幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
63 / 167

ノンストップ

しおりを挟む
「へっへっへ、何やかんやでボロい仕事だぜぇ。」

「このシンディーちゃんさまが・・・むにゃむにゃ」

人の目が途絶えたところを見計らい、コーエンはシンディーをおぶって酒場の裏手から外に出た。裏手は建物に挟まれた薄暗い路地が続いているため、あまり人目にはつかない。とは言っても人目が皆無というわけではないので、慎重を期しながら足早に進んで行く。

「ここからだと・・・、そういやぁ最近空き家になった家がこの近くにあったっけか?一旦そこに監禁すっかな。」

「うぅ・・・吐く。」

「ん?・・・ままままま待て!まだ吐くなよ!」

「やだ!もう吐く!」

コーエンは慌ててシンディーを地面に降ろすと狭い路地の片隅の方へと促す。吐きやすいように背中もさすってやった。

「よーしよし、ここで吐こうなぁ?思いっきり吐いて良いぞ。ふぅーやれやれ、今日はこんな役回りばっかじゃねーか。」

「うぇーおろろろろ・・・かはぁっ!はぁ・・・はぁ、ここドコ?おっさん誰?」

「おっさん?俺はまだおっさん呼ばわりされる年齢じゃねえ!」

「おぇぇっ!」

「おぉおぉぉっ危ねー。こっち向いていきなり吐くなよもー。ったく、大丈夫か?」

「へへ、おっさんの顔見てたら気持ちよく吐けたぜ。で、何だっけ?」

「どういう意味だ!ったく、もうココで気が済むまで吐いて行けよ。ほら、まだツラいんだろ?」

「うぷっ・・・おえぇぇっ」

「うひぃ、かなわねぇなぁ。前見ろ、前。俺を見なくていいから」

何でこんなことやってるんだっけかとコーエンは自問自答する。

冒険者ってカッコいいもんだと思って憧れてた時期もあったんだがなぁ・・・。あの時の俺が今の姿見たら人生に絶望するぜ。ほんと何してるんだろ俺?

「あぁ・・・はぁ・・・。そうか、わかったよ。」

「なにっ?ま・・・まさかお前、俺が何者か気づいたってのか。」

「あぁ・・・はっきりとな。」

誘拐がバレちまったならここからは力づくだ。俺としたことがしくじったぜ・・・こんなことならコイツが寝てる間に足の骨を一本くらいへし折っておくべきだった。

相手は酔っ払いのガキとは言え、コイツの実力次第では殺さなきゃならねえかもなぁ。気は進まねえが、もしそうなっても恨むなよ・・・

コーエンは背後のナイフに手をかける。にわかに空気が緊迫の度を深めた。

「なら仕方ねぇなぁ・・・」

「この手際・・・さてはプロの吐かせ屋だな?」

そんな職業この世のどこにもねーわ。・・・まぁ良い、とにかくコイツがアホでよかった。このままうまく丸めこんで閉じ込めちまおう。

「で、ゲロ屋。どこだよここは?アタシは何でこんなとこにいるんだ?」

「あぁ、ここは帰り道さ。あんたが酔いつぶれちまったから連れの人から依頼を受けたんだ。またおぶって家まで送り届けるから、あんたはそれまで寝ててくれよ。」

「わかった。」

ふぅ、一時はどうなるかと思ったが大人しく従ってくれて助かったぜ。さすがに女を殺すのはいくら何でも気が咎めるしなぁ。ちゃっちゃとコイツを締め上げて金を巻き上げちまわねぇと。

