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水辺の行軍

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私たちは見渡す限り葦が生えている湿地帯である23階層にたどり着いた。ここはシュータークロコダイルという強敵の縄張りらしい。

「ここにはマジックドレインリーチがいる。こいつは血液ではなく魔力を吸い取る特殊なヒルだ。急に身体がダルくなり始めたら多分そいつだろう。命の危険は少ないが今後に響いてくる地味に厄介なヤツだ。自分だけではなく周りの仲間にヒルが取り付いていないか互いに注意してくれ。」

あれ?ワニの方が危険度が高いんじゃないの?何でヒルの注意喚起をしてワニはスルーなんだろう。まぁ言わずもがなってことなのかもしれない。

「ヒルか・・・。普通のヒルとは違うから、そのまま引き剥がしてもいいのかなぁ。」

「それはダメだよリーファ。無理に引き剥がそうとしたら体内に毒を打ち込んでくるから。かなり腫れ上がって痛いらしいよ。」

さすがティナは冒険者やってただけあっていろいろと知っているなぁ。こういうとこは頼りになるんだよね。

「何て嫌なヤツなんだ。じゃあ火とか?」

「そうだね。ただし魔力で作り出した火を近づけても吸収されて消えちゃうから、本物の火か熱したナイフとかを当てるのが良いかもだよ。ちなみにナイフを熱するだけなら火炎魔術を使ってもOKなんだ。」

「まぁさっき着替えたおかげで肌は露出してないし、大丈夫じゃないの?」

確かにそんな気もするけど・・・、だったらわざわざ注意喚起なんてしないんじゃないのか?

「シンディーは甘く考え過ぎ。マジックドレインリーチは血液を吸うわけじゃないから服の上からでも魔力を吸うんだよ。服の上からだと吸収効率は少し下がるようだけどね。」

「何だよそれ?頭に来るタチのわるさだなぁ。」

さっきからヒルの話題ばかりだ。みんなワニについては何も言わないから、ついででティナに聞いとくか。

「ねぇ、ティナはワニの方は知ってるの?」

「シュータークロコダイルはさすがに見たことないよ。でも遠くから加圧水流で狙撃されても骨折するくらいの衝撃はあるって資料には書いてあるね。」

「そんなの絶対に喰らいたくない・・・。リーファ、実はシンディーちゃんのお願いが・・・」

「どうせこの前みたく防御してとか言うんだろ?大丈夫さ、喰らっても回復術士さんたちが治癒してくれるって。」

「何で骨折すんのが前提なんだよ。そんな痛い目を見るなんて嫌なんだ!」

「あれだって際限なく防御できるわけじゃないんだ。仲間が命を落としそうな時のために温存してるんだよ。骨折程度ならガマンして。」

「うげっ!そ・・・そうなの?無敵超人リーファ=クルーンじゃなかったのか・・・。」

「何アホなこと言ってるんだ、そんなわけないだろ。」

「ははは、お前ら知らないんだな。」

「何を知らないんだ、スアレス?」

「ワニが出ても上の階層で仕留めたブラッドハウンドの肉を投げ込んでやれば、俺たちを襲って来ることは無いさ。戦えば厄介極まりないが、人間への敵意をむき出しにするモンスターとは違ってアイツらはただの動物だからな。」

なるほど。既に対処方法が確立されているから強敵といえどやり過ごすことができるってことなんだな。

「でも遠くから狙撃されるんだろ?誰かが骨折させられてワニに気づくってことじゃないのか?」

「そう言われると・・・そうだなぁ。」

「何だよスアレス、やっぱ誰かが骨折するんじゃん!」

「まぁそんなに心配するなよシンディー。これだけ人がいるんだ、自分が喰らうことなんて滅多にゲフッ!」

「うわぁぁっスアレスーっ!」

シンディーが浅瀬に倒れこんだスアレスをあわてて抱え起こす。

「左から来たぞ!何個か適当に肉を放り込め!」

<ドボン・・ドボン・・・バシャバシャッザバッ>

「今ハネた。ヤツらあんなデケーのか?」

肉を投げ込んだところが激しく水が立っている。一斉に一か所に群がって行ったのがよくわかる。たった数個の肉で全部集まって行くとは扱いやすいんだなぁ。

「うわぁ、一気にあそこに集まって行ったよ。」

「今のうちにここから離れるぞ!」

「大丈夫か、スアレス?」

「あ・・・あぁ、鎧に直撃したから無事だ。あ・・・でもアバラの2、3本は行っちまったかも。まぁいずれにせよ何とも無かっただろ?」

「それは何とも無かったことになるのか?」

「あっ!スアレスの手にヒルがくっついてるぞ。」

「おいおい・・・俺だけ踏んだり蹴ったりじゃないか、まったく。」

「おい、待て!何やって・・・」

スアレスがヒルに手を伸ばしたのを見たシンディーが大きな声を出した。

「あ」

「え!もしかして自分ではがしちゃったの?」

「痛ぇぇっ!」

不幸中の幸いでシュータークロコダイル被害はスアレスのみだった。しかし一方でマジックドレインリーチの被害は多発したようだ。水に浸かっている足の部分にいつの間にか付着しているので、よほど気をつけなければ自分が疲労してからようやく気づく始末だ。しかし両方キッチリ被害に遭うとか、スアレスって運が悪いよなぁ。

「何で言ってるそばからはがしてしまうのか・・・。」

「いやぁ、つい・・・面目ない。」

リアンの雰囲気がいつもと違って怖い。すこし怒っているようだ。

「戦闘の時はあれだけ頭が回るのに、何で普段はこんなに大ざっぱなんだ?手やアバラ骨も治ったから良いものの、だいたいスアレスは」

「すまん!許してくれリアン。今度から気をつけるから・・・な?」

「まったく。」
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