引き離すため、敢えて連行されることにした。結構な距離を歩かされた挙句に到着した場所はグラムス中心街にある一際大きい大聖堂の一区画にある物置のような場所だ。
「さて、何故ここに連れて来られたかわかるか?」
「知るか。」
「このガキが!」
尋問をする兵士の部下がリーファの胸ぐらをつかんで引き上げる。すると上長が部下の腕をポンと軽くたたいて力を抜かせた。
「まぁ待て。はっはっは、仕事がら血の気が多いのが多くてなぁ。さてと・・・お前は言葉を話すコボルトに遭遇したのだ。いつどこで遭遇した?」
「はぁ?頭わいてんのか?コボルトが話すわけないだろ。」
上長は懐からヤスリを取り出すと、まるでリーファのことなどどうでも良いかのように爪の手入れを始め出す。片手間の尋問も面倒とばかりにつぶやいた。
「自分から話す気は無いのか?じゃあこうしよう、まずは世間話でもしようじゃないか。」
「世間話だぁ?お前なんかと話すことがあるか。」
というか、あのコボルトは跡形もなく消えた。真相を伝えたところで血眼になって探しに来たお前らは納得なんてしないだろ?
下手なこと言ったらグレンたちにも迷惑かけるだろうなー。こんなやり取りなんざ最初から不毛なんだよ。もーこいつら全員帰ってくんねーかな。
「あの店・・・無くならないといいなぁ?小綺麗で良い店じゃないか。」
「あぁ?」
「世の中は思いも寄らぬ不幸が起こったりするということだ。」
「ちっ!何言ってんだテメェは?」
「例えば店員が何故か店内に閉じ込められたまま焼死したりなぁ?誰一人逃げ出すことなく全員?何でだろうなぁ?」
「ふん。」
「くっくっく、そうか。仲間が虫けらのように死のうとどうでも良いか?所詮は他人だものなぁ?ガキのくせに見下げた外道ではないか、げに悲しき此岸かな。これは救済が必要だぞガドー?」
「はっはっはっは、左様ですなぁ。背徳のサルタゴ、グラムスの許されざる真の現状でありましょうや。」
「うるせえよ。」
「おい、持って来い。」
「はっ!」
そこには拘束具、鈍器、鋭利なものから切れ味の悪そうな刃物までひたすら身体を痛めつけるだけに特化した道具が並んでいる。およそ人道に外れているとしか思えないが、これが神の教えに基づくというならばその神とやらは十中八九邪悪な存在だろう。こんな物を人に対して行使して良いはずがない。
「何だそりゃ?」
「実に寂しい反応だ。どれほど愚かな人間でもこういった道具を見た瞬間に大抵は許しを請うようにすがりつくものなんだが。ひょっとして虚仮威しだと思っているのか?」
「馬鹿馬鹿しい。」
「くっくっく、見え透いた強がりはよせ。徳の高そうな俺もこう見えていろいろやって来たんだぞ?例えばコレだ、この刃物で生きたまま肉を削いで行くんだ。あぁそうそう、こっちの鈍器は使い勝手が良くてなぁ。こいつでぶっ叩くと花が開くように手足をキレイに潰せるんだよ。どうだ、何か俺に伝えたいことがあるんじゃないか?」
「あぁ・・・お前らは清々しいほどのクズ野郎だ。」
「ははは、そうかそうか。まぁ口で聞いても答えないなら直接お前の身体に聞くとしよう。」
***
「おい、バルトロメオとやら?私は宿泊に限り教会施設の利用を許可したはずだが?」
「おや、ベクスタル司教?何かございましたか。」
「私は見たぞ!何だあの禍々しい道具の数々は?まさか貴様、この司教座を血で穢そうとしておるまいな。そんなこと絶対に許さんぞ!」
「おや、先触れの男から聞いておりませんか。吟遊詩人のつまらぬ男で・・・名前は何と言ったか?」
「そんなこと聞いておらん!」
「そうですか、ベクスタル司教にお伝えしておらんとは・・・後で処罰しておきましょう。」
「伝えたか否かとそんなことはどうでも良い、私が言っておることは司教座での狼藉は何一つ許さんということだ。あれはこちらで預からせてもらう。そもそも」
「ベクスタル司教」
