幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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臆病風

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「ここだな。ようやく次の25階層へ行けるぜ。」

ダンジョン探索隊は24階層に到達して以降四ヶ月目にしてようやく次の階層へ進出する道を見つけることができた。これまでさんざん骨を折った冒険者たちは地の底で歓喜の声を上げていた。

「24階層は今までよりはるかに広かったから手こずった。シアーズ、マッピングは終わったか?」

「誰に向かって言ってんだ?大丈夫に決まってるだろ。俺はマッピングなら誰にも負けねぇ自負がある。」

いつものように他愛のないことで騒ぐ男たちの中で、探索隊総勢15名のリーダーであるレダム=コルドバは一人浮かない顔をしているマキアスを見逃さなかった。

「どうしたマキアス、何か気になるのか?」

「なぁレダム、一度地上に戻らないか?」

「何だと?どうしたんだ、お前らしくもねぇ。」

最年少ながら探索隊で最も実力のあるマキアスが予想外に弱気なことを言うとは思いもしなかったレダムが驚愕する。するとその様子をうかがっていたシアーズが非難の声を上げた。

「ここまで来て何だよ。次の階層を前にして臆病風にでも吹かれたってか?」

「何か嫌な予感がする。俺たちだけではここまでが限界なんじゃねぇかって。」

「たしかに魔物も強くなって前よりも進めなくなったが、マキアスの敵じゃなかったじゃねぇか。ここはまだ限界じゃねえだろ?」

「そうだぜマキアス。またギルドに24階層から次に進めませんでしたなんて報告する気か?」

その言葉にはレダムの焦りも含まれているとマキアスは感じ取っていた。しかし探索は焦るものではない、ギルドマスターのグレンだって安全を最優先しろと言っていたじゃないか。俺にレダムを納得させるだけの材料があれば・・・。

「何かあってからじゃぁ遅いだろ?俺もここで諦めて二度と手を出すなと言ってるんじゃない。装備と人員を整えてからでも遅くは」

「レダム、もう俺たちだけで次に行こうぜ。腰抜けマキアスは帰るなりお留守番なり好きにしてろ。」

「タルークの言う通りだ。次の報告日まであと一週間もあるんだぜ。帰るには早すぎるってもんだ。3日もありゃぁグラムスに帰れるのに、そんな情けねぇマネができるかよ!」

くそっ!タルークめ、事あるごとに俺の足を引っ張るようなことばかり言いやがって。何でわかってくれねぇんだ。

「だとよ、マキアス。いいぜ、お前はここで留守番でもしてろ。」

「・・・わかったよレダム。だが何かイレギュラーがあればすぐに撤退する心積もりは」

「しつこいヤツだなマキアス。嫌ならついて来なくていいぞ。」

「くっ!てめぇタルークっ!」

「やめろお前ら!とにかく次の階層に行くことは決まったんだ。ここで喧嘩するならお前らなんざ置いてくぞ。」

俺たちはもう二度と地上に戻れないかもしれない。

***

私は今日一日休みなので冒険者ギルドでお茶したり、スカーレットやライナたちとお話をしに来た。でも何だかギルド職員さんたちはいつもと様子が違うようだ。

「どうしたのライナ?何か職員さんたちあわただしくない?」

「よぉリーファ。どうしたも何もダンジョン探索隊の報告日からもう2日が経過してるんだ。」

「え?どこか寄り道でもしてるの?」

「寄り道ったって、グラムスと人喰い坑の間に寄り道するような場所なんて無いぜ。今まで必ず報告日前日には帰還して報告してたから、人喰い坑で何かあったって考える方が自然なんだよ。正直そんなこと考えたくもないけどなぁ。」

何かいろいろとルーズなイメージがある冒険者だが、こと任務に関しては驚くほど正確かつ忠実になる。期日をすっぽかすなんてことはあり得ないというのがグラムスでC級以上の冒険者の特徴らしい。

「グレンは何て言ってるの?」

「いま救出隊を編成してるよ。グラムスで腕っこきの冒険者たちが遭難したから、予算度外視で救出を考えてる。しかし、ここ最近は事件つづきで自由にできる予算が底をつき始めてるんだ。もう少し時間がありゃぁ自前で金が工面できるってのに間が悪い話だぜ。商業ギルドやグラムスの執行部に頭を下げに行って何とかしようとしてるところさ。グラムス最大のボーネランド商会にも行くって言ってたなぁ。」

グレンがトマソンのところに?あの二人は何故か知らないけど犬猿の仲だからなぁ・・・。それにしても予算の件でトマソン個人に何の用件があるんだろう?

