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エビで鯛を釣る
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「まったく、ひどい目にあった。」
「リーファさま、やはり我々がお止めした方がよろしかったのでは?」
いや、またマキアスにわしづかみにされても面倒だよ。こりゃぁ接近注意だな。どうもマキアスとは相性が悪い。
私がバトラー相手にボヤいていると、グレンが気になることを話し出した。
「そう言えばマキアス、またダンジョン探索に戻るのか?」
「あぁ、対ユグルトの緊急召集は終わるしな。人喰い坑に戻って探索再開しねぇと。」
人喰い坑!これまた随分とパワーワードだなぁ。マキアスは今回の遠征で初めて見たけど、あまりグラムスに帰って来ていないのかもしれない。
「今どのくらいなんだ?」
「24階層だ。なかなか手強いよ、次の階層に手が届かねぇ。」
「進んだとは言え、全貌が明らかになるのはまだまだ先ってことか・・・。」
「そろそろ俺たちの力では探索にも限界が近づいている。ダンジョン踏破が先か探索隊の限界が先かってな。まぁ正直なところ踏破は分の悪い賭けと言わざるを得ない。儲けはデカいが、キリの良いところで手を引くのもアリっちゃアリだ。俺も暗い地の底で魔物の腹の中に収まりたくねぇしよ。」
何か面白そうな話だし、私もさっきから話に飛び込む機会をうかがっていた。マキアスのボヤきでいったん区切りがつきそうだ。
「ねぇ、ダンジョンって?」
「そうか、最近冒険者になったばかりのリーファは知らねぇよな?数年前に地表面の大規模な陥没が起きたんだが、それがダンジョンだってことが判明したんだ。グラムスから2マイルの距離だから、マルトリス同盟の支援の下に冒険者ギルドが危険性調査と探索を継続しているんだ。マキアスは探索隊の主力として活躍している。」
そう言えば目に見えないホーネットを素手で捕まえるなんて離れワザは、暗い地の底で研ぎ澄まされた感覚によるものなんだろう。なるほど、ようやくマキアスの正体が見えて来たぞ。
「リーファ、お前も興味あるのか?なんだったら俺が連れてってやるぜ。オジキ、こいつの実力は?」
えぇっ!マキアスと一緒に行ったらまたひどい目にあわされそうで嫌だなぁ。
「リーファの実力は俺が保証するけどよぉ・・・。」
「何だよオジキらしくねぇなぁ。不都合でもあんのかよ?」
「お前もわかるだろ?リーファを人喰い坑に放り込むなんて言ってみろ、スカーレットがどんな顔するか想像できねぇお前じゃあるまい。今度は冗談抜きで自決を迫られかねん!」
「スカーレットさんかぁ・・・こっちも手強いな。吟味の厳しさはある意味ダンジョン以上だ。まぁスカーレットさんのおかげで冒険者の早死には年間1~2件に激減したんだから、誰も口ごたえなんざできねぇわな。」
たしかにスカーレットが首を縦に振る場面を想像しがたい。実力がどうあれ、私がそんなことを口にしたら正座させられてお小言をもらいかねないぞ。スカーレットの言い分は一から十まで正しいから反論の余地すら見出せないんだ。
美味しい料理や酒とともに会話を楽しんでいる私たちのテーブルに気づいた老紳士がこちらに歩みを進めて来るのが見える。あれはクラウスだ。
「やぁ、楽しんでいるかね?」
「モーゼルトの旦那、見ての通りみんな羽を伸ばすどころか羽目をはずしてますよ。旦那もここで俺たちと一杯どうです?」
「いやすまないグレン、実はこの後も予定があってね。お酒は遠慮しておくよ。」
「こんにちわ、クラウスさん。」
「あぁ、リーファくんじゃないか。私のことはクラウスと呼んでくれ、その方が君らしくていい。今回は君の活躍で人繰りが一気に楽になったよ、ありがとう。」
「人繰り?」
「あぁいかんね、話を急ぐのが私の悪い癖だ。海賊や貸し倉庫での件と言い、想定ではもっと人員を投入して長期化することを見込んでいたんだ。だがリーファくんの獅子奮迅の活躍によって、セバルに配置した冒険者を短期決戦の工作に全て投入することができたのだよ。今日この日にお祭りができるのはリーファくんの働きによるところが大きい。」