やれやれといった調子で言葉を遮るバルトロメオの態度に、怒り心頭だったベクスタルも呆気に取られた。司教の言葉がここまで軽んじられるとは、あまり経験したことが無い。
「何だ?」
「同胞団の考えを述べさせてもらうならば、民衆を導くには一定の恐怖というものが必要なのです。」
「恐怖・・・だと?」
いきなり何を言い出すのか?このバルトロメオとやらは本当に聖教信徒なのであろうか・・・。
驚きの表情を隠せないベクスタルのうめきに対してバルトロメオは鷹揚な態度で応じる。
「はい。ベクスタル司教、私が申し上げるまでもなく民衆は愚かで本性的に悪なのです。ならば聖教が民衆に潜む悪を苛烈に裁いてこそ善性に導かれると言えましょう。そして絶対正義による残虐な蹂躙はどこかで常に民衆に再現されねばなりません。それこそ魂に刻み込まれるまで何度もね。」
「ふ・・・ふざけるなっ!等しく人間は過ちを犯す、だがそれは決してお前の言うような悪ではない。自らの過ちを悔い改めるという神のお与えになった人間の能力を否定するなど、聖教の否定に等しいではないか!迷える者を導くべき立場にありながら・・・あまりにも不遜きわまりない」
「ふっ、皮相ですな。」
「な・・・」
「司教のおっしゃることは愚かな民衆を集めるための顕教に過ぎません。教え広めるのはあなた方の「仕事」、神の偉業を貫徹させるのが我々の「召命」と言ったところでしょうか。釈義の優劣を弁じたいのであれば構いませんが、暇を持て余す木っ端坊主どもだけでやり合っていただきたいものですな。」
「くっ!・・・あぁ良いとも。この私を嘲ると言うなら、それ位いくらでも我慢しよう。だがこの司教区に暮らす無辜の民を無差別に蹂躙するなど、この私が許さん。」
「司教の仰せといえどもそれは聞けませんな。我々とて聖下のご意志により動いておりますので。」
おのれ外道め!教皇アシュケナム=ラウファンティスの名を語れば問答無用とばかりに増長しおって。その力量を認めるにやぶさかではないが、あの男とて絶対的な存在などではない。派閥の微妙なバランスの上に立っておるに過ぎぬのだ。
「この私が入城にも便宜を図ってやったにも関わらず、好き放題に振る舞うと言うのだな?ならばこちらにも考えがある。この件についてはシラー枢機卿に報告させてもらうぞ。」
「はっはっはっは、これは滑稽ですな。どうぞご自由に。」
シラーだと?甘ったるい顕教の権化ではないか。清濁併せ飲むこともできんようなヤツがよくも枢機卿になれたものだと思っていたが・・・類は友を呼ぶ、か?なるほど、このような手合を糾合した派閥ということだな。実に目障り。
とは言えベクスタルめ、我々が本当に手段を選ばねばどうなるのか知らんらしい。司教座が便宜を図ったとは笑わせてくれる。その便宜とやらが制約付きの入城に過ぎんとは、我らの足を引っ張っているつもりなのだろう。
そもそも我慢してお行儀良くしてやっているのは我らだと言うのに。小うるさいヤツを黙らせるには・・・そうだな、ここは一つ示威行動も必要かもしれん。ベクスタルもさぞ嫌がることだろうて。
「さて、何故ここに連れて来られたかわかるか?」
「知るか。」
「このガキが!」
尋問をする兵士の部下がリーファの胸ぐらをつかんで引き上げる。すると上長が部下の腕をポンと軽くたたいて力を抜かせた。
「まぁ待て。はっはっは、仕事がら血の気が多いのが多くてなぁ。さてと・・・お前は言葉を話すコボルトに遭遇したのだ。いつどこで遭遇した?」
「はぁ?頭わいてんのか?コボルトが話すわけないだろ。」
上長は懐からヤスリを取り出すと、まるでリーファのことなどどうでも良いかのように爪の手入れを始め出す。片手間の尋問も面倒とばかりにつぶやいた。
「自分から話す気は無いのか?じゃあこうしよう、まずは世間話でもしようじゃないか。」
「世間話だぁ?お前なんかと話すことがあるか。」
というか、あのコボルトは跡形もなく消えた。真相を伝えたところで血眼になって探しに来たお前らは納得なんてしないだろ?
