幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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逃亡の果て

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「クソ!虫けらどもがワシに楯突くなど絶対に許さんぞ!」

反乱の気配に気づいたユグルトは時間稼ぎのために家族を置き去りにし、独り隠し通路からの脱出を図っていた。
ユグルト以外に通路の発見はきわめて困難であり、城内に精通する者ですら知る者はいない。ユグルトの行方について猛り狂う農民たちは生存者を拷問するだろうが、最初から誰も答えることはできないのだ。
拷問好きのユグルトはその様子を思い浮かべるだに、心地よさそうな笑みをこぼす。

「はははっ、いつまでも城内を探し回っておれ。お前らは今や反乱者だ、帝国軍の出動を要請して全員まとめて血の海に沈めてやる。」

カビ臭い上に汚らしい虫までおるわ。しかし歴代当主のみに存在が明かされる隠し通路を遺してくれたご先祖さまには感謝せねばなるまいて。こうして生きのびて復讐を果たせるのだからなぁ。
ユグルトは出口の内鍵を解錠し、重い扉を上に持ち上げてようやく外へ出た。隣接領までは日が昇る頃にはたどり着けるだろう。

「ふん、このワシさえ生き残ればいくらでも再興できるのだ。よし、ではこのまま隣接領主に保護を求めるとするか。」

「お待ちしておりました。」

「だ・・・、誰だ!」

うろたえつつもユグルトは剣を抜き、暗闇に現れた男の姿に目を凝らす。

「伯爵さま、ジャック=ブラセンでございます。」

「脅かすな、ブラセン。して、貴様は何故この隠し通路の出口を知っておるのだ?」

「そのようなこと、今はどうでもよろしいのでは?城内に伯爵さまのお姿が見えないとなればすぐにここにも有象無象がやって参りましょう。」

「貴様は今さら何をしに来た?・・・まぁどうでもよいな、目撃者のお前にはここで死んでもらうとするか。」

ユグルトはにこやかに微笑むブラセンに向けて剣を構えた。その様子を見ていささかも笑顔を崩さないブラセンが楽しげに話しかける。

「おや、それは残念ですなぁ。せっかく最期に伯爵さまをダマして楽しもうと思っていたのに。私に救いを求めていただけないとは興ざめですねぇ、もう貴方様は用済みです。」

「何だと?この商人風情が、死ね!うぐっ!うっ!」

「はっはっは、私が一人でここに来ているとでも?そんなワケないじゃありませんか!」

暗闇にもかかわらず、突如として二本の矢が正確にユグルトの両足を貫いた。月明かりしかないにも関わらず、姿も確認できない距離から撃ち抜くとは相当の手練であることをユグルトも理解した。

「くっ、わ・・わかった。何が望みだ?何でも望み通りにくれてやる。ワシを隣接領主のもとまで送り届けてくれ。」

「私の望みですか?それは貴方様のお命でございます。私の関与が明るみにならないためにも貴方様に生き残られては困るのです。」

「ま・・・待て!ワシは絶対に秘密を」

「ご機嫌よう伯爵さま。」

次の瞬間、ユグルトの額に一本の矢が突き立った。

***

周囲の捜索の末にようやく発見したものの、既にユグルトは何者かに殺害された後だった。

「最後の最後に失敗するとは!どうやら俺としたことが詰めが甘かったようだ。」

「秘密通路があったとはな。仕方ねぇさ、グレン。お前のせいじゃねーよ。しかし、そうなるとユグルトを殺したのは一体誰だ?」

「贋金事件の真相は闇に消えちまった。ユグルトの口を封じたヤツがいても手がかりが無い。ガウス、良い考えはねぇか?」

「よせよ、グレン。この俺が頭脳派にでも見えるのか?後はモーゼルトの旦那に投げ返すほかねぇよ。」

主のいなくなったセンダルタ城の大広間で先ほどからグレンとガウスが深刻な顔で話し合っている。
私たち冒険者は領民が偶発的にユグルトを殺害しないよう捕縛する任務を帯びていた。どれほど想定外の事態であろうとも、結果だけを見ると任務失敗だ。

「グレン、落ち込んでるね。」

「仕方あるまい、誰よりも責任感の強いグレンだ。実態が我々実働部隊の失敗でも独りで責任を負おうとするだろう。」

「グレン御大はそういう男だろ?今さら悩んだって仕方ねぇってリアン姐さん。」

「私は悩んでなどいないぞ、マキアス。私は今までもこれからもグレンを支え続けるのみだ。グラムス冒険者ギルドはグレン抜きには語れないからな。」

「かぁーっ、さっすがリアンの姐さんだ!どこまでもカッコいいんだからたまんねーぜ!ん?さっきからチラチラうるせぇなぁ、何だこりゃ?」

「あの男!」

バトラーの雰囲気がいきなり険しいものに変わった。リアンに話しかけていた黒い服の男が何かしたのか?

「どうしたんだバトラー?あっ!」

「おぉぅ?蜂だぜこりゃぁ。うわぁ、つかんじまったぁ。どうしよう、殺すか。」

男は信じられないことにホーネット=ファントムを素手でつかんでいる。しかも不可視状態までキャンセルされてしまった。まずい、このままじゃ本当に殺されてしまう!

「殺さないで!」

「あ、何でよ?こんなの逃した瞬間に俺や姐さんを刺すだろうがよ。」

「お願い、その子は絶対に刺したりしないから。頼むからその子を解放してあげて。お願い・・・。」

「はぁ?さっきから何言ってるんだおめぇはよぉ。おい、泣いてるのか?」

マキアスが捕らえた蜂を気づかう理由は何だ?・・・そうか、もしやリーファの不思議な力にこの蜂が関わっているのではないか?そうであれば、これ以上衆目を集めるようなことは避けねばなるまい。他の者に勘づかせては決してリーファのためにならないだろう。

「私からもお願いできないだろうか。マキアス、どうかリーファの言う通りにしてやって欲しい。」

「あ・・・姐さんまで?姐さんが言うならそうするけどよぉ、お前本当に俺たちを刺さないでくれよ?ほれっ!・・・あっ、また消えやがった。」

「ぐすっ・・・ありがとう。」

ホーネットが解放されたのを確認して安堵したようだが、まだ泣いている少女を見てマキアスは困惑する。

「泣くこたぁねぇだろぉよ、俺がイジメたみてぇじゃねぇか。な?」

「礼を言うぞマキアス。この子はリーファ=クルーン。私の友人だ、私と同様に仲良くしてあげてくれ。」

「もちろんっすよ姐さん!俺はマキアス=シドー、聖騎士だ。よろしくな、リーファ。」

聖騎士?その割には装備しているものが黒ばかりだ。それどころか盾も鎧も身につけていない。するとスアレスとマイクが近づいて来た。

「よぉリーファ・・・おい泣いてたのか?どこか痛むのか?マキアス、もしかしておめぇ・・・。」

「ち・・・違ぇよ?俺が泣かしたわけじゃ・・・いや、俺か?でも決して泣かすつもりじゃぁ・・・。」

「うわぁ・・・。さすがにこれだけは勘弁ならねぇぜ・・。」

「違ぇってマイク、俺だけど俺じゃないんだ!」

勘違いしたマイクが拳を握りながらマキアスに近づくのを見て、リアンが助け船を出した。

「ふふふ、私の見ていた限りリーファは驚いて泣いてしまっただけだ。だよなぁリーファ、マキアス。」

「うん。」

「ふぅ、早合点するなよ。俺は聖騎士だぞ?女の子を泣かせる趣味なんざねぇわ。」
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