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情けは味方、仇は敵なり

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グレンの馬車が私とシンディーを迎えに来たのだが、何も知らされておらず突然のことだったので驚いた。どうやら行き先はユグルト領らしい。まさか直接殴り込みなのか?

いきなりのことで何がなにやらサッパリわからない私たちに、これまで水面下で進められて来た工作についてグレンの口から説明があった。

「ふーん、領民が一致団結して領主を倒そうってか?」

「最初はいきり立った村を抑えるのが大変だったんだ。たとえ死んでも一矢報いるってなぁ。」

「負け戦でもとにかく殴り込もうって、ヤケクソな話だねぇ。」

失敗したら二度と立ち上がれないように陰湿な報復が待っているだろう。そういう意味では失敗覚悟で刃向かうのは愚策だよねぇ。もう限界ってことか。

「あぁ、ユグルトは領民をイジメるのが大好きな野郎なのさ。このままじゃ滅ぼされるって追い詰められた末にこうなったわけだ。よそに逃げたところで、逃げ込んだ先を屈服させてまで追いかけてくるしつこさは常軌を逸してる。」

「それで他の村も協力して立ち上がったんだね。」

「いいや、事はそれほど簡単じゃない。乗り気じゃない村も結構あったよ。」

「え!何でだよ?積年の恨みが無いのか?」

この機会に結束して叩かないとずーっとこのまんまだぜ?それなのに他人事なのか?

「いいや、ユグルトは領内すべてに圧政をしいていた。大なり小なり恨みはあるはずなんだ。」

「じゃぁ何で反乱に協力しないの?」

「問題はそこだよ。ユグルトは悪辣だが愚かではない。各村の扱いに格差をつけて、各村の間にわだかまりという分断を持ち込んだ。」

「ん、どういうことだ?」

「アタシはわかったぜ。俺たちはアイツらよりもみじめな目にあっていないから、アイツらよりも上だって思い込ませるんだろ?仲間意識が生じるのを妨げて、何の意味も無い優越感に浸らせるんだ。」

「その通りだシンディー、そして逆もまた然り。よりヒドい扱いを受けている村は扱いがマシな村に対して憎しみを覚えるわけだ。だから直接的な怒りがすべての元凶であるユグルトに向かずに、村同士で向けあうことになる。どれだけ傍若無人に振る舞おうと、村同士が勝手に憎み合うおかげでユグルト自身はいつまでも安泰ってことさ。」

「そんなの悲しいよ。」

「まったくリーファの言う通りだ。周りの村の協力も無しに単独で反抗したって簡単にひねり潰されるから止めろと説得するのが大変だった。何せ周りの村に対する猜疑心が強いんだ。」

「よくこんなの一つにまとめ上げたよなぁ。どうやったんだよ?」

「同盟の商人たちはユグルトの領内を通って帝国各地の大消費地に商品を運んでいたから、領内の各村落とも太い人脈があったんだ。だからその商人たちが間を取り持って一斉蜂起へ段取りを組んで行ったらしい。蜂起に消極的だった村も帝国一般の状況と比較すると自分たちが奴隷に等しい扱いを受けていたことに憤慨している。もはやユグルトが巧妙に仕組んだ精神的分断も意味をなさない。」

「へぇ、よその領なのによくそんなことが実現できたもんだねぇ。一体誰がこんな大胆な事を考えたの?」

「リーファも会ってるだろ、モーゼルトの旦那だ。」

「えぇー!」

「誰だそいつ?」

「グラムスで・・・というか都市同盟で一番のお偉いさんだ。旦那は誰よりも先の事を見ているからなぁ。俺からすりゃぁある意味、ユグルトなんかよりもよっぽど恐ろしいぜ。」

クラウスは商業ギルドマスターってだけじゃなく、都市同盟のトップだったのか。知らなかった。

「クラウスってスゴいんだね・・・。孫のガノフをはるか遠くに吹っ飛ばしたこと、もう一度謝っておこうかな。」

「何だそりゃ?初耳だな。まぁ良い、もうそろそろ到着するぞ。」

***

「マドラ山の頂上に二つめの火が灯った、行くぞ。」

反乱の気配を察知されないよう一つ目の明かりを合図に夜闇に乗じて各村が動き出していた。そして二つめの明かりがセンダルタ城への突入の合図だ。各方面からセンダルタ城を群衆が音もなく取り囲む。

マイクは堀を渡り、壁をよじ登って上からロープを垂らす。突入に先んじて内部から開門する工作員を安全に潜入させる手はずだ。

「へっへっへ、お掘があろうと高い石造りの壁があろうとこのマイクさまにかかりゃあ何の意味もねーんだなぁこれが。」

「さすがはマイクだ、手際が良いな。よし、ここからは俺たちの出番だ。」

「頼むぜ、マキアス。スアレスもな。」

潜入要員を買って出たグラムスの冒険者が続々と入り込んで行く。城内に見張りはいるのだが・・・。

「見張りは・・・寝ているな。何だこいつら?」

「それは都合が良い、さっさと済ませるぞ。この仕事が世の不正をただすんだ。」

跳ね橋のストッパーをはずし、力まかせにギアへ初動を与えると跳ね橋が稼動し始める。

<ガコン!ガタタタタタ・・・>

「おいっ、お前!何故跳ね橋を下げて・・・誰だっ!てきし・・・」

「今頃気づいたってもう遅ぇよ。さぁ領民の皆さんをお城へご招待だ。」

門を守る敵兵を無力化している間に跳ね橋が完全に架橋すると、怒りに燃えた農民たちが一気に城内へとなだれ込んだ。敵兵を粉砕しながら建物の内部に突入すると、まるで別世界のような豪華な空間が広がっていた。

「許せねぇ・・・、何だこりゃぁ。」

「オラたちから巻き上げた血税で・・・こんな・・・こんな・・・。」

「出て来いっ!ユグルトーっ!」

「どこだぁーっ!娘の仇、ぶっ殺してやる!」

「立ち去れぃ農民ども・・・う、うわぁっ!」

「くそっ、戦え!増援を呼んで来い!ぐはっ!」

「農民なんかに!待て、た・・・たっすけ・・・」

「城の者は一人も逃すな!ユグルトの手下なんぞワシの畑にすき込んでやる!」

大混乱の内に密集陣形も取れず、ユグルトの兵士は各個撃破されていった。
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