「くぅー、良かったじゃねぇかリーファ。旦那にここまでほめられるのもなかなか無いぜ。」
「ひひひ。」
私はグレンにブンブン振り回すほど頭をなでられた。まるで我が事のように喜んでくれるのは私も本当に嬉しくなる。
「今回の短期決戦はグレンとトマソンの進言で決まったことだ、君たちにも感謝している。工作を統括したガウスくんとマキアスくん、陽動を指揮したリアンくんにもね。我がグラムスに優秀な冒険者の諸君が集まってくれたことが最大の勝因だよ。」
貸し倉庫の件・・・、敢えてストレートに贋金と言わないあたりはまだ解決していないのかも。後でどうなったかこっそり聞いてみよう。
「何かそう持ち上げられると悪い気はしねえぜ。なぁオジキ。」
「あぁ、まったくだ。」
「そう言えばダンジョンの話をしていなかったかね。そろそろ一般開放も考えているのだろう?」
「えぇ。これまでに集まった情報を分析するかぎり、エントリーレベルを絞れば11階層までは一般開放しても大丈夫だと見積もってます。旦那にうかがうための資料も街に戻れば」
「いや、急かそうとしているワケじゃないんだ。仕事の話は祭りの後にしよう。まぁ冒険者ギルドの方針はいつも手堅いから心配はしていないよ。思うとおりに進めてくれ。」
「なるほど、エントリーレベルさえ満たせば潜れないこともないんだなぁ。一回くらい行ってみるのもいいかも。」
リーファがダンジョンに興味を持つような発言をすると、途端にマキアスが上機嫌でリーファに応じて見せた。
先のお願い通りマキアスがリーファに目をかけてくれるようになったことで、リアンも思わずにこやかな表情を浮かべる。
「お、乗り気になったみてぇだなリーファ。いつでもマキアス様がダンジョンを案内してやるからよぉ。」
「ダンジョンはあまり好かぬが、リーファが行くというなら私も行って見るとしよう。その時は私もよろしく頼む、マキアス。」
「まかせてください、姐さん!」
いよぉぉっっしゃぁぁ、想定どおりっ!リーファを焚きつければ姐さんも動くと踏んでたぜー。ここでバッチリいいとこ見せねぇとなぁ!
「リーファさま、やはり我々がお止めした方がよろしかったのでは?」
いや、またマキアスにわしづかみにされても面倒だよ。こりゃぁ接近注意だな。どうもマキアスとは相性が悪い。
私がバトラー相手にボヤいていると、グレンが気になることを話し出した。
「そう言えばマキアス、またダンジョン探索に戻るのか?」
「あぁ、対ユグルトの緊急召集は終わるしな。人喰い坑に戻って探索再開しねぇと。」
人喰い坑!これまた随分とパワーワードだなぁ。マキアスは今回の遠征で初めて見たけど、あまりグラムスに帰って来ていないのかもしれない。
「今どのくらいなんだ?」
「24階層だ。なかなか手強いよ、次の階層に手が届かねぇ。」
「進んだとは言え、全貌が明らかになるのはまだまだ先ってことか・・・。」
「そろそろ俺たちの力では探索にも限界が近づいている。ダンジョン踏破が先か探索隊の限界が先かってな。まぁ正直なところ踏破は分の悪い賭けと言わざるを得ない。儲けはデカいが、キリの良いところで手を引くのもアリっちゃアリだ。俺も暗い地の底で魔物の腹の中に収まりたくねぇしよ。」
何か面白そうな話だし、私もさっきから話に飛び込む機会をうかがっていた。マキアスのボヤきでいったん区切りがつきそうだ。
「ねぇ、ダンジョンって?」
「そうか、最近冒険者になったばかりのリーファは知らねぇよな?数年前に地表面の大規模な陥没が起きたんだが、それがダンジョンだってことが判明したんだ。グラムスから2マイルの距離だから、マルトリス同盟の支援の下に冒険者ギルドが危険性調査と探索を継続しているんだ。マキアスは探索隊の主力として活躍している。」
そう言えば目に見えないホーネットを素手で捕まえるなんて離れワザは、暗い地の底で研ぎ澄まされた感覚によるものなんだろう。なるほど、ようやくマキアスの正体が見えて来たぞ。
「リーファ、お前も興味あるのか?なんだったら俺が連れてってやるぜ。オジキ、こいつの実力は?」
