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「へっへっへ、何やかんやでボロい仕事だぜぇ。」
「このシンディーちゃんさまが・・・むにゃむにゃ」
人の目が途絶えたところを見計らい、コーエンはシンディーをおぶって酒場の裏手から外に出た。裏手は建物に挟まれた薄暗い路地が続いているため、あまり人目にはつかない。とは言っても人目が皆無というわけではないので、慎重を期しながら足早に進んで行く。
「ここからだと・・・、そういやぁ最近空き家になった家がこの近くにあったっけか?一旦そこに監禁すっかな。」
「うぅ・・・吐く。」
「ん?・・・ままままま待て!まだ吐くなよ!」
「やだ!もう吐く!」
コーエンは慌ててシンディーを地面に降ろすと狭い路地の片隅の方へと促す。吐きやすいように背中もさすってやった。
「よーしよし、ここで吐こうなぁ?思いっきり吐いて良いぞ。ふぅーやれやれ、今日はこんな役回りばっかじゃねーか。」
「うぇーおろろろろ・・・かはぁっ!はぁ・・・はぁ、ここドコ?おっさん誰?」
「おっさん?俺はまだおっさん呼ばわりされる年齢じゃねえ!」
「おぇぇっ!」
「おぉおぉぉっ危ねー。こっち向いていきなり吐くなよもー。ったく、大丈夫か?」
「へへ、おっさんの顔見てたら気持ちよく吐けたぜ。で、何だっけ?」
「どういう意味だ!ったく、もうココで気が済むまで吐いて行けよ。ほら、まだツラいんだろ?」
「うぷっ・・・おえぇぇっ」
「うひぃ、かなわねぇなぁ。前見ろ、前。俺を見なくていいから」
何でこんなことやってるんだっけかとコーエンは自問自答する。
冒険者ってカッコいいもんだと思って憧れてた時期もあったんだがなぁ・・・。あの時の俺が今の姿見たら人生に絶望するぜ。ほんと何してるんだろ俺?
「あぁ・・・はぁ・・・。そうか、わかったよ。」
「なにっ?ま・・・まさかお前、俺が何者か気づいたってのか。」
「あぁ・・・はっきりとな。」
誘拐がバレちまったならここからは力づくだ。俺としたことがしくじったぜ・・・こんなことならコイツが寝てる間に足の骨を一本くらいへし折っておくべきだった。
相手は酔っ払いのガキとは言え、コイツの実力次第では殺さなきゃならねえかもなぁ。気は進まねえが、もしそうなっても恨むなよ・・・
コーエンは背後のナイフに手をかける。にわかに空気が緊迫の度を深めた。
「なら仕方ねぇなぁ・・・」
「この手際・・・さてはプロの吐かせ屋だな?」
そんな職業この世のどこにもねーわ。・・・まぁ良い、とにかくコイツがアホでよかった。このままうまく丸めこんで閉じ込めちまおう。
「で、ゲロ屋。どこだよここは?アタシは何でこんなとこにいるんだ?」
「あぁ、ここは帰り道さ。あんたが酔いつぶれちまったから連れの人から依頼を受けたんだ。またおぶって家まで送り届けるから、あんたはそれまで寝ててくれよ。」
「わかった。」
ふぅ、一時はどうなるかと思ったが大人しく従ってくれて助かったぜ。さすがに女を殺すのはいくら何でも気が咎めるしなぁ。ちゃっちゃとコイツを締め上げて金を巻き上げちまわねぇと。
<バコッ!>
首が勢いよく前方に飛び出すほどの勢いで頭を背後から殴られたコーエンの視界に星がチラついた。
「痛ってー!いきなり何しやがんだ?」
「ギルドに戻れゲロ屋!アタシはまだまだ飲めーるっ!」
「はぁ?あんた酒なんて強かないじゃない?もうやめとけって。」
「うるさーい!天地を創造せし万能の存在シンディーちゃんさまが酒ごときでつぶれるわきゃねー!とっとと行けやー馬ヅラー!」
「痛て痛てて!待って、髪はやめて!わかった、俺はぜんぜん馬ヅラじゃねーけどわかったから!」
背中の酔っ払いは足をジタバタさせながらコーエンの髪をつかんでブンブン振り回す。
「ゴチャゴチャうるせぇんだよ命令違反者!」
