幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
34 / 167

逃亡の果て

しおりを挟む
「クソ!虫けらどもがワシに楯突くなど絶対に許さんぞ!」

反乱の気配に気づいたユグルトは時間稼ぎのために家族を置き去りにし、独り隠し通路からの脱出を図っていた。
ユグルト以外に通路の発見はきわめて困難であり、城内に精通する者ですら知る者はいない。ユグルトの行方について猛り狂う農民たちは生存者を拷問するだろうが、最初から誰も答えることはできないのだ。
拷問好きのユグルトはその様子を思い浮かべるだに、心地よさそうな笑みをこぼす。

「はははっ、いつまでも城内を探し回っておれ。お前らは今や反乱者だ、帝国軍の出動を要請して全員まとめて血の海に沈めてやる。」

カビ臭い上に汚らしい虫までおるわ。しかし歴代当主のみに存在が明かされる隠し通路を遺してくれたご先祖さまには感謝せねばなるまいて。こうして生きのびて復讐を果たせるのだからなぁ。
ユグルトは出口の内鍵を解錠し、重い扉を上に持ち上げてようやく外へ出た。隣接領までは日が昇る頃にはたどり着けるだろう。

「ふん、このワシさえ生き残ればいくらでも再興できるのだ。よし、ではこのまま隣接領主に保護を求めるとするか。」

「お待ちしておりました。」

「だ・・・、誰だ!」

うろたえつつもユグルトは剣を抜き、暗闇に現れた男の姿に目を凝らす。

「伯爵さま、ジャック=ブラセンでございます。」

「脅かすな、ブラセン。して、貴様は何故この隠し通路の出口を知っておるのだ?」

「そのようなこと、今はどうでもよろしいのでは?城内に伯爵さまのお姿が見えないとなればすぐにここにも有象無象がやって参りましょう。」

「貴様は今さら何をしに来た?・・・まぁどうでもよいな、目撃者のお前にはここで死んでもらうとするか。」

ユグルトはにこやかに微笑むブラセンに向けて剣を構えた。その様子を見ていささかも笑顔を崩さないブラセンが楽しげに話しかける。

「おや、それは残念ですなぁ。せっかく最期に伯爵さまをダマして楽しもうと思っていたのに。私に救いを求めていただけないとは興ざめですねぇ、もう貴方様は用済みです。」

「何だと?この商人風情が、死ね!うぐっ!うっ!」

「はっはっは、私が一人でここに来ているとでも?そんなワケないじゃありませんか!」

暗闇にもかかわらず、突如として二本の矢が正確にユグルトの両足を貫いた。月明かりしかないにも関わらず、姿も確認できない距離から撃ち抜くとは相当の手練であることをユグルトも理解した。

「くっ、わ・・わかった。何が望みだ?何でも望み通りにくれてやる。ワシを隣接領主のもとまで送り届けてくれ。」

「私の望みですか?それは貴方様のお命でございます。私の関与が明るみにならないためにも貴方様に生き残られては困るのです。」

「ま・・・待て!ワシは絶対に秘密を」

「ご機嫌よう伯爵さま。」

次の瞬間、ユグルトの額に一本の矢が突き立った。

***

周囲の捜索の末にようやく発見したものの、既にユグルトは何者かに殺害された後だった。

「最後の最後に失敗するとは!どうやら俺としたことが詰めが甘かったようだ。」

「秘密通路があったとはな。仕方ねぇさ、グレン。お前のせいじゃねーよ。しかし、そうなるとユグルトを殺したのは一体誰だ?」

「贋金事件の真相は闇に消えちまった。ユグルトの口を封じたヤツがいても手がかりが無い。ガウス、良い考えはねぇか?」

「よせよ、グレン。この俺が頭脳派にでも見えるのか?後はモーゼルトの旦那に投げ返すほかねぇよ。」

主のいなくなったセンダルタ城の大広間で先ほどからグレンとガウスが深刻な顔で話し合っている。
私たち冒険者は領民が偶発的にユグルトを殺害しないよう捕縛する任務を帯びていた。どれほど想定外の事態であろうとも、結果だけを見ると任務失敗だ。

「グレン、落ち込んでるね。」

「仕方あるまい、誰よりも責任感の強いグレンだ。実態が我々実働部隊の失敗でも独りで責任を負おうとするだろう。」

「グレン御大はそういう男だろ?今さら悩んだって仕方ねぇってリアン姐さん。」

「私は悩んでなどいないぞ、マキアス。私は今までもこれからもグレンを支え続けるのみだ。グラムス冒険者ギルドはグレン抜きには語れないからな。」

「かぁーっ、さっすがリアンの姐さんだ!どこまでもカッコいいんだからたまんねーぜ!ん?さっきからチラチラうるせぇなぁ、何だこりゃ?」

「あの男!」

バトラーの雰囲気がいきなり険しいものに変わった。リアンに話しかけていた黒い服の男が何かしたのか?

「どうしたんだバトラー?あっ!」

「おぉぅ?蜂だぜこりゃぁ。うわぁ、つかんじまったぁ。どうしよう、殺すか。」

男は信じられないことにホーネット=ファントムを素手でつかんでいる。しかも不可視状態までキャンセルされてしまった。まずい、このままじゃ本当に殺されてしまう!

「殺さないで!」

「あ、何でよ?こんなの逃した瞬間に俺や姐さんを刺すだろうがよ。」

「お願い、その子は絶対に刺したりしないから。頼むからその子を解放してあげて。お願い・・・。」

「はぁ?さっきから何言ってるんだおめぇはよぉ。おい、泣いてるのか?」

マキアスが捕らえた蜂を気づかう理由は何だ?・・・そうか、もしやリーファの不思議な力にこの蜂が関わっているのではないか?そうであれば、これ以上衆目を集めるようなことは避けねばなるまい。他の者に勘づかせては決してリーファのためにならないだろう。

「私からもお願いできないだろうか。マキアス、どうかリーファの言う通りにしてやって欲しい。」

「あ・・・姐さんまで?姐さんが言うならそうするけどよぉ、お前本当に俺たちを刺さないでくれよ?ほれっ!・・・あっ、また消えやがった。」

「ぐすっ・・・ありがとう。」

ホーネットが解放されたのを確認して安堵したようだが、まだ泣いている少女を見てマキアスは困惑する。

「泣くこたぁねぇだろぉよ、俺がイジメたみてぇじゃねぇか。な?」

「礼を言うぞマキアス。この子はリーファ=クルーン。私の友人だ、私と同様に仲良くしてあげてくれ。」

「もちろんっすよ姐さん!俺はマキアス=シドー、聖騎士だ。よろしくな、リーファ。」

聖騎士?その割には装備しているものが黒ばかりだ。それどころか盾も鎧も身につけていない。するとスアレスとマイクが近づいて来た。

「よぉリーファ・・・おい泣いてたのか?どこか痛むのか?マキアス、もしかしておめぇ・・・。」

「ち・・・違ぇよ?俺が泣かしたわけじゃ・・・いや、俺か?でも決して泣かすつもりじゃぁ・・・。」

「うわぁ・・・。さすがにこれだけは勘弁ならねぇぜ・・。」

「違ぇってマイク、俺だけど俺じゃないんだ!」

勘違いしたマイクが拳を握りながらマキアスに近づくのを見て、リアンが助け船を出した。

「ふふふ、私の見ていた限りリーファは驚いて泣いてしまっただけだ。だよなぁリーファ、マキアス。」

「うん。」

「ふぅ、早合点するなよ。俺は聖騎士だぞ?女の子を泣かせる趣味なんざねぇわ。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...