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迫り来る魔手

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「他か・・・。そうだ、セイジロウの他にも異世界から転生させられた存在がいるようだ。たしか俺の装備を見てニンジャと言っていた。」

「ニンジャ?何じゃそりゃ?」

「たしかその装備はマキアスを救ってくれたヒーローを模したものだったよな?マキアスの思い出話を聞いた限りではトンでもない腕利きのようだが・・・やっぱり聞いたこと無い名前だなぁ。」

マキアスの装備は軽装も軽装、とても最前線で敵の攻撃を受け止める聖騎士の装備とは言えない。にも関わらず、並み居る腕利き冒険者を押しのけて探索隊の最大戦力を張っているのだ。そこには憧れの存在ニンジャに対するマキアスの並々ならぬ執着がうかがえる。

「よくわからんが、ニンジャというのは異世界の職種らしい。俺の恩人もセイジロウと同じ世界から来たはずだとキッパリ断言していた。」

「でもその恩人は人間なんだろ?」

「何ぶんガキの頃の話だしなぁ。ハッキリ覚えているのは何故かその人は覆面をしていたということだ。セイジロウはそのニンジャは自分と同じモンスターだからだと言っていた。」

「素顔も身体も全て覆わなければならない事情があったのだとすれば、たしかにセイジロウの推測にも説得力が出てくる。」

「うげっ!あんなトンでもないやつが他にもいるってのか?作戦参謀シンディーちゃん的には機動要塞リーファでの対抗を進言する。」

「えーっ!リーファってそんなことできるの?見た~い!」

「ふっ、詳しく聞こう。」

「私を殺す気か!トーラスもティナもシンディーのデタラメを真に受けないで。」

まったくシンディーはと呆れたリーファが隣の極楽狐娘に肘をブチ込む。

「ぐふっ・・・冗談です・・・。」

気を取り直してリーファが前を向くと、今にも泣き出しそうなほどガッカリした顔を浮かべるトーラスが視界に入った。シンクロするかのようにスアレスまでガッカリした顔をしている。てか、スアレス・・・お前もか。おいやめろお前ら、私にそんな顔向けんな。

「だが他にも転生者がいたとして、必ずしもその全てがセイジロウのように憎悪で歪んでいるわけでもないのだろう。そうでなければ異世界のニンジャとやらがマキアスの命を救うはずはあるまい。」

「そうなんだよ姐さん!苦しんでいる異世界人がいるなら歪んでしまう前に何かできることはねーかって思ったりもするんだ。」

「馬鹿言えマキアス!何人殺されたと思ってんだ!」

ニンジャに憧れるマキアスは危険な考えに傾きつつある。何を言いだすかと思えば、危険なモンスターに手を差し伸べようだと?冗談じゃないぞ、リアンもリアンだ。敵対的ではない異世界モンスターもいるなどとは、それこそ根拠無き希望的観測に過ぎないじゃないか。このトーラス、断固として容認できないぞ。

「セイジロウは人間から命を狙われ続けてきた。」

「そりゃモンスターなら当然だ。それが何だってんだ。」

「だがセイジロウは必ず説得を試みたらしい。結局のところあいつを本当の意味で歪めたのは人間だ。」

憎悪に歪めた?そんなこと誰がわかる。あのコボルトの本質は最初から極悪だった可能性だってあるはずだ。訳知り顔でそんなこと言うのはやめろ。

「お前も殺されかけたんだろ?どうしたマキアス、あんなやつに洗脳されちまったのか?」

「落ち着けトーラス。」

「これが落ち着いている場合か、ガウス?あんたの弟だって殺されかけたんだぞ。」

「俺も今回の事件には怒りを覚えるが、マキアスの言っていることは飽くまで可能性の話にすぎない。怒りにまかせて可能性の話について目と耳を閉ざす必要は感じない。」

「おいおい、お前ら何も思わないのか?お前らだってあの場にいただろ?」

可能性?お前らは反対の可能性には目をつむるのか?ガウス、あんたが誰よりもモンスターの悪辣さを理解しているはずだ。何故こんな戯れ言に耳を貸す必要があると言うんだ?俺には理解できない。

