幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
62 / 167

踏んだり蹴ったり吐いたり飲んだり

しおりを挟む
「シカトしてんじゃねぇぞコラァ!」

「痛たた・・・、もー何なのー?」

ティナがワケも分からず腰をさすりながら立ち上がると、そこにはとてもお友達にはなれそうもない見知らぬ顔が並んでいた。

「オメー羽振りが良いんだってなぁ?俺たちそのことで話があってよぉ、ちょっとばかしツラ貸せや?」

「やだよ。私これからお菓子部門創設で忙しくなるから時間ないもん。」

「ないもん・・・じゃねぇクソガキ!おろっ?」

カマルが怒りにまかせて振りかぶった拳は見事に空振りする。今度はそれを見たバルシスがティナに襲いかかった。

「なに避けてやがんだ!このっ!」

「オラー!くっ!」

狭い空間でスウェーバックやダッキングを駆使するティナが華麗に舞う。身体も小さい分、余計に的も絞りづらかった。

「もぅ、やめてよね。あんまりオイタが過ぎると私だって怒るんだよ?」

「はぁはぁ、こいつ・・・速えっ!」

いにしえのチンピラ軍師さまの編み出した4人囲いタコ殴りの陣がまったく通用しない事態にゲランドたちも驚愕の表情を隠せない。ティナはあれだけ避けまくって息一つ切らしていないではないか。それにとどまらずスルリと包囲の外に抜け出てしまった。

「ハーフリングのくせしやがって、ヒュームさまに楯突く気か?」

「あー、そんなこと言ったらちょっとお姉さんも傷ついちゃうんだよー。」

「誰がお姉さんだチビスケ!」

「むっきー!チビって言ったなぁ、トサカに来たんだよー!えいっ」

激昂したティナが右腕を上げる。

「痛ってー!」

「どうしたカマル!」

目の前のチビスケが手を上げた瞬間、侮辱を加えたカマルが叫び声を上げて地面にうずくまる。それを見たゲランドは街中にも関わらず剣を抜いてティナに襲いかかった。

「このアマ!ぶっ潰してやぅギャアー!」

「ゲランドー!!」

立てつづけにゲランドが戦闘不能になってしまった。ゲランドはリーダーでパーティーのエースでもあるのに、たかだかガキンチョにのされるとは・・・。

「残るはあんたたち2人だけど・・・続ける?」

「クソが!ぐぅっ!」

「もぅ・・・気が短いなぁ。下手に動くとそこの人みたいに転がしちゃうよ?」

「バルシスまで?チクショー、何しやがったんだ?」

ティナは護身用にいくつか暗器を忍ばせていた。それというのも今日のような休日に丸腰で街をうろついていた時に、いきなり後ろから袋をかぶせられて奴隷商にさらわれた経験があるからだ。
さすがにいざと言うときに武器の一つでも持ち歩かないと抵抗も脱出もままならないことを思い知っていた。

「私ねー、さっきチビって言われたんだけどー?どういうことかなぁ?」

「ひぃっ!・・・な、何かの間違いだと思います。どうか・・・どうか許してください、キレイなお姉さま。」

「そうだよねー?間違いじゃなかったら、その人はたぶん目が腐ってるんだよ。じゃあエグるのは無しかなぁ。でも許すのは今回だけだからね?次は容赦できないんだよ。」

「は・・・ははははは。」

「これ解毒剤。死にはしないだろうけど、4時間以内に飲まないと後遺症が残っちゃうかもなんだよ。はーい、3錠ね。失くしちゃダメなんだぞ?」

あどけない顔してとんでもないモノを持ち歩いていることにコーエンはもはや笑うことしかできなかった。余計なことを口走って少しでも機嫌を損ねようものなら残った自分もやられてしまいかねない。

「は?・・・あは・・・あははは。」

「痛ぇー、気持ち悪いー」

「早くくれぇー、コーエーンー」

「おえぇぇぇっ」

先ほど飲み食いしたものを派手に吐きちらしているのに、仲間はこの錠剤を吐き出さずに飲み込めるのかと独りコーエンは途方に暮れた。

***

「くそぉ、あのチビが強えなら強えって言えよムルグの野郎!」

「ヒデー目にあったぜチクショーが。うぅっ、まだ気持ち悪さが抜けねぇ。」

「解毒が錠剤とかどんな拷問だよ?頭狂ってんじゃねぇか、あのチビ?あぁ、また吐きそう。」

ティナにもらった錠剤は効いてはいるものの、錠剤を吐き出しては地面に落ちた錠剤を飲み込むという地獄のサイクルを繰り返したため薬効成分の3割くらいは摂取し損ねた。

「どうする?もうやめとくか?」

「馬鹿野郎!ナメられっぱなしで退けるかよ。無事なのはコーエン、テメーだけだ。別のガキさらって来るか、せめて情報だけでも集めて来い。」

「えぇー!ひ、一人でか?」

「一人だけケツまくって俺たちを売ったんだ、それくらいやれや!」

「俺が降参して謝ったから解毒できたし、介抱もできたんだ。そんな言い方」

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ裏切り者!」

「とっとと言ってこいや!」

「わ・・・わかったよ。」

助けた仲間たちに追い立てられて、コーエンはしぶしぶ街中でリーファたちの姿を探す。しかし段々とおさえようのない馬鹿馬鹿しさがこみ上げて来て、ついにはやっていられなくなった。コーエンは立ち止まって、心の中で毒づく。

ちぇっ、そもそも楽勝だっつーから乗ったってのによぉ。あいつがあんだけ強けりゃ、もう一人の狐娘も強えんじゃねーのか?

「俺ぁもうやりたかねぇや馬鹿馬鹿しい。やめだやめ、ギルドの酒場で飲み直すべ。三馬鹿にゃあ明日にでも適当ぶっこいときゃ済むだろ?」

スッパリ仲間を切り捨てたコーエンがギルドの入り口をくぐり、酒場に入っていくとどこかから酔っ払いの声が聞こえてきた。

「ほらリーファも飲めよ、アタシの酒が飲めねぇってのか?あん?」

「ん?リーファだと?」

声のする方向を見ると例の2人が食事をしているようだった。

「うぜぇシンディー、弱いんなら最初っから酒なんか飲むなよ。」

「何だとー?ホント可愛い顔しやがってこんにゃろ、ほらチューだ。」

「ホラチューダ?何だそりゃ?」

「アタシがチューしてやっからこっち向け」

「マジでうぜぇ。死ね!助けてよライナ。」

「放っとけよリーファ。酔っ払いはそのうち寝ちまうから一人にしちゃいな。」

おいおい、これって願ってもねぇチャンスじゃねぇのか?あの酔っ払った狐娘をそのまんまさらっちまえば大金ゲット。上手く行きゃあ俺だけで独り占めも・・・。
いや、報復のことも考慮に入れるとなりゃあゲランドたちも巻き込んだ方がいいのか?癪だがしかたねぇな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...