幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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黒い炎

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「ぐふっ・・・おぼろろろ・・・かはっ。あぁぁぁっ何しやがった!」

その場に崩れ落ちたコボルトが胃の中身を全て地面に吐き出す。身体のあちこちからも血が吹き出しているようだ。地面に手をついてガタガタと不自然に痙攣しているのも遠くからだがハッキリわかる。さっきまであれだけ威勢良かったコボルトがまるで嘘みたいだ。リアンは一体あのコボルトに何をしたんだろう?

「呪いをかけさせてもらった。」

「頭が割れそうだ・・・。エルフが呪いだと?まさかテメェ・・・ドルイドだなっ!」

「ドルイド?何だろう?」

私には聞き慣れない言葉だ。どういうワケかいつも涼しい顔をしているリアンの眉間にシワが寄っている。

「クソったれの選民主義者が何で他種族とつるんでやがんだ?」

「そのような偏狭な者たちと一緒にされては甚だ不本意だが、私のルーツであることは認めよう。」

「カルト女・・・俺に何をした?」

「その呪いは魔力上限の8割相当を費やして対象の全能力の一部を奪い去る。未熟な私の実力ではせいぜい3割といったところか。」

「今すぐ解呪しろ!」

「断る。」

リアンの即答にセイジロウが怒りを露にする。思うように力が入らないのか剣を地面に突き立てて寄りかかるように立ち上がった。
こいつはこんな状態でも私たちを相手にして戦うつもりなのか?

「クソがぁ、テメェからブチ殺してやる!」

「おっと、お前の相手はこの俺だ。」

「邪魔だぁっ!なにっ?ぐはぁ!」

リアン目がけて飛びかかって行ったコボルトの剣をグレンが弾き飛ばす。

「これで終わりじゃないぞ!」

「くっ・・・加速視で攻撃が見えてるってのに、身体が思うように動かねぇ。んなろー!」

「雷撃なんざ無意味だ、当たらない上に威力も弱まってるからな。俺たちの仲間が味わった絶望を見舞ってやる。」

コボルトが怒りに任せて再び雷撃を放ったが、目の前で剣を交えるグレンには一切影響を与えない。
少し離れた位置から彼らの戦闘を見守るスアレスはつぶやかずにいられなかった。
「リアンが何か奥の手があると言うことで戦闘には極力参加させなかったが、こんなのずっとパーティーを組んできた俺たちですら初めて見た。あのコボルトが先ほど見せた全方位の雷撃もはるかに小さくなっている。本当に能力の3割なのか?あの雷撃も様々な能力の組み合わせで発生しているなら、複合的に威力が低くなったということかもしれない。とにかく恐ろしい呪いであることは確かなようだ。」

明らかにパワーダウンしたコボルトはがむしゃらに剣を振り回している。

「この程度で勝ったつもりになってんじゃねぇぞ!おらっ」

「剣は我流か。俺も他人のことはとやかく言えねぇが・・・どうもお前は目が良い分、上手く相手の太刀筋を利用したカウンターが得意なようだな。」

「くそっ、本調子さえ取り戻しゃお前なんざ」

「無理だな、お前には経験が不足してる。本調子だろうがお前の初動は相手に丸分かりだ。どうせマキアスには一太刀も当てられなかったんだろう。」

「くっ!」

圧倒的な腕力と加速視により終始自分のペースでマキアスの頭を押さえつけていたセイジロウだが、肝心なところで決定打を打てなかった。しかしそれも時間の問題、マキアスを練習台に剣の技量を上げれば簡単に攻略できると安直に考えていた節さえある。

目の前の人間の言う通り自分の考えと事実は異なり、初動で全て見きられた自分は攻略されつつあったのだ。マキアスからの反撃も徐々に多くなっていたのは結局そういうことだ。
天狗になって悦に入っていたことに気づかされたセイジロウは愕然とする。

「図星か・・・。なまじ圧倒的な力を持つヤツは実力以上に己れを過信する。力に溺れ、鍛錬を怠っていたんじゃないか?」

「勝ち誇りやがって・・・気に入らねぇ。うおっ!」

タイマンなら誰にも負けたことが無いと自信を持っていたセイジロウだが、目の前のグレンによっていいように地面へ転がされる。

「お前は強いよ、この場にいる誰よりもな。だがお前はここで俺たちに討ち取られる。」

「あぁぁぁっ!う・・・腕がぁ・・・。」

気づくと切り落とされた自分の腕が目の前に横たわっていた。
結局いままで俺は勝てる相手としかタイマンをしてこなかっただけなのか・・・。

「長引かせるつもりはない、ひと思いにトドメを刺してやろう。」

「ぐうぅっ!こんな・・・こんなところで死んでたまるか。俺の人生をメチャクチャにしたお前らを根絶やしにするんだ・・・。」

この世界の人間がテメェ勝手に勇者召喚して失敗した結果、俺は無理矢理この世界の魔物として転生させられたんだ。二度とそんなことができねぇように俺がテメェらをまとめてブッ殺すんだ。一人の例外もねぇぞ・・・。

「何のことかはよくわからんが、最期の祈りの時間は与えた。では・・・」

「殺してやる・・・絶対に・・・絶対だ。うあぁぁぁぁ」

「何だ?」

コボルトの叫びとともに黒い炎が上がる。不気味な黒い炎に全身が包まれたままコボルトの容貌がどんどん崩れさって行くではないか。

「黒い炎?あれは・・・。」

「燃え尽きた・・・のか?」

「灰も残さないことがあろうか?だが黒炎から生じていた瘴気も消え去ったようだ。」

「もうどこにもバケモノの姿は無いし・・・私たち勝ったってことで良いんだよね?」

「わかんねぇって、アタシに聞くなよ。」

結局あのコボルトがどうなったのか私たちにはわからなかった。
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