幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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はためく軍旗

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「おい見ろよ。あんなところにいい女が」

「ドコだっ!ん?んー?」

血眼になって視線の先を追う同僚を見て、もう一方の守衛の男が大笑いする。

「かっかっかっか、バーカ。そんなのがいたら誰にも教えずに俺が一番乗りで声かけに行ってらあ。」

「このクソ野郎が!ちったあ真面目に仕事しろ!」

グラムスではギルドを通じて冒険者が守衛の業務を請け負っている。市としては使命感および実力の確かなC級を希望しているが、割が良い反面すごく退屈な業務のためにD級が独占受注しているのが実状だった。
冒険者ギルドの信頼に関わるのでよほどの札付きは弾かれるものの、言ってみれば守衛となる者の質はピンキリだ。

「ふん、真面目もクソもこんなところでテメーと見張りなんざ・・・何だありゃ?」

「あぁ?二度と引っかかるかよホラ吹き野郎め。あんま調子こいてっとスカーレットさんに報告するからな、よく覚えとけ!」

守衛の男はどうせまたホラに違いないと耳を貸すことなく、他の方角へと監視の目を転じる。しかし同僚の男の声色は先ほどとはうって変わって焦りの色を含んでいた。

「違う、あれは・・・集団か?」

「どうした?」

「あれは・・・軍隊じゃないか?」

「本当だ。こちらに向かっているようだが・・・どこのヤツらだ?」

守衛が目を凝らすと風にたなびく軍旗が目に飛び込んで来たのだった。たちまち男たちの顔色が青ざめていく。

「見ろ!あの紋章・・・」

「西方審問騎士団じゃないか!何でこんな辺境に?」

「まずいぞ・・・」

「俺は上に報告して来る、取り敢えずお前はみんなと城門を封鎖してくれ。」

グラムス市長公邸に早馬を飛ばして来た衛兵隊士から市長に報告が上がる。

「何だと?モーゼルトが不在の時に・・・。おい、モーゼルトは不在中の参事会長権限を誰に委ねている?フーバーか?」

「お待ちくださいケストン市長、フーバー参事ではございません。」

フーバーめ、ゆくゆくはモーゼルトを追い落とすとか息巻いておったはずだが・・・。こんな時の代理にも指名されておらんとは、とうとう失脚でもしおったか?口ほどにもない。
まぁ参事会の派閥闘争なんぞ知ったことではないがね。誰とでも上手くやり、つかず離れずが私のモットーだ。しかしフーバーでないとすれば・・・ナドルオスか?いや、あの小心者では・・・。

ケストンの頭の中で二十三人会に名を連ねる実力者の顔がグルグルと回ってはいるものの結論は出なかった。

「う~む・・・では誰なのかね?」

「確か・・・おぉ、ありました。ニコ=ボーシャという者だそうです、ケストン市長。」

「ニコ・・・何だって?そんなヤツ二十三人会にいたか?聞いた覚えが無いが・・・まぁ良い、今すぐ正副の権限代行者を両方ここに連れて来い。あと、大至急ドラグノギアのモーゼルトに伝令を送れ。」

ケストンは即座に二十三人会の参事全員へ準戦時発令を通知し、参事会長の単独の同意の下に市長が全ての権限を手中にする準戦時体勢を布いた。それと同時に参事会長モーゼルトの名代を市長公邸へと召喚したのだった。

「市長、お二方をお連れしました。」

ボーネランドの側には猫の亜人の小娘がいるようだが、何故こんな時に連れてきたのかケストンにはサッパリ理解できなかった。副代行者のみで話を進めては後でモーゼルトから何を言われるかわかったものではない。

「おおっ!良く来てくれた、急がせてすまんね。さぁ、かけてくれたまえ。早速なんだが実は・・・ん?ニコ=ボーシャ殿はどこかな、ボーネランドくん?もう一人がいないようだが。」

<カチン>

そんな音が聞こえて来んばかりにニコの表情が不快に歪むのを見たトマソン=ボーネランドはあわてて市長に説明する。理由はわからないが、ただでさえ機嫌が悪いニコの機嫌をこれ以上損ねると帰ると言い出しかねない。

「お待ちくださいケストン市長、ワシの隣にいるこの娘がニコ=ボーシャなのです。」

「わっはっはっは、君にしては面白いことを言うじゃないか?だが、いかんよ。今は一刻を争う緊急時、時間が惜しいのだ。仕方ない、我らで直接ニコ=ボーシャを」

「ムカ!用が無いなら私は帰るのです。いきなり何事かと思えば」

リーファ姉さんをつけ狙う不倶戴天の敵ガノフ=ボーネランドの父親とここまで同席させられるだけでも怒り心頭なのに、来てやったら来てやったでこの侮辱たるや・・・。
ガノフの祖父のモーゼルトさまも人が悪すぎるのです、親子三代で私を苦しめようとは。ぐぬぬぬ・・・

「まぁ待て、ニコ。市長、まぎれもなくこの者こそ我が義父が指名したニコなのです。彼女は義父が序列二番目で用いている秘書でもありますので、ご心配は無用ですぞ。」

「何ぃっ!本当かね?」

帰りたいのは山々だが出がけにリーファにもお願いされてしまった以上、ニコに帰るという選択肢は残されていなかった。ここは諦めてさっさと帰れるように問題を片付けることにする。
ニコはジト目で市長に問うた。

「はぁ・・・で、緊急事態とは何なのです?」

「うむ、驚いている場合ではなかった。現在グラムスは西方審問騎士団を城壁の外に留めておるのだ。」

「何ですと!あのならず者どもがグラムスに?入れたが最後、流血の惨事は免れませんぞ!・・・そうだ、司教座は?司教座は何と言っておるのでしょう?」

「西方審問騎士団は信徒が独自に集まっている団体にすぎないので、司教座に聞かれてもわからないとのことだ。だが巡礼者は迎え入れるのが聖教諸国の民の正しき有り様だと抜かしおった。そもそも敬虔な巡礼者が武装した軍勢のはずがあるか!」

「くっ、司教区の中心にも関わらずその体たらくか。」

「留め置くにも限界はある。ヤツらはどうやら1000に満たない兵力らしいが、いざとなれば力ずくで城門を突破しにかかるはずだ。侵入を排除しようにもグラムスの冒険者だけでは人数的に対処できまいて。」

「そうですなぁ・・・参ったぞこりゃあ。何とかならんか、ニコ?」

そもそも組織的戦闘に対処するための武力を持ち合わせている自由都市など滅多にあるものでもないし、不意を突かれたとあらば傭兵を雇う暇も無い。ユグルトの影武者に助けてもらおうにも間に合わないだろう。完全に手詰まりだった。

「このまま帰るなんてことは万に一つも無いのです。入れるしかないのですよ。」

「ヤツらは単に先発隊で、後ろに本隊が控えておるやもしれん。正確な情報も無しに性急な結論に過ぎるのではないかね?」

「何をしでかすかわからんヤツらだ。入れたらあの人数で暴れ回るかもしれんのだぞ?」

「もちろん入場には条件をつけるのです。」

「条件?」
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