「くそっ!何だコレ?デジャブ?」
しぶしぶコーエンはギルドに向けて元来た道を引き返す。ゆっくり歩いて行けば酔いどれファイターもそのうち眠りに落ちて静かになるだろう。
すると背中からごにょごにょと声が聞こえて来た。コーエンの顔色が途端に青ざめる。
「我が手に掲げるは黄泉より持ち帰りし身遺し・・・朽ちぬもの無き現し世の」
「お・・・おい、まさかとは思うが魔術発動しようとしてねーか?」
「んだよ、集中できねぇだろうが?黙ってろゲロヅラ。」
「混ざってる?ゲロ屋と馬ヅラが混ざってっから!さすがに傷つくんでどっちか片方に・・・じゃなかった。何で魔術使おうとしてんの!」
「あぁん?オメーの足が遅えからに決まってんだろ!」
「あのさぁ、わかるように説明してくんねぇ?」
「おぅおぅ甘えてんじゃねぇぞぅ鈍亀野郎!ちっとも速く走らねぇオメーが意地でも手抜きできねえように、このシンディーちゃんさまがオメーのケツに火ぃつけてやんのよ。ふへへ」
「この密着状態で俺のケツに火なんてつけた日にゃあ2人そろって火ダルマだぞ?イカれてんのか!」
「コンがり焼けましたー、狐だけに?ふへへへ」
ダメだ・・・今のコイツに何言っても通じねえ。やるぞ・・・コイツは普段からアホなんだろうけど酒飲んでパーになってる。気にいらなきゃ本当にぶっ放すに違えねぇ。加減するような理性どころか狂気しか感じられん。やばいやばいやばいやば~い・・・
「お・・・お助け~!!」
「そうだ!死ぬ気で走れ~手抜きは許さ~んっ!」
***
「はぁ・・・はぁ・・・死・・・ぬる」
「くたばってんじゃねぇぞコンニャロメ!おら、立て!死んでも走れ~」
コーエンは全身全霊死に物狂いで駆け抜け、クレージーな鬼狐の苛斂誅求に応えた。ギルドの前にたどり着くや、精魂使い果たして崩れ落ちてしまったのだ。
すると後ろから声がかかった。
「何やってんだシンディー?」
「おぅ?リーファじゃねぇか。こんなところで会うたぁ奇遇だな。何やってんだ?」
「ブレないアホっぷりだな。お前を探してたんだよって、・・・その人誰?」
「ん?何だコイツ?アタシの下に潜り込むたぁとんでもねぇド変態野郎だなぁ。この、このっ」
背中に馬乗りになっているシンディーが下敷きになっている男の頭にゲンコツ振りかぶりまくりの落としまくりまくり的な?
それチョーやばくね?的にリーファがシンディーを急いで引き剥がした。
「馬鹿!やめろよシンディー。ほらどけってば。だ・・・大丈夫ですか?」
「み・・・水を・・・」
「ちょっと待ってくださいね。バトラーお願い」
「かしこまりました。」
息も絶え絶えの男に飲ませるため、リーファはパントリーから水さしを取り出した。そして男を抱え起こして水を与える。
「どうぞ。どうかゆっくり飲んでくださいね。」
「んぐ・・・ん、ん、くはぁー!美味い。あ・・・ありがとう。」
「あのー、ウチのアホがご迷惑をかけたようで」
「ふぐぅ・・・うっ」
どれほど過酷な仕打ちを受けたのだろうか?ちょっとやそっとで動じるもんでも無いが、大の大人が泣き出すなんてさすがに尋常じゃないぞ。
「えぇぇ?泣いてるじゃないか。シンディー、お前何やったんだ?この人に謝れよ」
「ごめーんちゃい?」
シンディーが腕と足で輪を作り8の字みたいな姿勢でふざけると、そのままケタケタ笑っている。その様子を見たリーファの顔がみるみる険しくなった。
「てめぇ・・・」
「ぐすっ・・・すまねぇ。取り乱してよぉ。ぜんぜん俺なんかに謝らなくていいんだ・・・心配してくれてありがとよ、お嬢ちゃん。」
「えぇっ?」
「こんな俺にまであんた優しいんだなぁ・・・ガラにもなく感激しちまったよ。」
「あのぅ・・・」
「俺、心いれかえて他人様に恥じない人間になるよ!あんたに誓う。」
「んんっ!?」
一体こいつらに何があった?
