幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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激戦の予兆

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「助けに行かないの?」

「リーファ、部隊を分けたのは全滅を避けるためでもある。状況もわからないまま飛び込んで共倒れしちゃあ被害にあった第二分隊を救うこともできない。幸いグレンは健在だ、あっちはあっちで何とかするさ。」

うろたえる私にスアレスが冷静に応える。修羅場をくぐり抜けた経験の差を見せつけられるようだ。

「グレンたちは仲間の救助と被害の原因究明をしているはずだ。俺たちは敵の急襲に備えるとともに退路を確保する!」

リーダーであるガウスの指示が轟く。どうやらスアレスの見立てどおりガウスも第二分隊の下へ駆けつけるつもりはないようだ。

「リーファさま、我々を救難隊の防衛に貼り付けますか?」

バトラー、そうしたいのは山々だがそうするとハニービーの消耗が激しい。今回はいつものようにたった一度の決戦なんかで終わらないはずだ。長丁場に備えて奥の手は最後まで温存しておこう。

「かしこまりました。」

ハニービーたちも無尽蔵にハニカムウォールを使えるわけではない。海賊退治の際に劣勢の中で全員を完全防御した翌日は、消耗からの回復のためにパントリー以外の能力が使えなくなっていた。
あんな大人数を全て守りきるなんてかなりの負担だったってことだよね。あんな無茶させて・・・そもそもそんな都合よくできているわけないんだ。
私がこんな判断ができたのもスアレスやガウスの考え方を納得できたからだ。さっきみたいにうろたえていたら、何も考えずにバトラーの提案に乗って消耗させてしまったかもしれない。そもそもバトラーは私のために何でもするつもりだから自らの消耗などまるで気にしないだろう。だからこそバトラーたちを私が気づかってやらなきゃならないんだ。

「見ろ、グリフォンだ!」

「何ぃっ?この階層でそんなの報告に上がってないぞ!さっきの爆発はあいつらの攻撃か。」

「ミノタウロスだ、森の奥から近づいて・・・複数いるぞ!」

「第一分隊、魔術師は上空のグリフォンを攻撃!弓使いのみ第二分隊支援に前進、森に潜むミノタウロスを退けろ!残りは退路確保!」

「敵が判明した。遊撃部隊は前進して第二分隊支援に向かう。支援だから自ら相手をするんじゃないぞ、交戦中の敵を側背から討て!」

「了解!・・・そこだっ!」

「がぁ!」

スアレスの指示を受けて誰よりも速く戦場へと駆け出して行ったのは・・・え、ティナ?敵の背後に難なく周りこんだティナがボウガンを射出すると、ミノタウロスの後頭部を貫いた。ティナは冒険者をしていたというだけあって驚くほど動きが速く、狙いも正確だった。ミノタウロスが膝から崩れ落ちたのを見て、組み合っていた冒険者が安堵する。

「あいつ・・・案外スゴいヤツなんだなぁ。からかいすぎてティナを怒らせないようにしよう。」

「ヒュー、ティナもやるじゃねぇか。俺も負けてらんねぇ!」

ティナに触発されたマイクもナイフを手にミノタウロスの腱や関節を狙った一撃を次々と加えて行く。決して致命傷にはならないが、敵を粉砕する膂力を誇るミノタウロスが目に見えて弱体化した。

「なるほど、そういう戦闘支援の方法もあるんだなぁ。よし・・・だったら私も!」

リーファもマイクと同様に交戦中のミノタウロスを目がけ、死角から短剣でアキレス腱を叩き斬る。するとバランスを崩したミノタウロスが冒険者にトドメを刺された。リーファはそのままの勢いで次の目標へ疾走する。
何も戦い方はバトラーに頼りきりの方法だけではない。非力な私に合った方法で役に立つ道を探せば、それこそいくらでも戦いようはあるんだ。

「先輩冒険者の戦い方からいろんな技や駆け引きを盗んでやる!」

一方でシンディーは詠唱に集中するため、少し戦場から離れた安全な位置からミノタウロスを狙い撃ちする作戦だ。

「我は神祖の血を引く者なり・・・『フォックスファイア!』」

「がごっ!」

身体に引火した青い炎を消そうとミノタウロスが地面を転がり回る。しかし青炎は消えるどころかますます勢いよく燃え上がり、ついにミノタウロスは動かなくなってしまった。

「へへ、まずは一匹!」

すると上空からまたしてもグリフォンが魔術攻撃を放った。魔術師たちによる牽制も素早い動きでかわしつづけるグリフォンは厄介きわまる存在だ。

<ズドォーン>

「うわぁっ!」

「グリフォンはまだ健在か・・・多少の消耗は仕方あるまい。青く真白き月は遍く闇を貫きたもう必中の射手・・・全能の御手をもって邪なるものを打ち払わん・・・『アルテミシア!』」

リアンが放った複数の光の矢がそれぞれ緩やかな弧を描いて飛んでいく。縦横無尽に飛び回っていたはずのグリフォンたちをまるで冗談のような正確さで貫いた。

「グリフォンが墜ちたぞ!さすがリアンだぜ。」

ついにグリフォンたちが地上に墜ちるのを目にしたミノタウロスたちは劣勢を悟り、徐々に逃走を始めた。

「追うな!けが人の救助が先だ。軽傷者用のポーション準備!重傷者には回復術師を当てろ!」

「グレン、どうやらダンジョンの構成が変化したみてぇだなぁ。」

「あぁ、グリフォンは22階層から出没するはずだった。どうも敵の布陣が強化されてるようだぜ、ガウス。味方の消耗具合から見て、遅くとも20階層までに一度は大休止をはさまなきゃならんだろう。」

「くそっ!急いでるってのにチクショー。」

今後の行程に大幅な狂いが生じる見込みにガウスが歯噛みする。救難隊も多数のけが人を出し、治療に人員を割かねばならない現状だった。

「マズい、こいつ全身にかなりの火傷がある。回復術師はいねぇか、今すぐ処置しねぇと死んじまう!」

「回復術師は全員が他のヤツにかかりっきりだ、もう余ってねぇよ。ポーションで何とかするしか」

「馬鹿言え、ポーションでどうにかなる状態じゃねぇんだって!あぁ・・・」

「見せて。」

「え?お前は・・・回復術師じゃねぇ・・・よな?」

バトラー、これどうにかなるかな?

「助かるかどうかはわかりませんが、やるだけやってみましょう。」

ハニービー=キュアで治療するにも、こんな全身火傷の重傷なんて何とかなるんだろうか?でも無理でもやらなきゃ死んじゃうんだからやるしかない。すると治療を始めてすぐに重傷者が苦しそうに叫び始めた。

「がぁぁぁぁっ!ふあぁぁぁっ!」

「おい、苦しんでないか?なぁ・・・おいって!」

そんなこと私だってわかってる!でも止めたところですぐに死んじまうんだ。

「黙って!」

「ぐわぁぁぁ・・・あ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「手が・・・指が癒着してたのに元に戻ってる?お前・・・これって?」

全身を重度の火傷で覆われていた冒険者は、全快ではないものの軽傷レベルにまで回復したようだ。先ほどまでどす黒くなっていた肌も驚くほど元の状態に近づいている。

「リーファさま、あとはポーションで何とかなるでしょうな。この程度でいかがでしょう?」

「上出来だ。なぁ、あとはポーションで何とかなるはずだからあんたに頼んでも良いか?」

「あぁ・・・もちろんだ、こいつに代わって礼を言うよ。助けてくれてありがとう。」
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