<バコッ!>

首が勢いよく前方に飛び出すほどの勢いで頭を背後から殴られたコーエンの視界に星がチラついた。

「痛ってー!いきなり何しやがんだ?」

「ギルドに戻れゲロ屋!アタシはまだまだ飲めーるっ!」

「はぁ?あんた酒なんて強かないじゃない?もうやめとけって。」

「うるさーい!天地を創造せし万能の存在シンディーちゃんさまが酒ごときでつぶれるわきゃねー!とっとと行けやー馬ヅラー!」

「痛て痛てて!待って、髪はやめて!わかった、俺はぜんぜん馬ヅラじゃねーけどわかったから!」

背中の酔っ払いは足をジタバタさせながらコーエンの髪をつかんでブンブン振り回す。

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ命令違反者!」

「くそっ!何だコレ?デジャブ?」

しぶしぶコーエンはギルドに向けて元来た道を引き返す。ゆっくり歩いて行けば酔いどれファイターもそのうち眠りに落ちて静かになるだろう。

すると背中からごにょごにょと声が聞こえて来た。コーエンの顔色が途端に青ざめる。

「我が手に掲げるは黄泉より持ち帰りし身遺し・・・朽ちぬもの無き現し世の」

「お・・・おい、まさかとは思うが魔術発動しようとしてねーか?」

「んだよ、集中できねぇだろうが?黙ってろゲロヅラ。」

「混ざってる?ゲロ屋と馬ヅラが混ざってっから!さすがに傷つくんでどっちか片方に・・・じゃなかった。何で魔術使おうとしてんの!」

「あぁん?オメーの足が遅えからに決まってんだろ!」

「あのさぁ、わかるように説明してくんねぇ?」

「おぅおぅ甘えてんじゃねぇぞぅ鈍亀野郎!ちっとも速く走らねぇオメーが意地でも手抜きできねえように、このシンディーちゃんさまがオメーのケツに火ぃつけてやんのよ。ふへへ」

「この密着状態で俺のケツに火なんてつけた日にゃあ2人そろって火ダルマだぞ?イカれてんのか!」

「コンがり焼けましたー、狐だけに?ふへへへ」

ダメだ・・・今のコイツに何言っても通じねえ。やるぞ・・・コイツは普段からアホなんだろうけど酒飲んでパーになってる。気にいらなきゃ本当にぶっ放すに違えねぇ。加減するような理性どころか狂気しか感じられん。やばいやばいやばいやば~い・・・

「お・・・お助け~!!」

「そうだ!死ぬ気で走れ~手抜きは許さ~んっ!」

***

「はぁ・・・はぁ・・・死・・・ぬる」

「くたばってんじゃねぇぞコンニャロメ!おら、立て!死んでも走れ~」

コーエンは全身全霊死に物狂いで駆け抜け、クレージーな鬼狐の苛斂誅求に応えた。ギルドの前にたどり着くや、精魂使い果たして崩れ落ちてしまったのだ。

すると後ろから声がかかった。

「何やってんだシンディー?」

「おぅ?リーファじゃねぇか。こんなところで会うたぁ奇遇だな。何やってんだ?」

「ブレないアホっぷりだな。お前を探してたんだよって、・・・その人誰?」

「ん?何だコイツ?アタシの下に潜り込むたぁとんでもねぇド変態野郎だなぁ。この、このっ」

背中に馬乗りになっているシンディーが下敷きになっている男の頭にゲンコツ振りかぶりまくりの落としまくりまくり的な?

それチョーやばくね?的にリーファがシンディーを急いで引き剥がした。

「馬鹿!やめろよシンディー。ほらどけってば。だ・・・大丈夫ですか?」

「み・・・水を・・・」

「ちょっと待ってくださいね。バトラーお願い」

「かしこまりました。」

息も絶え絶えの男に飲ませるため、リーファはパントリーから水さしを取り出した。そして男を抱え起こして水を与える。

「どうぞ。どうかゆっくり飲んでくださいね。」

「んぐ・・・ん、ん、くはぁー!美味い。あ・・・ありがとう。」

「あのー、ウチのアホがご迷惑をかけたようで」

「ふぐぅ・・・うっ」

どれほど過酷な仕打ちを受けたのだろうか?ちょっとやそっとで動じるもんでも無いが、大の大人が泣き出すなんてさすがに尋常じゃないぞ。

「えぇぇ?泣いてるじゃないか。シンディー、お前何やったんだ?この人に謝れよ」

「ごめーんちゃい?」

シンディーが腕と足で輪を作り8の字みたいな姿勢でふざけると、そのままケタケタ笑っている。その様子を見たリーファの顔がみるみる険しくなった。

「てめぇ・・・」

「ぐすっ・・・すまねぇ。取り乱してよぉ。ぜんぜん俺なんかに謝らなくていいんだ・・・心配してくれてありがとよ、お嬢ちゃん。」

「えぇっ?」

「こんな俺にまであんた優しいんだなぁ・・・ガラにもなく感激しちまったよ。」

「あのぅ・・・」

「俺、心いれかえて他人様に恥じない人間になるよ!あんたに誓う。」

「んんっ!?」

一体こいつらに何があった?

狐娘は楽しげに踊り、どこぞのオッサンは号泣する。あまりの事態にリーファの狼狽が止まらない!続く!・・・のか?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...