狐娘は楽しげに踊り、どこぞのオッサンは号泣する。あまりの事態にリーファの狼狽が止まらない!続く!・・・のか?
「このシンディーちゃんさまが・・・むにゃむにゃ」
人の目が途絶えたところを見計らい、コーエンはシンディーをおぶって酒場の裏手から外に出た。裏手は建物に挟まれた薄暗い路地が続いているため、あまり人目にはつかない。とは言っても人目が皆無というわけではないので、慎重を期しながら足早に進んで行く。
「ここからだと・・・、そういやぁ最近空き家になった家がこの近くにあったっけか?一旦そこに監禁すっかな。」
「うぅ・・・吐く。」
「ん?・・・ままままま待て!まだ吐くなよ!」
「やだ!もう吐く!」
コーエンは慌ててシンディーを地面に降ろすと狭い路地の片隅の方へと促す。吐きやすいように背中もさすってやった。
「よーしよし、ここで吐こうなぁ?思いっきり吐いて良いぞ。ふぅーやれやれ、今日はこんな役回りばっかじゃねーか。」
「うぇーおろろろろ・・・かはぁっ!はぁ・・・はぁ、ここドコ?おっさん誰?」
「おっさん?俺はまだおっさん呼ばわりされる年齢じゃねえ!」
「おぇぇっ!」
「おぉおぉぉっ危ねー。こっち向いていきなり吐くなよもー。ったく、大丈夫か?」
「へへ、おっさんの顔見てたら気持ちよく吐けたぜ。で、何だっけ?」
「どういう意味だ!ったく、もうココで気が済むまで吐いて行けよ。ほら、まだツラいんだろ?」
「うぷっ・・・おえぇぇっ」
「うひぃ、かなわねぇなぁ。前見ろ、前。俺を見なくていいから」
何でこんなことやってるんだっけかとコーエンは自問自答する。
冒険者ってカッコいいもんだと思って憧れてた時期もあったんだがなぁ・・・。あの時の俺が今の姿見たら人生に絶望するぜ。ほんと何してるんだろ俺?
「あぁ・・・はぁ・・・。そうか、わかったよ。」
「なにっ?ま・・・まさかお前、俺が何者か気づいたってのか。」
「あぁ・・・はっきりとな。」
誘拐がバレちまったならここからは力づくだ。俺としたことがしくじったぜ・・・こんなことならコイツが寝てる間に足の骨を一本くらいへし折っておくべきだった。
相手は酔っ払いのガキとは言え、コイツの実力次第では殺さなきゃならねえかもなぁ。気は進まねえが、もしそうなっても恨むなよ・・・
コーエンは背後のナイフに手をかける。にわかに空気が緊迫の度を深めた。
「なら仕方ねぇなぁ・・・」
「この手際・・・さてはプロの吐かせ屋だな?」
そんな職業この世のどこにもねーわ。・・・まぁ良い、とにかくコイツがアホでよかった。このままうまく丸めこんで閉じ込めちまおう。
「で、ゲロ屋。どこだよここは?アタシは何でこんなとこにいるんだ?」
「あぁ、ここは帰り道さ。あんたが酔いつぶれちまったから連れの人から依頼を受けたんだ。またおぶって家まで送り届けるから、あんたはそれまで寝ててくれよ。」
「わかった。」
ふぅ、一時はどうなるかと思ったが大人しく従ってくれて助かったぜ。さすがに女を殺すのはいくら何でも気が咎めるしなぁ。ちゃっちゃとコイツを締め上げて金を巻き上げちまわねぇと。
<バコッ!>
首が勢いよく前方に飛び出すほどの勢いで頭を背後から殴られたコーエンの視界に星がチラついた。
「痛ってー!いきなり何しやがんだ?」
「ギルドに戻れゲロ屋!アタシはまだまだ飲めーるっ!」
「はぁ?あんた酒なんて強かないじゃない?もうやめとけって。」
「うるさーい!天地を創造せし万能の存在シンディーちゃんさまが酒ごときでつぶれるわきゃねー!とっとと行けやー馬ヅラー!」
「痛て痛てて!待って、髪はやめて!わかった、俺はぜんぜん馬ヅラじゃねーけどわかったから!」
背中の酔っ払いは足をジタバタさせながらコーエンの髪をつかんでブンブン振り回す。
「ゴチャゴチャうるせぇんだよ命令違反者!」
「くそっ!何だコレ?デジャブ?」