「俺もあの様子じゃあセイジロウはどうにもならんかったと思う。」

「そ・・・そうだよなぁ、グレン!あんたならわかってくれると思っていたよ。」

「だが・・・第2第3のセイジロウを出さないためにもニンジャのような転生者には手を差し伸べる必要はあるように感じる。確信は持てないがなぁ。」

「オジキ!」

「はぁ?正気かよ。」

「ならばトーラス、敵意も見せずにひたすら人の言葉で命乞いをしてくる相手だとしたらお前は切れるのか?」

「本当に敵意が無いかどうかなんてわからないじゃないか。お前たちは肝心なことを忘れている。いいか、いくら言葉を話そうが相手はモンスターだぞ?油断を見せた瞬間に襲いかかられて殺されるくらいなら・・・」

「切るか?」

俺は冒険者だ、騎士道なんてものは無い。無抵抗の相手だろうと人の言葉を話そうと・・・。
くそっ!これでは一体どちらが無慈悲かつ残虐極まりないモンスターかわからないじゃないか!こんなの・・・畜生!

「くっ・・・わからん。切るかもしれんし・・・切らぬこともあるかもな。」

「お前と同じさ、さっき言ったように俺も確信は持てないんだ。切らぬこともある、今はそれでいい。」

同僚が惨殺されて憤る心情は何もトーラスだけではないだろう。そこには何より恐怖だってある。強大な力を持つモンスターを場合によっては受け容れようなどと決して割りきれるものではない。
だが可能性を前にして固い信念ですらも引き裂かれようとしている。さて、俺はギルドマスターとして可能性が現実となった時にいかにすべきなのか?まだまだ俺も青二才ってことだな。

「空気が重いな。リーファ、お前何か面白いこと言って場を和ませろよ。」

重い空気に耐えかねたシンディーがひそひそ話で私に無理難題をふっかけてきた。

「はぁ?そういうのはシンディーの役目だろ。空気読まないのがお前の信条じゃないか。」

「くそっ!ほっぺた引っ張ってやろうか?」

「リーファさま、丁度よい機会ですのでコボルトの持ち物を皆様の前で改めて見ては?」

さすがはバトラー。肝心な時に役立たずなヘタれ狐なんかよりもはるかに頼りになるよ。

「ちょっといいかな?」

「どうしたリーファ?」

「ダンジョンでセイジロウに関係のあるモノを回収して来たんだ。良い機会だからちょっとみんなに見てもらおうかなぁなんて。」

「なにぃ?お前いつの間に。」

「さすがじゃないかリーファ!」

「えへへ、ちょっと待ってね。・・・あれ?」

どうしたのバトラー?回収したんだよねぇ?外に出てこないよ。

「申し訳ございませんリーファさま。何故かパントリーからなかなか取り出せない状態でして。しばらくお待ち」

<ポンッ!>

「を・・・おぉ!?」

バトラーとの念話の途中で突如小さくて可愛らしい何かが私の目の前に顕現した。目の前の何かも困惑するかの様にキョロキョロと辺りを見舞わしている。不安気な感じも何か可愛い。

「何だ?よ・・・妖精?」

「リーファ、回収したのって・・・この妖精なのか?」

「これは・・・精霊シルフィード、なのだろうか?」

リアンがしげしげと妖精らしき何かを確認すると、その外見的特徴から答えを推測して見せる。

「リーファさまぁ!」

「ば・・・バトラーなの?あんたどうして?」

「うわぁーん、申し訳ありませんリーファさまぁ!私にも何が何やらぁ!」

リーファに抱きついて泣きじゃくるバトラーを撫でて落ち着かせようとする。

「怒ってないから、ね?とりあえず落ち着こう?」

「リーファ・・・そ、その子を・・・わた・・・わたしにも抱かせて欲しいんだよ。」

世にも恐ろしい形相でティナの震える魔手がバトラーに迫っていた。バトラーが怖がるからやめろ!
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