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金と頭は使いよう

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私は商業ギルドが手配した宿のロビーでトマソンと落ち合った。ものすごい居心地が良いので、本当はこのまま宿でのんびりしたかった。外は雨だしねー。

「今日は生憎の雨だなぁ。せっかくリーファと市を巡ろうと思っておったのに。」

「ダメだよトマソン、遊びじゃないんでしょ?グレンが怒るよ。」

「あんな奴のことは気にせんで良い。それよりもシンディーとロミアは一緒に行かんのか?」

「あの二人は外が雨だから外出したくないんだって。まったく、これもお仕事だってのに。」

シンディーは昨日かなり活躍したし、いろいろ気が利くロミアのおかげで万事快適に過ごせているからこれ以上要求するものでもないか。

「まぁ良かろう、無理に連れ回すのもどうかと思うしなぁ。では取引所にでも顔を出して見るか。」

私たちは馬車に乗り、近くの取引所にやって来た。しかし何やら広い場所に大勢集まって何かしている。指で何か頻繁に合図を送っているようだけど・・・、ありゃ何だ?楽しいのか?

「うわぁ、いっぱい人がいるや。何の合図だろう?」

「あれは商品を売り買いしとるんだ。」

商品も何も置いてないじゃないか。どういうことだ?もしかしてからかわれているだけなのかなぁ。

「商品?どこにも並んでないよ?」

「これは先物取引と言ってな。将来受けとる商品を今ここで売り買いするのだ。だからいま商品を並べる必要はない。」

トマソンは何を言ってるんだ?お金も商品も一切受け渡しすることなく、ただ手や指を動かしてるだけじゃないか。暇なの?

「は?何でそんなことするの?」

「例えばトマト1個が現在2ディルで受け取りが半年後だとする。半年後に不作で市中のトマトの値段が4ディルにはね上がっていても半年前に約定した価格の2ディルで買い取れるのだ。」

「何それ!お得じゃん。」

「そう思うだろ?だが半年後に豊作で1ディルになっていても2ディルで買い取らねばならんということでもある。」

「大損だ!何でわざわざそんな危ないことしてるんだよ?」

「欲しいときに欲しいモノが適性な値段で手に入るとは限らんのだ。だからある程度の危険を覚悟で先がけて予約するということも必要なのだよ。」

「へぇ。でも結局これってもうかるの?」

「普段は気づかないかもしれんが、実は市中の商品の価格も日々変動しておる。だとすれば、値段が下がっている時点で将来分を買っておけば得する可能性がある。逆に値段が上がっている時に先んじて将来分を売っておけば差額分もうけられる可能性があるわけだ。要は将来の価格がどのように変動するか予測しながら売り買いするんだよ。」

「私にはそんなのわからないよ。取引所にいる人たちって未来を予知できるのか?」

「はっはっは、そんなわけなかろう。いろんな出来事から予測するのだ。たとえばお隣のバシレウス王国がどこかと戦争を始めそうだとなれば、剣や防具が必要となるはずだ。」

「そうだね。でもそれが予測と何の関係が?」

「だとすれば鉄の需要が高まるはずだ。将来、鉄鋼石の値段が上がるぞと考えるわけだよ。」

「おぉ、そういうことか!」

「鉄だけではない。兵糧として小麦を買い集めると見込めば先んじて我らも買い込むということだな。」

「な、なにぃ?そんなにチャンスが転がっているのか!」

「ま、あくまでたとえ話だがな。現実はそううまく行くものではないぞ。誰も知らない内に水面下で進めなければ、まず成功しない。情報収集が早いことが鍵だよ、素人には博打と変わらんのだ。」

「ふーん、すごい世界なんだなぁ。知らなかったよ。」

世の中知らないことだらけなんだなぁ、勉強になるよ。ついて来て良かったのかもしれない。
すると私たちから少し離れた位置にいる男が何やらこちらを見ているのに気づいた。あの人、ずっとこちらを見ているよなぁ。おや、近づいて来たぞ。

「おや、ボーネランドさんではないですか?やはりそうだ。」

「おぉブラセンか、久しいな。どうだ、商売は順調か?」

「最近はユグルトの介入で商売も厳しい限りですが、おかげさまで何とかやっておりますよ。おや、そちらはご息女ですかな?」

「私はリーファ=クルーンだ。グラムスで商売をしている。」

「これは失礼しました。私はジャック=ブラセン、セバルで貿易商を営んでおります。どうぞよろしくお願いします。」

「ブラセン、この可憐な見ためにダマされてはいかんぞ。リーファは商人であると同時に冒険者でもあってな、昨日の海賊船の拿捕もリーファの貢献があってこそなのだ。将来はワシの息子と一緒になってもらおうと思っておる。」

「ほう・・・、それはぜひとも詳しくお聞きしたいものですなぁ。」

トマソンの寝言感あふれる思い込みは捨て置くとしよう。何だろう、一瞬ブラセンの目が鋭くなったような・・・。でも人が良さそうな感じだし、気のせいか。トマソンの知り合いだから別に危険は無いだろう。

「すまんが、それはまた今度な。ワシは取引所所長に用があるのだ。」

「そうですか、それは残念です。お暇な時はぜひ我が商会にお越しください。」

「うむ。ではワシらは失礼するよ、またな。」

ブラセンと別れて私たちは取引所の階段を上がって行った。さて、ここに来たのは何か用事があるって言ってたな。そういやトマソンに聞いてなかったよ。

「今日は何かあるのか?」

「うーん、ここではあまり大きな声では言えんのだが・・・耳を貸せ。」

「贋金?」

「馬鹿者、耳打ちしたのに口に出す奴があるか。だ、誰も聞いておらんよな?とにかくこれ以上はここで話すことはできん、もう少し待て。」
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