下手なこと言ったらグレンたちにも迷惑かけるだろうなー。こんなやり取りなんざ最初から不毛なんだよ。もーこいつら全員帰ってくんねーかな。
「あの店・・・無くならないといいなぁ?小綺麗で良い店じゃないか。」
「あぁ?」
「世の中は思いも寄らぬ不幸が起こったりするということだ。」
「ちっ!何言ってんだテメェは?」
「例えば店員が何故か店内に閉じ込められたまま焼死したりなぁ?誰一人逃げ出すことなく全員?何でだろうなぁ?」
「ふん。」
「くっくっく、そうか。仲間が虫けらのように死のうとどうでも良いか?所詮は他人だものなぁ?ガキのくせに見下げた外道ではないか、げに悲しき此岸かな。これは救済が必要だぞガドー?」
「はっはっはっは、左様ですなぁ。背徳のサルタゴ、グラムスの許されざる真の現状でありましょうや。」
「うるせえよ。」
「おい、持って来い。」
「はっ!」
そこには拘束具、鈍器、鋭利なものから切れ味の悪そうな刃物までひたすら身体を痛めつけるだけに特化した道具が並んでいる。およそ人道に外れているとしか思えないが、これが神の教えに基づくというならばその神とやらは十中八九邪悪な存在だろう。こんな物を人に対して行使して良いはずがない。
「何だそりゃ?」
「実に寂しい反応だ。どれほど愚かな人間でもこういった道具を見た瞬間に大抵は許しを請うようにすがりつくものなんだが。ひょっとして虚仮威しだと思っているのか?」
「馬鹿馬鹿しい。」
「くっくっく、見え透いた強がりはよせ。徳の高そうな俺もこう見えていろいろやって来たんだぞ?例えばコレだ、この刃物で生きたまま肉を削いで行くんだ。あぁそうそう、こっちの鈍器は使い勝手が良くてなぁ。こいつでぶっ叩くと花が開くように手足をキレイに潰せるんだよ。どうだ、何か俺に伝えたいことがあるんじゃないか?」
「あぁ・・・お前らは清々しいほどのクズ野郎だ。」
「ははは、そうかそうか。まぁ口で聞いても答えないなら直接お前の身体に聞くとしよう。」
***
「おい、バルトロメオとやら?私は宿泊に限り教会施設の利用を許可したはずだが?」
「おや、ベクスタル司教?何かございましたか。」
「私は見たぞ!何だあの禍々しい道具の数々は?まさか貴様、この司教座を血で穢そうとしておるまいな。そんなこと絶対に許さんぞ!」
「おや、先触れの男から聞いておりませんか。吟遊詩人のつまらぬ男で・・・名前は何と言ったか?」
「そんなこと聞いておらん!」
「そうですか、ベクスタル司教にお伝えしておらんとは・・・後で処罰しておきましょう。」
「伝えたか否かとそんなことはどうでも良い、私が言っておることは司教座での狼藉は何一つ許さんということだ。あれはこちらで預からせてもらう。そもそも」
「ベクスタル司教」
やれやれといった調子で言葉を遮るバルトロメオの態度に、怒り心頭だったベクスタルも呆気に取られた。司教の言葉がここまで軽んじられるとは、あまり経験したことが無い。
「何だ?」
「同胞団の考えを述べさせてもらうならば、民衆を導くには一定の恐怖というものが必要なのです。」
「恐怖・・・だと?」
いきなり何を言い出すのか?このバルトロメオとやらは本当に聖教信徒なのであろうか・・・。
驚きの表情を隠せないベクスタルのうめきに対してバルトロメオは鷹揚な態度で応じる。
「はい。ベクスタル司教、私が申し上げるまでもなく民衆は愚かで本性的に悪なのです。ならば聖教が民衆に潜む悪を苛烈に裁いてこそ善性に導かれると言えましょう。そして絶対正義による残虐な蹂躙はどこかで常に民衆に再現されねばなりません。それこそ魂に刻み込まれるまで何度もね。」
「ふ・・・ふざけるなっ!等しく人間は過ちを犯す、だがそれは決してお前の言うような悪ではない。自らの過ちを悔い改めるという神のお与えになった人間の能力を否定するなど、聖教の否定に等しいではないか!迷える者を導くべき立場にありながら・・・あまりにも不遜きわまりない」
「ふっ、皮相ですな。」
「な・・・」
「司教のおっしゃることは愚かな民衆を集めるための顕教に過ぎません。教え広めるのはあなた方の「仕事」、神の偉業を貫徹させるのが我々の「召命」と言ったところでしょうか。釈義の優劣を弁じたいのであれば構いませんが、暇を持て余す木っ端坊主どもだけでやり合っていただきたいものですな。」
「くっ!・・・あぁ良いとも。この私を嘲ると言うなら、それ位いくらでも我慢しよう。だがこの司教区に暮らす無辜の民を無差別に蹂躙するなど、この私が許さん。」
「司教の仰せといえどもそれは聞けませんな。我々とて聖下のご意志により動いておりますので。」
おのれ外道め!教皇アシュケナム=ラウファンティスの名を語れば問答無用とばかりに増長しおって。その力量を認めるにやぶさかではないが、あの男とて絶対的な存在などではない。派閥の微妙なバランスの上に立っておるに過ぎぬのだ。
「この私が入城にも便宜を図ってやったにも関わらず、好き放題に振る舞うと言うのだな?ならばこちらにも考えがある。この件についてはシラー枢機卿に報告させてもらうぞ。」
「はっはっはっは、これは滑稽ですな。どうぞご自由に。」
シラーだと?甘ったるい顕教の権化ではないか。清濁併せ飲むこともできんようなヤツがよくも枢機卿になれたものだと思っていたが・・・類は友を呼ぶ、か?なるほど、このような手合を糾合した派閥ということだな。実に目障り。
とは言えベクスタルめ、我々が本当に手段を選ばねばどうなるのか知らんらしい。司教座が便宜を図ったとは笑わせてくれる。その便宜とやらが制約付きの入城に過ぎんとは、我らの足を引っ張っているつもりなのだろう。
そもそも我慢してお行儀良くしてやっているのは我らだと言うのに。小うるさいヤツを黙らせるには・・・そうだな、ここは一つ示威行動も必要かもしれん。ベクスタルもさぞ嫌がることだろうて。
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