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ロスカット

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「私も魚は今まで苦手だったけど、ここの魚は美味いなぁ。」

「だろ?グラムスで出回る魚はどうも泥臭くってそこまで人気がねーからな。全然違うんだよ味が!」

「これ何?見たことないけど。」

「それか?タコのマリネだ。うめぇから食ってみろよロミア。」

「グレン、タコって?」

「いいからいいから。」

「歯ごたえが独特だけど、美味しいよ。」

「本当だ、こりゃイケるな。もう一つ注文してくれよ。」

「それにしても来て正解だったな。こんなに美味い魚ならセバルで大量に買い付けて、グラムスで出せばスゴいことになりそうだな。」

「ところがリーファ、魚は足が早いんだ。」

「足?はっはっは!グレン、魚に足なんて生えてないよ。何の冗談だ?」

「シンディー、足が早いってのは腐りやすいってことさ。」

「へ、そうなの?」

「リーファもかよ。だから魔術で冷凍して運ぶんだが、味も落ちるしバカ高くって手が出ねーんだ。内陸で海魚が食えるのはせいぜい特権階級のヤツらだけさ。」

「じゃぁ大丈夫だろ。私にはパントリーがあるし。」

「パントリー?あぁ、あの空間収納か。でも腐るもんは腐るだろう?」

「え?腐らないよ。」

「は?パントリーって冷凍もできるのか?」

「できないけど、腐らないよ。」

「はぁ?待て待て、一回整理しような。ということは、お前のパントリーは入れた瞬間に時間が止まるってことか?」

当たり前だと思ってたから詳しく考えなかったけど、空間収納ってそういうもんじゃないのか。パントリーって一段レベルが上なのかもしれないね。

「だと思うよ。数日前に調理したものでもホカホカの出来立てで取り出せるから。」

「おっと、出たよ。リーファはサラッと驚愕の事実をぶち込んで来るからなぁ。このグレンさんだってある程度耐性は付いたんだぜ。」

楽しく大騒ぎしながら食事を楽しんだ私たちだったが、グレンが最後にタコの正体を明かして私たちは絶句した。まぁ見ためはグロテスクだけど、美味しかったから調理法を聞いた上でこいつも大量に買い付けたんだけどな。

***

よほど重要なことが無い限りセンダルタ城へ来るのはブラセンの使者であるのが通例だが、ブラセン本人が来たということでユグルト伯爵は愛人を放り出して執務室へ赴いた。

「どうしたブラセン、まさかもう落とせたのか?」

「いえ、セバルへの介入を中止すべくご報告に参りました。」

朗報かと思って急ぎ来て見れば無様なことを抜かしよって。今までワシが我慢して商人風情をこき使ってやったというのに、ここに来て役に立たんとは何たることか。

「なにぃ?貴様、必ず落とすと申しておったではないか!どういうことだ!」

「偽装海賊団も既に制圧され、ここに来て敵は攻勢をかけております。」

「何だと?ワシが送り出した兵に問題があったと言っておるのか?ブラセン、貴様誰に向かってそのようなことを言っておるのかわかっておろうな?」

つまらん男だ、己がちっぽけなプライドのために事の本質を捉えようとしないのだからなぁ。さて、ユグルトをどう言いくるめたものか。

「滅相もございません伯爵さま。今まで静観して来た同盟の盟主グラムスが本格的に動き出したのです。何やら不穏な動きをしておりますのでここは一度下がって様子を見つつ、策を練り直してはいかがでしょう?」

「ふん、臆病者め!ワシも少し貴様を買いかぶりすぎたようだ。所詮は商人、その程度の男よ。もう貴様の顔なぞ見とうもない、これ以降はワシ一人で十分だ。」

「お待ちください伯爵さま。時間はかかりますが必ず攻略してみせますので、なにとぞ」

「うるさいっ!とっとと去ね下臈!」

虚栄心の肥大化した男ゆえに扱いやすいと思っていたが、その虚栄心が仇となったようだな。今までの苦労も水の泡だが、ユグルトと共に沈むなど御免こうむる。仕方ない、こいつとはここで手切れとしよう。私の投機も今回ばかりは失敗したようだ。ユグルト、能無しのお前には最後に呪いの言葉をくれてやる。どうせお前は私の忠告など絶対に聞き入れやしないのだからなぁ。

「それでは伯爵さま、もはや今生の別れにございます。では最後に一つだけ、グラムスのモーゼルトという男にはお気をつけください。失礼いたします。」

もはや都市同盟落としも最終段階だ、ここらでブラセンとも手切れしておくのがよかろう。既にこ奴の立てた策略はワシの頭にも入っておるのだ、このまま当初の思惑通りにセバルさえ落としてしまえば同盟の諸都市もまるごとワシのものよ。報酬も払わんで済むし、丸儲けではないか。こうして自由都市を次々と屈服させたワシの名声は帝国全土に轟くのだ。庶民どもはワシの名を聞くだに震え上がり、貴族たちは歓喜する。上り詰めるぞワシは!

「何故このワシがたかだか一市民ごとき気にせねばならんのだ、愚か者め!」

一方でセンダルタ城を後にしたブラセンは馬車に揺られながら善後策を考えていた。
さすがにセバルともなると一筋縄では行かないということか。私の諫言が空振りに終わったのもユグルトは私の計画をゴリ押しすれば何とかなると勘違いしているのだろう。ユグルトが破滅するのは構わんさ、もとよりそのつもりだったからなぁ。だが私を知っているユグルト家中の者は何としても始末せんといかん。まぁ、それはモーゼルトの策略のドサクサに紛れ込ませてもらうとしよう。私の関与が浮上せんように先手を打つことが重要だ。
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