しぶしぶコーエンはギルドに向けて元来た道を引き返す。ゆっくり歩いて行けば酔いどれファイターもそのうち眠りに落ちて静かになるだろう。
すると背中からごにょごにょと声が聞こえて来た。コーエンの顔色が途端に青ざめる。
「我が手に掲げるは黄泉より持ち帰りし身遺し・・・朽ちぬもの無き現し世の」
「お・・・おい、まさかとは思うが魔術発動しようとしてねーか?」
「んだよ、集中できねぇだろうが?黙ってろゲロヅラ。」
「混ざってる?ゲロ屋と馬ヅラが混ざってっから!さすがに傷つくんでどっちか片方に・・・じゃなかった。何で魔術使おうとしてんの!」
「あぁん?オメーの足が遅えからに決まってんだろ!」
「あのさぁ、わかるように説明してくんねぇ?」
「おぅおぅ甘えてんじゃねぇぞぅ鈍亀野郎!ちっとも速く走らねぇオメーが意地でも手抜きできねえように、このシンディーちゃんさまがオメーのケツに火ぃつけてやんのよ。ふへへ」
「この密着状態で俺のケツに火なんてつけた日にゃあ2人そろって火ダルマだぞ?イカれてんのか!」
「コンがり焼けましたー、狐だけに?ふへへへ」
ダメだ・・・今のコイツに何言っても通じねえ。やるぞ・・・コイツは普段からアホなんだろうけど酒飲んでパーになってる。気にいらなきゃ本当にぶっ放すに違えねぇ。加減するような理性どころか狂気しか感じられん。やばいやばいやばいやば~い・・・
「お・・・お助け~!!」
「そうだ!死ぬ気で走れ~手抜きは許さ~んっ!」
***
「はぁ・・・はぁ・・・死・・・ぬる」
「くたばってんじゃねぇぞコンニャロメ!おら、立て!死んでも走れ~」
コーエンは全身全霊死に物狂いで駆け抜け、クレージーな鬼狐の苛斂誅求に応えた。ギルドの前にたどり着くや、精魂使い果たして崩れ落ちてしまったのだ。
すると後ろから声がかかった。
「何やってんだシンディー?」
「おぅ?リーファじゃねぇか。こんなところで会うたぁ奇遇だな。何やってんだ?」
「ブレないアホっぷりだな。お前を探してたんだよって、・・・その人誰?」
「ん?何だコイツ?アタシの下に潜り込むたぁとんでもねぇド変態野郎だなぁ。この、このっ」
背中に馬乗りになっているシンディーが下敷きになっている男の頭にゲンコツ振りかぶりまくりの落としまくりまくり的な?
それチョーやばくね?的にリーファがシンディーを急いで引き剥がした。
「馬鹿!やめろよシンディー。ほらどけってば。だ・・・大丈夫ですか?」
「み・・・水を・・・」
「ちょっと待ってくださいね。バトラーお願い」
「かしこまりました。」
息も絶え絶えの男に飲ませるため、リーファはパントリーから水さしを取り出した。そして男を抱え起こして水を与える。
「どうぞ。どうかゆっくり飲んでくださいね。」
「んぐ・・・ん、ん、くはぁー!美味い。あ・・・ありがとう。」
「あのー、ウチのアホがご迷惑をかけたようで」
「ふぐぅ・・・うっ」
どれほど過酷な仕打ちを受けたのだろうか?ちょっとやそっとで動じるもんでも無いが、大の大人が泣き出すなんてさすがに尋常じゃないぞ。
「えぇぇ?泣いてるじゃないか。シンディー、お前何やったんだ?この人に謝れよ」
「ごめーんちゃい?」
シンディーが腕と足で輪を作り8の字みたいな姿勢でふざけると、そのままケタケタ笑っている。その様子を見たリーファの顔がみるみる険しくなった。
「てめぇ・・・」
「ぐすっ・・・すまねぇ。取り乱してよぉ。ぜんぜん俺なんかに謝らなくていいんだ・・・心配してくれてありがとよ、お嬢ちゃん。」
「えぇっ?」
「こんな俺にまであんた優しいんだなぁ・・・ガラにもなく感激しちまったよ。」
「あのぅ・・・」
「俺、心いれかえて他人様に恥じない人間になるよ!あんたに誓う。」
「んんっ!?」
一体こいつらに何があった?
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