幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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思いの重さ

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私はボーネランド商会から急いで我が家に戻ると、着替えやら何やら必要なモノをパントリーにぶち込んで準備を整えていた。一緒に行くシンディーとティナにも必要なモノは運んでやるからまとめておけと既に伝えている。
そろそろアイツらの部屋に行ってピックアップしようとしていたところ、私の部屋に犬耳のエルマがやって来た。

「リーファ、聞いたよ。今日の夜からダンジョンに潜るんだって?」

「そうだけど、どうしたのエルマ?」

「そうだけどじゃないだろ。何で遭難が発生したダンジョンにリーファが潜らないと行けないんだよ?」

おそらくシンディーかティナにでも聞いたのだろう。他のみんなには近々ダンジョン見学に行くかもしれないとは伝えていたけど、今日いきなり救助隊に参加することになったとは伝えていなかった。

「何でって・・・顔見知りが遭難したんだ、助けたいと思うのはおかしくないはずだよ。」

「私だってリーファの思いは否定しないさ。だけど、そもそも遭難した探索隊は実力のある冒険者で編成してたはずだろ?そんな人たちですら遭難する場所に仲間を黙って送り出せるほど、私たちがリーファに無関心だとでも思っているのか?」

エルマの雰囲気がいつもとは違う。急いでいるとはいえ、ちゃんとみんなにも事情を話しておくべきだった。たぶん数日は留守にするんだもんね、今からでもみんなに話しておこう。そりゃぁいくらなんでもビックリする。

「大丈夫だから心配しないでよエルマ。」

「あぁそうだろうさ、リーファはスゴい力を持っていることは私も十分理解してる。自信を持つのは当然だ。」

「だったら」

「だが、それを上回る圧倒的な力でねじ伏せられたら?」

「それは・・・」

たしかに自分の本当の実力について疑問を感じることがあるが、まさかそのものズバリを問いただされるとは思わなかった。私は返答に詰まってしまう。何も言い返せない。

「お前はその時本当に私たちの下に帰って来てくれるのか?私はもう二度と家族を事故で失いたくないんだ。」

「家族・・・」

「そうさ。ここには家族に捨てられたり、事情があって帰れなかったり、他に身寄りの無い天涯孤独のヤツだっている。どこにも居場所の無い私たちが力を合わせて私たち自身の温かい家庭ってヤツを営んでいるんだ。非力な者には残酷この上ない世界でそれを与えてくれたのは他ならぬリーファだ。そして忘れちゃいけない・・・お前だって私たちにとっては他のみんなと同様にかけがえのない家族なんだ。」

「・・・」

そうだ・・・私だってみんなのことは家族だって思っている。たくさんの姉ができてニコという妹がいて、ある日を境に私の毎日は騒々しいほどに楽しくなったんだ。安宿で独り、自分の帰りを待つ者もいない・・・そんな孤独から私を救い出してくれたみんなが。

「それでも行くのか?」

「・・・」

私はエルマの問いかけに意思表示すらできなかった。新しい家族というかけがえのない宝物を天秤にかけるようなマネをしているなんて自分が許せないとすら思っている。
情けないことにまたしても私の目からポロポロと涙がしたたり落ちていた。伝えなければいけないことが私にもあるはずなのに、それを言葉にしようとすると私の表現力では言葉にすらできなかった。

「・・・ふぅ、やっぱり行くのかぁ。お前がそこまで冒険者稼業を真剣に考えていたなんて私の想像を超えてたよ。だったら行って来な。」

「良いの?」

どうやら私が何も言えなくなっていることでエルマが根負けしたようだ。エルマに対してこんな不本意な強要をするとは我ながら情けない限りだ。困惑しすぎて先ほどから本当にロクな応答すらできていないじゃないか。

「良いワケあるか。リーファに伝えたことは私たち家族が話し合って結論にいたった総意だ。私はここでリーファに冒険者を廃業してもらって、ここで一緒に働いて楽しく生活できればそれが一番なんだ。」

「ごめんね、エルマ。私いままでそんな当たり前のことを考えもしなかったよ・・・私は本当に大馬鹿だ。ごめんね・・・うわぁぁん」

みんなに対する申し訳なさと感謝とで頭の中がグチャグチャになっている私は、もう謝ることしかできなくなっていた。心の中に感情があふれて、ついに大声で泣き出してしまった。

「もう泣くなよリーファ、こうなった限りは私たちだって腹をくくるし全力で支えてやる。かけるべき言葉もかけずに後悔なんてしたくないって、私たちの心のやましさを自分勝手に容赦なくお前にぶつけてしまったんだ。私だって今のお前を見てると本当に胸が痛くなる。」

「エルマ・・・」

「だが、一つだけ約束してくれ。決して無理をせず、私たち家族のいる『家』に必ず帰って来るんだ。」

「うん、約束するよ。ありがとうエルマ。」

リーファは強いヤツだ、いつだって私たちを守って戦ってくれる。だが忘れないでくれ、お前が私たちを助けてくれるように私たちもお前の力になってやりたいんだ。

「あとアホのシンディーとチビッ子姉さんのティナも頼んだぞ。連れていくんだろ?」

「ふふふ、もちろん。家族を預かるんだ、ケガ一つさせないよ!」

「よし、行って来い!みんなには私から話しておく。」

「行って来ます!」

私はみんなからの思いを胸にダンジョンへの救難に向かう決意を固めた。
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