幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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ホテルリゾート人喰い坑

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「何にせよちゃんとした休息を入れないと地上には戻れん。ここまでで4時間しか休んでないからな。」

「生存者を確保した今となっては危険をおかしてまで闇雲に進む必要はない。俺も賛成なんだがグレン、場所はどうする。またモンスターの大群に襲われるなんてシャレにならねぇぜ。」

とにかくスピード最優先でここまで駆け抜けて来たわけだが、ここからはいかに安全に地上へ戻るかが重要になる。その方針は受け容れられたが、このダンジョンで大所帯をいかに安全に休息させるのかは頭の痛い問題ではある。妙案が浮かばない中、つぶやくようにリアンが口を開いた。

「案外、迷宮区の方がビバークに適しているかもしれない。」

「そんな馬鹿な、正気かリアン。」

リアンの発言を耳にした槍使いのトーラスが非難の声を上げた。確かに迷宮区で大人数がビバークするなど聞いたこともない。だが奇抜な発想の中にこそ良い答えがあるかもしれないと考えたグレンがトーラスを諭す。

「考えを聞いてからでも遅くはない。ひとまず聞いてみようぜトーラス。」

「俺は時間の無駄だと思うがな。」

「私が思うに24階層は周囲からはまる見え、敵の発見こそ容易だが大群の展開と広範囲の機動を許すことにもなる。要害となり得そうな場所も無かった。」

「しかし敵が八方から攻め込めるなら、俺たちだっていくらでも逃げようはあるってことだろ。それは必ずしもデメリットじゃない。」

トーラスが取るに足りないとばかりにリアンの言葉を一蹴する。だが気にせずリアンは話を続ける。

「確かにそうも考えられるな。だが一度我らのビバークを逃したヤツらが同じ過ちを繰り返すだろうか?ヤツらとてそれなりの知能はある。またバカ正直に正面から突っ込んで来ると考えるのも楽観に過ぎるだろう。今回は防御を主眼に置いた配置を考えたい。」

「なるほど、その可能性は否定できない。だがリアン、お前の主眼とする防御だって一体どうするって言うんだ?迷宮区だって袋小路に追い詰められる危険があるじゃないか。それこそ防御に失敗したら逃げ出すこともかなわず全滅するハメになるんじゃないのか?」

「あなたの言う通りだトーラス。我らを袋小路に追い込んだモンスターの大群はこぞって一方向から襲いかかって来ることだろう。」

「そら見たことか、語るに落ちたなリアン。お前自身が認めるように、一斉になだれ込んで来るモンスターに蹂躙されるのが目に見えてるんだよ!」

得意満面のトーラスが勝ち誇ったように追い討ちにかかる。だが目の前のリアンは動じるどころか口元が緩んでいるではないか。どういうことなのか真意を量りかねたトーラスが逆に困惑する奇妙な展開だ。

「重要な一点で私とトーラスの意見が一致したようだ。つまりそこが罠となる。」

「はぁ?どうやら聞くだけ時間の無駄だったようだぜグレン。俺は24階層のキャンプ地で前回同様の」

「なるほど。」

目の前で繰り広げられた討論からグレンは何やら答えを導いたようだ。ガウスがグレンの考えを質す。

「どうしたグレン?」

「休息地をキルゾーンに設定するってか・・・それも悪くない。よし、迷宮区でビバークする。24階層のメンバーを集めるぞ。」

「何故だ!今までの話を聞いてなかったのか?」

「いや、聞いた上での判断だぜトーラス。」

「くそっ!・・・もう勝手にしろ!」

***

グレンからの要請で、私は再びシェルターを展開した。しっかり休めると聞いて私もノリノリ、二つ返事っきゃないよね。
再びダンジョンに現れた大規模シェルターに冒険者たちが歓喜の声を上げている。今回はタップリと休息をとるらしいので、私もいろいろと趣向をこらそうと考えている。

「またこうして室内で休めるのか。」

「これで温かい飯でも食えりゃあ言うこと無いんだが。」

「おいおいお前ら、贅沢を覚えるとロクなことにならねぇぞ。こうして屋根と壁さえありゃ粗末な干し肉も・・・って、いつもの干し肉だわな。」

すると冒険者の一人があることに気づいた。

「おい、何か良いニオイしないか。」

「すまねぇ、いまスカシたの俺だわ。」

「うわっ!くっさ、頼むからよそでやってくれよ。」

「いや待て、本当に美味そうなニオイが。」

「いや、だから俺が・・・ん?本当だ、誰か料理でもしてるんじゃ。」

「あそこじゃねぇか?」

男が指差した先には、どこから取り出したのかいくつかのテーブルが並んでいる。シェルターの外で何やら始まるようだ。何かに急かされるように男たちは外に飛び出した。

「ゴクリ。何だあの食卓は。ここはダンジョンの迷宮区だぞ。」

「おい、これって?」

「あぁ?お前らも見てねぇで手伝えよ。食いたくなきゃ別だがな。」

呼び止められたシンディーが面倒くさそうに対応する。

「ひょっとして俺たちの分もあるのか?」

「手伝うヤツの分なら用意してやる。」

「手伝う、いや是非俺たちにも手伝わせてくれ。」

「焦らなくても量は十分にある。いいか、食い終わったヤツは皿洗いと次のヤツらの給仕を手伝え。お前ら4人はこっちだ、ついて来い。」

さすがシンディーだ。伊達にウチの店員をやってたワケじゃない。それにしてもあいつ仕切り方が上手いもんだな。あんなテキパキとさばくの見たの初めてだよ。
カーネルを通してロミアにお願いできるから、料理はパントリーにジャンジャン送られて来る。私もこの後の食事が楽しみだ。

「これって魚だよな。こないだセバルで食ったヤツ。」

「マジかよ!セバル以外でこれだけのもん食おうとしたら一体いくら金を積まなきゃならねぇんだって話だ。
味わって食わねぇとバチが当たる。」

グレンやスアレスたちも給仕や皿洗いなどを手伝ってくれている。人手も足りて来たし、そろそろ皆にも料理を食べてもらわないと。

「グレンたちも食べちゃいなよ。こっちは私たちがやるからさぁ。」

「俺はティナたちと一緒に食べたいんだ。なぁ、お前らもだろ。」

「あぁ、もちろん。」

「気ぃ遣ってくれてありがとよ、ティナ。」

皿を洗っているガウスがニッコリ笑っている。

「こちらこそ手伝ってくれてありがとう。」

本職のシンディーとティナがいれば食事の提供は間に合うので、私はビバークの責任者であるリアンに使っても良い場所を案内してもらっていた。
何のためかというと風呂だ。さすがにホコリっぽいし汗もかいた、もう早く流したくって仕方がない。

「どうしたのだリーファ。」

「リアン、実は浴場を置こうかと。」

「ひょっとして湯に浸かれるとでも言うのか。」

「うん、一応いくつか魔導器はあるし。ただ、囲いのある浴室設備は小さいのが一つだけなんだ。男は野外風呂にしていいかなぁなんて。」

「大丈夫、野外だろうと誰も気にしない。それこそゆっくり湯に浸かるなど冒険者の身には贅沢極まりないことだ。そうだな、野外の浴槽はハイデルンに手伝ってもらうとしよう。」

「そっか、嫌なら無理して入らないもんね。正直困ってたんだ、ありがとうリアン。」

「ありがとう・・・か。むしろ礼を言いたいのは私たちだ。」

「ふふふ、しっかり身体を休めてみんなでお家に帰ろう。」
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