えぇっ!マキアスと一緒に行ったらまたひどい目にあわされそうで嫌だなぁ。
「リーファの実力は俺が保証するけどよぉ・・・。」
「何だよオジキらしくねぇなぁ。不都合でもあんのかよ?」
「お前もわかるだろ?リーファを人喰い坑に放り込むなんて言ってみろ、スカーレットがどんな顔するか想像できねぇお前じゃあるまい。今度は冗談抜きで自決を迫られかねん!」
「スカーレットさんかぁ・・・こっちも手強いな。吟味の厳しさはある意味ダンジョン以上だ。まぁスカーレットさんのおかげで冒険者の早死には年間1~2件に激減したんだから、誰も口ごたえなんざできねぇわな。」
たしかにスカーレットが首を縦に振る場面を想像しがたい。実力がどうあれ、私がそんなことを口にしたら正座させられてお小言をもらいかねないぞ。スカーレットの言い分は一から十まで正しいから反論の余地すら見出せないんだ。
美味しい料理や酒とともに会話を楽しんでいる私たちのテーブルに気づいた老紳士がこちらに歩みを進めて来るのが見える。あれはクラウスだ。
「やぁ、楽しんでいるかね?」
「モーゼルトの旦那、見ての通りみんな羽を伸ばすどころか羽目をはずしてますよ。旦那もここで俺たちと一杯どうです?」
「いやすまないグレン、実はこの後も予定があってね。お酒は遠慮しておくよ。」
「こんにちわ、クラウスさん。」
「あぁ、リーファくんじゃないか。私のことはクラウスと呼んでくれ、その方が君らしくていい。今回は君の活躍で人繰りが一気に楽になったよ、ありがとう。」
「人繰り?」
「あぁいかんね、話を急ぐのが私の悪い癖だ。海賊や貸し倉庫での件と言い、想定ではもっと人員を投入して長期化することを見込んでいたんだ。だがリーファくんの獅子奮迅の活躍によって、セバルに配置した冒険者を短期決戦の工作に全て投入することができたのだよ。今日この日にお祭りができるのはリーファくんの働きによるところが大きい。」
「くぅー、良かったじゃねぇかリーファ。旦那にここまでほめられるのもなかなか無いぜ。」
「ひひひ。」
私はグレンにブンブン振り回すほど頭をなでられた。まるで我が事のように喜んでくれるのは私も本当に嬉しくなる。
「今回の短期決戦はグレンとトマソンの進言で決まったことだ、君たちにも感謝している。工作を統括したガウスくんとマキアスくん、陽動を指揮したリアンくんにもね。我がグラムスに優秀な冒険者の諸君が集まってくれたことが最大の勝因だよ。」
貸し倉庫の件・・・、敢えてストレートに贋金と言わないあたりはまだ解決していないのかも。後でどうなったかこっそり聞いてみよう。
「何かそう持ち上げられると悪い気はしねえぜ。なぁオジキ。」
「あぁ、まったくだ。」
「そう言えばダンジョンの話をしていなかったかね。そろそろ一般開放も考えているのだろう?」
「えぇ。これまでに集まった情報を分析するかぎり、エントリーレベルを絞れば11階層までは一般開放しても大丈夫だと見積もってます。旦那にうかがうための資料も街に戻れば」
「いや、急かそうとしているワケじゃないんだ。仕事の話は祭りの後にしよう。まぁ冒険者ギルドの方針はいつも手堅いから心配はしていないよ。思うとおりに進めてくれ。」
「なるほど、エントリーレベルさえ満たせば潜れないこともないんだなぁ。一回くらい行ってみるのもいいかも。」
リーファがダンジョンに興味を持つような発言をすると、途端にマキアスが上機嫌でリーファに応じて見せた。
先のお願い通りマキアスがリーファに目をかけてくれるようになったことで、リアンも思わずにこやかな表情を浮かべる。
「お、乗り気になったみてぇだなリーファ。いつでもマキアス様がダンジョンを案内してやるからよぉ。」
「ダンジョンはあまり好かぬが、リーファが行くというなら私も行って見るとしよう。その時は私もよろしく頼む、マキアス。」
「まかせてください、姐さん!」
いよぉぉっっしゃぁぁ、想定どおりっ!リーファを焚きつければ姐さんも動くと踏んでたぜー。ここでバッチリいいとこ見せねぇとなぁ!
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