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通しゃんせ

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マルティナと男が言葉を交わしているようだが、全く話がはずんでいないようだ。マルティナが手を振ってその男から距離を取ろうとしている。

「あれ?アイツらここで落ち合ったんじゃないのか・・・。」

「たぶんマルテをひっかけようとして失敗したんじゃないの。食い下がってるけどまるで相手にされてないよ。あっ、諦めた。」

「ん?他の子に声かけに行った。単なる人違いだったとか?」

「そんなわけないじゃんリーファ。女なら誰でも良いって男なんだよ・・・いるよね、ああいうヤツ。」

その男はどうやら恋人なんかではないらしい。私たちはマルティナを追って男のすぐ側を通り抜けようとしたところ、その男は女から派手に引っ叩かれた。いったい何を言えばそんなことになるんだろう?

「でもマルティナは一体どこへ行くつもりなんだろう?」

「ねぇ、この先って中心街じゃないの?」

「え?あぁ本当だ。」

普段来るようなところではないが、トマソンに何度か連れて来られた時に馬車でこの辺りを通ったのは覚えている。
私一人だとこの先のゲートを通行させてもらえないんだよね。するとどうやらティナも同じ経験があるようだった。

「私なんてこないだ中心街を散策しようとしたら、制服来た衛兵隊に城門でつまみ出されたんだよ。何にも悪いことしてないのに、これってひどくない?すごーく感じ悪いんだよ。」

「そういうもんだと思ってたけど、違うの?」

「他の都市にも自由に立ち入りできない場所はあるけど・・・こんな橋と城壁で分けられた大掛かりなものは珍しいかなぁ?同じ都市なのにまるで別の国があるみたいなんだよ。」

「まぁ確かに城壁の向こう側は別世界だなぁ。」

大聖堂だとか市庁舎や商業ギルド、大商会の建物などスケールが根本的に違うからね。普通の街区であんなの見たこと無いよ。
話しながら歩いているとマルティナが中心街に続くゲートのある方向へと曲がったのが確認できた。

「へぇ、私も入ってみたいなぁ。お、やっぱりマルテってば中心街へ行くつもりなんだよ。ふふふ、門前払いされたらどんな顔するんだろ?」

「ティナは嬉しそうだね。」

「えへへ、そんなことないってば。やだなぁリーファ。あれ?」

そこには当初の予想に反してすんなりとゲートを通行するマルティナの姿があった。マルティナはそもそもグラムス出身ではないし、中心街を通行できる道理は無いと思うんだが・・・。グラムス出身者でも中心街に足を踏み入れることのできる人間など一握りだ。壮大に疑問符が浮かぶ。

「通してもらった?何で?」

「え?通してもらえるの?じゃあ私たちも入ろうよリーファ。」

「うん、そうしよう。」

もしかして普通に通行できるようになったのかもしれない。私たちは肩で風を切ってゲートの向こう側に歩みを進める。

するとその一部始終を見ていた守衛が大慌てですっ飛んで来た。

「何だお前ら?お・・・おい待て!さも当然のように素通りしようとするんじゃねぇぞ!」

「何?何で止めるの?」

「そうだ!」

「うるせぇ!大人をからかうと痛い目見るぞ。あっ!よく見れば、お前こないだも来たろ?まだ懲りてねぇのか。」

「今日は通れるんでしょ?ばっちり見たんだから。」

ティナは人さし指をビシッと立てて力強く守衛に宣言する。欠片も通行できないなどとは思っていない様子を見た守衛が呆れた表情を返した。

「はぁ・・・お前ら家で大人しくお人形遊びでもしてろ。さ、帰った帰った。」

「あーっ!子供あつかいしたなぁ、むきー!」

「待ってティナ!そんなの使っちゃダメだってば。」

「がるるるる」

激昂したティナが暗器を用いようとしたのを見咎めたリーファが仰天してティナを制止する。野犬のように威嚇するティナを見た守衛が後ずさった。

「な・・・何だよ?何かよくわからんが、威嚇したってダメなもんはダメなんだからな。」

「ねぇ、私たちさっき通った子の友達なんだ。だから通してよお兄さん。」

「『だから』だと?前後で何の理屈も立ってねぇじゃねぇか。通せねぇから帰れ。」

「何でマルティナは通されて私たちは通されないんだよ。おかしいじゃんか?」

「あの方はボーネランド商会の上得意先の娘さんだ。お前らみたいな下町のガキどもとは別格なんだよ。」

「じゃあ私はその得意先のオーナーだ。通してよ。」

「そうだ!」

「うるせぇ!何が『じゃあ』だアホタレ。都合よく口から出まかせ言ってると、いい加減俺だって怒るからな。署っ引くぞ!」

「本当だって。じゃあ調べてみなよ。」

「後で正式に抗議してやるんだよ!通すなら今の内なんだからね。」

「そんなの調べるだけ時間の無駄だ。そんなんで脅してるつもりか?やれるもんならやってみろよ。」

私が何を言っても全く聞く耳持たないようだ。すると後ろからやって来た馬車がゲートの途中で止まった。おもむろに馬車の窓を開けて車中の男が声をかける。

「おや、リーファさまではございませんか?」

「ん、ヨゼフ?」

偶然通りかかったのはトマソンの執事であるヨゼフだ。ヨゼフは私みたいな子供にも礼儀を欠くようなことは無い職業人、変な言い方だが私だけでなくバトラーも一目置いている。

「やはりリーファさまでございますね、このような高いところから失礼いたしました。差し出がましいと存じますが、何かお困りごとでも?」

「あっ、いいよ馬車から降りなくても。ねぇ聞いてよ、このわからず屋が私たちの言うことに全く耳を傾けようとしないんだ。」

「ヨゼフさま?ボーネランド家の執事長と知り合いってことは・・・」

私がヨゼフと知り合いであることを目にして、何やら守衛がモゴモゴ言っている。その様子から事態を察したヨゼフが私に助け船を出してくれた。

「それは難儀なことでございましたなぁ。それでは我が商会の馬車に是非ともお乗りくださいませ。私めにリーファさま方のお望みの行き先までエスコートさせていただきたいのです。」

「ヨ・・・ヨゼフさま!しばしお待ちください。」

「私では何とも申し上げられません。まことに申し訳ありませんが、それは私などではなくリーファさまにお許しをいただいてください。」

「かしこまりました。そのぉ・・・り・・・リーファさま・・・」

守衛がひきつった笑みを浮かべて私に敬称をつけだしたぞ。あっと言う間に態度が変わってしまった。もう意味がわからん。

「・・・はい?」

「マルティナさんがお持ちの通行証と同じものをこの私が責任を持ってお手元にお届けいたしますので・・・」

「ので?」

「此度の無礼を」

おそらくトマソンに今回の事態の報告が上がったら、この守衛も大目玉を食うんだろう。

「わかってるよ。通行証があるなんて知らなかった私にも落ち度はあるんだ。アンタは自分の仕事をしたまでだろ?だったらとやかく言うつもりは無いさ。」

「ありがとうございます。」

私はヨゼフに聞こえるようにわざと大きな声でその場を丸くおさめた。ヨゼフもその意図を汲み取ったのか、ニッコリと笑っている。

「ねぇ、私のは?リーファしかもらえないのかなぁ。」

「えーと、私では誰にでも通行証を発行できるわけではないので・・・。リーファさまとご一緒であれば通行できますから、それで許していただけないでしょうか。」

「ちぇー」
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