「ちょっと私もボーネランド商会に行って来るよ。」

「え!リーファがボーネランド商会に行って何になるんだよ?おい、待てって。」

「私も救出隊に入れといてね、ライナ!」

「あちゃー、行っちゃった・・・。ボーネランド商会なんてコネでも無けりゃぁ門前払いだぜ、リーファ。」

***

「頼む、この通りだ。」

「ふん、グレン・・・貴様がこのワシに頭を下げに来るとはなぁ。だが、その冒険者どもは大枚をはたいて救出する価値があるのか?」

床に膝をついて頭を下げるグレンを見て、まさかここまでするなどと夢にも思わなかったトマソンが不思議そうな表情を浮かべる。だが当のグレンに相手の表情を見とって駆け引きをする余裕など無かった。グレンは冷や汗を流しながらなおも言葉を続ける。

「あぁ、それは俺が請け合う。間違いなくグラムスに必要な人材だ、ここで救出しなければ必ず後悔することになる。」

<コンコン>

ノックをして扉を開けると、グレンが無様に床に膝をついている様子を目のあたりにしたボーネランド家の執事が青ざめる。しかし主人に伝えないわけには行かない客人がいるのだ。

「お話の途中、私の無礼をお許しくださいイルギンさま。」

「何だ、ヨゼフ?割って入って来るなどお前らしくもない。何か一大事でもあったのか?」

「はい、リーファさまがいらしております。今すぐ旦那さまにお会いしたい用件があるとのことでございます。」

「リーファが?良かろう・・・通してくれ。」

「かしこまりました。リーファさま、どうぞこちらへ。」

主人が拒絶しないことを見越していたヨゼフはとなりにいたリーファをそのまま応接室へと招き入れた。

「どうしたリーファ?お前が自分から来るのも珍しいではないか。」

「リーファ、お前どうしてここに?」

「私も個人的に救出隊の予算をお願いしに来たんだ。」

「何だと!」

「お前、そんなことどこで知ったんだ?」

まぁいろいろと考えて見たけど予算をお願いしに来たんだろうことは想像できるよね、トマソンは大金持ちだからさぁ。

「だって、マキアスの命がかかってるのかもしれないんでしょ?アイツのことは苦手だけど、こんなことで命を落とすかもしれないなんて黙っていらんないよ。私からもお願いしに来た。」

「リーファ、お前も同じ考えなのか・・・」

「お願いします!」

見るとリーファまでグレンのとなりに膝をついて頭を下げだした。自分に頭を下げるなんて考えたこともない二人から頭を下げられてトマソンも面喰らう。とりあえず落ち着くために息を吐いて、頭を下げる二人に声をかけた。

「頭を上げろ、お前たち。」

「じゃあ良いの?」

「まぁ待て。グラムス執行部の結論が出るまでには時間がかかるのは知っているな?」

「あぁ・・・それはもちろん。」

グレンが苦々しい顔をしている。執行部や商業ギルドにお願いしても即金でなんてことは無いらしい。まぁいろいろと手続きがあるってことなんだろう。

「お前がわざわざワシのところに頭を下げにくるなど、悠長に結論を待っている時間が無いのだろう?」

「情けない限りだが・・・その通りだ。」

「良かろう、リーファからの頼みとあらば断るわけにも行くまい。グレン、ワシも貴様にはセバルでの借りがあるしなぁ・・・。結果的に執行部で否決されようとどうでも良い。今すぐワシが必要な予算を全額出してやる。」

「ありがてぇ、恩に着るぜ。」

「勘違いするな、決してお前なんぞのためではない。グラムスの将来に必要な人材とやらへの投資だ。」

「ありがとう、トマソン!」

「たまにはワシもリーファにカッコいいところを見せてやらんとなぁ。ふふん。」
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