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ならず者に聖俗貴賎なし

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聖教国は神聖同盟と呼ばれる衛星諸国連合を有しており、その衛星国には西方審問騎士団が拠点を構えている。そのとある要塞において円卓会議が開かれていた。

「不埒な吟遊詩人の割には鼻が利くガキじゃないか。またヤツからのタレコミとは。」

「あの時に誅殺せず、飼いならしておいて正解でしたな。くんくんと嗅ぎ回ることに長けておるよ、実に野良犬に相応しい。」

円卓に嘲笑が広がった。

「ところでグラムスとは誰の所領だ?いつものごとく領主を威圧しておかねばなぁ。」

「グラムスは・・・貴族の所領ではないようです。しかし司教座の情報によればユグルト伯爵なる者がグラムスに対して自ら協力を申し出た・・・と。妙ですな、自由都市を自領へ編入することを目論んでいるのでしょうか?」

「協力の申し出?はっはっは、無主の都市ごとき相手に何と回りくどいやり方か!その程度の腰抜け貴族など相手にするまでもなかろう。事前の威圧など時間の無駄だ、即座にカチ込んでくれる。」

聖職者の位階を有していながら武威を隠そうとする様子も無い。その振る舞いからもならず者と言った表現の方がしっくり来る男たちだった。

「現状1500名の手勢ですが、これより召集をかけます。」

「待て、貴族を威圧するわけではないのだぞ?召集など無用だ。自由都市ごとき1000でも持て余す。」

「そうですな。神兵による北方征伐も芳しくない状況で、我ら同胞団がいたずらに兵力動員をかけて見よ。必ずや聖下のお叱りを受けましょうぞ。」

神兵とはカルザール聖教国の正規軍であり、その大部分が現在北方征伐に向けられている。非公式ではあるものの同胞団は予備役として聖教国の防衛に当たっている。

「いかにも。半数の750でよい。出立は明朝。」

「「はっ!」」

首魁と思しき男の決定に一同の承服の声が響き渡る。

「聖レクスティウスは神の栄光とともに」

「「我も続かん!」」

例の符牒に対して答礼が続き、会議は終了した。

***

酒場で出会ったクルップという男に雇われて以来、リーファの情報を集めているゲランドたちだったがここに来て行き詰まっていた。

それというのも途中で足取りが追えなくなったのだ。仕方なく生い立ちなどの過去を遡ったところでロクな情報すら無い始末だ。

「あのガキ、冒険者ギルドに姿を見せなくなった時期があるんだよなぁ・・・。どいつに聞いたところでサッパリわからん。」

「そんで気がつきゃあの料理屋やってたってんだろ?しかも何十人も店員がいやがる。どんな魔法使いやがった?」

「へへへ、しかも全員が全員マブいスケときたもんだ。あんな上玉ばかり、グラムスだけで集められるなんざ考えもしなかったぜ。あのガキ・・・見かけによらず偉大なヤツかもしれねーな。一人くらいもらえねーもんかな。」

「それなー・・・」

「それだ!!」

バルシスの言葉にゲランドが反応する。何やらピンと来るものがあったようだ。

「どうしたゲランド?本当にもらえそうなのか?」

「ひょっとするとグラムスにいなかったのかもしれん。」

「ちっ、お前に期待した俺がどうかしてたぜ。」

「だがどうやって調べるんだ?グラムスの門衛は冒険者だらけだろうに。下手に聞き込みしたら確実に怪しまれるぜ。」

「たしかにそうだな・・・」

すると何となしにバルシスがつぶやく。

「貸し馬車屋のジジイはどうだ?もしかしたら覚えてるかもしれねぇ。」

「あのジジイは最近ボケ始めたからなぁ・・・。」

「だが外の街に行こうとしたら馬車を借りるのが常識だ。ダメ元でやって見るか。」

くじ引きで負けたカマルがしぶしぶ貸し馬車屋に行くと、出発時とはまったく違うテンションで酒場に戻ってきたのだった。

ジャックポット大当たり!バルシスの言った通りだ。キシレムに行きたいってメスガキがいたってよぉ。」

「こりゃ間違いねーな。」

「異常だ。」

「またかゲランド?何がひっかかるってんだ?」

「解決しなきゃならねぇ問題がある。」

「やれやれ鋭いってのも考えもんだぜ。」

カマルがお手上げのジェスチャーでおどけて見せた。しかし意に介さずゲランドは続ける。

「キシレムにゃ何があるか言って見ろ。」

「何って・・・まずは街を仕切ってんのは奴隷商だからか、大小様々な奴隷取引所がある。」

「へへへ、奴隷流通の中心地だから娼館も山ほどあるぜ。」

「あとは・・・賭場だ。飲む打つ買う全部揃った夢の街だな。」

「そうだろ?だからおかしいんだ。」

「何だと!俺の何がおかしいってんだ?いくらお前でもぶっ飛ばすぞ!」

ゲランドの言葉にバルシスが激昂する。せっかくの良い気分を台無しにされたとでも言いたげだ。

「違う、おかしいのはお前のことじゃねー!何であのメスガキがキシレムに行きたがる?」

「そうだなぁ・・・賭場か?・・・んなわけねーか。」

「な?お前もわからねーだろ。あのボケる寸前の貸し馬車屋のジジイが何ヶ月も前のことを今でも覚えてるってなぁ、それだけ異常なことだからだ。本当にあのメスガキなのかはまだ断定するにゃあ早ぇぞ。何か見落としがあるかもしれねぇしな。」

ゲランドの言葉にバルシスが考え込む。そう言えばキシレムで何かあったような・・・。

「待てよ・・・キシレムって貴族虐殺事件があったろ?」

「それにもあのガキが関わってるってのか?」

「あぁ、そう思うね。」

カマルの疑問に対してバルシスではなくゲランドが答える。

「自信たっぷりじゃねーか。何か根拠でもあんのかよ?」

「根拠はどこからともなく現れたマブい女どもだ。貴族が目の色変えて落札しようとした女どもは一体どこに消えた?」

「それがあの店員たちだってのか?だがそう言われるとそれ以外無いような気もするなぁ。・・・てか、それしかねーわ。」

「お貴族さまを巻き添えに奴隷商まるごとぶっ潰してかっさらったってか?一体どうやったのかサッパリわからねぇが、それが本当なら帝国に対する反逆だぜ。」

「ゴメスどもの件は正当防衛の可能性もあって微妙なラインだが、貴族虐殺は言い逃れしようがねーぞ。これで斬首が確定したな。」

「よしっ!アイツらノドから手が出るほど欲しい情報のはずだ、これで金もらいに行こう。もったいつけて聞かせてやりゃあクルップの野郎も色つけてくれるだろ。」
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